趙子龍を知る者たち。
兵卒たち。
厩舎の者たち。
そのほかの城内の者。
主公に同伴して会ったひとびと。
酒場の人間。
と、そこまで書いて、趙雲は筆をためらわせた。
竹簡に刻む文字には、つづいて「妓楼」と入れなければいけないのだが、なぜだか、孔明には適度に遊んでいることを知られたくなかった。
かれが、自分に失望するのではないかとおもったのである。
ところがとなりで並んでじっと見ていた陳到が、
「将軍、妓楼が抜けておりますぞ」
と余計なことをいい、つづいて孔明が、
「正しく書いてください」
と言ったので、しぶしぶ妓楼の名をさいごに記すことになった。
「酒場の名前は?」
「陳親爺の店」
「では、そうと書いてください。妓楼のほうは?」
趙雲は、ここでも取調べを受けているような気持ちになりつつ、ことばをつまらせた。
すると、またもや陳到が横から言った。
「虞美人楼でございます」
「へえ、ずいぶんお高いところに通われているのですね。たしか新野でいちばん大きな妓楼だとか。名前だけは知っております」
嫌味かな、と孔明の顔を盗み見るが、かれは平然としていて、趙雲が書いた竹簡のあとに、自分の文字で、妓楼・虞美人楼と書き加えた。
落ち着かない気持ちの趙雲をよそに、孔明は竹簡をしげしげとながめて感心する。
「意外にいろんな方と接触していらっしゃる」
「主公の主騎をつとめているからな。たしかに敵もできるかもしれんが、こうまで手の込んだことをするやつに心当たりはないな。これは参考になるか」
「ええ、じつに正直に書いてくださいました。知り合いのなかから馬は除外するとして、ほかは城の者、酒場の者、妓楼の者、主公のお供で会った者。城の者からは、子龍どのをよく知っている者と、文字の読み書きができない者は除外します。すると、だいぶ絞られてくるわけですが、いささか数が多いので、こちらを当るのは陳到どのにおまかせしましょう。すると陳親爺の店と妓楼と主公のお供で会った者が残るわけですが、さて、心当たりは」
「陳親爺の店で働いているのはじいさんばあさんばかりだ。知り合いの常連客のなかにも、艶っぽい文言を綴ってよこすような適齢の女はいない。それこそ、ほとんどの人間が文字の読み書きができないだろう」
「ふむ、すると、酒場関係の人間も候補として弱い」
つづく…
兵卒たち。
厩舎の者たち。
そのほかの城内の者。
主公に同伴して会ったひとびと。
酒場の人間。
と、そこまで書いて、趙雲は筆をためらわせた。
竹簡に刻む文字には、つづいて「妓楼」と入れなければいけないのだが、なぜだか、孔明には適度に遊んでいることを知られたくなかった。
かれが、自分に失望するのではないかとおもったのである。
ところがとなりで並んでじっと見ていた陳到が、
「将軍、妓楼が抜けておりますぞ」
と余計なことをいい、つづいて孔明が、
「正しく書いてください」
と言ったので、しぶしぶ妓楼の名をさいごに記すことになった。
「酒場の名前は?」
「陳親爺の店」
「では、そうと書いてください。妓楼のほうは?」
趙雲は、ここでも取調べを受けているような気持ちになりつつ、ことばをつまらせた。
すると、またもや陳到が横から言った。
「虞美人楼でございます」
「へえ、ずいぶんお高いところに通われているのですね。たしか新野でいちばん大きな妓楼だとか。名前だけは知っております」
嫌味かな、と孔明の顔を盗み見るが、かれは平然としていて、趙雲が書いた竹簡のあとに、自分の文字で、妓楼・虞美人楼と書き加えた。
落ち着かない気持ちの趙雲をよそに、孔明は竹簡をしげしげとながめて感心する。
「意外にいろんな方と接触していらっしゃる」
「主公の主騎をつとめているからな。たしかに敵もできるかもしれんが、こうまで手の込んだことをするやつに心当たりはないな。これは参考になるか」
「ええ、じつに正直に書いてくださいました。知り合いのなかから馬は除外するとして、ほかは城の者、酒場の者、妓楼の者、主公のお供で会った者。城の者からは、子龍どのをよく知っている者と、文字の読み書きができない者は除外します。すると、だいぶ絞られてくるわけですが、いささか数が多いので、こちらを当るのは陳到どのにおまかせしましょう。すると陳親爺の店と妓楼と主公のお供で会った者が残るわけですが、さて、心当たりは」
「陳親爺の店で働いているのはじいさんばあさんばかりだ。知り合いの常連客のなかにも、艶っぽい文言を綴ってよこすような適齢の女はいない。それこそ、ほとんどの人間が文字の読み書きができないだろう」
「ふむ、すると、酒場関係の人間も候補として弱い」
つづく…