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6-5 浮舟をめぐる匂宮と薫 宇治十帖 (源氏物語)

2023-12-16 11:52:41 | 源氏物語のトピック集
6-5 浮舟をめぐる匂宮と薫 宇治十帖 (源氏物語)

  馬場あき子氏著作「日本の恋の歌 ~恋する黒髪~」一部引用再編集

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6-4 のつづき

  浮舟の側近の侍女の一人は匂宮びいき、他の一人は薫びいきであったが、ともかく、侍女が二人ながら願ったことは、どちらか一人を選んで決着をつけるしか道はないということである。
  当然すぎる結論だが、浮舟にはその決定ができなかった。それは単に浮舟が優柔不断であったといってすむものではなく、匂宮と薫という、当代を代表する貴人の卓絶した美質と、権威にまかせた奔放な情熱の魅力や、自負の強い愛の侮りがたい魅力があった。

  匂宮にも薫にも世上(せじょう:世間)の認める正室があり、そのほかにも妻とする女性があった。その上での浮舟をめぐる愛の葛藤である。それに対して浮舟の立場は弱く、憧れは強く、生涯の安定を望む心と、眼前の悦楽に抗えない心とは、うら若く経験の乏しい浮舟を困惑させた。そしてここには多面的な恋の場に身をおきかえて悩み、その悩みを深く味わおうとする作者紫式部の貌(かお:人が仮面をかぶったさま)がある。

  浮舟にもう少ししっかりした乳母か侍女がいて、説得力のある定見があり、対処があったら浮舟は安定した人生を送れたであろう。大方の姫君たちはそうした人の見識に従って身を処したのが現実であった。
  しかし物語の企図はそこにはない。浮舟には、浮舟を支える本当の背景がなく、同じくらいの常識をもって世を送る非力の人々が寄り集まって、匂宮と薫という二人の恋人の権威ある愛に圧倒されていたのだ。だからこそ、そこに非力な女たちの非力な思慮の敗北が無残に、哀れに浮かび上ってくる。

  浮舟の行方が、死とも失踪ともわからぬまま伝えられて、熱中の渦から急に放り出されたような匂宮と薫は、うつし心もないありさまで何日かは過したが、それぞれの立場が自覚されてゆくにつれ、「さるは、をこなり」と、死者にいつまでかかずらわっているわけにもいかない、という常識も心のすみに生まれはじめる。

(参考:源氏物語 [蜻蛉]の巻)
さるは、をこなり、かからじ とはいえ、それも愚かしい、もう嘆くまい。

6-6 浮舟をめぐる匂宮と薫 宇治十帖 (源氏物語)につづく

参考 馬場あき子氏著作
 「日本の恋の歌 ~恋する黒髪~」


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