吾輩は赤ん坊である。名前はまだない。
まだ、世間に出たくなかったのだが、不覚にもこの世に取り出されてしまった。
不愉快極まりないので黙っておったら、揺すられたり叩かれたりされていたい事
この上なく、虐待甚だしくおっさん嫌いだと言ったつもりが、何故だか不覚にも
おぎゃぁという声になってしまった。
ーまぁかわいい赤ちゃんですよ、というのは正当なる評価であるがなんといきなり
局所をみるという暴挙に出たが、
ー立派な男の子です、とのたまう輩がおった。どんな輩かを見定めるべく目を開けた
のだった。おきゃんな看護師だが、なかなかのべっぴんであり些か見惚れていた。
ややもすると、はやくお父さんとお母さんに会わせましょう。
吾輩はタオルにくるまれて、持ち上げられて母のもとに連れていかれた。母をみて
なんたる不細工なという印象であり、まさかこの母から生まれたというのであれば
せめて父親は、という希望は観測に過ぎなかった。という事は吾輩の顔は・・。
ーあらまぁ お母さんとお父さんにそっくりですね 吾輩は悶絶しそうであった。
赤ちゃんという以上、生まれたときはサヨクだったにせよ、せめて美女と野獣とか
その逆でも良かったのだが、さらに言えばコウノトリに運ばれても良かったが
これではフコウノトリではないか。だからいやだぁと叫ぶもおぎゃあおぎゃぁと
しか発音ができず、ならばと全身をもって抗議をしようと手足を動かすも、
ーあら元気の良い事 と笑いを与えるだけなのであった。
恐らく世間でいえば私の発した第一声を産声というらしいが、産声をあげて
しまって失敗したと思う同志も往々にしているのではないだろうか。まさしく
これではあかん 冒瀆であるとしか言いようがない。
おわり