ああ。
あぁ、昨夜は深く落ちて行ってしまった。
昨夜「クロードと一緒に」Blancの5公演目を観ました。
今回のBlancでは、後半のイーヴの独白は松田凌さん一人で行います。
このお芝居を観るといつも観客としては壊れゆく青年の姿をただ見ている事しか出来なくて、彼を助けたくとも助けられなかった様な気持ちにさせられるんです。
でも、今回の新たな演出でアタシは彼の最後には、近くに居てあげられた気持ちになったのです。
しかし。
昨夜は違ったんです。
イーヴはやはり深い暗がりの中へ落ちて行ってしまいました。
何でだろう。
落ちてゆく彼を掴もうとしても掴めなかった。
スピードは無いんだけれど、ゆっくり落ちて行ってしまってつかめない。
昨日は舞台の左側に座っていたのですが、刑事たちの演技がよく見えました。
彼らを観ていて思ったんです。「クロードと一緒に」が、いつしかハードボイルドの様になったなぁと。
イーヴは殺人を犯した容疑者ですが、刑事たちが見ているのは彼ではなく、もっと違う物なのです。
今までのクロードでは少なからず刑事達はイーヴの告白に耳を傾け、心を乱されていました。
でも、今回はイーヴを見てさえしない。
彼らが対峙しているのは、イーヴを含めた大きな壁の様な物。
刑事達はそれをどうにかよじ登って越えようとしているのです。
イーヴはその一部にしかすぎない。
判事は男娼イーヴを買った事があるのです。それは間違いない。
でも、もっともっと大きな問題が彼らを押さえつけようとしている。
それはひとつ間違えれば大変な騒動になってしまう。
どうにかしろ、と彼らはその大きな物に追い詰められているのです。
そんなややこしい事を持ち込んだイーヴを彼らは完全に敵視し、蔑んでいます。
イーヴはたった一人。
今までの「クロードと一緒に」の中で一番孤独です。
36時間何の進展もないまま過ぎ、少しづつ情報が入って来ます。
新たな情報がもたされる度に、刑事達は耳打ちし合い、目くばせし、俊敏に動き始めます。
書く事をやめ、机も椅子も片づけてしまう速記係、ギィ。
最初からずっとガムを噛み続け、”うんざりだ、早く帰らせろ、とっとと話せ”と言う顔をしている警備官、ラトレイユ。
現場のリーダー的存在であるロバート刑事は、若い男娼の言う事が理解出来ない上に、長年の経験と勘によってこれ以上イーヴに話を聞いても、こちら側が理解し筋道立ててこの件を片付ける事が出来ないと判断します。
すなわち、もう、イーヴの証言など聞かないと言う事です。
大人たちは個々に戦っている事があり、イーヴの事など文字通り置き去りにします。
舞台上の椅子をすべて降ろし、彼らはもう二度と舞台には戻って来ません。
判事の机と椅子だけが残り、イーヴはぽつんと一人でうずくまっているのです。
ひとりぼっちのイーヴ。
彼には言いたい事が本当は沢山ある。
堰を切った様に話し出す。
正気を失い、でも、狂っていないと理解して欲しくて言葉を紡ごうとする。
クロードとの最後の夜の事を話すイーヴ、二人が絶頂に達っする時の、何かに掴まってひとつひとつを息を切らしながら登ってゆく様な表現の松田さんが凄かった。
「それから、それから・・・」と激しく呼吸を繰り返しながら、倒れ込みながら話す。
アタシが座っていた席からは松田さんを後ろから見る事が多かったのですが、独白をしている時の松田さんは本当に凄かったんです。
後ろから見ると、顔の表情ではごまかせない体全体での演技が見えるのです。
何か凄く強い物、パワー、オーラ、スピリット・・・。とにかく、普段では見えない物が松田さんの体から凄まじい勢いで放出されるのが見えるんです。
本当に「イーヴ」が”入っている”んです。
アタシは松田さんが壊れてしまうんじゃないかと思いました。
この日の公演を初演でイーヴを演じた相馬圭祐さんとギイを演じた井上裕朗さんが観劇されていたようですが、初演で相馬さんのお芝居を観た時にも同じ様に、相馬さんが壊れてしまうんじゃないかと思ったんです。
その時と同じ感覚。
「イーヴ」が伝えたくて、体の中を暴れ回ってる。
同時に、どんな男でも相手にして自分の体を売って来た男娼イーヴの生活、人生を目の当たりにし、絶句する。
生きているのが不思議なくらい。
それは汗と涙にまみれながら美しいままのたうち回り、傷だらけになりながら無垢な愛を表現する役者に対しての思いなのか、男娼”イーヴ”に対しての思いなのか、もう境界線があやふやになって観客のアタシには分からなくなっていました。
イーヴは判事の机に座って、最後は穏やかに話していました。
横たわるクロードに沢山キスした事。横たわるクロードが美しかった事。自分の両親が死んだ時には、出来なかった事がクロードにしてあげられた事。
「彼を愛してる」
そして、部屋を出て歩いてお姉さんの事を考えた後に、クロードの事を考えた事。
それまで穏やかだったイーヴの表情が悲しみに歪みました。
「押し寄せる感情」と言うのがあるけれど、まさにそんな感じでした。
「ちょっと想像したんだ・・・腐っちゃうって・・・」
もう何度も泣いたのに、まだ涙は溢れます。
「もう、やめるよ。」
絶望の果てに居るイーヴ。
そこに居るのに深く深く、落ちて行ってしまう。
暗がりを力なく去ってゆくイーヴの足音。
客電がつき、やるせない気持ちで客席の人々は押し黙っています。
ああ、お芝居はおわったんだなと気付くまで時間がかかります。
拍手が小さく起き、それから大きくなりました。
カーテンコールはありません。
アタシの「クロードと一緒に」が終わってしまいました。
最後はやはり、やられてしまいました。
ああ、もっと観たかった。
帰り道はやるせない気持ちでいっぱいでしたが、何故かこのお話は温かい体温みたいな物を感じるお芝居だと思うんです。
だから、たっぷりその感情に浸りながら帰りました。
このお芝居は凄い。
ホントに凄いです。
ありがとう。素晴らしかった。
公演はまだ続きます。
でも、あと数える程しか観られません。
是非是非、是非是非、体験されて下さい。
あぁ、昨夜は深く落ちて行ってしまった。
昨夜「クロードと一緒に」Blancの5公演目を観ました。
今回のBlancでは、後半のイーヴの独白は松田凌さん一人で行います。
このお芝居を観るといつも観客としては壊れゆく青年の姿をただ見ている事しか出来なくて、彼を助けたくとも助けられなかった様な気持ちにさせられるんです。
でも、今回の新たな演出でアタシは彼の最後には、近くに居てあげられた気持ちになったのです。
しかし。
昨夜は違ったんです。
イーヴはやはり深い暗がりの中へ落ちて行ってしまいました。
何でだろう。
落ちてゆく彼を掴もうとしても掴めなかった。
スピードは無いんだけれど、ゆっくり落ちて行ってしまってつかめない。
昨日は舞台の左側に座っていたのですが、刑事たちの演技がよく見えました。
彼らを観ていて思ったんです。「クロードと一緒に」が、いつしかハードボイルドの様になったなぁと。
イーヴは殺人を犯した容疑者ですが、刑事たちが見ているのは彼ではなく、もっと違う物なのです。
今までのクロードでは少なからず刑事達はイーヴの告白に耳を傾け、心を乱されていました。
でも、今回はイーヴを見てさえしない。
彼らが対峙しているのは、イーヴを含めた大きな壁の様な物。
刑事達はそれをどうにかよじ登って越えようとしているのです。
イーヴはその一部にしかすぎない。
判事は男娼イーヴを買った事があるのです。それは間違いない。
でも、もっともっと大きな問題が彼らを押さえつけようとしている。
それはひとつ間違えれば大変な騒動になってしまう。
どうにかしろ、と彼らはその大きな物に追い詰められているのです。
そんなややこしい事を持ち込んだイーヴを彼らは完全に敵視し、蔑んでいます。
イーヴはたった一人。
今までの「クロードと一緒に」の中で一番孤独です。
36時間何の進展もないまま過ぎ、少しづつ情報が入って来ます。
新たな情報がもたされる度に、刑事達は耳打ちし合い、目くばせし、俊敏に動き始めます。
書く事をやめ、机も椅子も片づけてしまう速記係、ギィ。
最初からずっとガムを噛み続け、”うんざりだ、早く帰らせろ、とっとと話せ”と言う顔をしている警備官、ラトレイユ。
現場のリーダー的存在であるロバート刑事は、若い男娼の言う事が理解出来ない上に、長年の経験と勘によってこれ以上イーヴに話を聞いても、こちら側が理解し筋道立ててこの件を片付ける事が出来ないと判断します。
すなわち、もう、イーヴの証言など聞かないと言う事です。
大人たちは個々に戦っている事があり、イーヴの事など文字通り置き去りにします。
舞台上の椅子をすべて降ろし、彼らはもう二度と舞台には戻って来ません。
判事の机と椅子だけが残り、イーヴはぽつんと一人でうずくまっているのです。
ひとりぼっちのイーヴ。
彼には言いたい事が本当は沢山ある。
堰を切った様に話し出す。
正気を失い、でも、狂っていないと理解して欲しくて言葉を紡ごうとする。
クロードとの最後の夜の事を話すイーヴ、二人が絶頂に達っする時の、何かに掴まってひとつひとつを息を切らしながら登ってゆく様な表現の松田さんが凄かった。
「それから、それから・・・」と激しく呼吸を繰り返しながら、倒れ込みながら話す。
アタシが座っていた席からは松田さんを後ろから見る事が多かったのですが、独白をしている時の松田さんは本当に凄かったんです。
後ろから見ると、顔の表情ではごまかせない体全体での演技が見えるのです。
何か凄く強い物、パワー、オーラ、スピリット・・・。とにかく、普段では見えない物が松田さんの体から凄まじい勢いで放出されるのが見えるんです。
本当に「イーヴ」が”入っている”んです。
アタシは松田さんが壊れてしまうんじゃないかと思いました。
この日の公演を初演でイーヴを演じた相馬圭祐さんとギイを演じた井上裕朗さんが観劇されていたようですが、初演で相馬さんのお芝居を観た時にも同じ様に、相馬さんが壊れてしまうんじゃないかと思ったんです。
その時と同じ感覚。
「イーヴ」が伝えたくて、体の中を暴れ回ってる。
同時に、どんな男でも相手にして自分の体を売って来た男娼イーヴの生活、人生を目の当たりにし、絶句する。
生きているのが不思議なくらい。
それは汗と涙にまみれながら美しいままのたうち回り、傷だらけになりながら無垢な愛を表現する役者に対しての思いなのか、男娼”イーヴ”に対しての思いなのか、もう境界線があやふやになって観客のアタシには分からなくなっていました。
イーヴは判事の机に座って、最後は穏やかに話していました。
横たわるクロードに沢山キスした事。横たわるクロードが美しかった事。自分の両親が死んだ時には、出来なかった事がクロードにしてあげられた事。
「彼を愛してる」
そして、部屋を出て歩いてお姉さんの事を考えた後に、クロードの事を考えた事。
それまで穏やかだったイーヴの表情が悲しみに歪みました。
「押し寄せる感情」と言うのがあるけれど、まさにそんな感じでした。
「ちょっと想像したんだ・・・腐っちゃうって・・・」
もう何度も泣いたのに、まだ涙は溢れます。
「もう、やめるよ。」
絶望の果てに居るイーヴ。
そこに居るのに深く深く、落ちて行ってしまう。
暗がりを力なく去ってゆくイーヴの足音。
客電がつき、やるせない気持ちで客席の人々は押し黙っています。
ああ、お芝居はおわったんだなと気付くまで時間がかかります。
拍手が小さく起き、それから大きくなりました。
カーテンコールはありません。
アタシの「クロードと一緒に」が終わってしまいました。
最後はやはり、やられてしまいました。
ああ、もっと観たかった。
帰り道はやるせない気持ちでいっぱいでしたが、何故かこのお話は温かい体温みたいな物を感じるお芝居だと思うんです。
だから、たっぷりその感情に浸りながら帰りました。
このお芝居は凄い。
ホントに凄いです。
ありがとう。素晴らしかった。
公演はまだ続きます。
でも、あと数える程しか観られません。
是非是非、是非是非、体験されて下さい。