リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

トリエンナーレへの補助金交付取り消しは「検閲」でないといえるのか?

2019-09-27 | 政治
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」への交付が決まっていた国の補助金約7800万円を交付しないと、萩生田光一・文部科学省が9月26日に発表した。トリエンナーレをめぐっては、その中の一企画展である「表現の不自由展・その後」の展示内容に脅迫やテロ予告を含む抗議電話が殺到して中止に追い込まれており、一部政治家も問題視する発言をしていた。
当然、憲法が禁じる「検閲」に当たるなど批判が上がっている。文化庁の言い分としては、展示内容を問題視したのではなく、会場の運営を危うくする事態が予想できたのに申告しなかった「手続きの不備」が理由なので、検閲には当たらないということのようだ(朝日新聞2019-9-27)。だがこれ自体は検閲ではないとしても、「事前に検閲させろ」と言っているようなものだ。特に、「もめそうなものは詳しく報告しろ」という態度は、議論を呼ぶような発表がしにくくなるという、強い委縮効果をもたらす。一度交付が決まった補助金も成り行き次第で不交付になるという点でも、なおさら政府の意に染まない発表はできなくなる。愛知県の大村秀章知事は「採択決定が覆る合理的な理由はない」として不交付決定の取り消しを求めて国を提訴すると言っているが、当然だろう。
しかも、不交付が「不自由展」の部分だけではなくトリエンナーレ全体だとしている点も納得できない。「事業の継続が見込まれるか」という基準に照らすならば、他の展示は滞りなく行なわれているわけだから、理由にならない。(文化庁の言い分は、申請時に企画ごとの内訳が示されていなかったということだが、概算の仕方はいくらでもあるはずだ。いきなり全額不交付は乱暴としかいいようがない。)さすがに野党だけではなく、自民党内からも「このようなことはあってはならない」とか、「減額しても出すべきだ。そういう折衷案を模索しないあたりが、今の政権らしい」といった声が出ている(同2面)。
さらに、補助金の交付は10月にトリエンナーレが閉幕した後のはずなのに、開催中の今、突然補助金を出さないと発表したのはなぜか。「不自由展」再開の意向が発表された(過去ブログ)直後にぶつけてきたのは、あからさまな圧力だ。

不交付の理由に話を戻すと、補助金の審査で重要なのは「実現可能な内容か」と「事業の継続が見込まれる」かの2点で、安全性の報告は審査項目にはない。「危惧されていることや対応を教えていただくことが、実現可能性をみるために必要」というのは、結果ありきの「実現可能性」の拡大解釈ではないか。電話攻撃で中止に追い込まれるようなら認められないというのはまさに、「脅迫等によって中断に追い込んだ卑劣な行為を追認する」(日本ペンクラブ)(同35面)ものだ。テロには屈しないというのが日本政府の方針ではなかったのか。「求められるのは脅迫や妨害に立ち向かうことなのに、これでは後押ししているように見える」(朝日新聞2019-9-28天声人語

今回の不交付決定はあまりに疑問が多い。即座に撤回すべきだ。


関連記事:
「芸術祭:「政府の気に入らなければ金は出さない」は憲法違反の検閲そのものだ」
「「表現の不自由展」再開? 電話攻撃への対策は十分か」

追記:「検閲」云々をいう以前に、今回のような異例の「不交付」決定に関して議事録が作成されておらず、公文書管理法に基づく文部科学省の行政文書管理規則によれば記録作成が定められており、法律違反の可能性があるという。そもそも補助金採択の審査委員に連絡があったのも不交付の発表後だという(朝日新聞2019-10-3)。外部の有識者が審査しても、その後文化庁内部で議事録も残さない「事務的な業務」でひっくり返されるのでは、審査の意味がないのではないか。

追記2:文化芸術活動への助成金の交付要綱が9月27日付で改正され、「公益性の観点から不適当と認められる場合」に内定や交付決定を取り消すことができるようになった(朝日新聞2019-10-17)。ピエール瀧氏の事件で出演映画『宮本から君へ』への補助金が内定取り消しになったのがきっかけとのことで、日本芸術文化振興会は「あいちトリエンナーレの件とは全く関係がない」としているが、ただでさえ「忖度」や「自主規制」がはびこるなか、「公益性」だとお上の意向が反映されやすくなりすぎるのではないか。

追記3:
福井健策氏のコラム「著しく不完全な『表現の自由』論争史 ~公開中止・会場使用許可・公金支出を中心に」が関係する裁判例などをいろいろ紹介していて勉強になる。富山県立美術館事件(2000年判決)ではやはり天皇がらみの写真が議会で問題視されて美術館が作品の非公開を決め、住民の特別観覧許可も拒絶したことに関し、判決では「これは表現の自由の規制なので、厳格な審査基準をクリアした場合にのみ規制は許される」と歯止めをかけつつも「平穏で静寂な館内環境を維持するため」などの理由で規制は正当化されると判断したという。

追記4:「KAWASAKIしんゆり映画祭」で慰安婦問題を扱った映画「主戦場」の上映予定が取り消されて中止となった。映画の出演者が上映禁止を求めて訴訟を起こしたため、共催者の川崎市が主催者に懸念を伝えたためという(朝日新聞2019-10-25)。※さすがにこの中止には抗議の声が相次いで、結局上映が決まったという。これについては別項の追記参照。


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