本能寺の変 「明智憲三郎的世界 天下布文!」

『本能寺の変 431年目の真実』著者の公式ブログです。
通説・俗説・虚説に惑わされない「真実」の世界を探究します。

大河ドラマ「江」の歴史捜査:総括後編

2011年12月31日 | 大河ドラマ「江」の歴史捜査
 本日は2011年大晦日。昨日の大河ドラマ「江」の歴史捜査:総括前編に引き続いて総括後編で今年の大河ドラマ・シリーズを締めくくろうと思います。
 大河ドラマ「江」には「歴史の捏造」という批判が起きました。確かに江の兄弟の万福丸の存在を消してしまったのは正真正銘の「歴史の捏造」といえます。そう断言できるのは万福丸が確かに存在し、処刑されたことが信憑性ある史料信長公記に書かれているからです。このようなものを本ページでは「史実」と呼称することにします。
 ところが世の中で「歴史の常識」と思われていることで、実は信憑性ある史料には記述がないにも関わらず、江戸時代に書かれた物語である軍記物に書かれているものが多数あります。これを本ページでは「通説」と呼称することにします。
 史実と通説にこだわっているのは、大河ドラマ「江」で「歴史の捏造」と批判された事柄が「史実を変えてしまった」のか「通説を変えたに過ぎない」のか見極めておく必要があるからです。後者であれば、江戸時代のいわば大河ドラマである軍記物が行った「歴史の捏造」と何ら差のない話です。「江」を「歴史の捏造」と批判するならば、同じく通説も「歴史の捏造」と批判する視点が必要となります。ところが、ほとんどの方がこの事実を知りません。自分の知っていることは「史実」であって、「通説」ではないと思い込んでいるのです。
 たとえば、司馬遼太郎『国盗り物語は「歴史の捏造」の極みといわれる軍記物『明智軍記に依拠して書かれていること、そして大河ドラマ「国盗り物語はこの司馬遼太郎『国盗り物語』を原作として放送されたことをご存知の方がどれだけいらっしゃるでしょうか?「国盗り物語」は「歴史の捏造の極み」というべきものですが、残念ながら『国盗り物語』に対しては「歴史の捏造」という批判は一切なかったと記憶しています。

 このように「国盗り物語」がほとんど「歴史の捏造」であったのに対して、「江」は果たしてどうだったのでしょうか?本能寺の変に関する放送から具体的な例を挙げて仕分けてみました。放送された回も書いておきましたので、詳しくは該当のページをご覧ください。

【通説と異なり史実でもない例】
 第1回 浅井長政の嫡男・万福丸の存在を消した
     (史実は関ヶ原で磔になった)
 第2回 長政らの頭骸骨を酒宴の席に出したのは「弔いの心」
     (史実は酒の肴として出した)
 第5回 家康の堺からの脱出行に江も同行した
     (史実には同行の記録がない)
 第6回 光秀の介錯を斉藤利三が行った
     (通説では溝尾庄兵衛だが史実には記録がない)

【通説と異なるが史実である例】
 第2回 朝倉義景の頭骸骨で光秀が信長から無理に酒を飲まされる話がなかった
     (史実にもない)
 第6回 光秀が小栗栖の竹やぶで百姓に竹やりで刺される話がなかった
     光秀の辞世の句が出てこなかった
     (両方とも史実にもない)
 第9回 秀吉は織田政権を簒奪した
     (簒奪したのは明らかに史実)

 以上のように通説と異なり史実でもない事柄は意外と少ないのです。
 一方通説通りでありながら史実ではない事柄は次のようにいろいろありました。

【通説通りだが史実ではない例】
 第2回 浅井長政らの頭骸骨を肴に酒を飲んだ正月の酒宴の席に光秀ら武将が出席
     (史実は信長の親衛隊である馬廻りのみ) 
 第3回 信長の小姓を森蘭丸と表示
     (史実は乱丸)
     信長が光秀を「金柑頭!」とののしった
     (史実にはない)
 第4回 甲州攻めの際、光秀の発言をとがめて信長が光秀を折檻
     (史実にはない)
 第5回 光秀が「敵は本能寺にあり」と命じる
     (史実にはない)
     信長に近江・丹波の領地を取り上げられる
     (史実にはない)
     秀吉の援軍に中国へ行けと命令されて光秀の自尊心が傷つけられる
     (史実は光秀は監督役の軍師としての派遣)
     謀反の理由として信長が朝廷・幕府・神仏をないがしろにしたためと光秀が語る
     (史実は土岐氏滅亡を救うため)
 第6回 信長と信忠が一緒に京都にいるのでチャンスだと思って謀反を起こした
     (史実は信忠が京都いることを光秀は知らなかった)
     家康が本能寺の変勃発を知ったのが堺の宿所
     (史実は本能寺へ向けて上洛の途中)
     信長は天下統一して泰平の世にするつもりだった
     (史実は天下統一したら中国大陸の明侵攻)
 第7回 信長が光秀につらくあたる
     (史実にはない)
     光秀は堅物、秀吉はひょうきん
     (史実にない)

 こうして見ると、何から何まで「通説通りだが史実ではない」国盗り物語よりはるかに成績がよいといえます。確かに史実と異なる事柄がありましたが、「歴史の捏造」批判は「通説と異なる」という視点であって、「史実と異なる」という視点ではなかったのではないでしょうか?
 

【大河ドラマ「江」の歴史捜査シリーズ】
    1回:本能寺の変の通説:今年も「江」で登場 2011.1.15
    1回:兄・万福丸の処刑の真相 2011.1.16
    1回:万福丸ショック 2011.1.26
    2回:父・浅井長政の頭蓋骨 2011.2.9追記
    2回:正月の酒宴の出席者 2011.1.20
    3回:森蘭丸さん? 2011,1,24
    3回:光秀のきんかん頭 2011.2.10追記
    4回:怨恨説踏襲ですね! 2011.1.30
    5回:『明智軍記』踏襲ですね! 2011.2.7
    5回:信長の遺体 2011.2.8
    5回:光秀謀反決意の理由 2011.2.12
    6回:小栗栖の竹薮 2011.2.12追記
    6回:光秀辞世の句 2011.2.12追記
    6回:信長の天下太平 2011.2.13
    6回:光秀役・市村正親 2011.2.14
    6回:斎藤利三の介錯 2011.2.15
    6回:龍馬伝と龍馬史 2011.11.6追記
    7回:信長・光秀・秀吉の性格 2011.2.22
    8回:秀吉の天下盗りは嫉妬? 2011.2.28
    9回:秀吉は織田政権簒奪者 2011.3.6
    9回:週間新潮記事 2011.3.10
   10回:勝家・市の死 2011.3.20
   10回:柴田退治記の記述 2011.3.26
   11回:側室・京極龍子登場 2011.3.30
   12回:茶々と秀吉 2011.4.5
   13回:江の嫁入り 2011.4.12
   14回:江の離縁 2011.4.20
   15回:秀次は酔っ払い? 2011.4.25 
   15回:人気も下火? 2011.4.30
   16回:秀吉の関白宣下 2011.5.3
   17回:羽柴秀勝登場 2011.5.9
   18回:京極高次登場 2011.5.15
   19回:生き残った京極家 2011.5.25
   20回:マデノコウジ!who? 2011.5.31
   21回:豊臣の子 2011.6.7
   22回:聚楽第の落首 2011.6.14
   23回:徳川秀忠登場 2011.6.20
   24回:利休切腹 2011.7.2
   25回:朝鮮出兵 2011.7.16追記
   26回:羽柴秀勝の死 2011.7.11
   27回:羽柴秀勝の遺言 2011.7.23
   27回:細川ガラシャの入信 2011.7,23
   28回:関白豊臣秀次の切腹 2011.7.30
   29回:江と徳川秀忠の婚姻 2011.8.5
   30回:江と秀忠(時代の空気は?) 2011.8.11
   31・32回:秀吉の死と現代への遺産 2011.8.28
   33回:朝鮮侵略から生じた反目 2011.9.4
   34回:細川ガラシャの死 2011.9.6
   35回:秀忠遅参の謎 2011.9.13
   36回:石田三成の処刑 2011.9.19
   番外編:「江」は何故面白くないか 2011.9.22
   37回:千姫の嫁入り(余談 2011.9.26
   38回:家光誕生と春日局登場 2011.10.3
   39回:秀頼と家康の対面 2011.10.10
   40回:家康の天下への野望 2011.10.16
   41回:秀忠から秀頼への書状 2011.10.30
   42回:真田丸の攻防戦(土岐氏活躍?) 2011.10.31
   番外編:歴史の捏造が気になる方 2011.11.4
   43回:大坂夏の陣 2011.11.12
   44回:秀吉が家康を滅ぼさなかった「つけ」 2011.11.19
   45回:家康の父・広忠の死因 2011.
   番外編:結局「信長・秀吉・家康」に終わるのか 2011.11.26
   46回:最終回は大急ぎ? 2011.12.4


 ★ NHK・BS歴史館「本能寺の変の謎」(軍記物依存について
 ★ 本能寺の変 四二七年目の真実』読者書評

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