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「穏やかな死に医療はいらない」 その3-1 萬田 緑平

2016年01月13日 00時13分00秒 | 健康・老いについて
 「穏やかな死に医療はいらない」 その3-1 萬田 緑平  朝日新聞出版 2013年

 フルコースの延命治療 その1 P-20

 病院医師にとって、患者さんの死は敗北にほかなりません。だからわずかな可能性、たとえ治癒する確率が1パーセントであっても、手術や抗がん剤治療に挑戦したりします。患者さんから「咳がとまらない」「おなかが痛い」「胃がもたれる」と言われたら、「それは年のせいですよ」とは言えません。お年寄りの身体にストレスを与える数々の検査をし、入院、手術、術後の治療・・・と進んでいきます。食事がとれなくなった患者さんには、鎖骨や太ももの静脈に点滴を刺して、高カロリー輸液をします。治る見込みがなくなったとしても、死の瞬間を先延ばしにするために、点滴をしたり、酸素吸入をしたりします。僕もそうでした。

 僕が本書でいう延命治療とは、病気がもはや不治かつ末期症状の患者さんに対して、本人の意思を確認できないままチューブだらけにして、ずるずると亡くなるまで続けられる治療のことです。

 延命治療をされた患者さんは、むくみで手足をパンパンにさせ、歩くことも、自力でトイレに行くこともかなわずに息を引き取っていきました。看取りを迎えた病室には息苦しい空気が立ちこめ、医師や看護師は敗北感を抱き、駆けつけたご家族は疲れと後悔をにじませていました。

 (フルコースの延命治療 その2に続く)

 萬田 緑平(まんだ りょくへい)
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。群馬大学付属病院第一外科に所属し、外科医として手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行うなかで終末ケアに関心を持つ。2008年、医師3人、看護師7人から成る「緩和ケア診療所・いっぽ」の医師となり、「自宅で最後まで幸せに生き抜くお手伝い」を続けている。