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韓国の今について話す黒田さん
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対談で、韓国の今を紹介する黒田さん
「竹島」を県土に持つ島根県の松江市で、韓国の今を学ぼうという公開講座が開かれた。主催したNPO法人が講師に招いたのは、韓国内で「日本を代表する極右言論人」と紹介される産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏。
韓国の政府やメディアなどへの辛口批評が飛び出す一方、韓国の文化や日常を愛するよき理解者としての温かい視点も忘れず、「反日」の実情などさまざまな切り口で「今の韓国」を語った。
黒田氏の講演と、それに続く対談(聞き手は同法人プロジェクトリーダーの小片悦子さん)の内容は次のとおり。
韓国への興味は「異同感」
僕は、語学留学と記者を合わせて30年以上、韓国で暮らしている。いろんな人から「何が面白くてそんなに長くいるの」と聞かれるが、韓国は実に面白い。飽きたら日本に帰ろうと思っているが、毎日が刺激的で面白く、まだ飽きない。
何が面白いんだろうかと思って考え出したのが「異同感」という言葉。私たちが韓国に抱く、異なるようで同じ、似ているようで似ていない感じ。人間にも社会にも感じるが、中国の人たちにはあまり感じない。
異同感はどこから来るかといえば、縁の深さ。歴史的には、大昔に朝鮮半島から日本に渡ってきた人種的な近さ。近い関係でいえば、近代化の過程で日本が韓国を支配した35年間に与えた影響がある。
食事の時、日本人は箸を横に(並べて)置くが、韓国人は箸とスプーンを縦に並べる。西洋もそうなので、横に置くのはある意味、日本文化の特異性かも。隣国同士で食事作法がこんなに違うのは、ヨーロッパにはない。
でも、寝るときは日本人も韓国人も基本的には床に布団を敷く。今はベッドが主流になっているが。ところが、中国やモンゴルは寝台を使う。寝ている姿は、日韓一緒。
着物なんかは、異なる文化。日本はどちらかというとスカートの文化で、韓国はズボンの文化。チマ・チョゴリはスカートの中に薄手のズボンをはいている。
韓国の若い女性は嫌い
韓国に30年住んでいて、一番変わったと感じるのは人間。とくに若い女性は、きれいになったが、マナーが非常に悪くなった。韓国の都市では、歩いていて他人とよくぶつかる。
それでも昔は、初老の紳士なんかにぶつかると、若い女性は頭を下げていたが、今はしない。「すみません」ではなく「アー」と一言。「アー」は痛い時の言葉。つまり、相手のことを考えず、自分の感情を優先させている。
韓国の「民主化」以降、女性の自己主張が強まり、若い女性はみんな「公主病(お姫様病)」。相手に気を使わず、自分が気を使われる存在だと思っている。なぜそうなったかというと、もてようとチヤホヤする男が悪い。
逆に、男がやたら弱くなった。ある意味では、ファストフード店やコーヒーショップなどで、女性よりも男性のアルバイト店員のほうが、はるかに親切で丁寧。
しかも、軍隊を経験すると社会性も備わるから、日本の若い男性よりも大人の秩序というか、マナーが身についている。
だから、「韓国の若い女性は嫌い」「女性よりも男性のほうが好きだ」と言っている。
“裏切り者”呼ばわりも、日本で強まる反韓感情を懸念
最近、日本に戻って感じるのは、反韓・嫌韓感情が強くなっていること。「国交断絶したらどうか」なんていう話も出て、やや過剰で「まずいな」と思うので、少しその辺りを緩和しようと試みている。
そうすると、「黒田は最近、韓国に優しい。裏切り者だ」という声も出るが…。
日本から韓国に伝えられたニュースの中に、東京のコリアンタウンが商売あがったりになり、韓国料理店がたくさん売りに出ている、というのがあった。
つまり、「あのけしからん韓国の料理なんか食うの嫌だ」と、日本人客が行かなくなったということ。日韓関係が悪くなったから韓国料理を食べるのをやめる、というのも極端な話。おいしい物は食べればいい、と思うのだが。
一方、あれだけ反日感情が強い韓国で、日本料理店に客が来なくなったという話はまったくない。引き続き、居酒屋ブーム、日本食ブーム、日本酒ブームだ。
反日番組見ながら日本製ビールに酔う
かつて韓国の日本料理は「日式」と呼ばれていたが、今はそれが減り、ちゃんとした日本料理店が増えている。刺し身の横にコチジャンやキムチがある韓国化された日式ではなく、本物の日本料理を食べたい、というわけ。
また、80年代前半くらいまでは、日本料理店が日本風の看板やメニューを出すと、社会面トップ記事になってメディアの袋だたきに遭い、看板の掛け替えや店じまいとなっていたが、今は平仮名を使うのが流行している。
昔、韓国では日本酒のことを「正宗」(チョンジョン)と言っていた。でも、今では若い世代を中心に「サケ」で通じる。輸入ビールもとても人気で、以前は「ハイネケン」「バドワイザー」が売れていたが、近年は圧倒的に「アサヒビール」。
居酒屋にいくと、たいていアサヒが出る。店内のテレビが「日本はけしからん」と毎日言い続けても、その下で、みんなアサヒビールを飲んでいる。
「反日」イコール「日本嫌い」ではない
日本の軍国主義の象徴だ-として批判される「旭日旗」をめぐる面白い話を一つ。
欧州に留学している韓国人の女子学生がランチにすしを買ったところ、包装紙に旭日マークが付いていたため店に猛抗議して、その包装紙をやめさせたという話を、自身がインターネットで紹介。
これが韓国メディアに取り上げられ、「すばらしい愛国学生だ」と拍手喝采された。
すしを食べながらの反日。最近はこういうのが多く、いちいち腹を立てるのもばかばかしい。今の韓国では、何も「反日」イコール「日本嫌い」にはなっていない。
朴大統領の反日は「親離れ」現象
僕は、朴槿恵(パク・クネ)大統領のファンだった。政治家になる前は、父親(朴正煕=パク・チョンヒ=元大統領)らを顕彰する財団の理事長で、その財団と産経新聞の事務所が同じビルの中にあるので、よく顔を合わせていた。
根っからの日本嫌いの人じゃない。日本批判は、韓国では愛国者の証明。日本向けに言っているのではなく、国内向けに「父は日本陸軍出身だけど、私は愛国者だ」と言いたい。
また、今でも歴代大統領の中で一番人気がある偉大な父親の「七光り」で大統領になったんじゃない、と言いたい。親日家だった父親とは違う政治家なんだという「親離れ」の現象なんだと善意に解釈している。
日韓両国にとって中国は富士山
しかし、今年9月、北京に行って軍事パレードに参加したのは「大変だ」と思った。習近平・中国国家主席、プーチン・露大統領の横に立ち、その横にモンゴル、カザフスタン…。
これまで、日米などと「海洋勢力」の一員として発展してきたが、「大陸勢力」のほうに行ってしまったという印象を与えた。
朴大統領がよく言うのは「ユーラシア・イニシアチブ」。これからの韓国の発展はユーラシア大陸に進出することだと。南北統一のためには中国の影響力に頼むしかないと思っている。
だが、一般国民は中国なんか嫌い。本当に中国を尊敬していたら、韓国の中華料理はもっとおいしくなるはず。韓国の中華料理はまずい、というのが世界的な評価だ。
日本人は、中国をけしからんと思っても、やはり中国に対する尊敬とかあこがれとかがある。
象徴的に言うと、日韓両国にとって中国は「富士山」。日本人は遠くから富士山を見てきれいだと思っている。韓国は、近くで富士山を見ているわけで、岩だらけで登るのもしんどく、嫌なところがいっぱい見える。
だけど、近くにあって大きくて影響力があるから、付き合わないわけにはいかない。
対談「反日も親日」
聞き手・小片さん(以下Q) 韓国に行ったとき、「島根から来ました」と言っていいかどうか、竹島のことはタブーなのか、島根県民は気にしている
黒田さん(以下A) 堂々と言っていい。日本では「竹島」と「韓国名・独島」と両方を表記しようとするが、韓国は基本的には「竹島」は存在しない前提。「竹島イコール島根」というイメージは薄い。
たまに、「独島はどこのものだと思うか」とふっかけられることがあるが、そのときは「独島は韓国のみなさんのものかもしれません。でも、竹島は日本のものです」と言えばいい。そう言うとそれ以上の議論にならない。
以前、韓国のテレビ討論でこれを言って、ちょっと流行したことがある。
Q 韓国の方と話をするとすごく日本が好きだなと実感することがある
A 毎日あれだけメディアが日本に関心を持ってくれている国は他にない。だから、僕は「反日も親日」と言っている。韓国人は日本のことをよく知っているが、日本のほうは歴史も含めてあんまり関心がなかった。
そういう意味では、反韓・嫌韓が起こるくらいに、韓国の存在が大きくなってきた、ということ。中国人の爆買いに劣らず、韓国人も“宵越しの金”を持たない人たちだから、日本にとってはいいお客さん。
人間と違って互いに引っ越しできないんだから、もうちょっと関心・知識を持った方がいい。言葉を勉強すると理解が広がるので、興味のある人はぜひ韓国語を学んでほしい。
(おわり)