「パパ、フィッシュ、フィッシュ」
娘のリゾートワールド・リクエストである。毎度同じパターンが繰り返され、唯一違うのが食事。娘のリクエストがあるとまず何を食うのかを考える。風邪の治りかけ状態がズーと続いてタチが悪いので滋養強壮のためクレイジーガーリックつー店のガーリックライスを食することを決意した。日本男児たるもの後戻りは出来ない。
ここがクレイジーガーリック。怖ろしく陳腐な店名とインテリアに抵抗があって避けてきた。
ところがメニューのデザインはセンスがいい。メニューは食い物屋の命であることを改めて実感する。
デカイグラスのお冷。たぶんHOTな料理が多いのだろう、このセンスもいい。
ナイフ、フォーク、スプーンの3点セット。リゾートワールドへ来る度の外食だと出費が嵩む。しかし、外食は娘の躾も兼ねている。日本で言うところの母親が教える箸の使い方である。おむつが取れた娘もいつか自分でスプーンを使ってご飯を食べなければならない。もちろん娘はまだうまく出来ないが根気よく教えるのでる。
上海ライス(チャーハン)。ターメリックのバターライスでガーリックは気にならないほど抑制されている。ガーリックライスとしてはモノ足りないけど、予想外の上品な味わいである。これはヒットだった。
ポークリブのアドボ。これは大ホームランだった。メニューの写真が旨そうでアドボと知らずに指差してオーダーした。アドボはフィリピンの伝統料理で肉を酢醤油で煮たもの。酸っぱい肉料理なんて食えたものではない。ところが妻が一口食ってマサラップ(おいしい)と言うではなか。で、一口食ってみると衝撃が走った。
まずアドボの酸味だが、ビネガーとカラマンシーの清涼感が感じられた。そして骨からスプーンでサクッ切れる程よいやわらかさに仕上がった肉の食感は抜群。ガーリックで脂質の臭みはない。味も上品で最高だった。
最初、初めて見る黄色いご飯に難色したが、娘は上海ライスもポークリブのアドボもよく食べた。エライぞ。
満足して歓喜に咽ぶ娘。このままハッピーエンドで終わると思いきや、そうは問屋が卸さない。壁に記されたクレイジーガーリックのコンセプト「ガーリックを使った最良のレシピ」だからまた食べに来よう、そう妻に話すとネネの癇に障った。「アドボは私のレシピのほうがおいしい。私はクリスピーパタを食べたかった。スチームライスを食べたかった」と言い始めた。数分前までおいしい、おいしいと言っていた妻は突如ネネに変身したのだ。
普段ならネネは無視するのだがポークリブのアドボが余りに旨かったので欲が出て翌日またクレイジーガーリックへ行った。このようなパターンの場合、大体ハマる。奇跡のホームランの後は空振り三振を喫するのだ。
店の看板メニュー、harakiri。著しくバランス欠いた醤油味のバターライス。辛いだけの料理。
問題のクリスピーパタ(豚の丸揚げ)。揚げ方でミスしたのであろう、脂質の臭みが少しだけ残り嫌らしい。クリスピーパタは外の皮がパリパリで中の肉はジューシーに仕上げるのが旨さの本質で、中の肉は中途半端に硬くこれまた嫌らしい。あのポークリブのアドボを作ったシェフの料理とは思えないほどの失敗作である。
スチームライス(白いご飯)。クリスピーパタがダメなため妻の食は進まない。まったくもう。
結局、クリスピーパタとスチームライスは多くを食べ残してテイクアウト。これを機にリゾートワールドの外食を控えようと思う。しかし、ポークリブのアドボは美味しく、これだけはまた食べようと思ったのだ。
そんなワケで食い物の恨みは複雑だった。それから妻はこれから女房と記す。ではまた。