■保守本流はゴールドウォーター惨敗の危惧し、ルビオを撤退させるか
3月4日、 保守派コーカス(「保守政治合同会議」)にトランプは欠席したが、この会は共和党保守の集まりであり、ティパーティの支持を強くうけるテッドがトップとなるのは事前予測でも明らかだった。
結果はまったく予測通りでテッド・クルーズが40%、保守本流のルビオが二位(30%)、トランプは三位(15%)に終わる。
トランプが欠席したのは、この党の合同大会では、つるし上げを食らうのが確実であり、それよりはほかの州を回った方が有利と踏んだからだ。
保守政治合同会議は党主流の集まりだから異端児を受け入れないのは当然、しかし、翌日の予備選でもテッド・クルーズが二州では大差で勝利し、トランプとの票差を縮めた。
実際に党のエスタブリッシュメントからいえば、トランプが正式候補になれば、1964年のゴールドウォーターのときのように、地滑り的惨敗を喫する恐れからである。
ルビオは「まさかトランプが正式候補となれば、党分裂は必至であり、現代の保守主義運動は終焉する」と極端な危機感を煽る。
ネオコンの論客としていられるロバート・ケーガンは「トランプは共和党が生んだフランケンシュタインであり、皮肉にもかれが共和党を壊すのだ」とワシントンポストのコラムに書いた。
茶会など保守イデオロギーの強いグループは、危機感でクルーズ支援に走り、ネオコンに至っては「トランプが候補になるなら、われわれはサンダースに入れる」と放言する始末だ。
実際に票に変化がでてきた。
クルーズが勝ったカンサス州の得票率は48%、対してトランプは23%と票差が開いており、同じくメーン州では、クルーズが46%、トランプ33%。
他方、トランプの勝ったケンタッキー州でトランプの得票率は36%に対してクルーズは32%と僅差。ルイジアナ州もトランプ41%、クルーズ38%とますますの僅差でクルーズが追い上げていることが分かる。
民主党のほうも、本命ヒラリーはルイジアナしか取れず、サンダースがカンザス、ネブラスカで逆転、じつに粘り強く、反ヒラリー票を吸収した。
▼過去の党内の確執とパターンが類似
2012年の共和党予備選を思い起こすと、パターンは酷似している。
緒戦で保守陣営は分裂しており、保守派からロン・ポール、リック・サントラム(ペンシルバニア州知事)、そして保守本流からミット・ロムニー(マサチュー セッツ知事)、議会ベテランのニュ-ト・キングリッチ、便乗組みにはリック・ペリー(テキサス州知事)が並び、サントラムの追い上げが激しかった。途中で 息切れしたあとロムニーと五月まで予備戦をあらそったのは「議会の暴れん坊」=キングリッチだったのだ。
終盤で保守本流に反撥する保守強行派がキングリッチに一本化を図ろうと働きかけた。ともかく最終的に共和党は挙党体制が組めた。
カンザス、ネブラスカ、メーン、ルイジアナ州などで票数の変化にみられるように「アンチ・トランプ連合」がともかくも動き出した証拠である。
単純計算で言えば、トランプの票をクルーズとルビオが合流すれば上回り始めたからである。
保守本流からいえば、トランプは『邪魔者」「部外者」に過ぎない。ところがイデオロギー的には右にも左にも染まっていない国民から見れば、経済的繁栄に遠く、民族問題、所得格差に悩まされてきたわけだから既成政治家、エスタブリッシュメント打倒をいうトランプに期待する。
共和党の本陣からいえば、共和党支持者の末端は党の団結とかの呼びかけとは無縁である。これが「トランピズム」の正体で、イデオロギーはなにもない。
「イズムというよりムードであり、政治の季節にときおり沸騰するが、そのムードをトランプの暴言がうまく掴んだ」と分析するのはバージニア大学のジェイムズ・W・シーザー教授だ。
オバマ政権の八年間、共和党は現代的な政策適応をとって雑多な派閥、イデオローグの入り乱れた状況から、なんとか党内がまとまり、オバマ政権の無能への絶 望から流れがしっかりと共和党期待へ変化したおりに、トランプは党内団結をぶち壊したというのが共和党内の保守本流ばかりか、茶会グループである。
ブッシュ政権の湾岸戦争直後の不協和音はロス・ペローの分派運動を産み、漁夫の利をクリントンに奪われ、94年にはニュート・キングリッチが下院議長となるや、党内のエスタブリッシュメントが慌てた。
六年間、ニュート・キングリッチが共和党の政策を代弁し、いや党内を掻き荒らし、その結果、ブッシュの息子で保守本流、穏健派の代表、ジョージ・ブッシュ政権を2000年に産ませる。
つねに流れというのは偶然の積み重ねで形成されてゆくのである。
▼共和党は宿命の党内対立をいつ止揚できるか
共和党内の派閥とは、ウォール街派、エバンジュリカル(福音派)、穏健派、エスタブリッシュメント vs 草の根保守派など輻輳した対立関係にあり、だからこそ緒戦で十数名もの候補が乱立するのである。
しかし派閥、イデオロギー対立の克服をはかり、共和党が選挙になると集票メカニズムに一元化ができた。こうしたメカニズムさえ、トランプは壊したことになる。
1970年代から80年代にかけて、北東部のリベラル、インテリ、白人などは民主党から、その過激なリベラ思潮を嫌って共和党に流れ、これが南部の保守主義と合流するのがレーガン革命に繋がった。
この労働者階級とインテリ層、北東部の穏健派は党のエスタブリッシュメントの打算的選挙の思惑とは異なり、したがって党を超えてのスィング現象となる。つまり民主党支持者がどっと共和党へ票を入れる。
民主党支持の白人労働階級が保守化して共和党へ流れたという傾向ははっきりしており、クリントンはブッシュに勝った後、カメレオンのごとくに自らのイデオ ロギーは伏せて、ほとんど共和党と変わらない保守路線を歩んだ。だからこそ、彼は二期当選という僥倖の恵まれたのだった。
1990年代の有権者の怒りは、こんかいのトランプのようにパット・ブキャナンが吸収した。ブキャナンは保守主義だがモンロー主義でもあり、日本に批判的だった。ブキャナンは、ニクソン大統領のスピーチライターだった。
かれは「自由貿易反対」「日米安保条約の片務性是正」「不法移民規制」と訴え、緒戦では本命ブッシュを脅かした。
トランプとのスローガンに共通性がある。
つまり「反グローバリズム」、「不法移民取り締まり強化」、「日米安保条約の片務性是正」(トランプは同時に韓国、ドイツとの防衛条約是正も主張してい る)、日本の負担増を求めよとするのは有権者の不満を受け止めるポピュリズムが、白人有権者ばかりか、若い層の琴線を揺らすからだろう。
かれはいうのだ。
「私はアメリカ人である、ということが第一。第二が私は保守主義者である」。
▼ゴールドウォーター惨敗という既視感(補足)共和党主流派がいだく「ゴールドウォーター惨敗の二の舞になる」という危惧感は、「人種差別」「KKKと親しい」などと民主党から逆のレッテルを貼られ、キャンペーンに逆利用されると大敗を喫することである。
すでにトランプに対して人種差別、KKKの親友などと逆レッテル張りがさかんに行われている。
ゴールドウォーターは人種差別主義者でもなければ右翼でもなかった。かれはアイゼンハワーのニューディールに反対し、「小さな政府」を早くから主唱した意味で、保守主義のなかの「リバタリアン政治家」の先駆けである。ニクソン、レーガンの先駆者という評価になる。
ゴールドウォーターはアリゾナ州でデパート経営の息子として裕福に育った。志願して、所謂「太平洋戦争」ではインドから、援蒋ルートのヒマラヤ越えも行い、最後は少将で退役した。
共和党予備選では保守本流のロックフェラーと熾烈な予備選を戦い、最後にロックフェラーに競り勝った。
しかし両者の思想的対立点は殆どなかった。
いまのマケイン上院議員はまさにゴールドウォーターの後継ということになる。
以上、宮崎正広氏記事
どうなんでしょうね。
トランプは、共和党の中では居心地が悪い感じです。
無所属で大統領選戦うことになるのでしょうか?