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帯とけの枕草子〔七十二〕ありがたきもの
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔七十二〕ありがたきもの
在り難き情況
舅にほめられる婿。それに、姑に思われる嫁の君。毛のよく抜ける白銀の毛抜き。
しうそしらぬすさ(主を謗らない従者…し憂、謗らないすさ)。露のくせなき(ほんの少しの癖もない・人…ほんの少しのつゆの性癖のない・もの)。
容姿・心・生きざま優れて、世に経る間、いささかの疵(欠点)もない・人。
おなじ所に住人の、かたみに恥かはし、いさゝかのひまなくよういしたりと思ふが、つひに見えぬこそかたけれ(同じ所に住む人がお互いに気兼ねして、少しの隙もなく気を遣いあっていると思うのが、終りまで本性見なかったなんて、在り難いことよ……同じところに住む女と男が、お互い身のはし交わし、いささかの隙なく寄り、心準備したりと思うのが、終に見なかったなんて、在り難きことよ)。
物語、歌集を書き写すのに、本にすみつけぬ(本に墨を付けない…ほんとうに全く墨を付けない)。よい草子などは、たいそう心して書くけれど、必ず、汚げになるようね。
男と女に限っていわず、女どうしでも、契り深く語らっている人が、末まで仲の良い人は、かたし(在り難い)。
言の戯れを知り言の心を心得て読みましょう。
「しう…主…主人…し憂…この君憂」「う…憂…憂し…わずらわしい…いやだ…気が進まない…無情ね」「すさ…ずさ…従者…すさ…女」「す…女」「さ…者…美称の接尾語」「露…ほんの少し…つゆ…おとこ白つゆ」「くせ…癖…欠点…性癖…ほんの少しという男の性癖」「恥かはし…恥ずかしがって…気兼ねして…身の端交し」「ようい…用意…深い心づかい…準備…心仕度」「見…覯…媾…まぐあい」「本に…元本に…新しい本に…ほんとうに…全く」「末まで…死ぬまで」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子(岩波書店)による