はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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地這う龍  三章 その16 夏侯蘭、ふたたび荊州に

2024年01月21日 10時09分44秒 | 地這う龍



街道にそって、ひたすら南へ向かっていた夏侯蘭《かこうらん》は、いよいよ荊州の境に入ったところで、宿のあるじから、おどろくべき情報を手に入れた。
「新野城《しんやじょう》はすっかり廃墟のようになっていますよ。
劉備さまが、撤退される際に、火をかけたものですから」
「なんだと! 戦場になったのか」
「手前どもも詳しくはわかりませんが、劉備さまと新野の住民が樊城《はんじょう》へ逃げたあと、火の手があがったようです」
「そ、そうか」
では、曹操軍による新野城の住民の虐殺はなかった。
藍玉《らんぎょく》は、阿瑯《あろう》は無事なのだなとおもって、夏侯蘭はホッとした。
恩人たちが炎にまかれて死んだかもしれないなどとなったら、今度こそ立ち直れない。


宿を早朝に引き払い、さらに南へ向かう途中で、すでに劉備軍が民をひきいて、樊城を出たという話を聞いた。
「藍玉たちは同行しているのだろうか」
気になったが、くわしく調べているひまはなかった。
それというのも、襄陽から北へもどっていく商人の一行から、
「どうやら明後日にでも曹操軍が南へ向かうようですよ」
と聞き込んだからだ。
おなじ商人からは、劉備が新野と樊城の民を襄陽城に入れてもらおうとしたところ、蔡瑁《さいぼう》らに追い返された、という痛ましい話も聞いた。
「劉備どのはどこへ向かっているのだろう」
「さて、わかりませぬが、ともかく南へ向かっていることはたしかです」
商人は、夏侯蘭から情報量がわりの駄賃をもらうと、そのまますれちがいに北へもどっていった。


『ともかく、司馬仲達からあずかった手紙を、荀公達《じゅんこうたつ》(荀攸《じゅんゆう》)にわたそう。
何が書いてあるのかはわからぬが、重要な手紙らしいからな。
司馬仲達にはさんざん世話になったから、手紙は最優先にわたさねばならぬ。
それからすぐ、南へ逃げたという劉備軍を追おう。
襄陽城で民が追い返されたというのなら、藍玉たちも一緒だったのだろう。
それからあと、どうしたかはじっくり探ればよい』
段取りをあたまのなかで組み立てつつ、夏侯蘭は、襄陽へと急いだ。


樊城を出てから二日で、襄陽に到着した。
なるほど、城壁には曹操軍の旗がたてられて、それが風をいっぱいにくらって、泳いでる。
自分もかつてまとっていた、曹操軍の甲冑をまとった歩哨《ほしょう》たちが、あたりを警戒していた。
めまいがするほど多くの兵士たちが襄陽のまわりで待機していた。
幕舎がいくつあるのだろう、数えきれないほどある。
近づけば近づくほど、鉄の匂いがするような錯覚をおぼえるほどだった。


襄陽の住民や商人たちは、きびしく襄陽城への出入りを制限されていた。
いかにも曹操の軍の近衛らしい優秀そうな男が門衛に立っていて、夏侯蘭がちかづくと、たちまち怪訝そうな顔をして誰何《すいか》してきた。
「そこの男、何者だ」
おそらく、俺のこの禿頭《とくとう》をかくしている頭巾姿があやしいのだろうなと推理しつつ、夏侯蘭は平然と答えた。
「おれは常山真定《じょうざんしんてい》の夏侯蘭と申す者。
河内《かだい》の司馬仲達どのの使者として、荀公達どのに会いに来た。
どうか取り次いでもらえぬだろうか」
「司馬仲達? 河内の、司馬伯達(司馬朗)どのの弟御のことか?」
さすが、司馬家の名は通っているなと感心しつつ、夏侯蘭はうなずいた。
「そうだ。手紙をあずかっている。じかに本人に渡したい」
「手紙を見せろ」
「中身をみないと約束してくれるなら、見せていい」
「ふん、威張ったやつだな」


鼻を鳴らしつつ、門衛は夏侯蘭がもってきた手紙をあらためる。
手紙は封緘《ふうかん》がしてあるので、それをとらない限りは、中身は見られない。
襄陽城の門を預かっている男といえど、さすがに筆頭軍師である荀攸あての手紙を開封しようとはしなかった。


「しかし、これだけでは、貴殿が間者でないという証左はないな」
「身をあらためてくれていい。手紙のほかには、怪しいものは持っておらぬぞ」
門衛は、部下を呼び寄せ、夏侯蘭のからだをくまなくあらためた。
頭巾の下が禿頭だと知ると、なんとも微妙な顔をしたが、意外にも詳しく話を聞こうとはしなかった。
「たしかに言うとおり、怪しいものは持っていないようだ。
取り次ごう、控えで待っていてくれ」


門衛は行ってしまったが、夏侯蘭がそれほど待たないうちに、荀攸のもとへと案内してくれた。
感心して、
「早いな」
とおもわずいうと、門衛は振り返りもせず答えた。
「急がねばならぬ理由がある。これから閲兵ののち、軍が南へ向かうのだ。
公達さまも閲兵式に参加される。そのまえに手紙をわたしたほうがよかろう」
なるほど、気の利く男である。
曹操軍はやはり、優秀な人材が多いのだ。
しかし、軍が南へ行く、というのが気になった。
いよいよ、曹操が劉備の首に手を伸ばそうとしているのか。


夏侯蘭は、北門から南門へと案内された。
南門へ向かうにつれ、ものものしい空気に変わっていく。
どうやら南側に兵が整列をはじめているようだった。


曹操軍のうごきを、怯《おび》えた顔をしてうかがっている民の顔が印象的だ。
しかし夏侯蘭がみたところ、襄陽城市は荒らされている気配がない。
規律の正しさは、さすがに曹操直属の軍だといえるだろうか。
曹操は、徐州のときのように『父の仇討ち』といった感情的な理由がないこともあり、荊州の民をむやみに殺そうとは思っていないようである。


『だが、歯向かえばどうなるかわからぬ。
新野の民は、劉備についていくことで曹操に背を向けたとみなされたはずだ。
藍玉たちがこれについていってないだろうか』
賢い女だったから、藍玉は劉備につかず、どこか途中で隠れて曹操軍をやり過ごしているかもしれない。
いや、そうであってほしいと、こころから思う。
曹操軍の実力は、かつて夏侯淵の軍に所属していた夏侯蘭だからこそ、よく知っていた。


つづく

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