平昌冬季五輪の代表選手の壮行会について,関係者が会を開くのはいいがそれを公開するのは許されないとの日本オリンピック委員会(JOC)の方針で戸惑いが広がっている(朝日新聞2018年1月14日).「五輪の知的財産を宣伝目的で利用できるのはスポンサーだけ」という五輪憲章の解釈に基づく規制だという.
五輪憲章の規定そのものはまっとうな内容だ.たとえば「オリンピック」はJOCの登録商標となっていて(特許情報データベース),「オリンピック」の用語を宣伝目的で使えばおそらく商標権侵害になるだろう.ただ,商標権侵害になるのは,登録商標を「商標として使う」場合であって,単にオリンピックに言及しただけで侵害になるというわけではない(福井健策氏のコラム「オリンピック応援禁止令?--ツイート禁止通知と「アンブッシュ」規制法の足音」(2016)).もちろん,不正競争防止法というものもあるから,同コラムも指摘するように,便乗商法の度が過ぎればひっかかるだろう.だが上記朝日記事によれば,公立高校の壮行会にも規制が厳格に適用されているという.校長も言うように,公立なので宣伝目的にはあたらないと思うのだが.
組織委員会の公式ページは次のように説明している.
「スポンサーには、これらの知的財産の使用権の見返りとして、多額の協賛金を拠出いただいており、この資金が、大会の安定的な運営及び日本代表選手団の選手強化における大きな財源となっています。
オリンピック・パラリンピックマーク等の無断使用、不正使用ないし流用は、アンブッシュ・マーケティングと呼ばれ、IOC、IPC等の知的財産権を侵害するばかりでなく、スポンサーからの協賛金等の減収を招き、ひいては大会の運営や選手強化等にも重大な支障をきたす可能性があります。 」
「アンブッシュ・マーケティング」として警告されていることからも明らかなように,やはり「不正競争に当たるような宣伝利用を許さない」という趣旨の規制と思われる.JOCの規制は明らかにそれを超えていると思うのだが,なぜこうまでやっきになって五輪熱に水を差すようなまねをするのだろう.
莫大なスポンサー料を払ったスポンサー企業の利益を保護するのはわかるが,上記コラムも指摘するように,オリンピックのスポンサー料というのは1000億円とか2000億円とかのレベルだ(より新しいデータALL OLYMPIC TOKYO 2020でも同様).それに対し,東京五輪開催には何兆円という桁の税金(都税?)が投入される.もっと国民(都民?)みんなで盛り上げるというようにできないものだろうか.
付記:上記組織委員会の公式ページでは規制の根拠として「商標法」,「不正競争防止法」のほかに「「著作権法」等」も挙げているので著作権について述べておく.「中継は著作権? スポーツと将棋の場合」でも書いたように,試合をしているスポーツ選手たちには俳優・舞踊家・演奏家のような権利はないので,観客が試合を自分で撮影して中継する行為は著作権法では防げない.いわゆる「放映権料」の根拠になっているのは,会場の施設管理権と,選手の肖像権が根拠だとする考えがあるそうだ.詳しくはリンク参照.
追記:JOCが保護しようとしているスポンサー企業自身はどう思っているのだろう.公立学校の壮行会の公開まで差し止めようとしているのだろうか.上記朝日記事では,JOCは海外の目も厳しくなってきているとコメントしていたように記憶している.海外のスポンサーはそこまで厳しいのだろうか.このあたり,世界の常識はどうなっているのだろう.
追記2:今やっている平昌五輪に関し,大画面を見てみんなで応援するパブリックビューイングも企業が開催するのは禁止されており,選手の母校で行なうのも非公開を求められたと夕刊で報じられていた(2018-2-9).一方,スポーツバーなどでテレビ中継を流すことは問題ないという.どうなっているのだろう.
追記3:asahi.comによれば,壮行会について,JOCがIOCと改めて協議し,学校のプロモーション活動などに利用しない場合に限って一般公開が認められたという.また,選手やコーチが在籍するか卒業した学校に限り,「報告会」の一般公開も認められるという.妥当だと思う.
追記4:官房長官も,平昌冬季五輪にまつわる壮行会や報告会の非公開について,公開が望ましいとの考えを述べ,宣伝目的の利用を警戒するJOC(日本オリンピック委員会)の態度を「考えすぎ」としたという(朝日新聞2018-2-28).
追記5:朝日新聞社説(2018-3-5)によれば,JOCは公開OKの方針を早くから決めていたのだが,IOCから認められるのに時間がかかり,企業・学校などへも周知をしていなかったようだ(実は社説の説明はよくわからなかったが).IOCや海外の常識が本当にそんなにせせこましいものなのか,知りたい.
追記6:これを書いた時点ではオリンピックの費用が都税なのか国税なのか知らなかったのですが、その点は「2020年東京オリンピック・都と国の負担は?」に書きました。
五輪憲章の規定そのものはまっとうな内容だ.たとえば「オリンピック」はJOCの登録商標となっていて(特許情報データベース),「オリンピック」の用語を宣伝目的で使えばおそらく商標権侵害になるだろう.ただ,商標権侵害になるのは,登録商標を「商標として使う」場合であって,単にオリンピックに言及しただけで侵害になるというわけではない(福井健策氏のコラム「オリンピック応援禁止令?--ツイート禁止通知と「アンブッシュ」規制法の足音」(2016)).もちろん,不正競争防止法というものもあるから,同コラムも指摘するように,便乗商法の度が過ぎればひっかかるだろう.だが上記朝日記事によれば,公立高校の壮行会にも規制が厳格に適用されているという.校長も言うように,公立なので宣伝目的にはあたらないと思うのだが.
組織委員会の公式ページは次のように説明している.
「スポンサーには、これらの知的財産の使用権の見返りとして、多額の協賛金を拠出いただいており、この資金が、大会の安定的な運営及び日本代表選手団の選手強化における大きな財源となっています。
オリンピック・パラリンピックマーク等の無断使用、不正使用ないし流用は、アンブッシュ・マーケティングと呼ばれ、IOC、IPC等の知的財産権を侵害するばかりでなく、スポンサーからの協賛金等の減収を招き、ひいては大会の運営や選手強化等にも重大な支障をきたす可能性があります。 」
「アンブッシュ・マーケティング」として警告されていることからも明らかなように,やはり「不正競争に当たるような宣伝利用を許さない」という趣旨の規制と思われる.JOCの規制は明らかにそれを超えていると思うのだが,なぜこうまでやっきになって五輪熱に水を差すようなまねをするのだろう.
莫大なスポンサー料を払ったスポンサー企業の利益を保護するのはわかるが,上記コラムも指摘するように,オリンピックのスポンサー料というのは1000億円とか2000億円とかのレベルだ(より新しいデータALL OLYMPIC TOKYO 2020でも同様).それに対し,東京五輪開催には何兆円という桁の税金(都税?)が投入される.もっと国民(都民?)みんなで盛り上げるというようにできないものだろうか.
付記:上記組織委員会の公式ページでは規制の根拠として「商標法」,「不正競争防止法」のほかに「「著作権法」等」も挙げているので著作権について述べておく.「中継は著作権? スポーツと将棋の場合」でも書いたように,試合をしているスポーツ選手たちには俳優・舞踊家・演奏家のような権利はないので,観客が試合を自分で撮影して中継する行為は著作権法では防げない.いわゆる「放映権料」の根拠になっているのは,会場の施設管理権と,選手の肖像権が根拠だとする考えがあるそうだ.詳しくはリンク参照.
追記:JOCが保護しようとしているスポンサー企業自身はどう思っているのだろう.公立学校の壮行会の公開まで差し止めようとしているのだろうか.上記朝日記事では,JOCは海外の目も厳しくなってきているとコメントしていたように記憶している.海外のスポンサーはそこまで厳しいのだろうか.このあたり,世界の常識はどうなっているのだろう.
追記2:今やっている平昌五輪に関し,大画面を見てみんなで応援するパブリックビューイングも企業が開催するのは禁止されており,選手の母校で行なうのも非公開を求められたと夕刊で報じられていた(2018-2-9).一方,スポーツバーなどでテレビ中継を流すことは問題ないという.どうなっているのだろう.
追記3:asahi.comによれば,壮行会について,JOCがIOCと改めて協議し,学校のプロモーション活動などに利用しない場合に限って一般公開が認められたという.また,選手やコーチが在籍するか卒業した学校に限り,「報告会」の一般公開も認められるという.妥当だと思う.
追記4:官房長官も,平昌冬季五輪にまつわる壮行会や報告会の非公開について,公開が望ましいとの考えを述べ,宣伝目的の利用を警戒するJOC(日本オリンピック委員会)の態度を「考えすぎ」としたという(朝日新聞2018-2-28).
追記5:朝日新聞社説(2018-3-5)によれば,JOCは公開OKの方針を早くから決めていたのだが,IOCから認められるのに時間がかかり,企業・学校などへも周知をしていなかったようだ(実は社説の説明はよくわからなかったが).IOCや海外の常識が本当にそんなにせせこましいものなのか,知りたい.
追記6:これを書いた時点ではオリンピックの費用が都税なのか国税なのか知らなかったのですが、その点は「2020年東京オリンピック・都と国の負担は?」に書きました。