山梨県には、大きく分けて3つの水系がある。
ひとつ目は、お馴染みの桂川水系、そして二つ目は多摩川の源流で、奥多摩湖の上流部に位置する丹波水系、そして三つ目が富士川水系である。
このうち、最も規模の大きいのが富士川水系で、源流は南アルプスの鋸岳を源とする釜無川、そこに奥秩父から流れる笛吹川や、南アルプスの名峰北岳を源とする早川などが合流している。
東京を朝早くに出発し、甲府市から国道52号を南下して早川町方面へ右折。町役場を過ぎた辺りから、だんだんと渓相が良くなり、そろそろ入漁証を買おうと思ったが、なかなか販売所が見当たらず、結局早川大橋まで来てしまった。少し走って小学校前の雑貨屋でようやくのぼりを見つけ、とりあえず店のおじいさんにポイントを尋ねてみる。すると、この辺りなら支流の黒柱河内川が良いとの事。また本流なら青崖トンネルを越えた辺りから西山発電所の堰堤までがお勧めだと言う。何でも堰堤の下には超大物が潜んでいるらしい。
早速ウェーダーに着替えると、『南アルプス邑・野鳥公園』のヤマセミ橋を渡って、対岸から入渓。
確かに黒柱河内川の渓相は素晴らしかったが、本流もなかなか捨て難く、とりあえず出合いのところから釣り上がってみる事にした。ところが、小さなポイントから大場所まで丹念に攻めてみるも、魚影はおろか、フライの方にも全く反応が無い。仕方なく一度上がって上流へ移動。途中、西山温泉の手前に多摩ナンバーのランクルが駐車してあったので、先行者が居るのを承知しながらも、素晴らしい渓相に思わず入渓してしまった。しかし、ここでも敢え無く撃沈。というか時間切れとなってしまった。
『そば処アルプス』で遅い昼食を取り、本日の宿となる奈良田温泉の『白根館』へ向かう。
チェックインの後、宿の人に勧められたので、疲れを癒すつもりで、とりあえず湯に浸かってみたら、ビックリするくらいの素晴らしい泉質だった。
ところが、風呂から上がり部屋で休んでいても何となく落ち着かない。しかも夕食は18時だから、まだたっぷり1時間以上もある。目の前を流れる早川本流は浅くフラットな流れで、およそ魚の居る雰囲気ではなかったが、その先の奈良田湖にはニジマスを放流していると漁協の地図に書いてあったのを思い出し、散歩がてら出掛けてみる事にした。
早速、湖に立ち込んでみると、水は想像以上に冷たかった。恐らく雪代が入っているのだろう。何となく釣れそうな雰囲気はあるものの、結局ここでもダメだった。
翌日、上流の川をチェックしてから奈良田湖を覗いてみると、何人か投げ竿で釣りをしている人達が居た。近付いてみると、まるでカツオの一本釣りの如く、目の前でニジマスを釣り上げていた。
それは、前日釣れなかった者にとってかなりショッキングな光景だったが、実はこれだけでは終わらなかった。
そのまま早川沿いを下ると、途中の公民館で『山菜祭り』というのが盛大に行われていて、会場はかなりの人が集まっていたが、赤沢宿の方には殆ど観光客は居なかった。赤沢宿というのは身延山と七面山の中継地にある宿場で、現在も旅篭と呼ばれる昔ながらの宿が残る、とてもノスタルジックな場所だった。
その後、饅頭を買いに身延山へ向かう。身延山には久遠寺という日蓮宗の総本山があり、さすがにゴールデンウィークとあって、多くの参拝客で賑わっていた。私も折角だからとお参りする事にしたのだが、本堂までの287段の石段は実際に登ってみると、一段が普通の階段の1.5倍程あり、しかも45度はあろうかという傾斜で、登っている途中から後悔してしまう程きつかった。
無事久遠寺参りを終え、随分と汗をかいたので、近くの立ち寄り湯で温泉に浸かってから帰ろうと、何となく目に入った旅館のようなところに入ってみた。ところが、案内されたのは古めかしい銭湯のような風呂場で、お湯も循環式で加熱を施した普通の温泉だった。まあ、特に汚いという訳でも無かったのだが、新築らしい正面玄関とはかなりのギャップを感じた事は確かだった。それでもとりあえず湯舟に浸かりながら、余計な事は考えまいと、暫くはジッとしていたが、どうも正面の大きなガラス窓のすぐ下には川が流れているらしく、流れのあるところには、きっと魚が居るだろうとつい想像してしまい、気になって仕方無かった。
結局、窓ガラスの水滴を手で拭い、いつの間にか流れの中を凝視していた。すると鮮やかな緑色の水草の脇に沢山の小さな魚が元気良く泳ぎ回っているのが見えた。環境からして最初はアブラハヤだろうと思っていたが、良く見るとパーマークのようなものがついているではないか。しかも、その小さな魚を追い払うように、今度は別の大きな魚が現れると、ついにはライズを始めた。それは尺近い立派な自生ヤマメ(*注1)だった。
写真上:南アルプス登山の起点となる広河内橋より、土石流止めの堰堤と雪を冠った南アルプス広河内岳を望む。
写真下:広河内橋から見る発電所下のクリアーな流れは、まさに南アルプスの天然水そのものだ。
(*注1)富士川水系は本来はアマゴの川だが、漁協がヤマメを放流しているため、現在はアマゴとヤマメが混棲している。
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