北京五輪に政府関係者を送らない外交ボイコットを、アメリカをはじめ数か国が打ち出しているが、岸田首相は閣僚の派遣は見送る一方、スポーツ庁長官を派遣する可能性を検討しているようだ。日本政府にも外交ボイコットを求める声が与野党から上がっているという(朝日新聞2021-12-14)。野党からもと聞いておやと思ったが、記事を見ると、野党に関しては、共産党の志位委員長の言葉「日本政府は、中国政府に対して従来の及び腰の態度をあらため、国際法にもとづく冷静な外交的批判によって人権侵害の是正と五輪憲章の順守を正面から求めるべきだ」があるだけだ。これは別に外交ボイコットを求めているわけではなく、「北京五輪外交ボイコット 与野党から求める声」の見出しはおかしいのではないか。
それはさておき、実は志位委員長の発言は、この見出しを見て私が書こうと思ったことに近い。
外交ボイコットをするかどうかで悩むのは、中国とのこれ以上の関係悪化は避けたいという気持ちがあるからだろう。もちろん関係悪化を避けたいがために筋を曲げる必要はない。だが、政治では、相手が100%悪かったとしても、正論を吐いて相手を100%やり込めるのは賢明ではない(ビジネスだってそうだろう)。ある程度相手のメンツを立てつつ、譲歩を引き出す外交はできないものだろうか。「中国の人権状況が許しがたいから外交ボイコットします」では進展がない。一定程度の譲歩を引き出すことと引き換えにある程度の人員派遣をするという落としどころをさぐれないものだろうか。そう簡単に譲歩する相手でないことはわかっているが、それを努力するのが外交だ。
対米関係でもそうなのだが、日本はどうして相手国に物を言うことができないのだろう。良好な関係を保ちつつも悪いところは悪いと伝えるということが、日本外交には決定的に欠けているのではないか。他国の様子を見て「モタモタして意思表示を行う」(自民党外交部会長)ことになってはやはりみっともない。
追記:関山健准教授は、外交ボイコットすれば中国の状況が改善するわけでもなく、逆に日本の国益には実害が生じることを指摘し、検討されている室伏スポーツ庁長官の派遣が「妥当な線」と述べており(朝日新聞2021-12-17)、同感だ。ただ、「北京で面と向かって中国政府関係者に抗議を伝える機会ができる」という点について、五輪に派遣されたスポーツ庁長官が抗議するだけでは全く実効はないと思う。それに至るまでの中国政府との折衝を通じて何らかの譲歩を引き出せないものか。
追記:政府は北京五輪に政府関係者を派遣しないことを決めたが、JOCの山下泰裕会長らは出席する。政府関係者を派遣しないということでは米国らに同調したが、「外交ボイコット」という言葉は使わず、「総合的に勘案して判断」したと説明し、中国の人権問題を特に問題視する姿勢は示していない(朝日新聞2021-12-25)。私は上記で、ある程度の関係者を派遣してもいいから、中国からなにがしかの善処を引き出すべきだと述べた。岸田首相の決定はこれと反対で、人権問題については何もいわず、形ばかり米英らの「外交ボイコット」と歩調を合わせたというものだ。外交ボイコットをするしないよりも、中国の人権問題に対して「ものをいう」ことを全くしない姿勢はなさけない。
さらに、決断をここまで引き延ばしたのにこれほど中身のない結果になるとは。「人権重視と言うなら、もっと早くにスパッと打ち出せた。ずるずる引っ張って情けない」という自民党ベテラン議員の言葉がうなづける。
追記2:「人権重視を掲げるのなら、懸念は率直に示すべきだ。そのうえで、実際の人権状況の改善につながるよう、対話の道は閉ざさず、働きかけを続ける必要がある」(朝日社説2021-12-26)というのは同感。さらにはっとさせられたのは、オリンピック、パラリンピックはそもそも政治イベントではないという当然の指摘。「政治家や政府代表の派遣は副次的なものに過ぎない。国威発揚や大国間の駆け引きなどに政治利用されるべきでない」ということを忘れてはなるまい。
それはさておき、実は志位委員長の発言は、この見出しを見て私が書こうと思ったことに近い。
外交ボイコットをするかどうかで悩むのは、中国とのこれ以上の関係悪化は避けたいという気持ちがあるからだろう。もちろん関係悪化を避けたいがために筋を曲げる必要はない。だが、政治では、相手が100%悪かったとしても、正論を吐いて相手を100%やり込めるのは賢明ではない(ビジネスだってそうだろう)。ある程度相手のメンツを立てつつ、譲歩を引き出す外交はできないものだろうか。「中国の人権状況が許しがたいから外交ボイコットします」では進展がない。一定程度の譲歩を引き出すことと引き換えにある程度の人員派遣をするという落としどころをさぐれないものだろうか。そう簡単に譲歩する相手でないことはわかっているが、それを努力するのが外交だ。
対米関係でもそうなのだが、日本はどうして相手国に物を言うことができないのだろう。良好な関係を保ちつつも悪いところは悪いと伝えるということが、日本外交には決定的に欠けているのではないか。他国の様子を見て「モタモタして意思表示を行う」(自民党外交部会長)ことになってはやはりみっともない。
追記:関山健准教授は、外交ボイコットすれば中国の状況が改善するわけでもなく、逆に日本の国益には実害が生じることを指摘し、検討されている室伏スポーツ庁長官の派遣が「妥当な線」と述べており(朝日新聞2021-12-17)、同感だ。ただ、「北京で面と向かって中国政府関係者に抗議を伝える機会ができる」という点について、五輪に派遣されたスポーツ庁長官が抗議するだけでは全く実効はないと思う。それに至るまでの中国政府との折衝を通じて何らかの譲歩を引き出せないものか。
追記:政府は北京五輪に政府関係者を派遣しないことを決めたが、JOCの山下泰裕会長らは出席する。政府関係者を派遣しないということでは米国らに同調したが、「外交ボイコット」という言葉は使わず、「総合的に勘案して判断」したと説明し、中国の人権問題を特に問題視する姿勢は示していない(朝日新聞2021-12-25)。私は上記で、ある程度の関係者を派遣してもいいから、中国からなにがしかの善処を引き出すべきだと述べた。岸田首相の決定はこれと反対で、人権問題については何もいわず、形ばかり米英らの「外交ボイコット」と歩調を合わせたというものだ。外交ボイコットをするしないよりも、中国の人権問題に対して「ものをいう」ことを全くしない姿勢はなさけない。
さらに、決断をここまで引き延ばしたのにこれほど中身のない結果になるとは。「人権重視と言うなら、もっと早くにスパッと打ち出せた。ずるずる引っ張って情けない」という自民党ベテラン議員の言葉がうなづける。
追記2:「人権重視を掲げるのなら、懸念は率直に示すべきだ。そのうえで、実際の人権状況の改善につながるよう、対話の道は閉ざさず、働きかけを続ける必要がある」(朝日社説2021-12-26)というのは同感。さらにはっとさせられたのは、オリンピック、パラリンピックはそもそも政治イベントではないという当然の指摘。「政治家や政府代表の派遣は副次的なものに過ぎない。国威発揚や大国間の駆け引きなどに政治利用されるべきでない」ということを忘れてはなるまい。