勝手にお喋りーSanctuaryー

マニアックな趣味のお喋りを勝手につらつらと語っていますー聖域と言うより、隠れ家ー

歴史モノを描く苦労

2005-12-10 | 映画のお喋り
最近のハリウッドブームなのか、キング・アーサーやらトロイやら、大昔の戦争映画がやたら多い。
これもその中のひとつなのだが、1184年と言えば、紀元2000年の歴史の中で、私のもっとも得意とする時代。
これは観なくちゃとDVDを借りてきた。

☆『キングダム・オブ・ヘブン』 2005年・アメリカ
  監督:リドリー・スコット
  主演:オーランド・ブルーム、エドワード・ノートン、ジェレミー・アイアンズ

ストーリーはキリスト教とイスラム教、双方の聖地であるエルサレムを巡る争い。
時代は第2回十字軍遠征直前。(ラストにリチャード獅子心王が登場する)
リドリー・スコットがこの映画を作った意図は明白。
イラクへの攻撃が現代の十字軍と呼ばれていること。
話し合いで戦争を避けた名君ボードワン4世の死後、利権目当ての好戦主義者たちによって戦争が起こり、多くの兵士と民衆が犠牲になったこと。
この辺を踏まえたメッセージを、かの国の人たちに伝えたかったのだ。
エルサレムを巡る歴史とか、宗教とか、ある程度知識がないと辛い映画もあるが、これは簡潔に説明出来ている方だと思う。
(全体に思想が時代的でなく、現代的過ぎる感はあるが)

さて、この映画で一番問題になるのは、オーランドくん(ロード・オブ・ザ・リングの弓の名手で出世した)演じる主人公バリアンの行動。
不治の病(現代では無論完治する)に冒されたエルサレム王・ボードワン4世が死期を間近にした時、バリアンに王位を譲ろうとする。
妹の王位継承者シビラ王女の夫ギーは好戦主義者の愚か者で、彼が王とならばサラディン(イスラムの王)と戦って敗れるのは目に見えている。
だからイスラム教徒との共存を望むバリアンに後を継いで欲しいのだ。
それだけがエルサレムとそこで暮らすキリスト教徒を守る唯一の方法だから。

ところがバリアンは、この王の申し出を拒否するのだ。
何故?
映画を観てる人はみなそう思うだろう。
エルサレムを救いたかったら、あんたが王になるしかないってわかるでしょうに。

ここで私は史実に忠実でいながら、自分の物語を進めていかなけらばならない作家の辛さを思い出す。
エルサレムは陥落するのだ。
それは歴史上、すでに起きてしまったことなのだ。
もしもバリアンが王になったら、エルサレムは陥落しないことになる。
これでは単なる空想物語になってしまう。
だから無理矢理理由をつけて、バリアンに拒絶させるのだ。
この時点で、主人公バリアンは映画の観客から見放されてしまう運命を担う。

シビラ王女の夫ギーが王となり、イスラム教徒と戦い、無残に敗れる。
その後でバリアンがエルサレムの民衆を守るために戦っても、説得力はゼロなのだ。
だったら王になって、戦争をとめればよかったじゃないってことになる。
やはりバリアンが王になれなかった明確な理由、たとえばギーの陰謀に邪魔されたとか、それがないと見せ場の戦闘シーンが死んでしまうのだ。

個人的にはかなり面白かったこの映画、動機付けをもっと工夫してくれれば、かなりの傑作になったと思う。
非常に残念だと言うしかない。
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