はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 一章 その3 魯粛の謝罪

2024年12月15日 10時10分34秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章
「たしか、孫将軍は、わたしと一つちがいでしたね、どういうお人柄なのですか」
孔明が問うと、魯粛は腕を組み、答える。
「大器だ。思慮深く、人を見きわめ、よく働かせることができる。
だが、なにぶん若いうえに、中原や荊州の情勢については人づてに聞いたことしかご存じないので、曹操につくか、それとも戦うか、自身でも判断がつきかね、迷っておられる」
「そこへ、軍師が説得に行くというわけだな」
趙雲が、口をはさんだ。
魯粛はそうだと大きくうなずく。
「曹操とじっさいに戦って生き残ったあんたたちの話なら、説得力がちがうだろう。
孫将軍も耳を貸されるはずだ」


そうだ、なんとしても江東の虎を起こさねばならない。
孔明は気合と共に、ぐっとおのれの襟《えり》を正した。
肩に力が入るが、いやな力みではない。
会ったことのない孫権だが、説得できるという自信があったのだ。
諸葛瑾《しょかつきん》からは、孫権はたしかに英雄の一人で、打てば響く聡明さを持っているが、すこしばかり感情的になりやすい、ということも聞いている。
そこをうまく突ければ、あるいは……


「だが、先に言っておく。あんたたちには、謝らなくちゃならない」
魯粛がとつぜん切り出した。
「謝るとは?」
思いもよらないことを切り出され、さすがの趙雲も構えている。
謝らなくてはというわりには、魯粛の顔色は変わっていない。
孔明は、この男の肝の太さは、もしかしたら趙雲以上かもな、と思い始めていた。
「孫将軍は、おれに劉表の弔問に行けと命じられた。
それは『ついでに曹操軍の様子も探ってこい』ということなのだったが、しかし、だ」
「なんだ、勿体《もったい》つけずに言ってくれ」
趙雲が促すと、魯粛はなぜか、にっ、と笑って言った。
「あんたたちを連れてくるということは、孫将軍はご存じない」
「は」
さすがの孔明も二の句をつげなかった。
唖然として、そのまま、となりにいる趙雲と顔を見合わせる。
趙雲も、ぽかんとしている。
そして、お互いの顔をみているうち、気づいてしまった。
自分たちの置かれている状況の悪さに。


立ち直りが早いのは武人の常か、趙雲のほうはすぐに反応した。
「つまり、おれたち……劉豫洲《りゅうよしゅう》(劉備)と劉公子(劉琦《りゅうき》)の軍と、孫将軍は、そもそも同盟する意思はないということか?」
「『まだ』ない、と言い換えてくれ」
「ふざけたことを」
冷静沈着な趙雲が、顔色を変えている。
それを横で見ていて、孔明はかえって冷静になった。
「わたしは開戦させるのと同時に、孫将軍に、われらと同盟するよう説得もしなければならないということですか」
「そのとおり。あんたはやっぱり話が早い」
褒められてもうれしくない。
への字に口を曲げたまま、孔明は言う。
「なぜそれを早く言わなかったのです? 
わが君の前では、さも孫将軍に同盟の意思があるように言ったのも不誠実では?」
「不誠実かねえ」
言いつつ、魯粛は器用に片方の眉だけを上げた。
「どちらにしろ、あんたたちには、おれたちと同盟を結ぶほかに生き残る道はないはずだ。
蒼梧太守《そうごたいしゅ》の呉巨《ごきょ》のもとへいく、というのは悪手だぜ」
「たしかにそのとおりだが、しかし」
「孔明どの、あんたも天下を三つに分けたほうがいいと思っているクチだろう?」


ずばり指摘されて、孔明は答えず、ただ眉をひそめた。
自分の戦略は劉備に示したあと、その家臣たちにも披露している。
つまり公にしたもので秘密でもなんでもないのだが、江東にいた魯粛が、すでに天下三分の計の詳細を知っているということには戸惑いもあった。
どうやら、江東の地には、荊州の内情に大変くわしい人間がいるようだ。


つづく


※ 今回、書き直しバージョンを再連載しておりますが、一部の方には「前回のバージョンを直したものを再掲載する」と誤解させてしまったかも……
すみません、全面書き直しのうえ、ぜんぜん違うバージョンを最初からやり直しております。
前回のバージョンは、どうしても納得できない仕上がりだったので、この措置となりました、ご了承ください。

さて、本音を打ち明け始めた魯粛。
かれの意図はどこにあるのか?
明日をおたのしみにー(*^▽^*)

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