使用済み核燃料からプルトニウムやウランを取り出して再処理してまた燃料として使う核燃料サイクルは破綻が明らかになっている。プルトニウムを利用するはずだった高速炉が「もんじゅ」廃炉で頓挫するなどして、仮に再処理工場ができたとしてもプルトニウムを使い切る当てはなくなっている。だが破綻が100%明らかだとしても、中止すればいいというわけではないという政治的な事情があるのだそうだ(朝日新聞2021-10-14)。
まず、電力会社が抱えている使用済み核燃料が増え続けているのであるが、これは核燃料サイクルでの利用を前提として「資産」として扱われている。核燃料サイクルをやめればこれが全部「ごみ」になってしまい、電力会社の財務が悪化するのだという。
それに青森県の六ケ所をはじめとする再処理工場建設は大プロジェクトだ。核燃料サイクルを前提として雇用されている従業員や下請けの作業員が地方に大勢いるのだという。中止となれば、地方経済に与える影響が甚大だ。だから自民党総裁選で河野氏が核燃料サイクル政策の見直しを言うと、関連企業に勤める人からは「困る」という声が上がった。
役には立たないことがわかっているものに公費を投入し続ける――これはケインズの言った「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」というやつなのだろうか。東電や銀行の経営危機で言われた「大き過ぎてつぶせない」から公費で救済する、というのとも似ている。いずれにしても、社会的影響を考える必要があるとはいえ、ソフトランディングに向けた出口戦略を模索する必要があるのではないか。
なお、経済理論といってもいろいろあって、ケインズが万能なわけではもちろん、ない。だが「(たとえ役に立たなくても)公共事業でお金を回すことは意義がある」という人は一定数いる。これについて検索してみたところ、公共事業に投入した資金以上の波及効果がある場合には有効、という考え方があるそうだ。
付記:「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」というのはケインズのどの著作にあるのだろう。出典を調べてみた。英語では"The government should pay people to dig holes in the ground and then fill them up."などと言うようだ。有名な著作『雇用、利子および貨幣の一般理論』の第III巻、第10章、セクションVIに次のようにある。
「もし財務省が古いビンに紙幣を詰めて、適切な深さの廃炭坑の底に置き、それを都市ゴミで地表まで埋め立て、そして民間企業が実績抜群の自由放任原則に沿ってその札束を掘り返すに任せたら(その採掘権はもちろん、紙幣埋設地の借地権を買ってもらうことになります)、もう失業なんか起こらずにすむし、その波及効果も手伝って、社会の実質所得とその資本的な富も、現状よりずっと高いものになるでしょう。もちろん、住宅とかを建設したりするほうが、理にはかなっています。でもそれが政治的・実務的な困難のために実施できないというのであれば、何もしないよりは紙幣を掘り返させるほうがましです。」
山形浩生訳、ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』全訳より
英語原文だと次のとおり。
"If the Treasury were to fill old bottles with banknotes, bury them at suitable depths in disused coalmines which are then filled up to the surface with town rubbish, and leave it to private enterprise on well-tried principles of laissez-faire to dig the notes up again (the right to do so being obtained, of course, by tendering for leases of the note-bearing territory), there need be no more unemployment and, with the help of the repercussions, the real income of the community, and its capital wealth also, would probably become a good deal greater than it actually is. It would, indeed, be more sensible to build houses and the like; but if there are political and practical difficulties in the way of this, the above would be better than nothing."
(Book 3, Chapter 10, Section 6 pg.129 "The General Theory of Employment, Interest and Money")
まず、電力会社が抱えている使用済み核燃料が増え続けているのであるが、これは核燃料サイクルでの利用を前提として「資産」として扱われている。核燃料サイクルをやめればこれが全部「ごみ」になってしまい、電力会社の財務が悪化するのだという。
それに青森県の六ケ所をはじめとする再処理工場建設は大プロジェクトだ。核燃料サイクルを前提として雇用されている従業員や下請けの作業員が地方に大勢いるのだという。中止となれば、地方経済に与える影響が甚大だ。だから自民党総裁選で河野氏が核燃料サイクル政策の見直しを言うと、関連企業に勤める人からは「困る」という声が上がった。
役には立たないことがわかっているものに公費を投入し続ける――これはケインズの言った「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」というやつなのだろうか。東電や銀行の経営危機で言われた「大き過ぎてつぶせない」から公費で救済する、というのとも似ている。いずれにしても、社会的影響を考える必要があるとはいえ、ソフトランディングに向けた出口戦略を模索する必要があるのではないか。
なお、経済理論といってもいろいろあって、ケインズが万能なわけではもちろん、ない。だが「(たとえ役に立たなくても)公共事業でお金を回すことは意義がある」という人は一定数いる。これについて検索してみたところ、公共事業に投入した資金以上の波及効果がある場合には有効、という考え方があるそうだ。
付記:「穴を掘って、また埋めるような仕事でも、失業手当を払うよりずっと景気対策に有効だ」というのはケインズのどの著作にあるのだろう。出典を調べてみた。英語では"The government should pay people to dig holes in the ground and then fill them up."などと言うようだ。有名な著作『雇用、利子および貨幣の一般理論』の第III巻、第10章、セクションVIに次のようにある。
「もし財務省が古いビンに紙幣を詰めて、適切な深さの廃炭坑の底に置き、それを都市ゴミで地表まで埋め立て、そして民間企業が実績抜群の自由放任原則に沿ってその札束を掘り返すに任せたら(その採掘権はもちろん、紙幣埋設地の借地権を買ってもらうことになります)、もう失業なんか起こらずにすむし、その波及効果も手伝って、社会の実質所得とその資本的な富も、現状よりずっと高いものになるでしょう。もちろん、住宅とかを建設したりするほうが、理にはかなっています。でもそれが政治的・実務的な困難のために実施できないというのであれば、何もしないよりは紙幣を掘り返させるほうがましです。」
山形浩生訳、ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』全訳より
英語原文だと次のとおり。
"If the Treasury were to fill old bottles with banknotes, bury them at suitable depths in disused coalmines which are then filled up to the surface with town rubbish, and leave it to private enterprise on well-tried principles of laissez-faire to dig the notes up again (the right to do so being obtained, of course, by tendering for leases of the note-bearing territory), there need be no more unemployment and, with the help of the repercussions, the real income of the community, and its capital wealth also, would probably become a good deal greater than it actually is. It would, indeed, be more sensible to build houses and the like; but if there are political and practical difficulties in the way of this, the above would be better than nothing."
(Book 3, Chapter 10, Section 6 pg.129 "The General Theory of Employment, Interest and Money")