あらたえを織る忌部氏について書きましたから、次はにぎたえについて書いてみようと思います。
絹織物である「にぎたえ」は愛知県豊田市の稲橋八幡神社を中心に作られるようです。絹は、蚕から作られます。
植物由来のあらたえ(麻)と、動物由来のにぎたえ(絹)。養蚕は渡来系の弥生以降の人々が持ち込み、大麻は、縄文時代の極めて早い時期に既に日本の広い地域に生育して使用していたようですね。にぎたえは和妙ともいえますね。
自然は共に植物と動物が織り成して無駄に争わずです。縦糸と横糸を織りなす衣を、その材質や製法においても大切にしている感じがして、今後も伝統としで大嘗祭の織物は残して欲しいです。
繪服にぎたえとは絹で織られた織物で、麻織物の麁服あらたえと並んで重要なものとして大嘗祭では神聖視されています。
純白で良質な生糸の産地の三河国(現在の愛知県)より納められることになっていて、令和の大嘗祭では、豊田市稲武町の有志により奉製され、皇居へ調進されたみたいですね。
愛知県の会社といえば、自動車のトヨタ。元の名前は、株式会社豊田自動織機だとか。機織りの会社だったのですね。
古くから三河地方(愛知県)は気候風土が養蚕に適しているとされていたようです。
養蚕や機織りに関しては、七夕伝説なんかを思います。機織りのお姫様は神話にもでてきます。
この養蚕についてですが、私のイメージでは、ウケモチの神様や月の神様を思いうかべます。
ウケモチ(保食)の神とは、日本神話のなかに出てくる食物をつかさどる女神です。
天照大神が、月夜見尊に命じて保食神に食物を求めたところ、この神は口から飯や魚や動物を出して料理をし、さしあげます。
すると月夜見尊が汚いと怒ってこの神を殺し、その頭からは牛馬、額から粟(あわ)、眉から蚕、目から稗(ひえ)、腹から稲、陰部から麦、大豆、小豆が生まれました。(『日本書紀』)
とあります。
「古事記」では殺された神は大気都比売神(おおげつひめのかみ)の話として伝承されているようです。
オオゲツヒメとは、大月姫ともいえます。
月にまつわる逸話には、食がない時、兎が自らの命をさしだしたりと、食べ物にまつわる自己犠牲のような話もあります。
また、機織りからは、衣を連想させ、天女の羽衣伝説や七夕伝説を合わせても、男女の悲愛の物語を思います。
食や衣とは、誰しも生きる上では欠かせないものではあるものの、
物語の中では夜や、天の月や、天の川、
そして、陰陽でいうと陰の部分を表し、女性を表しているようにも思います。
月の巡りなんて、女性特有です。命を産みだすのも女性ですし。
当たり前のように人は女性から生まれ、衣に身を包み、動植物の命を頂き食を通して命を繋ぐ、、
神話はそんな当たり前にしがちな陰の大切さを忘れないようにと受け継がれている気もしています。
にぎたえは、スベスベの滑らかな動物由来の衣、シルク。
あらたえは覚醒をおこすと栽培が制限されている植物由来の麻。このコントラストの衣が、大嘗祭という代替わりに神様にお供えされています。
食においてだけではなく、人が生きるのに欠かせない衣を純粋に感謝する心を植物や動物から頂いていることを思いださせてくれるような、そんな気がします。