「判っている。だが、逆に聞かせてくれ。
それほどまでに憎む相手なのに、どうして、こんな正体のわからぬ神まで作り上げて、母親の復活を願っているのだね」
わめき散らされるかと予想した孔明であるが、意外にも花安英《かあんえい》は理性的に答える。
「復活してほしいのは、あの女じゃなくて、『母親』なのです。うまくいけないけれど」
妙な表現だな、と孔明は怪訝に思ったが、花安英はたずねてくる。
「だけど、どうしてわたしの母のことがわかったのですか?
ああ、あなたの奥さんがおしえてくれたのですか?」
意外なところで意外な名前がでてきて、むしろ孔明のほうが動揺する。
「妻? あれは関係ない。月英は君らにはいっさい関わりがないぞ。
わたしが君の出自について、もしやと思ったのは、君が子龍に蔡瑁と蔡夫人の関係を教えたからだ。
なぜそんな真似をしたのかわからなかったが、さっきの君の言葉で確信した。
最初は、子龍を誘惑する手段かとも思ったのだが、そうではない。
君は、子龍を『兄』だと思っているのだ。共に、潘季鵬の下で訓練を受けた者として。
だからこそ、子龍ならば自分を助けてくれるのではと、期待したのではないかね。
そして蔡瑁と蔡夫人の最大の秘密を見せてやり、協力を得ようとした。
本来ならば、その役目は程子文《ていしぶん》が果たすべきものだったかもしれない。
だが、かれは、自分自身を救うことで手一杯で、とても君まで救うことができなかった。
君は程子文の力量に怒り、離れる。そうしてあろうことか」
殺してしまったのだ、と言葉をつづけるより先に、しゅっと風を斬る音がして、孔明のほほぎりぎりに、花安英の手にしていた、小刀がかすめた。
闇の中に立つ花安英は、激しく震えている。
「黙るがいい、諸葛亮! わたしは、程子文を殺してない!」
孔明は、その怒りに触れて、うろたえる。
斐仁《ひじん》は、復讐のために襄陽城へやってきたとき、花安英の従者に化けていた男…潘季鵬《はんきほう》に案内されて、程子文の遺体をみつけた、と証言した。
ふつうに考えるならば、潘季鵬は、すでにそこに程子文の遺体があるということを知っていた。
そして、斐仁を罠にはめるために、わざわざ部屋に案内したのだろう。
あとから部屋に入ってきた花安英も、同様だったはず。
そうではなく、本当に花安英は知らなかった?
斐仁と花安英、双方を騙していたのは、潘季鵬だった?
「わたしが程子文を見つけたとき、どれだけ打ちのめされたか貴様にわかるものか!
たしかに仲たがいをしたとも。おまえとかれが再会してからは、顔をあわせれば喧嘩ばかりだった!
だからわたしはおまえが憎かった。おまえが程子文を変えてしまったからだ!
わたしは程子文が理解できなかった。
『壷中』を裏切ろうとしているのが、なぜなのか、わたしを捨てようとしているのがなぜなのか!
でも殺そうなんて、一度だって思ったことはない! 一度たりともだ!」
「では、なぜ斐仁は程子文の部屋に案内されたのだ。潘季鵬はなにも君に教えていなかったのか」
花安英の表情に、暗い影がさす。
「新野から帰ってきた潘季鵬は、いつになく荒れ狂っていたよ。
わたしの顔を見るなり言った。
これから異分子をのぞく『仕事』をしなければならない。おまえも協力するようにと。
これから新野から客がくる。いまから死体を作って、そいつを死体のある部屋に案内する。
おまえは派手にわめき散らせ、と。
なんだかわからなかったけれど、ああなったときの潘季鵬は手が付けられない。
協力するしかないんだ。
でも、その『仕事』が、まさか程子文を殺すことだったなんて、予想できなかった。
知っていたら、あの場であの男を殺していたさ!」
「では、誰が程子文を殺したのだ?」
「わたしじゃない。あなた方が、『狗屠《くと》』と呼ぶやつだ」
「なに?」
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(*^▽^*)
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!
おかげさまで、投稿文字数が26万文字を超えたようです。
良く書いたなあと思うと同時に、よく読んでもらえているなあと感謝しきり!
続編の制作もがんばりますので、臥龍的陣、さいごまでお付き合いくださいませ♪
それほどまでに憎む相手なのに、どうして、こんな正体のわからぬ神まで作り上げて、母親の復活を願っているのだね」
わめき散らされるかと予想した孔明であるが、意外にも花安英《かあんえい》は理性的に答える。
「復活してほしいのは、あの女じゃなくて、『母親』なのです。うまくいけないけれど」
妙な表現だな、と孔明は怪訝に思ったが、花安英はたずねてくる。
「だけど、どうしてわたしの母のことがわかったのですか?
ああ、あなたの奥さんがおしえてくれたのですか?」
意外なところで意外な名前がでてきて、むしろ孔明のほうが動揺する。
「妻? あれは関係ない。月英は君らにはいっさい関わりがないぞ。
わたしが君の出自について、もしやと思ったのは、君が子龍に蔡瑁と蔡夫人の関係を教えたからだ。
なぜそんな真似をしたのかわからなかったが、さっきの君の言葉で確信した。
最初は、子龍を誘惑する手段かとも思ったのだが、そうではない。
君は、子龍を『兄』だと思っているのだ。共に、潘季鵬の下で訓練を受けた者として。
だからこそ、子龍ならば自分を助けてくれるのではと、期待したのではないかね。
そして蔡瑁と蔡夫人の最大の秘密を見せてやり、協力を得ようとした。
本来ならば、その役目は程子文《ていしぶん》が果たすべきものだったかもしれない。
だが、かれは、自分自身を救うことで手一杯で、とても君まで救うことができなかった。
君は程子文の力量に怒り、離れる。そうしてあろうことか」
殺してしまったのだ、と言葉をつづけるより先に、しゅっと風を斬る音がして、孔明のほほぎりぎりに、花安英の手にしていた、小刀がかすめた。
闇の中に立つ花安英は、激しく震えている。
「黙るがいい、諸葛亮! わたしは、程子文を殺してない!」
孔明は、その怒りに触れて、うろたえる。
斐仁《ひじん》は、復讐のために襄陽城へやってきたとき、花安英の従者に化けていた男…潘季鵬《はんきほう》に案内されて、程子文の遺体をみつけた、と証言した。
ふつうに考えるならば、潘季鵬は、すでにそこに程子文の遺体があるということを知っていた。
そして、斐仁を罠にはめるために、わざわざ部屋に案内したのだろう。
あとから部屋に入ってきた花安英も、同様だったはず。
そうではなく、本当に花安英は知らなかった?
斐仁と花安英、双方を騙していたのは、潘季鵬だった?
「わたしが程子文を見つけたとき、どれだけ打ちのめされたか貴様にわかるものか!
たしかに仲たがいをしたとも。おまえとかれが再会してからは、顔をあわせれば喧嘩ばかりだった!
だからわたしはおまえが憎かった。おまえが程子文を変えてしまったからだ!
わたしは程子文が理解できなかった。
『壷中』を裏切ろうとしているのが、なぜなのか、わたしを捨てようとしているのがなぜなのか!
でも殺そうなんて、一度だって思ったことはない! 一度たりともだ!」
「では、なぜ斐仁は程子文の部屋に案内されたのだ。潘季鵬はなにも君に教えていなかったのか」
花安英の表情に、暗い影がさす。
「新野から帰ってきた潘季鵬は、いつになく荒れ狂っていたよ。
わたしの顔を見るなり言った。
これから異分子をのぞく『仕事』をしなければならない。おまえも協力するようにと。
これから新野から客がくる。いまから死体を作って、そいつを死体のある部屋に案内する。
おまえは派手にわめき散らせ、と。
なんだかわからなかったけれど、ああなったときの潘季鵬は手が付けられない。
協力するしかないんだ。
でも、その『仕事』が、まさか程子文を殺すことだったなんて、予想できなかった。
知っていたら、あの場であの男を殺していたさ!」
「では、誰が程子文を殺したのだ?」
「わたしじゃない。あなた方が、『狗屠《くと》』と呼ぶやつだ」
「なに?」
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(*^▽^*)
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!
おかげさまで、投稿文字数が26万文字を超えたようです。
良く書いたなあと思うと同時に、よく読んでもらえているなあと感謝しきり!
続編の制作もがんばりますので、臥龍的陣、さいごまでお付き合いくださいませ♪