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父は「紙」関係の仕事に従事していたのですが、これは手漉きとまでは行かなくても、人間の職人技が関与する部分が大きかった時代から勤めていた。
戦前では徒弟制度みたいな、勤務というより修行みたいなこともあったらしい。
戦中は召集されたり軍隊から帰ってきたりを何度か繰り返したらしいが、戦後世の中が落ち着き始めてからその会社に復帰して、生え抜きに近い社員として勤めていた。
社長というより「ボッチャン」みたいなトップの下で、上は修行時代の先輩・兄貴分たち、下は後輩・弟子みたいな弟分みたいな・・・
寄り道ですが
社長といえば道楽息子だったらしく、当時としては珍しくスキーが上手かったそうです。
雪が殆ど降らない土地ですから、冬は長野などに出かけていたらしい。
昔トニー・ザイラー来日した時ニュース報道の映像で一緒に滑っていたのが社長だったとか、社員としては複雑な気分でその映像を見たらしい。
さて、私の生まれた町で父は小さなパルプ工場を任されていた。
隣の町にそのパルプから製品の紙を作る工場があったのですが、そういう工場を統括して一箇所で原料から製品までを扱う工場を作ることになり、紙としては有名な富士の裾野の町に引っ越した・・・その時のこと
だいぶ説明が長くなりました。
そこで、良い悪いは別ですが会社に家族的雰囲気を大事にする所があって、このときは家族の「子供大会」が行われました。
「子供大会」は少々オーバーなんですが、一寸した食事とおみやげ物が出る程度ではあるのですが、昭和30年代の初めとしては、その程度のことでも珍しかったのでしょう。
蛸足みたいに分散していた工場を統合したばかりですから、いろんな催しを通して社員の交流を図っていたのでしょう、そういう意味では子供はいい名目ではありますね。
父と父の先輩のオジサンが実行委員長みたいな感じでしたが、どんな食事だったか、お土産に何を貰ったかなど全く憶えていません。
ところが、ある場面だけははっきり覚えているのです。
会の後何家族か、子供7,8人と親たちが畳の大きな部屋にいて・・・マア遊んでいたのですが、そこに碁盤と石があったのです。
家にも折りたたみの碁盤と碁石はあったから特に珍しいということは無いのですが、手に取ってみて初めての経験でした。
つまり石は白が蛤で恐らく黒は那智だったのでしょう。
碁石を手に取ったといっても当時のことですから五目並べくらいしかできませんが五目並べをやる気にならないのです。
周りにいる子供たちとその日初対面ということもあるけれど、蛤の碁石で五目並べという事が何か場違いな感じがしたのではないでしょうかね。
尤も蛤としてはたいしたものではありません。
厚さが5mmくらいですから打つとペタペタした感じです。
石もガラスと石を混ぜたものではなくて、多分本物の石でしょうが・・・
その時の蛤の印象は「多分高いもの」(家にある瀬戸物の石より)だろうと思う反面、「余り綺麗ではないな」と。
蛤は真っ白ではなく、少し茶色というかベージュというか色がついていて、反対の面は縞模様が浮いていた。
(模様のある方が表だったでしょうか?)
高いらしいということは知ってはいるのですが、何故高いか実感として分からないのです。
持った感じが、なんだか軽かった。
子供心にその軽さが、手に持った感触がシックリしないという以上に、軽い=安い(たいしたものでは無い)に繋がったのかもしれません。
世話係の大人から「蛤だから、力一杯打つと割れるから注意してね」と言われたことも「割れやすい」=「良い物では無い」という印象だったかも。
それに実際欠けている蛤も多少混じっていて、手を切らないように気をつけてねというのも印象が悪いですね。
こういう薄い蛤は「蛤というだけ」に過ぎないのでしょうが、会社の休憩室に置くにしてはよいものだったかも知れませんね。
子供にはあの縞も印象が好くないかも・・・ピカピカ光っている方が良い物のような感じでしょう。
子供時代に初めて出合った蛤の碁石の印象です。
本物の蛤とであったのですが「ホンモノ」ではないですね
挑戦手合いなどに使われる蛤や、雑誌のカタログ販売などに出てくる「高級品」とは全く違います。
ところが、今昼休みの職場碁で使っている碁石と材質は違うのですが、持った感じが似ているのです。
職場の休憩室の碁石は練り物ですが大きさといい重さといい、持った感じがアノ時の石にそっくり・・・アレよりやや重いかもしれませんが・・・持った感じが何だか懐かしい。
ということは今の普及品は「よく出来ている」?
子供時代の指先の思い出が50年後も残っているとも思われませんが・・・
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