空の道を散歩

私の「仏道をならふ」の記

アンリ・マティスの「ブルーヌード」

2011-01-17 21:51:32 | アート・文化

 実家では、家事や介護でテレビを見る時間がない。見たい番組はもっぱら自宅に帰った時に見ている。大体、地上波より遅れて、BSで再放送されたものを見ることが多い。

 先日、自宅に帰った日に、BSジャパンの「美の巨人たち」を見て、アンリ・マティスの「ブルーヌード」(アンリ・マティス美術館蔵のもの)が創られた経緯を初めて知った。

 晩年、マティスは癌の手術による体力消耗で油絵が描けなくなった。さらに、妻と娘がレジスタンス活動でナチスにつかまったりしたことで、精神的にも苦しかった時期、絵筆を持つ代わりに、色紙を切って作品を描く、切り紙絵で創作を続けた。

 青一色で描かれた「ブルーヌード」もそんな時期の1枚だ。

 私の好きな「ジャズシリーズ」も切り紙絵だが、そんな苦しい時期に作られたとは知らず、きれいな色彩と、弾けるような形が、落ち込んだ気分を明るくしてくれるので、絵葉書をずっと部屋に飾っていた。

 「ブルーヌード」が制作された背景を知って、あらためて作品を見ると、部分で微妙に違う青の色、はさみで切り取られたさまざまな形、下地に残された試行錯誤の鉛筆のあと、など、どんなことを思い、心身の痛みにどんなふうに耐えながらこの作品を創作したのか、いろいろ想像されて、涙が出た。

 一見、とてもシンプルな「ブルーヌード」が、実は、この世界のありとあらゆる物語を語っているのだ。

 雑然として真実が見えなくなった世界を、シンプルな形に切り取ることで、人々に真実を見せてくれる。

 「ブルーヌード」は、そのような芸術の真髄を、如実に示した作品だと言える。