リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

コロナが不可抗力でも五輪中止の責任を日本がかぶらされる不平等な開催都市契約

2021-05-21 | 一般
オリンピックが中止になった場合、赤字が出るのは当然のこと。そして組織委の赤字は東京都と日本政府が負担することになっている。だが、IOCが損害賠償を求める裁判を起こした場合に日本が賠償金まで払わなければならなくなる可能性があると聞いて驚いた(朝日新聞2021-5-20)。
国際的なイベントでは不可抗力の場合は契約を破棄できるという条項を入れておくのが一般的だというが、「五輪の場合」(東京以外もそうなのか、記事ではわからない)は不可抗力条項を行使できるのはIOCだけで、日本側から中止を提案して損害が出たら、日本が責任を追うことになっているという。コロナが理由だから日本に責任はないと言いたくもなるが、「事前の取り決めがない限り、契約の文言通りにしなければ契約違反になるのが欧米の契約の原則」なのだという。
だがそもそもIOCの損害とは何だろう。IOCは中止の場合の保険にはいっていると報道されていたではないか(過去ブログ)。保険でカバーされないような「損害」は、仮に日本が有責であったとしても、支払う必要はないのではないか。「放映権料という収入の機会の逸失」が損害賠償の対象になるとしたら大変だ。ビジネスの常識はどうなっているのだろう。
いずれにせよ、昨年の段階から開催・延期・中止それぞれのシナリオについて十分な情報を開示して検討すべきという指摘はされていたのに、検討の基礎となるべき情報が十分に開示されていないように思われる。
IOCはいまだ五輪開催を強く求めているらしい(朝日新聞2021-5-20夕刊)が、自ら不可抗力条項を行使せずに日本の責任で中止したという形にするための布石ではないかと勘繰りたくなる。だがIOCが日本に損害賠償を請求する裁判を起こしたりすれば、日本での五輪のイメージは地に落ちるのではないか。あるいは日本に札幌五輪を引き受けさせるための交渉カードとして使うつもりだろうか。
IOCのほうから中止を言い出したという形にすればすべてが丸く収まる。ここは政治の出番だ。

関連リンク:
あまりにも不平等なIOCと東京都の「開催都市契約」

(付記:ちなみに、「五輪の赤字」に関し、すでに支出してしまった額は取り戻せない。今回の記事でも、仮設スタンドは着工済みだから中止になっても支出は減らないとか、材料費や作業員を確保している業者から中止になっても材料費や人件費は払ってほしいと念押しされているという話があった。これはたしかに五輪にとっては赤字だが、日本全体で見れば業者に金が回ったことになるので、五輪の「経済効果」を部分的に享受できたと考えることはできないだろうか。もちろん組織委の赤字を都や国が税金で補填することになるだろうから問題ではあるのだが、政府のやる野放図なばらまきよりはましだとも思えるのだが。)

追記:テレビの解説番組(2021-5-29)で、池上彰氏は、オリンピックを中止できるのはIOCだけだが、開催都市は「返上」することができる、と言っていた。検索してみると、豊田真由子「五輪の開催権は返上できる。巨額の賠償金を請求される可能性は高くない。」(まいどなニュース2021-5-20)がみつかった。だが、開催都市契約に返上の規定があるわけではなく、開催都市契約71条で組織委がIOCに変更を提案できる(IOCは同意する義務はない)としていることを根拠に、「開催権を返上する」ことは排除されていない、というだけのようだ。これならべつに、日本(組織委、東京都、または政府)からIOCに中止を申し入れてIOCに中止を決定させるという、これまで想定されていた流れと変わらない。
(ちなみに、同記事によれば、IOCだけが中止を決定でき、損害賠償請求を免除されるなど、IOCに圧倒的に有利な契約内容は東京五輪に限った話ではないそうだ。)
日本から言い出して中止になった場合の賠償金についても、コロナをコントロールできずやむを得ない状況であったこと(「むしろ本来、五輪を中止する権限を有するIOCが、新型コロナパンデミックによって「本大会参加者の安全が、深刻に脅かされる」(66条)と判断して、自ら中止と判断すべきであった、ということにはならないでしょうか?」)、「IOC、組織委員会、メディア、スポンサー等は、五輪に関し、基本、保険に入っているので、ある程度は保険でカバーされるはず」であることを挙げて、巨額の賠償金を請求される可能性は高くないと述べている。
(組織委員会が保険にはいっていることは知らなかった(過去ブログ)。開催都市契約の60条が保険について定めていて、「組織委員会は、本大会の計画、組織、財務、運営にかかわるすべてのリスクを補償対象とする適切な保険を、自己負担で確保し維持するものとする。さらに、組織委員会が本大会に関する中止についての保険をかけようと計画する場合、組織委員会は自分をIOCの保険プログラムに含める選択肢を IOC に提示するものとする。」とあるそうだが、この文面では中止の場合をカバーする保険は義務ではないように読める。IOCが中止の場合の保険にはいっていることは新聞で読んだが、組織委がその保険プログラムに含まれているのか、独自の保険にはいっているのか、あるいは中止の保険にははいっていないのか、報道を見かけない。)
本記事を書いたとき、私は損害賠償を請求してくるのはIOCしか想定していなかったが、池上彰氏はスポンサーから損害賠償される可能性に言及していた。その場合も含め、どう考えても中止しかない場合に賠償金を払わずにすむための理論武装はしておくべきだと思うのだが。

追記2:上記で「損害賠償請求を免除されるなど、IOCに圧倒的に有利な契約内容は東京五輪に限った話ではないそうだ」と書いたが、確かに北京冬季五輪の開催都市契約(host city contract)を見ても同様だ(pdfの68条cなど)。だから、日本の招致委が特別不利な契約を結ばされたというのではなく、IOCの体質のようだ。さらに不可解なことに、昔は開催都市契約は秘密にされていた。東京五輪も契約当初は守秘条項があったのだが、「付属合意書No.2」(東京都オリンピック・パラリンピック準備局)で開示できるようになり、その後の北京冬季五輪などにも踏襲されるようになったようだ。


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