電話を切った後で、私はようやく話すことを思いついた。
彼の声を聞いていると、異常に頭の巡りが悪くなってしまうことが恨めしい。
さて、ここからが悩みと苦しみの1時間の始まりだ。
かなり正当な用件なんだから、こちらから電話をかけ直してもおかしくない。
だけど。
だけど。
だけど。
かけられない理由を山ほど考えた。
家で仕事をすることが多いので、お仕事中かもしれない。
すごく忙しい人なので、邪魔をしては悪いだろう。
大した用件でもないし。
最後は彼と話したいと言う誘惑に負けた。
少し驚いているみたいだった。
ためらいがちな返事。
こちらが用件を伝えると、またすらすらと話し始めた。
声がさっきよりやさしい。
安心して、私もふだんの調子に戻る。
それでも、もう一歩の垣根が越えられない。
この垣根は何なんだろう。
どっちが防波堤を築いているんだろう。
1歩近付いたと思うと、また元のポジションへ。
どうしても越えられない。
今なら傷ついたって、失うものなんかないのに。
あるかもしれない。
彼を思う時間。
安全地帯から足を踏み出し、その先に道がなかったら、私はそれすらも失ってしまう。
そしてふと思いついた。
もしかしたら…彼も怖いのだろうか。
もう若くないから。
もうそんなに簡単に恋なんか生まれないから。
まるで当たり前のように人を好きになっていた頃とは違うから。
この気持ちがどれほど貴重なものか、経験を重ねた分だけ私は知っている。
若くないから臆病になる。
垣根を越えられないのではなく、越えたくないのかもしれない。
彼の声を聞いていると、異常に頭の巡りが悪くなってしまうことが恨めしい。
さて、ここからが悩みと苦しみの1時間の始まりだ。
かなり正当な用件なんだから、こちらから電話をかけ直してもおかしくない。
だけど。
だけど。
だけど。
かけられない理由を山ほど考えた。
家で仕事をすることが多いので、お仕事中かもしれない。
すごく忙しい人なので、邪魔をしては悪いだろう。
大した用件でもないし。
最後は彼と話したいと言う誘惑に負けた。
少し驚いているみたいだった。
ためらいがちな返事。
こちらが用件を伝えると、またすらすらと話し始めた。
声がさっきよりやさしい。
安心して、私もふだんの調子に戻る。
それでも、もう一歩の垣根が越えられない。
この垣根は何なんだろう。
どっちが防波堤を築いているんだろう。
1歩近付いたと思うと、また元のポジションへ。
どうしても越えられない。
今なら傷ついたって、失うものなんかないのに。
あるかもしれない。
彼を思う時間。
安全地帯から足を踏み出し、その先に道がなかったら、私はそれすらも失ってしまう。
そしてふと思いついた。
もしかしたら…彼も怖いのだろうか。
もう若くないから。
もうそんなに簡単に恋なんか生まれないから。
まるで当たり前のように人を好きになっていた頃とは違うから。
この気持ちがどれほど貴重なものか、経験を重ねた分だけ私は知っている。
若くないから臆病になる。
垣根を越えられないのではなく、越えたくないのかもしれない。