帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集巻第四 恋雑 (三百二十九と三百三十)

2012-09-26 00:01:12 | 古典

   



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知り、紀貫之の云う「言の心」を心得えれば、和歌の清げな姿だけではなく、おかしさがわかる。藤原公任は、歌には、心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。「言の心」を紐解きましょう、帯はおのずから解け、人の生の心情が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集巻第四 恋雑 百六十首
(三百二十九と三百三十)


 思ふとも恋ふとも逢はむものなれや ゆふてもたゆくとける下紐
                                   
(三百二十九)

 (思っても恋しがっても、逢えるのか逢えないものなのか、結ぶ手もだるく解ける下紐よ……思うとも乞うとも、合うのか合わないものなのか、むすぶ手もたるんで、とける下およ)


 言の戯れと言の心

 「思ふ…(君を)思う…(和合を)思う」「恋ふ…恋う…偲び慕う…乞う…求める」「あはむ…逢う…合う…和合する」「ものなれや…(あう)ものだろうか否だめだろう…反語の意を表す」「ゆふて…結う手…結ぶ手…つなぎ合わせる側」「たゆく…たゆみて…だるくなって…たるんで…(君も私も)張りを失って」「とける…解ける…ほどける…(合体していたものが)解消する」「下紐…下着の紐…人に思われると解けるといわれる紐…下緒…下お…おとこ」「紐…緒、綱、縄などと共に男」。


 古今和歌集 恋歌一。題しらず、よみ人しらず。女の歌として聞く。

 歌の清げな姿は、悩ましき逢えない恋い。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、和合できぬまま、とけゆく下緒についての詠嘆。

 


 あはれてふ言の葉ごとにおく露は むかしを恋ふる涙なりけり
                                   
(三百三十)

 (みすぼらしく哀れという言の葉毎におりる露は、盛んだった昔を恋しく思う涙だったことよ……あゝ感じるというきみの言の葉毎に贈り置く白つゆは、武樫を乞うおとこの涙だったよ)


 言の戯れと言の心

 「あはれ…哀れ…不憫だ…あゝ…感激して発する言葉…感に堪えない」「おくつゆ…降りる露…贈り置くつゆ」「つゆ…露…白つゆ…おとこ白つゆ」「むかし…昔…以前…武樫…強く堅い」「恋ふ…思い慕う…乞う…求める」「なりけり…だったことよ…詠嘆の意を表す」。


 古今和歌集 雑歌下。題しらず、よみ人しらず。男の歌として聞く。

 歌の清げな姿は、現状を哀れと嘆き、良かった昔を恋う心。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、一過性のおとこのさがに逆らっての懸命な努力を訴えた。



 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。