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帯とけの枕草子〔六十九〕よがらすども
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔六十九〕よがらすども
よがらすどものゐて、夜中ばかりにいねさはぐ。おちまどひ木づたひて、ねおびれたるこゑに鳴たるこそ、ひるのめにたがひてをかしけれ。
文の清げな姿
夜がらすどもが居て夜中に寝騒ぐ、落ちかかり惑い、木伝いして、寝ぼけた声で鳴いているのは、昼間の場合とは違って、趣があることよ。
心におかしきところ
夜、女たちが居て、夜中に寝騒ぐ、落ち込み、思い惑い、独り言伝え、寝ぼけ声で泣いているのは昼間の女とは違って、おかしいことよ。
言の戯れと言の心
「からす…烏…鳥…言の心は女」「ども…複数を表す…親しみを表す」「木づたひて…木伝いて…言つたえて…独りごと言って」「こつ…言つ…事つ…言う」「鳴く…泣く」「め…目…事態…場合…女」。
宿直する女房のひとこま、寝とぼけて夜泣きする女もいた。夜がらすの話と聞こえるのは話の姿。
鳥の「言の心」は女。「古事記」にある神代の歌を聞きましょう。
八千矛の神の命が妻を娶ろうと、沼河ひめの家に至りお歌いになられた。
八島の国に妻まきかねて、遠遠しこしの国に、賢し女を、ありと聞こして、麗し女を、ありと聞こして、さよばひに、あり立たし、よばひに、あり通はせ、太刀が緒もいまだ解かずて、襲をもいまだ解かねば、おとめの寝す屋板戸を、押そぶらひ、我が立たせれば、引こづらひ、我が立たせれば、青山にぬえ(鵺)は鳴きぬ、さ野つ鳥きぎし(雉)はとよむ、庭つ鳥かけ(鶏)は鳴く、うれたくも鳴くなる鳥か、この鳥もうち止めこせね――。
突然の乱暴な訪問に沼河ひめの御付の女たちの泣き騒ぐ様子でしょう。遠い国からわざわざ来たのに、戸も開けず、泣くな、「止めさせてくれい」とお歌いになられた。
沼河ひめは、戸を開かず内より、お応えになった。
八千矛の神の命、ぬえ草のめ(女)にしあれば、わが心、浦すの鳥ぞ、今こそは我鳥にあらめ、後は汝鳥にあらむを、命はな死せたまひそ――
求婚はお受けしましょうと「百長に寝はい寝なさむを」、無理やりなことなさらないでと、お応えになられた。その夜は合わず、明日の夜御合し給うたという。
この時すでに、鳥は女という意味を孕んでいた。
枕草子の「からす」の「言の心」が女であっても不思議ではない。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子(岩波書店)による