赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

華夷秩序とそれに抗う日本――真実の中国③ topics(593)

2022-09-21 09:42:49 | 政治見解



topics(593): 華夷秩序とそれに抗う日本――真実の中国③


華夷秩序とはなにか


社会科の教科書では黄河流域の文明を世界の「四大文明」として記述しているため、子供のころから中国あげの雰囲気を学びんでいました。しかし、「四大文明」という言葉は、戦後、騎馬民族征服王朝説を唱えた江上波夫氏の造語で、本人もそれを認めつつ、「文明と呼べるものは世界中に発生していて、今ここで暗算で数えても50以上ある」とも述べています。

中国人にとっては歴史の長さが自慢なのでしょうが、今の方が精神的に退化している中国にとっては意味のないことだと思います。

最初から余談で入ってしまいましたが、ここでは歴代王朝の世界秩序観であり、現代中国もその価値観で世界支配するための価値観である「華夷秩序」について論じます。

漢字を知らない国々にとって中国の呼称は「チャイナ」ですので中国の国家名に秘めた願望はよく理解できないと思いますが、日本人なら「中国」も「中華」に込められた意味が理解できます。実に傲慢な考え方であると一瞬のうちにわかります。

それだけに、「華夷秩序」の「華」とは勿論、「中華の華」であり、中国が世界の中心、唯一文明化された国であると宣言している言葉であり、そして「夷」とは中華を囲む四方の野蛮人の国を指しているとわかります。中国人はそれを「東夷・西戒・南蛮・北狄(とうい・せいじゅう・なんばん・ほくてき」にわざわざ分類して、この四方の蛮族が中華の皇帝に朝貢し、冊封を受ける事が当然という世界観に立っているのです。


朝貢がなければ中華帝国は滅びる

したがって、これを逆に解すると、四方の蛮族が朝貢してこなければ皇帝の権威がない、失われているということになります。

これを台湾独立運動家の林建良氏は、「朝貢を受けられなくなった王朝は必ず滅びている」という歴史的事実を指摘します。その説に従えば、日本はいつの時代も朝貢を拒否して、王朝を滅ぼすのに確かに一役買っているのがわかります。

実際、秦の始皇帝の時代から習近平体制の現代中国まで、2000年にわたる中華帝国史を一気に概観したとき、華夷秩序に基づく朝貢と冊封は、見栄の問題ではなく、その構築に失敗した国や皇帝はあっという間に滅ぼされるという事実をもたらすものであるということなのです。それがわかれば現代中国がなぜ、異常なまでに海洋進出に固執するかという理由もわかると思います。華夷秩序とは中華帝国にとってのレーゾンデートルな存在なのです。



朝貢を拒否した日本

さて、日本が朝貢を拒否した実例をあげてみたいと思います。

古くは元の時代、北条時宗はかたくなに元からの朝貢要求を拒否して【※1】、二度にわたる元寇【※2】を招きました。しかし、いずれも台風の時期と重なり、属国の高麗人を主力とした元軍は海の藻屑と消え去りました。元はその後ベトナムの侵攻にも失敗し、皇帝の権威は失われ、後に明王朝に滅ぼされました。

※1】朝貢要求の大蒙古国・国書(口語訳):「天に守られている大蒙古国の皇帝から日本国王にこの手紙を送る。(中略)これから日本と大蒙古国とは,国と国の交わりをして仲良くしていこうではないか。我々は全ての国を一つの家と考えている。日本も我々を父と思うことである。このことが分からないと軍を送ることになるが,それは我々の好むところではない。日本国王はこの気持ちをよくよく考えて返事をしてほしい.不宣至元三年八月(1266年・文永三年)」

【※2】元寇:元の襲来をテーマにした歌に『元寇』がある。この歌詞を見れば元寇の全体像が分かる。1番は「四百余州を挙こぞる 十万余騎の敵 国難ここに見る 弘安四年夏の頃ころ なんぞ怖おそれん我に 鎌倉男児あり 正義武断の名 一喝かつして世に示す」、最後の4番は「天は怒りて海は 逆巻く大浪に 国に仇をなす 十余万の蒙古勢は 底の藻屑もくずと消えて 残るは唯三人 いつしか雲はれて 玄界灘月清し」である。この歌は日清戦争の前年に作られたもので、清国との戦いを想定して、清を元に仮託していたようだ。


次は清の時代。日本が明治維新直後の1871年、日本と清の間で初めて結ばれた近代的な条約である「日清修好条規」が、その後の王朝崩壊の要因となりました。清王朝は自ら華夷秩序を放棄して、「夷」の日本と対等な立場にたったからです。すでに皇帝の権威が失われ始めた時代でしたが、これで王朝としての権威失墜が決定的となりました。その後の日清戦争では清国は敗北、属国の李氏朝鮮が独立し――このことは朝鮮が日本に感謝すべき事案の一つだと思います――、後の辛亥革命で国は滅びました。

こうしてみると、中華王朝は日本を華夷秩序に組み入れることに失敗すると国家崩壊に至ることがわかります。この例に従うと、現代中国の中華人民共和国も「華夷秩序」体制を構築できなければ歴代国家と同じ命運になることがわかります。なぜなら、現代中国も共産主義の形ではありますが、本質は、歴代王朝と変わらない専制国家であるからです。

ただ、現代中国はさすがに華夷秩序を直接口に出すことはしません。しかし、一帯一路とAIIB(アジアインフラ投資銀行)という経済を軸とした支配体制をつくりだすことによって、アジアのみならずヨーロッパまで拡大しようとした行為は、華夷秩序体制の構築にほかなりません。巧妙なサイレント・インベージョンの一環で、例えばAIIB、設立当初57ヵ国だった加盟国がいまでは103ヵ国と地域にまで広がっています。知らず知らず、世界の国々が利益という見返りに、現代中国の華夷秩序に組み込まれた格好です。

日本では、華夷秩序体制に加わることを熱心に進めていたのがメディアで、いつものように「バスに乗り遅れるな」と騒いでいました。この話に飛びついたのは「一帯一路、沖縄活用を」と言って中国を喜ばせた玉城沖縄県知事くらいでした。さすがに「日本政府から、アメリカから沖縄を取り戻す」と言うだけのことはあります。

日本政府は、度重なる中国の華夷秩序体制の組み込みであるAIIBや一帯一路構想には参加しませんでした。すなわち朝貢要求を拒否したわけです。ときの総理大臣は安倍晋三氏です。中国は安倍元総理に華夷秩序を否定されて面子が丸つぶれになりました。

だから、中国は、華夷秩序を否定して中国の国家としての面子をつぶし、また、それだけでなく、QUADという中国包囲網を形成した安倍元総理を徹底的に憎んでいるわけです。死して後もまだ憎い。それで「死者に鞭打つ」よう手下に命じて、「国葬反対」を叫ばせ、恥をかかせようとしているのです。

「国葬反対」を叫ぶ人、あなた方は中国の走狗に仕立てられているんですよ。

ただ、歴史を振り返れば、華夷秩序体制を拒絶された歴代王朝が崩壊の道をたどったように、現代中国も日本に華夷秩序体制を否定されたために、現代の皇帝然と振舞う習近平氏の権威は地に落ちたということは、中国は崩壊の道を歩み始めたということです。その上に、あらゆる分野での中国包囲網が完成しつつある現在、現代中国の命運は尽きたといえると思います。

おそらく、中国が台湾への侵攻、あるいは沖縄への侵攻開始が国家の物理的な崩壊をもたらすのではないかと思います。「歴史は繰り返す」という言葉が重く響きます。(つづく)

(明日は中国の外交戦略「六韜」)




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