焼き肉店から牛の生レバーが消えて1年余りたつが、やはり“抜け道”はあった。生で提供されても客自らがテーブルで加熱調理すれば規定に反しないという。京都府警が、食品衛生法違反で焼き肉店を摘発したことで発覚した。「脱法レバー」「闇レバー」の存在は“暗黙の了解”になっていたが、今回の摘発を受けて、業界関係者に動揺が広がっている。
摘発されたのは、京都府八幡市の焼き肉店「焼肉牛宗まるなか京都男山店」。8月30日に高校生9人にメニューに記載されていない「生3種盛り」を提供。生レバーを食べた6人のうち4人が嘔吐や発熱などの食中毒症状を訴えた。そのうち、入院した男子生徒(17)からは、カンピロバクター菌が検出され、病院が保健所に通報して発覚した。
府警の調べに対し、同店を経営する精肉店社長(53)は、「禁止後も『生レバーを出してほしい』という要望が多かった」などと供述し、裏メニューとして常連客に生レバーを提供していたことを認めた。社長は店長(45)とともに食品衛生法違反罪で略式起訴され、京都簡裁は精肉店と社長にそれぞれ罰金100万円、店長に罰金50万円の略式命令を出した。
しかし、これはあくまでも氷山の一角。焼き肉の聖地と呼ばれる大阪・鶴橋でも、「脱法レバー」の存在が指摘されている。
ある店主は「店として鮮度に自信が持てるレバーを仕入れている日に、常連客が『どうしても食べたい』と言ってきたら、生で食べると分かっていて提供するときはある」と話す。その際には「ちゃんと焼いて食べてください」と口頭で注意するが、客が生で食べるのを黙認しているという。
生レバーが焼き肉店から消えるきっかけとなったのは、2011年4月、焼き肉チェーン店が提供したユッケなどによって5人が死亡する集団食中毒事件。厚生労働省は生食用牛肉の衛生基準見直しに着手し、昨年7月から新基準による規制に乗りだしている。
新基準では、ユッケなどを提供する場合、表面から1センチ以上の深さまで60度で2分以上加熱するよう義務付け。牛の生レバーについては、牛の肝臓内部から重い食中毒を起こす腸管出血性大腸菌O(オー)157が見つかり、表面の殺菌では対応できないため提供禁止になった。
ところが、客自らが店内のコンロや七輪を使って生レバーを焼いて食べることは認められており、新基準には脱法レバーの広がりを許す曖昧さが残る。
別の焼き肉店店主は「店員が客の隣に立って十分焼いているか見るわけにもいかない。焼いたレバーしか提供できないようルールを変えるなど、行政がもっと徹底してほしい」と話す。
全国約400社の焼き肉店運営会社が加盟する「全国焼肉協会」(東京)の旦有孝・専務理事は「牛の生レバーだけ禁止すれば、他の内臓は生で食べても大丈夫という話になりかねず、食中毒のリスクをかえって高める。法律で決まった以上、ルールは守らなくてはならない。今は新しい殺菌方法が見つかるのを待つしかない」と話している。