南スーダンのPKOに関し,「戦闘」ではなく「衝突」と言い張っていた安倍政権.ところが情報公開請求を退ける際には「廃棄済み」とされた自衛隊の日報が見つかり,「戦闘」と記載されていたことが明らかになった(2月7日).稲田防衛大臣は2月8日に「憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから,武力衝突という言葉を使っている」と述べた(朝日新聞).憲法に則って自衛隊の活動を律するのではなく,憲法に反していることが明らかにならないよう「戦闘」を言い換えていると認めたに等しい発言だ.最近になって,対応を協議した2月の幹部会議に稲田防衛相も出席していたことが判明し,大臣自身が組織的隠蔽に関わっていたのではないかとの疑惑が深まっている.
今になって稲田防衛相の関与の可能性が浮上した背景として,朝日新聞の今日の朝刊で気になる背景説明があった(「処分案内示 陸自内に反発」).
陸自は内部調査して不手際があったことは認めつつ,少なくとも大臣らに逐一報告して指示を仰いできた.ところが陸自の調査結果をもとに最近内示された関係者の処分案では,「責任の8割は陸自の隠蔽体質や文書管理にあったとする内容」で,それに対する陸自の反発からいろいろ情報がもれてきているのではないかという話だ.
真相究明に向け事実関係が明らかになるのは望ましいことだし,そのための内部告発もあっていい.だが上っ面だけ見ると,自衛隊が気に入らない大臣を陥れるために情報をリークして政治に介入しているとも見える.もちろん,私も今の自衛隊の方々が文民統制を破って政治を乗っ取ろうとしているなどとは全く思っていない.だが政治家が腐敗してそれを正すために自衛隊が立ち上がる――それが不正の告発に留まればいいのだが,一線を越えてしまうことはないのだろうか.さすがに私も本気で心配しているわけではないが,政治家のレベルがあまりに低いとそんな映画まがいのことも起こりかねないのではないかと心配になる.
追記:上記を書いているとき,本気で文民統制がゆるがされると心配していたわけではなかった.だが8月4日の朝日新聞は「文民統制は大丈夫か」として2本の談話を掲載した.元防衛事務次官の談話は,信頼関係を築くことが文民統制の基礎という無難な論調で,陸自内からの情報のリークは反乱ではなく,そもそも現場からの赤信号(「戦闘」との報告)にきちんと対応されなかったことが問題だったとしている.民主党政権で防衛大臣を務めた北沢俊美氏は陸自内部に不満がたまってメディアへのリークにつながったが,大臣を引きずり下ろすまでの意図はなかったと推測している.そして稲田氏が保身を優先して信頼を失ったことが問題の本質だとしている.(ただ,その例として挙げられている点に首をかしげた.稲田氏は終戦記念日にジブチに視察に行き,靖国神社に参拝しない言い訳にしたが,それが隊員の不信感を生んだと述べている.とかく問題のある靖国神社を現役閣僚が,しかも終戦記念日に参拝するのは政治的にはやはりまずい.単に「行きません」とつっぱねるのではなく,出張を組んでたまたま行けなかったかのような体裁をつくろうのは,政治家として見事な配慮だと私は思った.自衛官がそれを不満に思ったとしたら,今回のリークよりも,むしろそのことのほうが私は怖い.まあ,稲田氏の場合,従前の超右寄りの言動からの期待感もあっての失望だったのだとは思うが.)
追記:8月17日の朝日新聞夕刊.今度はトランプ大統領が人種差別を容認するかのような態度をとった問題で,米軍幹部が非難の声を上げた.軍人が政治家を批判するというのはあってはならないことのはずなのだが,やはりあまりに基本的な部分で政治家がなっていないと,このような軍の発言も許せてしまう.そう思う自分が怖い.
今になって稲田防衛相の関与の可能性が浮上した背景として,朝日新聞の今日の朝刊で気になる背景説明があった(「処分案内示 陸自内に反発」).
陸自は内部調査して不手際があったことは認めつつ,少なくとも大臣らに逐一報告して指示を仰いできた.ところが陸自の調査結果をもとに最近内示された関係者の処分案では,「責任の8割は陸自の隠蔽体質や文書管理にあったとする内容」で,それに対する陸自の反発からいろいろ情報がもれてきているのではないかという話だ.
真相究明に向け事実関係が明らかになるのは望ましいことだし,そのための内部告発もあっていい.だが上っ面だけ見ると,自衛隊が気に入らない大臣を陥れるために情報をリークして政治に介入しているとも見える.もちろん,私も今の自衛隊の方々が文民統制を破って政治を乗っ取ろうとしているなどとは全く思っていない.だが政治家が腐敗してそれを正すために自衛隊が立ち上がる――それが不正の告発に留まればいいのだが,一線を越えてしまうことはないのだろうか.さすがに私も本気で心配しているわけではないが,政治家のレベルがあまりに低いとそんな映画まがいのことも起こりかねないのではないかと心配になる.
追記:上記を書いているとき,本気で文民統制がゆるがされると心配していたわけではなかった.だが8月4日の朝日新聞は「文民統制は大丈夫か」として2本の談話を掲載した.元防衛事務次官の談話は,信頼関係を築くことが文民統制の基礎という無難な論調で,陸自内からの情報のリークは反乱ではなく,そもそも現場からの赤信号(「戦闘」との報告)にきちんと対応されなかったことが問題だったとしている.民主党政権で防衛大臣を務めた北沢俊美氏は陸自内部に不満がたまってメディアへのリークにつながったが,大臣を引きずり下ろすまでの意図はなかったと推測している.そして稲田氏が保身を優先して信頼を失ったことが問題の本質だとしている.(ただ,その例として挙げられている点に首をかしげた.稲田氏は終戦記念日にジブチに視察に行き,靖国神社に参拝しない言い訳にしたが,それが隊員の不信感を生んだと述べている.とかく問題のある靖国神社を現役閣僚が,しかも終戦記念日に参拝するのは政治的にはやはりまずい.単に「行きません」とつっぱねるのではなく,出張を組んでたまたま行けなかったかのような体裁をつくろうのは,政治家として見事な配慮だと私は思った.自衛官がそれを不満に思ったとしたら,今回のリークよりも,むしろそのことのほうが私は怖い.まあ,稲田氏の場合,従前の超右寄りの言動からの期待感もあっての失望だったのだとは思うが.)
追記:8月17日の朝日新聞夕刊.今度はトランプ大統領が人種差別を容認するかのような態度をとった問題で,米軍幹部が非難の声を上げた.軍人が政治家を批判するというのはあってはならないことのはずなのだが,やはりあまりに基本的な部分で政治家がなっていないと,このような軍の発言も許せてしまう.そう思う自分が怖い.