米中間の確執の原因、フェンタニル問題
米中間の問題に、日本メディアではほとんど報道されていない、そして非常に大きな問題が存在しています。それが「フェンタニル問題」です。
簡単に言えば、これは麻薬密輸の問題を指します。フェンタニルは、別名「オピオイド」とも呼ばれる薬物で、米中間で現在最大の問題とされています。具体的には、アメリカ国内で年間約10万人が薬物の過剰摂取によって亡くなっていますが、そのうち3分の2がフェンタニルによるものだとされています。
国際政治学者に、特別な解説をお願いしました。
フェンタニル問題とは何か
フェンタニル問題を取り上げたあるレポートでは、次のように述べられていました。「1日に大型旅客機が1機ずつ墜落しているほどの人数が死亡している」というのです。この表現からもわかるように、アメリカにとってこの問題は非常に深刻で大きな課題となっています。
では、このフェンタニル問題の背景には何があるのでしょうか。中国がその原料をカナダやメキシコに輸出し、そこで犯罪組織がその原料を基にフェンタニルを製造し、それを完成させてアメリカに密輸しているという構図が明らかになっています。そして、それが原因でアメリカ国内で多くの死者が出ているのです。
この状況を踏まえて、トランプ前大統領は先日、対策として中国に10%の追加関税を課すことを発表しました。同時に、カナダとメキシコに対しても25%の関税を課すと述べ、「この問題を解決しなければならない」と強調しました。カナダとメキシコから直接フェンタニルが流入してくることから、そちらに高い関税率を適用する必要があると判断したのです。これは、懲罰的な関税措置といえます。
さらに、フェンタニルの製造には原料となる化学物質が必要ですが、それを密輸しているのは中国であることがはっきりしています。しかし、アメリカがトランプ政権時代からバイデン政権に至るまで何度も交渉を試みても、中国はこの密輸行為を止めようとはしませんでした。これにより、中国共産党がアメリカを弱体化させようとしているのではないかと推測されています。
このような状況が続けば、米中関係は最悪のコースをたどる可能性が高いでしょう。習近平国家主席がこの問題を軽視し、対米協力を拒む場合、フェンタニル問題を発端とした米中間の緊張はさらに高まります。この問題を放置することは、両国にとって深刻な対立を招く結果になるでしょう。
また、こうした事態が起こると、トランプ政権の基本姿勢にも変化が生じる可能性があります。これまでは「戦争はしない」という方針を掲げ、また「中国の国内体制を変えること(レジームチェンジ)は求めない」というスタンスを取っていました。しかし、もし習近平国家主席がフェンタニル問題で協力を拒み続ける場合には、中国共産党体制そのものを崩壊させることを目指す、いわゆるレジームチェンジを仕掛ける可能性が出てくるのです。それほどまでに、このフェンタニル問題はアメリカにとって重大な課題であり、対応が求められるテーマとなっています。
もちろん、貿易問題も引き続き重要であり、高関税を課すなどの厳しい措置が取られることも予想されます。しかし、この問題がもたらす影響はそれだけにとどまらず、軍事的な緊張をさらに高める要因ともなり得ます。
したがって、米中間の緊張が激化することで、日本にとってもこの問題は決して他人事ではありません。
フェンタニル、中国共産党が密輸を通じてアメリカ社会を崩壊させようとしている
たとえ「やめろ」と言っても、中国共産党は止める気配がありません。具体的には、フェンタニルの原材料をカナダやメキシコに密輸し、現地の犯罪組織がその原材料を使ってフェンタニルを製造し、それをアメリカに密輸している状況です。アメリカでは年間10万人もの人が薬物の過剰摂取で亡くなっています。そのうちの3分の2がフェンタニルによるものとされています。
フェンタニルは別名「オピオイド」とも呼ばれています。この原料を中国からカナダやメキシコに輸出し、それがアメリカに密輸されるという流れです。これに対して、バイデン政権は国境政策において重大な失策を犯しました。特に、メキシコとの南部国境を開放したことが批判されています。この政策によって不法移民が自由に流入するようになり、それと同時に麻薬の密輸も事実上自由化されてしまいました。
このような状況下で、薬物過剰摂取による死者数は10年前の2倍に増加しています。この問題は、今やアメリカ社会で最も深刻な課題の一つとされています。トランプ政権時代にも、この問題を解決しようと試みていましたが、中国側は曖昧な態度を取り続け、協力を拒んできました。
現在、中国国内ではフェンタニルが製造されていないことは確かですが、過去には直接アメリカに密輸していた時期があったようです。当時は郵便物を使った密輸が多く、これが問題視されました。その後、アメリカ側の取り締まりが強化されたため、密輸の手口が変わり、原材料がカナダやメキシコに流れるようになりました。現地では犯罪組織がこの原材料を用いて製造しています。
メキシコには、シナロア・カルテルという世界最大規模とも言われる犯罪組織が存在しています。この組織はメキシコ政府の取り締まりをものともせず、その影響力は政府をも凌駕するほどです。特に以前の左翼政権は麻薬カルテルに対して妥協的な態度を取っていましたが、現在の左翼政権2代目であるシェインバウム政権は、大量のフェンタニルを押収するなど取り締まりの姿勢を強化しています。ただし、これが本当に効果を発揮するのか、それとも単なるポーズに過ぎないのかは依然として疑問が残ります。
麻薬カルテルの勢力は非常に強大で、大統領でさえ対抗するには命を危険にさらす覚悟が必要です。実際、地方の政治家の中には麻薬カルテルによって命を奪われた人も少なくありません。これほどまでに麻薬組織の力が増大してしまった現状において、アメリカとしては南部国境を厳格に取り締まることが不可欠と言えるでしょう。
いくら中国にやめろと言っても、彼らは止めない
確かに中国はフェンタニルそのものは製造していませんが、その原材料を輸出しているのは事実です。
カナダについても触れてみましょう。香港が中国に返還される際、多くの中国人がカナダに移住しました。その結果、チャイニーズマフィアが勢力を拡大し、中国から原材料を輸入し、カナダ国内でフェンタニルを密造してアメリカに輸出しているのではないか、と言われています。この状況を本気で取り締まる必要があります。
中国は自国での麻薬使用を厳しく取り締まっています。これは、かつてアヘン戦争でひどい目に遭った歴史が背景にあります。しかし、他国を弱体化させるために麻薬を利用していると指摘されています。例えば、毛沢東は延安に定住した際、現在の内モンゴル自治区にあたる地域でアヘンを栽培させ、それを国民党に売りつけて利益を得ると同時に、国民党を堕落させました。このように、自国では取り締まりつつも、他国には麻薬を「武器」として使うという行動が取られていたのです。
こうした中国共産党と麻薬生産の関係について、静岡大学の楊海英教授が『墓標なき草原』という著書で詳しく述べています。この本では、中国共産党が文化大革命期にモンゴル人たちに対して行った虐殺や土地の収奪といった残虐行為のほか、麻薬に関する悪事についても記録されています。
国内では麻薬を取り締まる一方で、国外ではアヘンを武器として使うという行為が平然と行われてきたのです。ベトナム戦争の際には、アメリカ軍の戦力を弱体化させる目的で、アヘンや違法薬物を広めるよう意図的に仕向けたとされています。これは、中国共産党の戦略「超限戦」(あらゆる限界を超える戦争)の一環として行われたと考えられます。麻薬の流通さえも戦争の手段として利用する。それが敵を弱体化させるための方法なのです。
しかし、今回のフェンタニル問題については、すでにトランプ氏に知られており、これを本気で取り締まらない限り、米中関係は最悪の状態に陥る可能性があります。トランプ氏は、中国と経済的に縁を切り、高関税を課すことで「デカップリング」を進める考えです。中国経済がその結果どうなろうとも、それは「自己責任」とするのがトランプ氏のスタイルです。
もし中国がフェンタニルの原料密輸を止めない場合、トランプ政権は中国共産党との本格的な対立を選択し、場合によっては体制変更(レジームチェンジ)を視野に入れる可能性もあります。現時点では、トランプ氏が明確にそれを口にしているわけではありませんが、今後の展開次第ではその可能性があると考えられます。
これが現在問題となっているフェンタニルの問題です。習近平氏は、この問題をどこまで認識しているのでしょうか。