建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

安全パトロールに出向

2023-03-27 08:21:39 | 建設現場 安全

六月二十六日(月) 晴れ     

他の現場へ『安全パトロール隊』として参加した。

いつも言われている事を今日は言う立場だ。
協力業者3名、わが社3名で2台とも《安全パトロール車》と書いてある車で巡察だ。
車の中でも我々の目は他社の現場の前を通る度に情報が飛びかって来る。

「あそこには△△の時に事故起こした所長がいる」とか、
「あの足代(あしば)は上手(うま)く組んであるなあ…」
「中はガタガタでどうしようもないのよ」とかでオーナーから情報を聞けて面白い。

「へーッ、そうなの・・・」
と私はもっぱら聞く事ばかり。
出入口の扉がヒラヒラしていてもガードマンがいなかったり、出入口で他の通行の邪魔をし
ているトラックが、その現場内へ入ると分かる業者の車だったりして、同業他社を見ながらも
我身を振り返って見ている気分だった。

現場に着く頃にはもう巡察点検の予行演習が終わっている程口の動きがいい。
パトロールを受け入れる時は
(また来たか・・・)と思っていたれけど
「来てやったぞ!」という意気込みだ。

パトロール現場の門をくぐり、気持ちを押さえて、現場の進捗(しんちょく)状況説明を聞いた。
現場を見て廻ると言いたい事が出て来るだろうけれど、安全についてはお互いに苦労している
のだから、目についたことで言いたい事は2項目に絞っておこうと決めた。
それ以上は担当の矢野君にその都度現場内で指摘しておこう。

流石(さすが)に井上労務安全部長は指摘事項が厳しかった。

これはこの現場だけに言っているのではなく、
「私の現場(Kビル)にも言っているのだ」
と受け取られた。

『安全監理書類』の内容の指摘だけでも減点対象項目が多い。
場内も当然安全対策に手抜かりがあっては困るけれど、日々のチェックした記録も残しておく
必要を改めて知らされた。

 事故が起きて「手すりは昨日迄あったのに」と言っても、何も証明出来るものがない。
『開口部に蓋をしておく様に毎日言っていた
と労基署の人に説明しようにも、立証する術(すべ)はない。
やはり毎日の工事打ち合わせ記録の中に安全を記入する欄の有効活用が必要だ。

 ついつい書き込むのを省略してしまう事が多いし、毎日安全を書くのがマンネリ化してしま
っているのは何故なのだ。例えば、

   『足元注意』         対策→   つまづかない事
   『開口部注意』          →   蓋(ふた)を復旧する
   『手すりをはずさない』      →   すぐ復旧する
   『火気注意』           →   消火器と灰皿の設置  
   『丸鋸(まるノコ)電動工具の注意』 →   始業点検を確実にする
   『くわえたばこの作業禁止』    →   指定喫煙所を使用
          ・  
          ・  
 もっともな事を最もらしく、しかも毎日書くとしたら1週間で書き尽してしまう。
―――注意事項は一定だからゴム印を作って、対策も一定だからこれもゴム印で押す―――。
こうなると安全点検記録も形式だけの書類となってしまい、現実に現場で手すりが外れている
のか復旧してあるのか、チェックが後廻しになっては本末転倒という事だ。

各現場の所長の考え、方針によって『安全率』というか危険率が違うのが、第三者的なパト
ロールの目で見ていると良く分かる。

私だって自分の現場からパトロール隊が帰って行った後に、
(好き勝手な事を言って、言うだけなら誰でも言えるサ、たまには『悪い所を直しに来たヨ』
とか『溺(おぼれ)る人の写真を撮るより、浮輪を与えるのが先だろう』と言えないのか―――)
とグチル事もあるものだ。

自分の方が間違っているのに、パトロールのせいにする根性もいつのまにか養われている。
反省、猛反省しよう。

 確かに事故は運も作用される。
角パイプが落ちたけれど何も壊れなかったから良かったという話も多々ある。

『良かった』のでなく、『落とす事が悪い』という認識をもっと持たねばならないのが安全
対策なのだ。
エラそうな事を言ってしまった。

安全対策は『言うは易く行うは難(がた)し』否、行うのは《ヤル気があれば出来るもの》だ。

安全対策を守るのでなくて
『安全にするのだ』
という攻める考えも必要だと常々口にしているが、仲間の現場を見て自分の現場と置き換えて、
視点を変えて見る事はいい事だ。
来月も大きな現場へパトロール参加しよう。私は本当に《出たがり屋》なのだ。

17時にはKビルに戻って来た。
「明日は配筋検査が朝から出来ます」とF君。
「頑張ったねえ、設計事務所の中島さんに連絡したの?」と私。  
「まだです……」
「ここまで頑張ったんだから、明日は私の代わりに配筋検査の立会いに出てごらんヨ」
「・・・・」
「何とかなるッて、一度経験すれば―――何も臆する様なモノじゃあないからサ」
「はい、やってみます」

(これで2階のコンクリートが打てる。3階の手配は付いているのかな?)
と思ったけれど、そこを要求する事は今のF君には無理(余裕がない)なのは見えているの
で、2階迄は合格点を与えておこう。
次(3階)も頑張れよF君!


受水槽のクレーム発生

2023-03-14 07:56:32 | 建設現場 安全

六月 十六日(金) 雨 

 昨夜、1月末日に竣工したAマンションのオーナーから電話が入った。

受水槽の中からドンドンドンと時々音が出ているので・・・」
夜の10時を廻っていた。

「多分水圧の関係でしょうから入水印のバルブを閉めてて下さい、朝6時迄には私が行って点検
します。入水を止めた状態からタンクが空になる前に間に合わせますから……」 

電話を切って少し不安になった。 
何だろう受水槽の中で音だとは?―――。
   (ザーザーならまだしもドンドンドンと太鼓を叩く様な音だと言われたのは………
            ボールタップ(満水になると止まる装置)が故障でストップが効かなくなって
           暴れている のだろう・・・多分)―――と推定してみた。

 現在はタンクが満水状態でストップしようとしている筈の音だ、逆にタンクが空に近くなっ
ているとしたら減水警報ブザーが鳴る筈だ、と第一段階を納得した。

 第二段階は減水警報ブザーが鳴る迄、今からマンションの人が水を使い切るかどうかの問題
だ。
 今23時。9割は夕食が終っているだろうし、半分の家庭は風呂が済んでいると仮定すれば、
朝までタンク内の水量でまかなえる。
朝6時には私が現地へ着いて直接バルブを開ければ、朝食の準備支度に『断水中』という不便
をかける事はないだろう。 

でも―――何となくどこかで私のこの計算が違っていたらどうなるのだ?とも思える。
ガスではないので危険性がないから少しは落ち着けるけれど、何となく不安を覚えた。

 そして今朝は久し振りのAマンションへ行った。
と言っても竣工後は月に一度はアフターケアーに伺ってはいたけれど、別に何もなかったの
で、昔話しに花を咲かせていたのだが、今朝の様に目的を持って来たのは初めての事だ。

早速受水槽のタンクを覗(のぞ)いてみた。
水は3分の2残っていて、夜間に不便をかけた形跡はなく入水バルブを開いてしばらく待った。
(どんな音なンだ!、何故なンだ・・・?)
と期待と不安でボールタップを見つめていた。

6時45分を廻った頃に音が出始めた。
やっぱり張本人はボールタップだった。
水が入ってくる流量力によりボールタップが浮いてタンクの壁を叩いているのだ。
これを手で引っ張る(動きを止める)と当然音はしなかった。
フロート(浮きの調整)が甘くて中に微々たる何かが邪魔してピタッとストップしない様だ。

1月末に竣工して今6月だから壊れるには早過ぎる。
とにかく設備業者へ電話をいれた。

「早いねえ所長、一体何ですか?」
「目を覚まして上げるよ、野村君。Aマンション・・・そう一月に出来たAマンションに今いる
んだヨ、受水槽が壊れたので水浸しだ」
「またまた冗談を・・・」
「冗談で朝っぱらから雨の中こんな恰好(かっこう)してないよ!」

と言っても相手には見えないけれども、カッパもなしの『濡れ鼠(ねずみ)でタンクの上へ登っ
たり降りたりして、携帯電話片手に持ちながら話ているのだった。

「ボールタップを取替えれば済むと思うけれど、とにかく調子が悪いンだ。ストップが効かなく
て、満水近くでタンク天井を叩きドンドンドンと太鼓の様な音が出るんだ」
「すぐに行きます・・・所長何時に会います?」
「職人が来て直して帰るまではここにいるよ、風邪ひきそうだから早く来てヨ」
「OK、とにかく私が今から行きます。40分位で着きます」

一応手直し工事の段取りは出来た。
ポンプ室で作業服を着替えて、なじみの喫茶店へ飛び込んだ。
Aマンション工事中は人呼んで隠れた『第二打ち合わせ室』だった所だ。

「久し振りネ、どうしたの?Aマンション何かあったの?」
「別にィ、近くに立ち寄ったので、時間調整だよ、ママの顔を(娘さんの顔かな)見たかった
しネ、ほんと」
「またまた冗談を」
「本当に冗談だな」
と準備中の喫茶店で、掃除中の椅子を右へ左へ移動させながら、気兼ねなしに待った。

やがて、設備工事の担当だった野村君が喫茶店にやって来た。
「どんな状態だったんですか?」
「まあコーヒー飲んで行こう、今の所は音も水も大丈夫だから―――まあ色々とね」

一部始終を話して、手直し方法は《とにかく取り替えて》様子を見て見ようという事になった。
同一のボールタップがないので、今持って来た物を取り敢えず付けておく事にした。

『メーカーにも手配して2~3日の内には取り替えておきます』と言うことで一件落着だ。

昼過ぎにはKビルに戻った。
何だか空気が違う。勝手に現場を留守にしてたからか?

「何?何かあったの?」
と心配顔のN子に訊(きい)て見れば、
「支店から『Aマンションの件を報告しなさい!』と叱られた……」との事だった。

(昨夜の事は支店にも電話が入っていたのか)
私が第一声を聞いたのかと思っていたけれど―――それで夜も遅くに電話が・・・。

支店の工事課と設備課へは内容及び結果報告をしておいた。
『大騒ぎするに足らず・・・』だ。

夕方雷と共に大雨が降った。
現場仮設事務所の周辺は、床上浸水寸前迄水が溜まった。
(わず)か1時間にも満たない間にだ。
排水先のU字溝が一様に逆流していたのでポンプは使えず、雨水は溜まる一方だった。

本当に今日は水と雨に一日を振り廻されてしまった。

『水を治める者は天下をも治める』 
       ―――といった先達の言葉が思い出された一日だった。


1階躯体打設の反省

2023-02-28 11:52:46 | 建設現場 安全

六月 十二日(月) 晴れ

日曜出勤『墨出し』の甲斐があって、月曜日の朝一番から鉄筋の組立作業が始まった。
圧接工も度々の雨で一気に休みの期間の出面(でずら=出勤日当)を取り戻そうと頑張っている。
 あれほど丁寧(ていねい)にコンクリートを押さえ、精度良く仕上げた筈なのに、雨水が溜(た)
まっている所がある。
 広さ2m角までもないが、深い部分で500百円玉が2枚重なる厚さだった。

 実質今日からが2階の躯体工事だ。
これから約2週間後に打設する計画は、1階のデータにより無理なく出来る事が判明した。

後は圧接時に限って雨さえ降らねば6月27日が打設予定日となるはずだ。
 外部は足代上の作業となり、1階の時より上下作業が増える。その分能率は落ちるし、危険
度は増す。
足元さえきっちりしていれば、そこが1階だろうと10階だろうと同じだ。

 でも何故か地面より2m以上に付『高所作業だから命綱を着用しなさい――』が厳命也。

Kビルは1~2階は意匠(デザイン)的にも間取り(平面)にも共通部分は少ない。
EVと階段室は同じだけれど1階アプローチは2階部分で部屋になっていたり、屋根になっ
たりしている。

3~6階はほぼ同一だ。
仕上げ内容は一緒だけれど、上階に行くほど柱も梁も少しずつ小さくなるのが、変わってい
る位だ。

 今、現場事務所で最もポイントを置いている事は、カーテンウォールの承認決定を急ぐ事だ。
製作にサッシュより多い日数がかかるのを45日に頼み込んでいるし、お盆の後には納入させ
るつもりでいるから、今週中にはA設計事務所の承認を受けなければならない。
 (カーテンウオール=壁がコンクリートでなく特注サッシとガラスで組み合わせた外壁)

しかし、施工図チェックは神経のいる仕事だ。
特にKビルは曲面部分を多角形にして、嵌め殺しの総窓ガラス形式にしてある部分が、台風
や大雨に対しての不安材料だ。
一般的な窓、出入口扉等は一週間もあれば私はチェックOKサインが出せるれけれど、この
カーテンウォールは少し慎重にならざるを得なかった。

 じっくり考え込もうとしていたら、
「所長、階段の手すり壁が納まりません、どうしましょうか?」
と鉄筋工事職長の大島さんがやって来て言う。

「一階はOKだったのだから、そのまま上に上がるのに何でだ?」と私。
「そう言えば、コンクリート打設中に左右の突っ張り材の長さが違っていた様な………」
と聞いたが、それだけではなくて、
「打設中に支保工がはずれて大工が直してた様だったけれど、多分直らなかったンだよ、あれ
は、きっと………」
と『延髄切り』なみの衝撃をくれた。

型枠の根元は動いてなくて頭部(最上部)部分で15㍉(ズレ)ている。つまり傾いているのだ。
このまま傾いた所を正として上階を作るか、1階を直すかの二つに一つだ。

1階の階段室はモルタル塗りを行おう。
それでも納まり不良の所は斫(はつ)り取る(壊す)のだ。
悪ければ何にも考えずに斫り取れば良いのなら簡単だが、
《型枠の不備による斫り代金は、型枠工の責任に於いて精算する》
と言う事だから、大工さんの儲け予定がその分減っていく。

コンプレッサー1台に斫り工2人で一日合計5万円弱だ。
これに斫りガラの片付け費、場外産廃処分費、左官の補修等を加味して型枠工の請負金額から
差し引くと―――型枠大工なんてやってられない職業だと聞こえそうだ。

大工に言わせれば
「土工か誰かが支保工をはずしたんだ(手を下したンだ)」と言い張り、更に、
「俺たちは型枠検査も受けたではないか、OKしてくれたではないか、打設の方法が悪かった
のに何で俺たちの責任なンだ!どうして?」

これは最もな言い分だし、もし私が大工だったら更に、
「その為に監督さんが現場にいるのでしょ!!」
と厳しく言うだろう。

今日の場合はそんなに驚く様な問題迄には、発展しなかった。
第一回目の打設後のチェックだから、話題になっただけで他は大丈夫という事だ。

これが上階へと慣れると、私の耳には入っても目には達せない様に福原君が調整つける筈だ。
《失敗部分は早く直せ!》
が鉄則だ。
ブサイクなまま何日も手を加えない神経になっていると私の雷が落ちる。

自分達で内緒に手直しをしても、月締め時に請求書に現れてくるものだ。
「こりゃ何じゃい!?」
という事もよくある。その時笑って、
「失敗したのバレちゃったの?……か」 

なんて言う様になると(この業界より足が抜けられなくなった)と自覚するだろう。

皆、失敗して勉強しているンだから、私も厳しく追及はしないけれど福原君のみならず、
(次から頑張って気をつけるぞ)
と言う気持ちを若い職員達が持ち続けていてくれれば、私の役目は終わりだ。

2階の工事が始まって早々に「ドキッとした」という事はこの階にはまだまだ何か起こる予
感がする。
決して悪い事は起こさないぞー。

         

 

 

 


1階コンクリート打設日。

2023-02-14 09:05:46 | 建設現場

六月  八日(火) 晴れ/曇り  

 1階のコンクリート打設日だ。天気は晴れ後曇り。
この一週間の何と早かったこと、慌(あわ)ただしかった事だと振り返ってみている。
久し振りに現場に長く足を留められる。

 Kビルはコンクリート打設前の、そうね《王手飛車取り》位の段取り以後、どうなったかを
じっくりチェックする間もなく、今日の日を迎えてしまった。

 型枠が斜めになっていたら、そのまま斜めのコンクリート壁が出来るだけの事だけれど、窓枠
や配管用穴が間違って付けてあるとどうしよう・・・という不安もある。もう腹をくくって、
「打ってしまえ!」
と言ってはいるものの、私のハートはストップモーションだ。

 朝の7時には土工が型枠に撒水(さんすい)を始めている。
型枠面にイヤダと言うくらい水を含ませておくと、濡れた型枠に生コンの水分が吸い取られな
くて、キレイな表面のコンクリートが出来る。

 だから私は撒水本来の目的は《表面重視の為の水洗い》だと土工にはウルサク言う。
生コンは水平に打つ事(プールに水道から水を入れる状態)を原則としているが、鉄筋という
邪魔物がある。
バイブレーターで振動を与えるか型枠を叩いて生コンを水平にさせるかだ。
気を抜いていると生コンは《おむすび》の如く山になるので、土工も気合を入れねばならない。

8時から打設開始だ。
朝礼もラジオ体操も10分前には行って生コン車を待つだけになった。
「所長は雨男だから心配したヨ、晴れてよかったネ
と伊藤組の高田さん(土工の世話役)がわざわざカッパを着て、雨降りのスタイルで来た。

「俺は運だけの人間だから、大丈夫だ、降りはしない」
曇って来たが雨の心配はなく、1階のコンクリート打ちが始まった。

バイブレーターがビービー音を出す。
土工が型枠を木のハンマーでドンドンドンと小刻みに叩く音が、いかにもコンクリート打ちだ
という気分を盛り上げてくれるものだ。

「ここだぞー」
と言う声を聞いてドンドンドンと小刻みに叩(たた)いていると、コンクリートが入って来ると
音が変わる。
変わりかけた所を集中して叩く、一日中叩くのはまるでキツツキみたいだが、この壁、柱は叩き
かたの能力によってコンクリートの仕上がり表面が随分違う。

バイブレーターに頼ってスラブの上からだけだと、型枠内へ入っているのか、詰まって下へ
流れないのか分からない。
昔のように『竹』で上から突くのが良いコンクリート打ちなのだが、今の時代は電動となった。

                                   
コンクリートの汁がポタポタと型枠の隙間から落ちて来る。
体が濡れて乾くとセメント分が作業服に白く現れて来る。(だから合羽(かっぱ)を着るのだ…)
建築現場を嫌う項目の一つのK『汚い』がここに有る。

 躯体工事として節目としてのコンクリート打設工事だから、各階へ打ち上がって行くとき、
昔はお祭り騒ぎにも似た『華やかさ』があったけれど、今は打設そのものを最重要視する感覚
は無い。

 ポンプ車圧送、生コン購入となってからは『現場練り』の必要がなくなったのは最も進ん
だ工法の一つだが、これからの時代、今の体力勝負の重労働状態が続くと若者はこの業界に
入らなくなる気持も理解出来る。
が、今日は打設中だから余分な考えは持たない事にした。

 10時現在打設数45㎥だ。
ペースとしては順調だ。階高の半分迄はほぼ水平に打ち込んだ。

スラブ(2階の床になるところ)を均(なら)す左官工も到着した。
彼達は昨夜も残業でコンクリート直押さえをやって来たと言う。
まだ今日はスラブを押さえる迄時間があるので車の中で休んでいる様、指示した。

しかし、左官工も現場内へ入ったら職人魂が丸出しとなって、コンクリート打ちを手伝って
いる。
バイブレーターのコードを鉄筋の引っ掛かりから解いたり、足代上の通行の邪魔になるもの
を片付けたり、何かとこまめに働いていた。

11時にはもう2階スラブ(2階から見た床)の上にコンクリートが上がって来た。
土工は壁の叩きが終了し、『目鼻が付いた』という気持ちだろう。

1階内でコボレているコンクリートや流れ出たノロ(モルタルの水分の多い不良品)をバケツ
で処分したり、高速洗浄機で洗っている。
所々打設中に抜け落ちた『さし筋』を拾っては差し込んでいる気のきいた土工もいた。

 左官工はコンクリート直押さえだから、レベルを足代上にセットして高低差を3㍉以内に仕
上がる様に監視をしている。
何分にも固まる迄本当の水平精度は測れない。

押さえて仕上がって行く段階で、コテの力によっても表面の厚さ3㍉程度は誤差が有るものだ。
2時頃になって残り1台分の5㎥以内で終わる所迄になった。
 スラブ上で皆がザッと見渡してみて追加が4㎥だの4.5㎥だの5㎥あれば余るだのドン
ブリ勘定が始まる。

それより1台前の生コン車が打ち終わる迄にラストの車は何㎥必要かが計算のしどころ、
監督の腕のみせ所だから、素早く計算して、工場へ連絡する。
余分に購入してもいいが1㎥1万円以上もするのだから0.5㎥単位で発注し、余ったコンクリート
分はムダ金支払いになってしまう。
打設事に毎回0.2~0.3㎥は生コン車に残り処分するのだから生コン予算からオーバーするのも
致し方無いが、積算通りに数量は収まらない。

 最終の生コン車が到着する間、左官工は押さえ仕事をしているにしても、土工は片付けも
出来ず、(下階はもう片付いているし)酒もまだ飲めないし、疲れを癒(いや)すのにただ座
って待っている・・・。

この無駄な時間は雑談には都合がいいけれど、手待ち時間を金額換算すると……。

 やっと落ち着いた気分となったのは5時を廻ってビールを飲んだ時だった。
 左官工は直押さえが一通り終ったけれど、夜10時に再来してもう一度頭を張る(表面の押さ
えを仕上げる)事を約束して、ひとまず帰って行った。

 照明設備の水銀灯と投光器をセットし、我々も事務所で『御苦労さん』の乾杯だ。
早出して深夜迄、長い時間働いた気持ちよりも、1階を打設完了した充実感で一杯である。

《建築屋》としての気持ちのいい一日であった。

 

 


起工式とパトロール

2023-02-01 09:17:40 | 建設現場

六月  七日(水) 晴れ 

天気も良くM店舗起工式が九時半から始まった。
式には施主、地主、入居予定のオーナーと担当者、設計事務所所長、銀行関係、地元の世話
役、わが社からは支店長他………かなりの賑わいをみせた。

 これだけの『役付き』が集まるのも、最初で最後だろう。竣工式があったとしてもここ迄は
(そろ)わないだろう。

起工式が始まる前には相変わらずの名刺交換が繰り返されていた。
(日本人だなあ)
と思うのは頂いた名刺ですぐに相手の名前を言えない事だ。

「所長の福本です」
とは常々言ってるけれどすぐに、
「○○設計事務所○○さんですね」
と言い返す時がない。

 名刺を一方的に出して、又頂いて、名前と顔を一気に覚える術に私は弱いのだ。
フルネイムで一度は施主なり設計者と話をしてみたい。

 そんな中で式の始まる前に支店長から、
「今日は昼から(確か・・・帰りに)君のKビルに立ち寄るけどいいネ?」
と言われた。
驚きよりもマサカ―――だった。

 何を隠そう事か、支店長は今日私のKビルには労務安全部の安全パトロールが巡察に来る事を
御存
知だったのだ。
そのメンバーに当初(先月20日頃) から入っていたもので、予定表はまだ生き残っていたのだ。
支店長の予定表を考察すると、午前は起工式で午後はパトロールとインプットされていたのだ。

私、私の頭の中には――― 
(その日は遠慮してくれよナ)
と儚(はかな)い望みで労務部に打診したけれど、
「変更はしない」と掛け持ち辞令の時に却下されて―――少しは記憶に残っていた。

「行く」という人に「来るな」とも言えず、今日はありのママを見てもらうつもりだった。
だが支店長が実際に立ち寄るとは計算外だった。
今更バタバタしても始まらない。明日はコンクリート打ちだから、現場の状況としてはあまり
不備な点はなく、A90点は頂けるだろう。

 タイミング的には良い方だろうが、午後には配筋検査もあり、確認とか打設直前手配チェッ
クとかプレッシャーの掛かる時に―――取り合えず公衆電話に飛びついて現場に連絡だ。

(そんなこと勝手にやってくれ、何考えてンだこのクソ忙しい時に・・・)
と聞こえそうで聞けなかった福原君の声だった。

今、オーナーには悪いけれど起工式の気分はさめていた。
一刻も早くKビルへ帰り、受け入れ準備を点検しておきたい……。

 現場をおおまかに一廻り点検出来ない内にパトロール隊が来て、支店長も到着された。
めったに揃わない豪華メンバーの安全パトロールだったので記念に名を残して置くと、
K支店長、I建築部長、K工事部長、N所長、N機材センター課主任、協力業者は木工事の
T専務、電気工事のK部長、そして当社労務安全部S課長の合計8名也。

支店長の出席情報をキャッチして、義理(やむなく)的に参加したような顔ぶれでもあるが
寄ってたかって私の現場を見たいものでもなかろうに・・・と私の心はつぶやいてもいる。
多分、支店長の手前かなりキツイ意見も出るだろうと覚悟を決めて現場を見て頂いた。

「ありのママを見て頂いた今回だから忌憚(きたん)なく言って下さって結構です」と私。
「言わせてもらえば―――」
とパトロール隊は私の見過ごしていた(この位はいいだろう)という事を追及して来たので、
弁解の余地は無しだった。

来月はM現場もあるので御苦労さんだが、頼むよ」
とK支店長から慰められてるのか、誉められているのか言われて返答に困ったものだった。

朝の予想に反して評価は悪かった。
88点、減点項目6カ所、評価B。特記事項、月内再パトロール実施のこと。

是正報告書には写真を添えて『一週間以内に支店へ提出して下さい』との事だ。
毎度お決まりの書類だけれど、是正ヶ所の写真まで添付して誰が喜ぶってモノなのかネ。

 事故が起きては遅いし、その責任を所長全てに背負ってもらわなくてもという《親心》かも
しれないが、検挙されるのは『統括安全衛生責任者』なのだ。

 来月は掛け持ち故(Kビルも安全注意が手薄になり)もっと指摘事項が増えるだろう。
それがイヤならば
「今からもっと安全点検に注意を払え!」という事なのだ。

掛け持ちだから、安全監理の質が落ちるという様では
《その器(うつわ)でない》
と査定される事だな。

(多少の危険ヶ所には目をつぶっているから、とにかく掛け持ちでやってくれ)
という様な会社なら何とかなりそうだが、現場の大小を問わず一様な監理書類も、期日提出
を求められているのは何だか変だ。

10億でも5000万円の建設現場でも、統一様式の画一的な安全監理を押し付け?るのは何故だ。

「小さい現場ほど安全監理費も少ないけれど、危険カ所は予算に合わせて減少しない
と本音をズバッと言ったので、来月はM現場とも厳しいモノ(ジュンサツ)になりそうだ。

安全パトロール中にA設計事務の中島さんが来られて配筋検査が行われた。
今日は何と色々な事が重なっている日なんだろうか。

「後は所長に任せます。よろしく………」
と今日一日で何度聞いた事かね。
そんなに私、責任とやらを担(かつ)いで歩く力は有りません。

誰も助けてはくれないし
「助けを呼んでも太平洋のド真ん中、サメに食われない様に泳ぐだけ
が今日の私の心の叫びだった。

明日のコンクリート打ちの天気は「晴れ後曇り」を聞いて大分気持ちが救われた。
疲れたとは言わない、色々あったが明日はコンクリート打設だ。頑張ろう。


起工式前日なのに

2023-01-19 08:33:17 | 建設現場 安全

六月  六日(火) 雨/曇り     

予報通り雨が降っている。
昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。

「テントの準備は昼から雨が上がり次第取り掛かるので、今トラックに積み込み中です」
との連絡が入った。

午前中には上がりそうな小雨だ。明日の式典は足元は多少悪くても天気は大丈夫だろう。
昼の状況を見て、せめて来賓客の靴が軟弱な土に埋まり込まない様に、足代板を敷くかどう
かを判断しよう。

昼から社内検査があるので、昨夜途中でやめてた書類を再び何とか『恰好を付けよう』
チェック項目のバックデータとなる写真とか試験表、成績表、計画書等をファイル別にして整理
をした。
 捺印迄したら真実性のある?様な書類となった。

 しかし、建物を創るのにこんなに書類が必要なものだろうか?他のゼネコンさんも監理書類
を作り、安全を気にしながら、こんな事を各現場で毎日行っているのだろうか。

『監理書類』
といって建設現場にて書類を作らせて、支店でまとめて本社へ提出し、それで終
わり。
正直に書くと本社に見せられない内容になる部分は支店でカットするだろうし、我々も
問題になりそうな事は隠す。

 隠した部分に意義、難問が潜んでいるのに、表面ズラの良い部分ノミを提出して
『報告書で
す』
と言うこの悪い体質をまかり通しているのは何故なのだ!?何なのだ?

  昔、日本帝国が敗戦敗退にもかかわらず「勝って勝って………」
と国民放送したのと、工程
が遅れてかなり苦しい時でも
『大丈夫です』
と報告するのと、どの位違っていると言えるのだ
ろうか。 

設計部長の検査はA設計事務所に対しての《提出書類関係》全てに目を通して頂いた。

打ち合わせ簿の中でも後日問題になりそうな所は別紙報告書としてお互いの確認印を
取って
おく様に言われた。
確かに設計事務所から『お願いされた工事』は追加工事又は変更工事とし
ての、はっきりと
した指示、図面で頂けるモノは余り無い。

「明らかに追加指示したもの以外はサービスだ」
という含みを持った設計事務所との打ち合わせが、近年特に多く感じられる。

 はっきりさせておく事は『商業取引の原則』だと私は認めるけれど、建築屋さんは商売人で
なく技術屋(職人のモトジメ)だから《ゼニ儲けに走る》なんて言うよりも、
『いい仕事をすること』
だと自負しているのは、立派な考えか、肩肘張った『見栄』か《ハッタリ》なのか・・・。

これも仕事の内だけれども、やっぱり現場は大きなプラモデル作製途中の子供の気持ちと
じく『純粋』なものだ。徐々にでも出来上がって行くのが楽しくてしょうがないのだ。

「工事途中にミスがないか?」
のチェックはあり難い事だし、素直に受け入れた人が、
『いい仕事が出来たねと振り返られる物が創れる』
というのは建前だけれど、本音を言わせてもらうと―――今日はよそう。

四時頃支店から式典確認の電話が入った。
「テント出来ましたか?支店長も出席になりましたので………式の後、近隣挨拶を・・・」
(バッカ野郎、テメエの目で現場見て来いってンだ、式典迄は工事人の出る幕じゃあねエ) 
と言いたいや、言いたいよ。

「支店長も出席の一言にカーッと来た。(出席して当然だヨ)
自分の上司が来るので自分の都合だけ考えていて、不安になって現場へ電話を入れる。
大事な物事なのに何で自分の目で確認しないンだ。

支店からそんなに離れている訳でもないのに何故、何故動かないのだ。
(これが建築会社の上級事務担当者のいう事なのか)
と思うとあまりにも情け無くなってしまった。
  起工式の後はKビルの安全パトロールが控えているという『気ぜわしい身』なのに・・・。

五時半、日没寸前にM店舗へ行った。
営業担当の岡田君が辺りを掃除してくれていた。これには感謝し、又、感心もした。

一応現場状況を確認しておくのと、式典の準備で忘れモノがないかをテントの中で今一度
ェックした。
「所長、急で悪かったね」
いつもの事でネ、慣れているサ、もう……」
と軽い冗談だ。
喫茶店でコーヒーでも飲もうと誘った。

「ここの現場を取る(受注)迄にはねえ・・・」
と苦労話、ウラ話を聞かせてくれた。(営業も楽じゃないんだ……)

 と言えばそれ迄だけれど、岡田君の顔には、
「俺が取ったんだから責任があり、これからも責任は続く」
という自負が伺えて頼もしく思えた。

「四ヶ月の突貫工事だけれど仲良くやろうよ」
 と約束した。

あわただしく時間を追っかけた様な一日だったが、最後に岡田君との出会いで落ち着いた気分
で仕事を終える事が出来た。
明日からは本当の『掛け持ち仕事』開始となる訳だナ。頑張ってみよう・・・。


現場兼務命令下で

2023-01-05 17:02:30 | 建設現場 安全

六月  五日(月) 曇り   

兼務先の現場名は『M貸店舗 新築工事』請負金7,500万円。鉄骨平屋建てだ。

テナントはブティック入居がもう決定していて、Kビルからは2㎞以内の所であった。
起工式用草刈りの打ち合わせもその他の連絡先も、全てKビルからの発進FAXである。 

「所長のことだから出来るよ、心配しなくても……」
なンてお上手を言うのも親方の営業なのだろうか。
今はとにかく時間が無いのだ。

(この2日間で終わらせるのだ)と私は色々と手を打った。
悪いことに明日は雨の予報だ。
今日中にやるしかないので、テント張る部分の草を手で刈る
予定を急遽変更してミニ
ユンボをリースして、一気に敷地全体を鋤(すき)き取る事にした。

三時頃にはセイダカアワダチ草がここに生えていたなんて思えない位(草の根は多少残って
たが)になっていた。

 乗用車が乗り込めるように道路からスロープも作ったけれど、鋤き取った分だけ地盤が軟ら
かいので、何度も通れる様な地盤ではないが3時半にはもうダンプで式典用の砂を入れた。

 なんとかこれで明日雨が降ってもテント張りは可能な状況には仕上げられた。
  テント張りと式典準備は専門のリース業者に発注してある。 

 5時半頃にKビルに戻ってみると、
「明日支店からKビルの『社内検査』に秋田設計部長が来られます」
とN子の書いた小さなメモが机の上で威張っていた。

(こんな時に―――こんなメモなんか風で飛んで行ってよ……私は知らなかった)
と言い訳をしたいものだった。

もう……もう涙も出ないという気分になってビールを飲んで落ち着く事にした。
何だか気分だけが焦っていて、浮わっついているのが自分でも分かる。
とにかく今日、一つ
はやる事をやって来たのだから・・・ね。

「コンクリート打ちは予定通りなのかね?何か困った事はなかったかネ?」
Kビルを見渡しながらF君に訊たが、きっとキツイ言い方をしたのではないかと反省する。

彼自身も責任をもって(持たされて?)の1階の型枠・鉄筋工事が完遂しようとしている。
後は上手に生コンを手配し、打設出来ると、2階から最上階迄は彼自身も《ペース配分》が
出来る様になると思う。
とにかく良く頑張ってくれている。
もうひと踏ん張りだよF君。

後の仕事としてはA設計事務所の『配筋検査立会い』が残っていた。
打設日は既に連絡済なので明日の午後には来られると思うが、確認の電話をしておいた。

「現場ではこういう風にチェックしました」
という自主検査チェックリストを提示するつもり
だ。
それに明日は社内検査として支店設計部長のチェックを受ける。
その結果報告も書き加え
ておくと内容の濃いチェックリストになるだろう。

「自分でチェックしたらダメでした」
という報告書になる事はないだろうけれど、鉄筋工まか
せでなくて
『我々で監理しているのだ』
という姿勢も必要だと思う。

梁筋は完了しているが、まだスラブ筋の組立が残っている。
私はスラブ型枠へ上がって見た
けれども、後一日半の仕事だと思えるし、水曜日の午後からは
2階の準備にかかれる。

明日はM現場は式典テント張り、周辺掃除、Kビルは鉄筋工はスラブ筋とさし筋組、
大工は返し壁、階
段の段板取り付け、通り直しだ―――とF君と確認した。

明日もKビルはF君にまかせっきりになって、彼が現場を取り仕切る時、迷わなくて済むよ
うに2~3ポイントを指示しておいた。

もう1本ビールを飲む。
今からでも明日の検査受入れ態勢としての書類を整理しておこう。

しかし(このクソ忙しい時に)とついついグチってしまう。
これも私の現場の為だと分かっ
ていても、私自身の為だと分かっていても『素直』になれない
のはどうしてだろうか。

検査とか試験とかに対して『構えて』しまうからだろうか。
別にイイ所をみせなくて、当た
り前の所を評価して頂きたいのだが、着工から今までの工事の
中で、忘れている監理項目がな
いか、手配ミスが起きそうな所は今から手を打っておく意味の
チェックでもある。

工事写真も中間出来形検査をしておいて、役所へもサッと提示出来る様にアルバムに整理して
おか
ねばならない。
明日迄には間に合わないけれど、今日現在の土間工事完了分迄はビシッと決めておこう。
ズルイけれど《今日の明日》では日々の監理不充分だと言われれば、
「スミマセン忙しくて」とでも答えるか、不本意ながら・・・。
十時を廻って、やってもキリがないので帰宅した。

 

  六月  六日(火) 雨/曇り

 

 予報通り雨が降っている。昨日M店舗に式典用の砂まで敷き込んでいて正解だった。

 


1階コンクリート打設前に

2022-12-16 08:33:47 | 建設現場 安全

六月  三日(土) 晴れ

久し振りに気合の入った土曜日だ。

2階のスラブ(床面)になる所で鉄筋工が10名もいて梁筋を組んでいる。
梁底を結束するのに伏せて手を伸ばした所へポケットからタバコを落としたとかスケールが
落ちたとか賑やかなものだ。
これを『現場の活気』とでも言うのだろうね。

 昨日の夕方に梁底のノコ屑を掃除したのに、もう、鉄筋を結束していた細い番線とか符号を
つけていた紙名札が梁底に散乱し始めた。
梁筋を組むと手を突っ込んでも鉄筋の間に引っ掛かって取りにくい。

 先を尖(とが)らせた銛の様なものを作って板切れを除去したり、桟木(さんぎ)にガムテープ
を巻いてトリモチの様に紙屑や吸殻を取っている。
軍手が落ちている事も良くあることだ。 

『コンクリートを打ってしまうと分からない』
と思うのは浅はかな考えなのだ。型枠解体を行うとタバコも軍手も、時には板切れも現れて
来るものだ。

コンパネ(型枠用ベニア板)に墨出しとか赤チョークで現地打ち合わせして書いた時の数字文字
や略図が、逆さ文字となって迄コンクリートの表面に現れる場合すらある。

スラブを貼る頃になるとコンクリート打設日を決定したらもうズラせない時に達して来る。
天気を読み、作業速度を考えて、余裕も考慮に入れて打設日のセットを行う。

Kビルの1階のコンクリート打設は6月8日に決定した。
少し無理だと思えるが、9日はR現場が600㎥近くのコンクリート打ちを決めていて、重な
ると困るのは私の方だ。
大きい現場へ職人は流れるものだし、その後に私の現場へ来れば、気の抜けた状態
(昨日はエラかった)
という人達で『覇気』がない。
私はその辺の事情も今の現場の世話役さん達に正直に伝えた。

「雨がなかったら何とかなるさ」
「明日出て来てもいいのなら出て来るヨ」
「日曜日は近隣対策上困るサ、朝っぱらからドンドン音が出ていたら、隣のマンションから
苦情じゃ済まない事件になりかねないので、日曜日はダメ、音の出る仕事は絶対にダメだ」
と念を押しておいた。自主的に出勤もダメだけれど……。

 5月のゴールデンウィークの時は事前に了解を取って、朝8時30分から17時30分迄で
仕事を終了したけれど、午前中は極力神経を使ったものだった。
やはり室内作業にならない限り音は『騒音』と受け取られても仕方ないと思う。
(久し振りの休日の朝だ)という人も中にはいるだろう。
とにかく近隣とも仲良くするのが一番だ。

十時の休憩の後だった。
土曜日にしてはめずらしく支店からI建築部長の「すぐ来い」コールだった。

「今日は半ドンですか?」
「当たり前だ。お前が来るまで待つからすぐ来い!」
「一体何ですか?」
「君の(お前とは言わなくなった)現場の近くに一つ現場が出るので《兼務辞令》を出したの
だよ。7日が起工式だからすぐ段取り付けに来い。打ち合わせとく事も有る……」
との強烈パンチが耳にバンバン入って来た。

(冗談じゃないよ全く、今日は最近でも特に神経がピークになっているのに、兼務、兼務とは
現場監督の掛け持ち―――冗談じゃないぜ)
と言えないのがサラリーマン下役のつらさだネ。

「仕事の話は後日でいいが、起工式の打ち合わせを至急したい」と言う。
(起工式の段取りの打ち合わせ内容なら、FAXでも送って頂ければ何とかしますヨ)
と強がりを言いたかったもののそれも言えず、とにかく支店へ行って打ち合わせを行った。

月曜日には式典用に草ぼうぼうの土地を整地して、火曜日は式典のテントを張って水曜日が
起工式で、木曜日がKビルの1階コンクリート打設。何というスケジュールだ。

部長から設計図を渡されメインとなるKという会社を紹介された。
何にせよ掛け持ちなのだが、体は一つだ。給料は上がりはしないし、結局は忙しい思いが
増えるだけだ、全く・・・。

 ブツブツ言いながらKビルへ戻った時、やっと昼食にありつけた。
2時半を廻っていたし、まるでオヤツだ。食欲減退だよ。

せめて、このKビルの1階コンクリートを打ってから
『兼務辞令』
であって欲しかったなア。


刑務所に舞い戻って

2022-12-04 09:20:28 | 建設現場 安全

   五月二十九日(月) 晴れ

 一年振りに刑務所に舞い戻った。

 去年の三月に出所?したから15ヶ月も経っている。
苦労して建てた建物だけに懐かしさも格別だ。
(まさ)にここでは『塀の中の懲(こり)た面々』だったモノね。

今日の用件は地盤沈下の測定だ。
 完成した時点で杭のない建物や道路の地盤沈下は想像以上に現れていた。
刑務所として広い敷地を確保の為には山を削った所もあれば、沼を埋めた所もあったそうだ。
以前にも少し言ったけれど、こんなに広い敷地なのだから、この下に何が埋まっているやらだ。

沼を埋めた時ユンボが埋まってしまい引揚げに来た湿地用ユンボも動けなくなって、多分一台
は埋まっている(刑務所用地だからとにかく造成)筈だという言い伝えも残っている。

工事中に地盤表面の悪い部分を深さ1.2m位迄掘削し不良地盤を撤去改良した記憶も残っている。
だから杭打ち工事には困難を極(きわ)めたものだった。
予定の杭長を打っても支持地盤に達しないのでさらに打ち足したり、その1mも離れない隣の
杭はたったの3m打ち込むとこれ以上打ち込めないとか………

8m杭の半分近くが電信柱の如くそびえ立ち、杭打ち機械が旋回出来ない時もあった。
本当に3000本以上の杭打ちで塀の中の『懲りた面々』になってしまったものだ。

高さ4mの刑務所独特の塀の中には5m道路を延500m位は造ったし、建物間をつなぐ渡り廊下
では中央部分を歩いても延1000m以上もあるので歩くにはいい運動になる距離だ。

我々が渡り廊下を『イッチニ、イッチニ』と掛け声を出して歩いている(揃(そろい)
ねずみ色の服を着てる)人たちを見ている以上に、我々の行動を独房から猫でも見る様な
視線が(殺気迄はいかないにしても)感じられ、塀の中は何が正義なのかが逆転した感じだ。

 我々測量班三名が、看守の人達によって守られているのだから、当然我々は団体行動だし、
私も雀鬼も役満のケンさんだって、一人でトイレにも行けないのだった。

 でも一年経っていても現地に戻ってみると『ここは何号棟だ』という記憶はフラッシュバッ
クされるものだった。獄舎ふくめて50棟以上もあったのにネ・・・。

 水を飲むにはあそこが近い、電気はあの壁からとか、このマンホールからこっちは・・・等
と思い出して来る。
でも鍵は持って無いし、施錠開錠は二~三個の鍵が必要な事も知っているので、万一開いて
いたドアに勝手に入り込んだとしたら出られない部分もある。

工事中、竣工間際になって鍵を付け始めた時、閉じ込められた職人もいたなあ。
窓にはびくともしない鉄格子があり、絶対に出られない……鍵は我々の預かり知らぬ事だか
ら本庁(霞関)へ連絡するから夜までには……とよく困らせては楽しんでいたっけ―――。

 そんな事を思い出しながら道路の縁石の天端を測量している。
約6m毎に側点マークがペイントしてある。
配置図にもポイントが書かれているが500分の1の縮尺図面でもA3で六枚位に分割コピー
して小脇に抱えての仕事だ。

犬走りとアスファルト舗装面は同一(段差は不可)だったのは検査が厳しかっただけによく
覚えている。
これが今つまずく様に段差が出来て簡易アスファルトで盛り上げて補修している部分が多い。
鉄筋コンクリート部分は何とか持ちこたえているがEXPジョイント(動きを想定してある所)
は想定値の倍近くも動いている所もあった。

 敷地全体も相当沈下しているのは一目瞭然だ。
杭のある建物部分はしっかりしているのだが道路に杭は打っていない。
まさか設計者もこんなに地盤沈下するとは想定出来なかったろう。

 測定しながらも何か間違って寸法を測ってるのではと再々疑ってみたものの、現状を把握す
る事が先決だとして作業を進めた。

今までにも何度か土木測量屋さんが実測値を提出してあるけれど、一向にデータ分析が出来ない。
沈下もあれば上昇部分もあり、前回(1年前)と今回の差がかなりひどい部分もある。

とにかく前回から測って九割近くも変化無しなら、沈下終了に向かっていると誰でも判断出
来るだろうが、なにしろ縁石面を測っているのだから、車が乗り上げただけでも前回と同一記
録を望むのは無理だと私は主張した。

 昼迄には終わらず、3時になって足も腰も目も疲れて来た。
何か意味のない事をしている様であって、気持ちも乗らなくなった。
これを後3回(半年毎)は行うのだから、なんらかの方法でスピードアップを考えねばなら
ない。とにかく塀の中は(懲りて)しまった。

    六月  一日(水) 晴れ  

 毎月一日は安全大会だ。

 今月の主要工程の説明をして、それに伴う安全チェックポイント《危険予知活動》として
15分間のミーティングだ。
私の方からの一方的な安全対策の押し付けでなくて《皆で考えよう》というテーマだ。

日々の安全点検も重要であるが、職人さん達が集団の中でも安全衛生について自分の意見を
述べる機会があってもいいと思う。

「命綱はもう少し上になってからでいいでしょう」
「100ボルトの電気の差し込み口を増やして下さい」
「○通りの材料は△△日迄に動かしておかないと出し難くなりますヨ」
「掃除道具とゴミ入れ用の袋を階段室付近に増やして置いて、皆でゴミを片付けよう」
「灰皿の中に燃えやすい物は入れない様にしましょう」
「休憩室に扇風機が欲しい、もう暑い日が近いので」

一人が発言するとそれぞれ勇気ある提案が飛び出して来た。
普段でも私に対しては言っている事を、更に念押しするかの如く言われてしまった。

一言でも皆の前でしゃべったら、次(来月)は何を言おうかと各々がテーマを探して来る様
になる。
それが安全に少しでもつながればそれに越した事はないけれど、
(俺たちもこの現場で作業しているんだ)
という喜び又は自覚が芽生えて来る事を私は願っている。

一言自分が発言しようと思っていた内容を他の人が発表するとすぐに第二弾の意見、考えを
言わねばならない。

「今さっきも△△さんが言っていた様に○○をお願いします」
と簡単明瞭な発言を下すのは要領のいい人というのかケガを起こし易い人というのか、今一歩
の安全性に欠けるものだ。

「言い足りない点や言いたい事は事務所へ何時でも言いに来て下さい、今日の安全大会の記念
品として『安全マーク入りのタオル』を配ります。もらった人から解散して結構ですが、これ
からも安全作業でお願いします」
と終わりの挨拶をした。

本日の参加者は型枠工8名、鉄筋工4名、電気工3名、土工3名全員参加の安全大会であった。

六月も無事故で乗り切ろう!


 

 

 


雨降りには見学会を

2022-11-19 12:09:18 | 建設現場 安全

五月二十六日(金) 雨/曇り

土間コンクリート打設も雨の中、そして昨日も今日も雨が降っては止んだりの繰り返しだ。

「カッパ着てもKビルは仕事が出来るだけいいよ」
と職人さん達も何日も続く雨模様に、とうとうシビレを切らして出向いて来る。

お蔭で予定通りKビルの工程は進むので有り難い事だ。
濡れた服を乾かす為の石油ストーブが重宝がられてきた。

「所長、冬迄まだ間があるのに、夏に向かってるのに、ストーブ入れて気の早い……」
と1ヵ月前に机と一緒に持って来た時にアザ笑っていたシロモノが、休憩所の中央に鎮座(ちんざ)
ましましている。
 私自身もこれほど使うとは思ってもいなかった。

雨で作業能率は多少落ちるけれど、昼飯時はニギヤカだ。
服が乾く以上に一肌脱いで花札で頭までカッカの人もいるし、小遣いカセいだというルンルン
気分の人もいる。

大工さんグループ対鉄筋工で将棋を指している時には、横でワーワー傍目八目(おかめはちもく)衆が
楽しんでいる。
ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり・・・
「あっちだ、ここに銀打て!」
と言われた通りに駒を動かすハメになっても楽しい一時である。

午後から定例打ち合わせ会がある。

そろそろ外装のタイルの色を決めて(二~三色試験焼き)製作しておかないと、色違い、色
ムラ等のチェックが出来ない。

『この色でOKです』
の確約を取ってから工場製作にかからないと、とんでもない失敗談に発展した話も、よく耳
にしている。

A設計事務所のA所長の意見とオーナーの好みの色との調整もあるが、設計を行った段階で
建物の色のイメージもA所長は掴まれているので、オーナーに説得されるにも迫力があった。

「お任せ致しますわ……よろしく」
とオーナー奥様の一言で決まり。
簡単に決まった物ほど簡単にくつがえる事が多い。

「一応これとこれ、その中間の三色で見本を作ります。二週間先の打ち合わせ時に間に合わせ
ますので、その時に決定して下されば結構です・・・」
と要望を出す私はかなりズーズーしい奴だ。

「今日は現場はヒマだからA所長の設計された建物の見学会に行きましょうヨ」
と話がまとまった。
  幸いにこの付近にもあるし、
「今までの打ち合わせ時に出て来た《建物》も見ておきましょう」
ドライブで打ち合わせ会の事となった。

―――車内での会話、
「このマンション△△建設が創ったけれど、このタイルの色より少し明るくしようヨ・・・」
「あれはバルコニーの感覚で南面にアクセントを付けた・・・」
「テナントの要望は建物のインパクトが大きい事と車が置ける事ですぐ入居者が一杯になる。
平凡な事務所では入居状況が悪い・・・」
「このくらいの色がKビルには似合ってるヨ」
と自信満々で話をされた。

(なるほど―――それが理屈と言うものか・・・)
と私の口は言いたそうだったけれど、ここは黙って相づちを打ってしまった―――

 雨がまた降り出している。
 雨で思い出したけれど《デザインに凝った設計》ほど雨が漏る。
 屋根が有ると樋が必要なのに「不細工だから中止」と言った先生にも出会ったものだ。

ここのKビルも外観こそA所長の言われたインパクトの強い建物であると私も思う。が、
『防水工事にはキビシイ!』
と職人さんからの前評判通り、防水には大変気を配ってある設計だ。

『雨、露を凌(しの)いでこそ建物だ!』
と私は常々言っている。

私の経験からでも《雨漏れ》を直すのは最も困難な仕事だ。
雨が降っている時は補修が出来ない(水分があると材料がくっ付かない)し、晴れると
どこから漏れ伝うか分からなくなってしまう。
この辺りだったとおおよその位置をマークした付近をダイナミックに補修しても、その隣か
ら漏れ出す事も多い。

A所長も私も後から雨漏れで手直しに出向くというのは恰好悪いのは百も承知だから、過剰
防水工事となる位迄、気を配って施工しようと意見の一致をみた。

 約2時間のドライブ見学会であったけれど、風景を眺めながらの打ち合わせ会も『本音』が
聞こえて、面白い趣向だった。―――

 一般に設計事務所の所長さんの発言に対してゼネコン側は《絶対服従》に近いという観念が
強い。
 私は誰とでも同じ様にしているつもりだったが、今日の車内打ち合わせ会でA所長とは今日
やっと『仲良し』になったという気持ちになった。

 私は自分の欠点を「人見知りする、最初は取っつきにくい人だ」と分析している。
初対面から1ヶ月も経った頃に私の第一印象の話が出て来ると、
「怖い人だ、どうしよう、帰ろうかなと思ったよ・・・」
とよく聞かされたけれど、今となっては私と冗談論争で、
「所長は心臓に『毛』どころか『鉄筋』が入っている」
なンてズバッと言ってくれる。

こうなると、
(俺はここでは一番偉いンだぞ)って威張ってられなくなってしまう。
でも協力業者の世話役さん達と好き勝手放題に話が出来る、アットホームな雰囲気が私は大
好きなのだからこれでイイと感じている。

怒鳴って仕事するよりも、笑って冗談言って仕事をしたって、創(つく)るものはキッチリ創って見
せますからネ。
楽しく創って行けば、仕事も苦しいとは感じない―――そう思っている。