帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔六十四〕草の花は

2011-05-08 03:04:39 | 古典

 



                                     帯とけの枕草子〔六十四〕草の花は

 

 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、君が読まされ、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔六十四〕
草の花は

 
草の花は、なでしこ、からのはさら也、大和のもいとめでたし。

(草の花は、撫子、唐なでしこはなおさらである、大和のも、とっても愛でたい……女の華やぎは、撫でし子、大きいのはなおさらである、大いに和らぐのも、とっても愛でたい)。


 女郎花、きゝやう、朝がほ、かるかや、きく、つぼすみれ。
 
(女郎花、桔梗、朝顔、刈萱、菊、壷すみれ……をみな圧し、聞くよう、浅かお? 軽かや? 効く?。壷、す、見れば!)。


 言の戯れと言の心

「草…女」「草の…女の…女にとっての…女としての」「花…おとこ花…華やぎ…栄華」「なでしこ…撫でし子…愛玩するし…撫でおとこ」「唐…大きい」「ほ…お…おとこ」「をみなへし…女郎花…をみなへし…をみな圧し…女おさえつけ」「きき…聞き…問い」「やう…様…有り様」「つぼ…壷…女…急所」「す…女…洲…おんな」「見れ…見れば…見れば・いいでしょ」「見…覯…媾…まぐあい」。

 

 
 りんどうは、枝ぶりなどは見ぐるしいけれど、他の花々がみな霜枯れているのに、たいそう華やかな色合いして差し出ている、いとおかし(とっても趣がある…とっても立派)。また、わざわざ取り立てて、人めかす(擬人化する)べきでもない様子だけど、かまつかの花(鎌柄の端)、らうたげなり(かわいらしい)。名もいやな感じである。かりのくる花(雁来花…刈りの来る花)と文字には書いている。

かにひの花、色は濃くないが藤(色気は濃くないけれど不死)の花とよく似て、春秋と咲く(二度咲きする)のが、いとおかし(とっても趣がある…とってもすばらしい)。

 萩(端木)、たいそう色深く、枝たおやかに咲いているのが、朝露(浅い白つゆ)に濡れて、なよなよと、だらしなくひろがり伏している。さ牡鹿が分けて立ち馴らすらしいのとは情が異なる。八重山吹(八重に山ばで咲くお花)。

 夕顔は、花の形も、朝顔(浅か男)に似て、言い続けると(ゆふがほあさがほ…夕がお浅がお)。立派であるべき花の姿なのに、実(身)のありさまこそ、いとくちおしけれ(まったくがっかりなことよ)。何でそんなふうにまた生まれ出て来たのかしら、ぬかづき(額づき…頭垂れ)という名であれよ。だけど、夕顔(夕が男)という名だけは趣がある。

 しもつけの花(霜付けのお花)、葦の花(悪しのお花)。これに、すゝきをいれぬ(薄を入れない…薄情なお花を入れない)と、大いに変だと人(女たち)は言うでしょう。秋の野のおしなべたるをかしさは薄こそあれ(秋の野の一般的な興趣はすすきである…飽き満ち足りたところのおしなべたおかしさは薄情なお花である)。穂先の蘇枋色のかなり濃いのが、朝露(浅つゆ)に濡れてうちなびいているの、これほどのものがあるでしょうか。秋(飽き)の果ては全く見どころがない。色々に乱れ咲いたお花が、跡形もなく散ったのに、冬の末(情が冷えるとき)まで、かしらが白々しくだらけているのも知らず、むかし(先ほど・武樫)を思い出し顔に、風になびいて、かひろぎたてる(ゆらゆら立っている)。人にこそいみじうにたれ、よそふる心ありてそれをしもこそあはれと思ふべけれ(男によく似ている、薄はおとこになずらえる心があって、それで、男肢もこそ、あゝあわれと思うのでしょうよ)。


 言の戯れと言の心

  「かまつか…鎌柄…鎌の握り手」「柄…一握りの大きさ(単位)」「ゆうがほ…夕顔…夕の男…たそがれ男…夕になると訪れる男」「しもつけ…低木夏小花が密生する…霜(白)が付いたおとこ花」「すすき…薄…尾花…薄情…お花…これは草花なのにおとこ花」「秋…飽き」「野…山ばでは無い」。

 

 
 萩、さ牡鹿の歌を聞きましょう。

万葉集 巻第十、詠鹿鳴。

秋萩の咲きたる野辺はさ牡鹿ぞ 露を分けつつ妻問ひしける
 
(秋萩の咲いた野辺は、さ牡鹿が、露を分けつつ妻を訪ねていることよ……飽き満ちた端木の咲いた野辺は、さおしかぞ、白つゆ分けつつ妻訪いしていることよ・八重山吹よ


 「秋…飽き」「萩…端木…おとこ」「野辺…山ばでは無いところ」「さ牡鹿…さお子下」「さ…美称」「お…子…おとこ」「露…白露…おとこ白つゆ」「つまどふ…妻を訪ねる…妻恋しくて求める」。

 


 伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず  (2015・8月、改定しました)



 枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子 (岩波書店)による