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「穏やかな死に医療はいらない」 その7 萬田 緑平

2016年01月23日 00時10分36秒 | 健康・老いについて
 「穏やかな死に医療はいらない」 その7 萬田 緑平  朝日新聞出版 2013年

 点滴がむくみをつくり、呼吸を苦しくさせる P-67

 問題は、そもそも水分補給が必要かというところにあります。
 食べられなくなると血液中のたんばく質が減少し、血管の中の水分などが外に漏れ出して皮下にたまり、むくみが出現します。しかし本来であればこのむくみが症状として現れる前に、やせてしおれ、枯れたようになり、やがて亡くなっていきます。これがいわゆる「老衰」と言われる死に方であり、僕が考えるもっとも自然でつらくない人間の生き方であり死に方です。
ところがここで点滴をしてしまうと、体内は水分過剰な状態になり、さらにむくみが進みます。一番、わかりやすいのは足です。普通体型の方でも、足首がなくなり、ふくらはぎは太もものようになり、ゾウの足のようになります。むくみは上半身ではなく下半身に出やすいため、ふとんをめくって見るとびっくりしてしまうような状態になります。本当にひどい場合は、足から体液がしみ出してきます。パツンパツンの足から汗とは明らかに異なる水分が出るのです。もちろんこんな状態では歩くこともままならず、患者さんは寝たきりの状態に追いやられます。

 中略

 さらに、点滴で入れた水分が身体中に余って分泌物が多くなると、患者さんの喉元に痰がたまりやすくなり、ゴロゴロと苦しそうな息をするようになります。痰がたまっても咳をして出す力もない時期が必ず来ます。あまりに苦しそうなので、看取りを覚悟しているはずのご家族でも思わず、「これだと死んでしまう!」と医師や看護師に訴えるくらいです。
 もちろん吸引器で痰を取ることはできますが、喉を開かせて太いチューブを突っ込み、むせ込む反射を利用して痰を吸引するのは、患者さんの相当な苦痛を伴ないます。苦痛のために意識が戻り、チューブをかじって抵抗する患者さんもいるくらいです。
 この状況を避けたり、少しでも症状を軽くしたりするためにも、点滴で余分な水分を入れないほうがよいのです。

 後略

 萬田 緑平(まんだ りょくへい)
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。群馬大学付属病院第一外科に所属し、外科医として手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行うなかで終末ケアに関心を持つ。2008年、医師3人、看護師7人から成る「緩和ケア診療所・いっぽ」の医師となり、「自宅で最後まで幸せに生き抜くお手伝い」を続けている。