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帯とけの枕草子〔七十六〕心ちよげなる物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔七十六〕心ちよげなる物
心ちよげなる物、うづえのほうし。みかぐらの人長。かぐらのふりはたとかもたる物。
清げな姿
心地よさそうなもの。卯杖の帽子(長寿を寿ぐ杖の頭に付けられた紙の飾り)。御神楽の指揮者。神楽の振幡とかを持っている者。
心におかしきところ
気持ちよさそうなもの、得つ枝の奉仕。身かみ楽しませる人の長き。かみ楽しませの振り端多とか持つ者。
言の戯れと言の心
「心ちよげ…気持良さそう…快さそう…感じ好さそう」「物…物体…何とも言えないもの…状況…情況…者」「うつえのほうし…長寿など祝う杖の頭の飾り…卯杖のかしら包みたる小さき紙と〔八三〕にもある…得つ枝の奉仕…得た身の枝の奉仕」「うつ…得つ…得た…取り入れた」「え…杖…枝…身の枝…おとこ」「ほうし…帽子…奉祠…あがめ奉る…奉仕…仕え奉る」「み…御…身…見…覯」「かぐら…神楽…神遊び…神に捧げる歌舞…女に捧げる楽しみ」「神…上…髪…女」「はた…旗…幡…端…二十…はたまたその上に…端多…端多情」「端…身の端…をとこ・をんな」。
「かみ」という言葉は、神、髪、上、女という意味を孕んでいる。神遊びの歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第二十 神あそびのうた とりものゝうた(採り物の歌)
神がきのみむろの山のさかきばは 神のみまへにしげりあひにけり
(神垣の三室の山の榊葉は 神の御前に茂りあっていることよ……かみが木の、みむろの山ばのさか木端は、女の身前で繁り合っていることよ)。
「神…女」「かき…垣…が木…の木…のおとこ」「木…男…おとこ」「むろ…室…女」「み…御…三…見…身」「山…山ば」「さかき…榊…採り物…取り入れたもの…おとこ木」「しげりあひ…繁りあう…盛んな生長による枝葉の重なり合い…お盛んな山ばでの合い」。
歌の言葉は、藤原俊成の云う通り、浮言綺語の戯れに似ているけれども、そこに深い趣旨が顕われる。
枕草子も和歌と同じ女の言葉で語ってある。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 枕草子(岩波書店)による