建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

仮囲いに遊びの絵でも

2022-11-05 12:29:00 | 建設現場

  五月二十二日(月) 曇り

 道路に沿ってのバンノー板仮囲い(高さ3m、鉄板製)の塗装をしている。

 鉄板に各々の現場で何度も塗りたくっているものだから、塗料にも厚みが出ている。
ハンマーで叩くとパリパリとペンキが剥(はげ)落ちる部分もある。
弋工が組立中にも塗料の破片が剥がれて、側溝に落ちたので泥の片付け兼用に掃除をした。

仮囲いの色は各ゼネコン(建築会社)も各社独自のカラーを守っている。
私の所も、
色はいつもの通りだよ、面積は210㎡だよ、よろしくね」
とだけで、清水塗装店の原田さんは一切を仕切ってくれた。

『名古屋デザイン博』があるのに、この仮囲いに所長のセンスで色を塗ると街もキレイに
(にぎやか)になれば、少なくとも現場お決まりの殺風景さは少なくなると思いませんか?

サイケディリックな絵も良いし、デザインだと言う絵も面白いのだが、塀(へい)があると落書き
したくなる《イタズラ心》はどこに行ったのでしょうか。

―――昔―――――
    K小学校の増築工事の時。
               長々と運動場を区切る仮囲いを設置して、塗装は剥げたままをグランドに
    向けて、子供達には うっとおしくなる境界を作った。
     子供達のサッカーボールが飛び越えて来たら・・・との配慮もあるが、
    仮囲い付近からはよくボールが当たっている音が聞こえていた。

     私はチャメッケを出した。
    約5mの区間をワザと
    『落書きコーナー』
              と看板に書いてみたら、目ざとい子供はその日の内に塀にくっ付き始めた。

     最初は絵を書いていたのが、何時の間にか「バカヤロウー」「××死ね」等、
             私の昔の時代と同じ下手な落書き文になってしまった。

     落書きの楽しさは変わっていないのだネ。
              人が書いた所へ『遠慮なし』に書き加えるものだから、迫力はある。

             下塗り用の塗料と小さな刷毛で遊んで、服にペンキを付けて帰宅した子供を
          親様達はどの様に見たのでしょうか?

    約一週間そのままにしておいたけれど、現場内に何故かボールの飛び込みは
          殆どなくなった。
           一騒ぎが終わった頃に塗装工が仕上げ塗り(指定色で上塗り)を行った。
         だんだん消えていく『下塗りの絵、文字』を見ていると子供たちの声が耳に
       に残った。

       「塗らなくて(消さなくて)もいいじゃん、このままで・・・」
         私もそう思うが、やっぱり大人にも現場にも常識というモノが―――だ。

        もし、今度学校の増改築のチャンスがあれば
      『仮囲いデザイン展』
         と称して自 由に描いてもらう案を校長先生に提案しよう。
   塗装職人に代わって先生が刷毛を使うのも面白いだろう。

   塗料を支給して学年別とかクラス別に図案を考えて図工、美術の時間に
       仕上げていく。
   この夢はいつか実現させてみたいものだ。
       父兄会時には親が高い所を手伝ったり、文化祭には他校にも見せるとか
                                                       面白いだろうなア・・・ ――――――

 何の変哲もない仮囲いに昔どおりの《決まった通りの塗装》をする事を当然だと考えて、ただ塗
る事を指示しているのは、全くセンスが無いと私は思っている。
 思いつつも今日は仕方無いが、いつかチャンスを狙っておこう。

昼から土間の配筋検査が行われた。

縦、横共@200㍉シングル筋なので問題はなかった。
地中梁の天端に多少土が残っていたのを『よく水洗いしておく様に』という事で、手直し事項
は一応「無し」と打ち合わせ簿には書いておいた。

 しかし、空模様がどうもいただけない。雨は決定的だ。
土間の仕上げはコンクリート一発押さえ(直接コンクリートを金ゴテでならして同時に仕上げ)
なので雨は喜ばしくない。
後日手を入れて雨に打たれてザラついた所を直さないといけない。
一応はカーペットを貼る為の下地程度に仕上げておけばいいのだから、雨が降ってたらダメ
だとは限らないが、降らないのに越した事はない。

  明日天気になあれ・・・。私は雨男ではない―――筈だ。


雨降りの時にも

2022-10-23 17:21:14 | 建設現場 安全

 五月 十九日(金) 曇り

  埋戻しは午前中で完了した。
午後か
らは仮設道路のくぼみに栗石を入れ、敷鉄板も敷直し、さらに搬入通路を延長し拡げて完成した。
 通路は水勾配まで考えて作っておいた。

 本工事の方は『床(とこ)づけ』と称する転圧、砕石敷も基礎の時より条件が良いので、順調に仕上

がっていった。

 1階の半分近くはもう土間配筋が完了している。
  今日残業すれば明日にも土間コンクリート打設が出来そうだけれど、配筋検査もある事だし、
余裕をみて火曜日に決定した。

  明日の天気予報はまたしても雨。
先週の土曜日も雨だったけれど、
「明日の朝、雨が降ってたら土休しなさい、現場に出て来なくていいよ」
とF君とN子に伝えた。
 雨が降る事を期待すると意に反して晴れるかも・・・・。

 今日中に鉄筋も型枠も追い込める所迄追い込んでおこうと打ち合わせ時に確認し、日没迄皆
頑張った。
 流石に照明を灯けての残業は見送ったけれど、あと半日で出来る見通しは付いた。
 明日雨でも月曜日に残りを片付けて、配筋検査を受け入れるのは楽勝だ。

 夜、次の段取りに手落ちが無いか、チェックしてみた。

―――2階のコンクリート型枠図は承認済で、大工にも手渡してある。外部足代組立用資材
の不足分はリースで話が付いている。
 1階の型枠工と鉄筋工との『作業基準打ち合せ書』『作業手順確認書』も出来ている。
その打ち合せ記録簿もある。
  開口部補強打ち合せもあるし、設備配管のスリーブ位置承認図もある。
仮設電気も照明もスピーカーも段取りしてある―――以上全てが終わっていれば申し分ないが、
なかなかそうウマクはいきませんネ。

 各々何らかのアクシデントが有り、部分的に保留のままの所も確認出来た。
 明日はその穴埋めにポイントを置こう。

 世間では土休が主流だけれど躯体三職(鉄筋・型枠・土工)は、日曜出勤さえ当然の如くに
働いているので「土休です」というのは殆ど聞かない。

『雨降りに休むさ』
と構えてはいるけれど・・・ネ。

  ゼネコンのサラリーマン建築屋さんがいて、会社のスタイル通りに『土休』していたら現場
はどうなるのだろうネ。
 月に2回の完全週休二日をアピールしている支店だが、この建設業界で現場によっては交替
でも土休出来るのは大きい現場、或いは交替要員のいるせめてスタッフが3名以上の現場位しか
実現出来ないだろう。
 Kビルでは到底無理だネ。

 若手職員に気を遣って休日を『優先取得』させ、所長が出勤するというのは《時代の流れ》
なのだろうか?それとも若手職員を私が甘やかしているのだろうか?

 どっちにしても私は土休をそれほど貴重なモノとは思っていない。
 現場では休みたければ休めるような工程の段取りを作ったら『それまでだ』と思っている。

早く建物を創って休みを取って、海外へでも遊びに行けばいいのだから―――とネッ。


五月 二十日(土) 雨

天気予報通り朝から雨。
土曜日で雨降りだから通勤時間(マイカー出勤)は平日の3分の2位の感覚で現場に着いた。
しかし、予想通りの開店休業でF君もN子も休みだ。

 昨日確認事項を列記していたメモを取り出して業者さんへ電話を入れた。

 私の性格からしても次が終わる前には、その次の次という所まで追求確認しておかないと、
気が済まない。
 
(そうあわてなさんなヨ、所長・・・)
といいたそうなニュアンスの会話もある。

2週間先の工程表迄書いても本当に決めた通りに進むものか、絶対に遅れる(ズレる)し、
それに所長がサバを読んでるからと、あえて自主工程を想定している業者もいるものだ。

  ところが、私は雨でもコンクリートを打つ所長だから、大変な賭率で盛り上がっているみた
いだ。

 基礎のコンクリートを打つ時に、雨なのに土工が朝早くから出て来たのは、打つ方へ賭けて
いた連中だったと言う。

(あの所長ならこの位では勘弁しないので、ヤルよ雨でも・・・)
と覚悟してマイクロバスに乗って来たそうだ。

 私の行動を読まれていたのだが、これは今後私の発言に対して相当相手にプレッシャーを与
えると思う。

2週間先(私は二週間工程表を現場に掲げる主義だ)迄各職種間のつながり、かかわり合い
が職長さん同士にも分かる為にも、1週間過ぎるとその日から先の2週間を修正する。

 親方も他の現場との進み具合と、私の現場を上手に二股に掛けて動く事によって、儲けも違
って来るので必死だ。
やはり、先手必勝であり、状況を早く相手に伝えた現場が勝ちだというのは、誰もが思って
いる事だろう。

 私は私の強引とも思える(ハッタリかクソ度胸か)言動で、相手がムカッときたり、アキレ
たりしているのも想像出来る。
私が《筋を通して》いる限り協力業者は今の所、順調に働きに来てくれているが、
『△△所長の現場には行きたくない』
という話も良く耳にする。

 この△△所長さんへは職人さん達の八割が口を揃えて言うのだから、どんな手配、段取りを
しているのか興味がある。
私の持ってない部分の勉強、発見が出来るかとも思える。

  私もかなりヤンチャを親方衆に言って来たと思う。
事実、ツバを吐きかけられた事やツルハシ持って追い廻された事も二度や三度どころではない。

お互いに必死だったのだか、私が強引だったのか、若かっただけかも知れないが・・・。

 今、今となってはその馬力も出ず、いかに言葉で相手を納得させるかの術に磨きを掛けてい
る様だ。良く言えば人が丸くなったと受け止めてくれるけれど、

「トシなんだ」
 と言うわが娘からの一言にはショックを隠せなかった。

雨降りの土曜日は世間並みに土休としよう。
雨の降っている時は仕事をしない事もないが、雨を押しての『突貫工事』を今行う迄も無い。

 工事完了間近になってあわてる(俗に言うケツに火が点く)事の無い様に願うけれど、休日
として体を休めるのも天から授かったものとして受け止めよう。

案の定、11時頃にはお遊び(麻雀)の電話が入って来た。
今日は午後からビールでも飲んで、気分転換のミーティング(情報交換)兼用の集まりとしよう。

 勇気を倍増して出かけていったものの、入れ込み過ぎて・・・チョンだった。



雨降り時には麻雀が

2022-10-09 11:36:57 | 建設現場

五月 十二日(金) 曇り

少し風邪を引いたみたいだ。
昨日、生コン打設した時の梁天端に掛けていた雨対策用の養生シートを回収した。

コンクリートの表面は思ったより雨に打たれていなくて安堵した。

 それにしても、昨日の生コン打設は正しい方法(教科書通り)ではなかったけれど、
頑張った甲斐はあった。

今日弋工が足代を解体しておかなかったら、
「他の現場が遅れた上に昨日の雨で大幅に予定が狂ってしまい、Kビルへは水曜日に
ならない
と来れなかった」
と弋工の世話役の武村さんが胸の内を言ってくれたのは、10時の休憩の時だった。

私の工程表では水曜日は埋戻しの重機とダンプの手配がしてあって、それを遅らせる事は
く考えていなかった。

 私の自分勝手な都合のいい工程表ではあるが、これを書いた時点で総て予約を取りつけ
てい
るし、私の方から『遅れたなんて言わない性格』を知っている親方達も、一応それ
なりの心づ
もりで手配(下準備は済んでいるのだった。

 強引に打ったお蔭でもう一つ助かった事がある。

 昼前に掘削時に残しておいた土(邪魔になってた土)の一部が崩れた。
 土量にしてネコ車10杯はあるだろう。
 コンクリートが打ってあるので、型枠はビクともしな
いし被害は出なかった。
 打設していなければ型枠は壊れていただろうし、土で押されて鉄筋も
ろとも曲がっていた
ことだろう。

 崩れた土は埋戻しがもう始まったのかと思う余裕の解釈にし、埋まった型枠部分は
解体出来る範囲以外は『埋め殺し』にした。
足代解体後の山崩れだったので足代の材料関係には全く被害が無かったのも助かった。

昼過ぎてから力が抜けて来た。
場内が静か過ぎる。
物を創(つく)る気分でなくて、弋工と土工と一時的な足代の解体だけしか現場では作業して
いないが、眠くなって来たのは風邪薬のせいだけではないと思う。

(今日は久し振りに早く帰ろう)
と支度をしていたら、刑務所の現場時代の同僚(通称役満のケン)から電話があった。

「雨降りにコンクリート打った人は今日はヒマだろ?明日は土休だし・・・」
と思わず生ツバゴックンとなる麻雀の誘惑だ。

「今日は勘弁してなンて言わせンぞ」
と私は自分の体調も省みないで、承諾してしまっていた。

今日は負けるだろう。
でも、このメンバーは二年近くも一緒に単身赴任の苦労をして来た間柄なのだから、
私供四人にとっては他の職員よりは最良、最強の絆だろうと思っている。

 理屈はどうであれ、私は元気が出て来て、また出かけてしまった。


五月 十三日(土) 雨

また雨が降った。
昼前には上がったけれど、ここ数日よく降るものだ。
コンクリート打設後の撒水養生としては非常にいいのだけれど、全くの開店休業と
なってしまった。

土曜日で朝から雨だと気分は乗らない。
建設業として大義名分で休めるのは「雨降り」位の
ものだ。
友人の結婚式だとか近所の葬式とか、法事だとか免許の更新とか結構休める様な言葉

あるし使ってもいるが、全員揃って休めるのは「朝からの雨降り」が一番だ。

今日は土曜日だし、職人はいないし、コンクリートは打ったし、水替えはもう気にしなく
いいし、土が崩れても態勢に影響がなくなってホッとしている。

そうだ!!昨日は体調不調ながら麻雀は好調で、F君とN子と私でステーキが食べられる
資金
が出来ている。
(持つべきものはお友達)
と感謝し、久々の半ドン(もともと土休指定日なの
だが)を味わう事にして早速
『しゃぶしゃぶのK』に食事に出かけた。

 戸締りをしに現場へ戻ってフト電話機を見ると『留守録有』のマークが点灯している。
「何やってんだ三人揃って待っているヨ、二時半集合だよ、例の所で・・・」
と、またまた麻雀のお誘いだ。

(たった今、美味(うま)いモノを喰(く)ったのに又、喰わせてくれると言うのかい!)

しかし、刑務所現場のこのメンバーは単身赴任で二年間の借家生活を過ごし、自炊こそ
しな
かったけれど、いつも同一行動していて、沢山ビールを飲んだし麻雀もしたものだ。

冬、部屋のすきま風に目ばりをし、ストーブを持参、夏には扇風機に蚊取り線香と段取
りよ
く一室を『雀室』に迄してしまった。
思えば雀台はゴムマットに合う様にして点棒入れまで作
り、灰皿、ビール、カップラー
メン置き場用のサイドテーブル二台も雀室に収まる様に設計し、
休み時間に大工の
真似事(まねごと)で作ってみたのは―――まぎれもなく私だった。

雀狂の記録帳も作っていたけれど、土・日曜を除いても月にそうね(宿泊した日の九割)
麻雀を楽しんでいた様な『記録』も《記憶》も残っている。

風呂からあがっての9時頃からワイワイと卓を囲み、明日の予定を打ち合わせ(ウワの
ソラ
だが)しながら、
『12時を過ぎたら新しいイニング(半荘・ハンチャン)に入らない』という寮の規則も作った。

『単身赴任もこんなのだとイイね……』と誰かが言ったね。

―――雀狂の記録帳には――――――
雀鬼のオカ、役満のケン、恐怖のヤス、ウラドラのフク、新入りのミツ、という私が
付けた
アダナで精算記録が残っている。

何だか今日も勝てそうな気分になった。待ってろヨー。

 


雨の中コン打設

2022-09-19 12:59:20 | 建設現場 安全

五月 十一日(木) 雨

 天気予報通りの雨だ。七時前には現場に着いていたが、雨の状況はさして変化が無い。
生コンのプラントより早速電話が入った。


「今日、この雨でも打ちますか?」
雨が降ったらコンクリート打設中止とは言ってないが、職人さん達が出て来ない場合が
多いので、至急連絡を取り合う必要がある。

連絡待ちにしてて下さい。現場は打つ予定です。7時半迄には連絡しますから・・・」

次はポンプ業者へ電話を入れた。
「ポンプ車出ていますか?」
「ハイ、もう着く頃です………が今日どうされます?・・・」
と言っているうちに、ポンプ車が到着し、土工もマイクロバスでやって来た。

うっとおしい雨を見つめて、
「所長、どうしますか?」
「打てない事はないだろう、昨日夕方に型枠も鉄筋も洗ったし、今は雨が撒水(さんすい)
の変わりをしてく
れてるンだし―――」
「それなら着替えようか・・・」

しかし、大事な基礎のコンクリート打設が雨降りの中だと、それ以後でも『重要な
コンクリ
ート打ちには必ず雨にたたられる』というイヤなジンクスめいたものがある。

 信じたくは無いが出足が雨だったから……と何の根拠も無いのに悪い結果が生じると、
これ
に結び付けたくなるのも実情だ。

全くこの雨は気分を暗くさせてくれるものだ。
別に大雨注意報は出てないし、午後は小降り(曇りとは言ってない)で15時以降も、
60%の降水確率と言っているだけだ。
打設終了近くになって突然の夕立で雨に濡れた事もあった
けれど、朝からの雨とは
何年振りの経験だろうか?

 刑務所の外塀(高さ4m延1000m)を50回以上に分割して打った時でさえ、雨で
順延は
無かったのに………それに、床の直押さえを必要とし、雨天順延を覚悟した
前回のマンションで
も雨は降らなかった。
 決して『雨男ではない』と強い信念を持っていたのに今回、この現場の出
来事は
一体・・・この現場に未来はあるのか―――。

 とまれ、せっかくここ迄
『コンクリート打設』というメインテーマに職人達が
頑張ったのだ
から、特に大工さんはとっかかりから5月11日が基礎のコンクリート
打ちだと念を押して、
残業までして頑張ったのだから、雨だからと言って延ばす
理由には当てはまらない。

(基礎なのだ。雨がかかる部分は僅かだ・・・ブルーシートで打設後に養生をすれば
いいじゃな
いか、何をためらう事があるのか・・・)

 と自問自答し、通勤中でも
『打つんだ!』
という気構えで来たのだから、ここで曲げられ
か!!フッ切るンだ、迷いなんかフッ切れ
ば済むんだ―――
 雨は止まないかも知れないけれど私
の方針でこの場を凌(しの)ごう。
 
 腹をくくって、おもむろに生コンプラントに電話した。

「予定通りに今から打ちます。今日他の現場はどうですか?」
と聞いたら、半分はすでに打っているそうだ。

「明日にズレると生コン打ちが集中して、生コンの廻り(生コン配達)が悪いよ、
今日ならど
んどん出せるヨ」

と俄然(がぜん)やる気を起こさせてくれる話となり、8時25分に打設開始決定となった。

 以前の降雨時にシート養生してあったままの掘削面の山崩れしそうな所を点検した
けれど、
今の雨ならまだ大丈夫の様だった。

 10時30分、今も雨は降っている。そろそろ昼食時間を調整しようとしていた所へ、
「所長、昼飯抜きで打たして下さい。二時には終わるよこのペースなら。そして
早く帰って風
呂へ入って一杯・・・」

「OK、プラントへ連絡する」

 プラントも今日はもう忙しくはなくて、早く終わらんが(私の所が最後の)為にも、
「現場さんに合わせます」
と色よい返事だった。

皆カッパを着て多少動きにくそうではあるが、昼飯時間を濡れたままで過ごすより、
一気に
仕事を片付けたいという気持ちは全員にあった。

雨降りに仕事をした時、服を乾かす事を想定してストーブを用意してたのが役立った。
(仲間が濡れながら仕事をしているのに、自分だけ暖まれないヨ)
という意地を見せてはいた
が、ラスト10㎥のあたりからストーブに集まって来る様に
なった。

  皮肉なもので打設完了近くになって雨は上がっている。
 打設数量は丁度200㎥。打設時間6時間弱。時間当たり33㎥打設。

「御苦労さん、お疲れさま。これで一杯やってよ、俺の気持ちだから・・・」
と言って酒(一升瓶)を渡した。
本当に今日は御苦労様でした。皆!アリガトウ!

 


鉄筋アシバ組み立てに

2022-08-22 09:30:20 | 建設現場 安全

 

 五月  三日(水) 晴れ

 

 ゴールデンウィークまっただ中だ。 

 世の中は連休だというのに、この業界の《5K》の
中の一つ(休日がないのK)にとっぷりと漬かって、
レジャー人間を横目に仕事をしている哀れな所長の私である。

  鉄筋組立も八割済んで後はスリーブ(配管が通る穴)の補強とサシ筋(壁に
なる所の鉄筋を出しておく)それに一部残ったエレベーターピット周りの
壁筋位だ。

型枠工もトラックで相当なパネルを搬入し始めて、場内所狭しと降ろしている。
やっと鉄筋の材料が片付いたと思えた矢先に、休まる事もなく次の工事用の
資材は搬入される。

当然であるこの繰り返しが完成まで、幾度となく続くのだろう。
花壇の『客土(きゃくど)』を入れて植樹をして最後だろうとは思うけれど、
まだまだ先は長い。

  とにかく今、現場は始まったばかりだ。
 そろそろ配筋(はいきん)検査(設計事務所の構造担当者による検査)の打ち
合わせを連絡しておかねばならない。

何故の配筋検査なのかを語ると長くなるので、今日は止めておこう。

  今は配筋を見て頂くのが先決でそれには私も自主検査を行っておく
必要がある。
 そのような事を思いながら窓から鉄筋足代を何となく見渡していたら昔、
大失敗をした事を
フト思いだした。

足代(安全に組立て)と足場(場当たり的な組立モノ)は区別しよう》

―――昔―――(鉄筋足場事件)―――――
        私のかけ出しの頃だ。鉄筋足代なんて組んだ事もそれよりも見た事も
  ない様
 な時に、主任から
 「計画しておけ」と夜、酒を飲んでいる時に言われた。

    「《鉄筋アシバ》何だそれは?・・。まあ鉄筋屋の足場になれば
   いいんだろう。
丸太で組むのだから間違ってたらノコギリで切れば済む
    し・・・」
    と甘く考え
て、私も酒を飲んでは日を過ごしていた。
    そして鉄筋アシバ組立が明日となった。

  組み立て用の丸太は現場の片隅にドッサリと段取りよく?昔から置い
  てあるので、
 何も考えずに日々を過ごしていた訳だが、

  「まあ何とかなるだろう、弋の親方に相談しよう、親方はやさしいし
       今までも
色々と手助けしてくれてたし……」
    と思い組立図は書かなかった。

    当日、ねじり鉢巻き姿(当時弋がヘルメットなんてかぶってられるかっ!)
    オッサン連中がやって来て、 
 
  「オイ兄チャン、タテジ(建地)は何処まで延ばすんだ?ヌノ(布)
      ステ(捨てコン)
からナンボ何だ!?
        サンバシは?・・・ヤラズは?コロバシは?―――ナンボ何だ!!」
      とまあ一体何語を喋(しゃべ)っているのか私はオロオロしてしまった。

      確かに『建築用語』と知ってはいるものの、相手の威勢のいいのに、
     私のペ
ースは狂ってしまった。

      それからあわてて基礎の図面を見て鉄筋アシバという
よりも丸太柱を
     立てる 位置を図面に書いた。

   「兄チャン、現場でシルシを書いてくれんとワシらに図面の事言うて
も・・」
   「エッ!現場に印!?・・・そうか現地で石灰で丸を書いて弋さんに
   『ここに柱を建てて下さい』
    と言うのか、何だ簡単じゃアないか、私は今図面に印をしたのを持って
    出れば
  済む……」
     と勇んで現地へ飛び出した。

     しかし布(ヌノ=水平方向に繋ぐ丸太)の高さが全く頭に入ってなかった。
      弋さんが自分の頭より少し高い所で横丸太を組んでくれればイイものと
    思い
 込んでいたので、チェックどころか組上がって行くのを楽しく見惚(みと)
     れていた。

   「バッカモン!何組んでンだバカ!!
    とヘルメット越しに主任のゲンコツと雷が飛んで来た。

    ムッと見返すと更に、
   「お前、基礎の高さ知ってンのか!地中梁の中を丸太が通れば鉄筋どう
     やって
組むんだ?バカモン!!」

    「えッ !?」
     何たる事だ。言われてみればその通り。全身の血がスーッと引いて行く。
    今
まで組んでいた物が全く使えない。
    解体してまた組み直さねばならないのだ。

     弋工に「ゴメン・・・俺、間違えたァ」
     と言ったって通じるだろうか?通じない
だろうなあ―――と悩んでいたら、
    「よくあるこったヨ、若けェうちは………」
     と分かった様なお助け言葉が返って来た。

   (おやッ?)
      と感心していたら、所長が親方に頭を下げて「やり直しの話」を付けた
      のだ
そうだ。

       スミマセンでした主任、アリガトウ所長、
        この所長の下で働くのなら ―――。

       しかし、話はここで終わらない。

      今度はじっくり図面を見て梁成(梁の高さ)が1.8mだから余裕を考えて
      捨てコンから2.0m 
のところへ布を組む事にした。
      丸太は太さが10~15㌢はあるし、この位置に組んでおけばいいだろう。
 (うん、いいアイデアだ)
      と思って現場へ出て行こうとした時、

     「やっぱりマエらはその程度か
!!
      とキツくトゲのある親方の声だ。

      (なにッ!?)と親方を見ると、 
    「大工の持って来るパネルはコンクリートが6尺なら、そのうえの7尺
      パネル
だゼ。7尺パネルより少し上がってネエとサシ筋は出来ネエし、
       土方がコンク
リートを均(なら)せない(水平に出来ない)ゼ、どうする?」
      と丁寧(ていねい)に教えて下さった。

      所長はこの会話を眼鏡越しにニヤッと聞いていたようで、目配せして
     うなづいている。

    (そうか、親方から私は勉強させてもらったんだ…今日は―――)
     と改めて感謝、感謝だった。

   組み立て施工図、計画図なしで(書けなかった)組もうとした理由も、
  今ハッキリと
《自分の無知》をも、身にしみて気が付いたものだった。
  あの頃は一つ一つが勉強だった(失敗だらけだった)なあと思い出した。

               

私が今、当時の様に若手職員に、
「バッカモン!!
と叱ったらどうなるだろうか? 

「僕、今日限りで会社辞めます・・・」
なンて言い出しかねない様な気がするけれど、時代の流れか教育を受け
た者の『自己優先思考』かは別にして、理解出来る様に全てを順序よく
説明しない限り、相手に通じないと思えるのは――私だけだろうか・・。

『盗んで見て覚える』
のが建築界の常識だとばかり思っていたら、大間違いの様な気がする。
鉄筋足代を見ながらフト昔にタイムスリップしてしまったが、今の私の
やり方で良いのか悪
いのか………結論は若手職員が育ってくれた時に出ても
遅くはないだろう・・・、

私はこれからも《私のペース》で押し進めるより仕方がないだろう。








捨てコン 打設

2022-08-06 16:52:00 | 建設現場 安全

    四月二十二日(土) 晴れ

天気にも恵まれて今日は『捨てコン』を打設する。

生コン車から直接生コンを流し込める基礎は今回は三ヶ所だけだ。掘削した部分が水平なら
まだしも、基礎と地中梁、地中梁と小梁とかで段差が沢山ある。
これをネコ車(一輪車)で土工が生コンを運んでいたのでは仕事にならない。
コンクリートポンプ車でステコンを打つなんて事はあまり行った事がないが、今は職人不足の
為、殆どになった。

Kビルは最初から計画して予算を組んでおいた。
土工に直取り(ネコ車打ち)させればいいという上司の意見もあったけれど
『今はそんな時代じゃないのが見えないのか―――』
というのが本音だったが、もちろん言えずに終わった。

第一回目のポンプ車が7時30分に到着した。
「あらー所長、今度はここかねエ、またよろしくね」
「うん、Kビルは最大の打設時でも220㎥だ、4時迄にはいつでも終わる予定だから楽勝
だヨ、きょうは昼迄には終わるだろう」
と門扉を開けながら話が始まった。

ポンプ車を設置する為に一度場内を見渡してから、能率の上がる場所へ車を移動した。
土工はすでに着替えも終わり「朝礼さえ済めば何時でもいいよ」と言い、スポーツ新聞を熱
心に読んでいた。
今度は天皇賞か、私も一口乗ってみるかと首を突っ込んだ。

「所長、馬やるの?」
「当たり前よ、お馬ちゃんとお話が出来る位に馬には詳しいよ」
「ヘエ――!?」

口から出任せもいいところだ。競馬場に一回も行った事がない。
予想オッズを見ては中穴から流して、かすりもせず損ばかりしている。
職人の手前、本命を買って気の小さいガチガチの男と思われるより、多少の夢を追っかける
(好配当なら飲みにいける)方が『仲間意識』が盛り上がるという私の偏見だ。
実は小遣いを増やしたい《ひと儲けの下心》が見え見えなのにネ。

ともあれ、ステコン打設は始まった。
所定厚さ50㍉の所へ生コンの砂利が25㍉あるから、水平にならす仕事は時には精度が悪い場
合がある。(砂利が重なったら50ミリになって砂利が見えてしまう)

通常「木ゴテ」で左官の仕事の様に表面をならしているけれど、何せスコップ、ツルハシが
本職の土工だから砂利がブツブツ飛び出て来て、コテの跡も残る。

私は土工に『金ゴテ』を使う様に指導している。ただ単に、木ゴテを金ゴテに持ち替えるだけ
であるが、金ゴテで一度均した時
(もう一度ならすと完全になるだろうな………)
という感じが、土工にもよく分かるものだ。

誰でも上手に作ってみたい気持ちはある。
他の職種の人や自分の親方(社長)が自分の仕事を見に来た時に、
「何だ、この仕事はシロウトの方がまだ上手い―――誰がやったんだ」
という軽蔑の言葉を受けたくない。
最も職人のプライドが傷つく言葉なのだ。

大工仕事も左官仕事も塗装工事等、仕上げが見える職種は特に腕自慢が多いものだ。
この心意気が土工にも通じて来るのだから面白い。
たかが『金ゴテ』に持ち替えただけで及ばずながらも左官工の気分で表面を丁寧(ていねい)
仕上げようという気持ちになって来る。

最初のコンクリートをビシッと決めると、以後入ってくる鉄筋工、型枠大工から、
「ここの土工はしっかりしている
と必ず言われる。
このステコンの上で仕事をするのだから、足元がつまづく様なコンクリートだと困るのだ。

たかが捨てコンだよ、基礎の墨が描ければいいではないか、多少でこぼこしてても基礎がのっ
かかれば用を足すンだから………)
と思っている技術者(技術屋)も以外と多い。

ステコンを厚く打った場合は正規の位置より盛り上った事になり、その上の梁が小さくなっ
た事になる。
その為××省の仕事の時、ステコンの高い(厚い)部分はサンダーで削り落としたという情報も
耳にしている。

捨てコンだとなめてかかった結果だと思うが、それを、
「××省の仕事はチイさい所にキビシイのでイヤだ」
というのは本末転倒というものだ。

若手職員も検査する側の立場でモノを判断する力をよく勉強して欲しいものだ。

ステコンも型枠を当てて通り良く打設する事が原則である。
掘った所へベターッといっぱいに拡げて打っている現場にもよく出会う。
墨を出したらステコンが全く違う所に打ってあった経験のある人ほど、目一杯に拡げて表面も
ガタガタで文字通り
『捨てたコンクリート』
の様に固まっているのを見ると、完成まで一体何を監理するのか―――私は疑問を感じてしまう。

     
 四月二十六日(水) 晴れ

鉄筋足代(あしば)組立も完了し、鉄筋工事も基礎では最盛期を向かえている。

 *** 足代=きちんと整備されたもの。
     足場=場当たり的に組んであるもの として私は区別しています。***

掘削内(まさに大きな幾つかの穴)での仕事だから、穴から穴へと渡るにも上部で通路が繋
がっていない事には、鉄筋工事のみならず型枠材料も取り込めない。

レッカーで各々の穴へ材料を全て搬入するには時間が掛かり過ぎる。
鉄筋足代上の作業通路を物を担いで職人達は動き廻る。
昔は鉄筋足代を丸太と番線で組んでいたが、昨今は単管とクランプ(専用取付け金具)で
スマートに組める様になった。

だが、この基礎用の鉄筋足代を無くしてしまおうという風潮もある。

低い基礎(最低でも60㌢はあるだろうが)でも跨(また)いで行けるほどの物はほとんど無い。
高さ的に低い小さな基礎なら鉄筋も型枠組立時も自立しているだろうけれど、生コン打設時
には苦労する。

コンクリート圧送ポンプ車からの筒先ホースは重たいものだし、足代がないとホースを常時
肩に担(かつ)いだ状態でコンクリートを打設する訳だ。
梁の天端からバイブレーダーで水平に突き固める時にはコードを引っ張り廻しながらの作業だし、
腰から上になった型枠の中をのぞき込む様にして、左官工が梁の天端を押さえ(仕上げ)て行く
のも困難なものだ。

 ある時は、足代がなくてなおも型枠だけで1.8mもあり(6尺パネル)型枠によじ登って型枠
を跨(また)いでコンクリートを打った(打たされた?)現場もあった。

大股開いた真下には40㌢の長さの壁筋が20㌢の間隔で二列にも飛び出ている。

(何とかが縮み上がる)というのもこういう状態から生まれたのでは・・・」
とニガ笑いをしながら、それでも『安全第一』を唱えつつ作業をしたこともあった。
労基署さんには内緒(時効)にしておいて下さいね。

Kビルは根切り底(掘削深さ)迄1.6mある。
柱筋が自立するには不可能だから鉄筋足代を利用して垂直に組み立てる。
その柱の中に梁筋が貫通して、部分的にはアンカーと称する折れ曲がり部分もある。

外壁柱になる所にはトップ筋といって更に梁の主筋がアンカー付で増えてくる。
基礎の方を見ると杭の頭の中から補強筋が飛び出しているし、ベースは鳥籠の如く組上がって
いる。

 この中へ生コンを流し込むのだから足代計画はしっかりしておかないと、足代建地が基礎の
中へ入り込んでしまう場合も出て来る。

足代の建地間隔(要は足代の柱となるパイプ)は安全衛生規則で1.8m以内と決まっているが、
基礎が2.5m角だとどうしても基礎に入ってしまう。
とりあえず基礎内に建てておいて、コンクリート打設中に順次盛り替える方法をとらざるを得な
いのだが、打設中には色々とする事があって、単管柱の盛り替えを何故か忘れる事が多い。

打設後、夕方見たらコンクリートに埋まったままで、もう抜けなくなっていた事も多い。

今回は打設前日までにヤラズ(控え柱)を取り付けて補強しておこう。
コンクリート打設時にはコンクリートに専念して、安全かつ、いい仕事をしようと思う。

それにしても、掘削内は狭いので材料を足代上に一時ストックしている。
足代上を物置き変わりにしていて一時は作業通路もなくなってしまう。
総掘りしておけばスペース的に余裕が有ったのにと思うが、もう二週間何とか凌(しの)げば
コンクリートが打てるのだからと考えてしまって、鉄筋足代に経費を掛けてもムダだと思う事
もある。

(この足代上からのケガや事故さえなくて、早く生コン打設して基礎を埋める事だ)
と工程第一に考えてしまった。
でもこれが本音なのだと思うけれど―――。

 現在鉄筋工の作業性は悪くなっているが、地中梁の時はどこの現場でも《こんなもの》だと
職人さん達は慣れている。
私達ゼネコン側も短期間なのだからとついつい《横着》になってしまっているのも正直な所だ。
反省します。もう一度反省します。



掘削工事とは

2022-07-24 07:41:04 | 建設現場 安全

 四月 二十日(木) 晴れ


杭打工事が終わって三日経った。今日からは掘削開始だ。
鋤取(すきとり)時があったから重機関係は再開始だが、本格的掘削としてはこれから始まる。

掘削施工図を青焼きし、深さ毎に色分け(平均1.6m)して壁に貼り付けた。
 70度位で掘削する。
 一応45度迄は掘削しましょうと見積り数量に計上してあるものの、必要
以上に掘らなく
てもいいし、今回の様にGL(地盤面)から50㌢も地盤改良して堅くなってい
れば、その下
は垂直でも掘れる様であった。(GL=グランドライン)

 万一を考え多少多めにカット(法(ノリ)を切る)したが、搬出土量は計画数量を相当下回
ったと思
う。(当然埋戻しの量も減の筈だ)

鋤取り時と同じ様にダンプの搬出記録を付けておく様に指示をした。
鋤取り時点で作った取り敢えずの仮設道路の栗石は二割程度は残っていた。
 全て杭打工事中
にヘドロと混ざって処分してしまうと計画していたし、道路清掃代に殆ど
経費が掛からなかっ
た事を考えると、公害問題の点でも良かったと自負している。

今度は本格的な仮設道路を作る。
これからはダンプ車、生コン車、材料搬入車(主として四㌧ユニック車)をポイントに仮設
計画図に指定した正確な位置に作る必要が有る。

前回の経験から福原君の要領は大分良くなった。
仮設通路になる巾員の要所要所には石灰でマークしてある。

「道路はここなんだ」
と白線内をダンプが行き交って地盤を転圧している。

やがて砕石も敷込み、歩行者は石を蹴飛ばす(慣れてはくる)事がタマには有るけれど、搬
入車両の運転手はタイヤの掃除の手間が省けて大助かりだと言っている。
交通量の多い道路の為、ガードマンを置いた。  
ダンプ出入り口表示、黄色回点灯、立て看板は
掲げてあるものの思いがけない事故もありうるも
のだ。皆で『交通事故防止』を考えよう。

「今日は仕事をしたぞ」と言う充実感があった。


    四月二十一日(金) 曇り

今日も仕事は掘削だ。
EVピットはGLから2.1m迄掘り下げねばならない。

‎1.5m掘削したあたりから、水が湧いて出て来た。 ‎
‎水中ポンプを釜場(簡易ピット)へ設置した。 ‎
‎一番低い所をさらに30㌢くらい掘り下げて、ポンプには金網を巻き(ゴミの吸込防止)、‎
‎排水ホースが車で踏まれる所には保護管を通し、排水を開始した。 ‎
‎水の量はたいした事なく、砕石が多少濡(ぬ)れている位だ。‎

ステコンクリートの厚さ分5㌢を打てば水替えは不要になる計算だ。

 基礎と地中梁になる部分に石灰で表示を行ない、砕石を敷き込み転圧を行った。
 掘りさげた地盤にたたずむと、除去しなかった地山じやま)がすぐ目の前にあり、視界
も作業能率も
さえぎって、真上の空が大きく見えた。

(両端に残した土が崩れて来たら《生き埋め》にはならないけれど、腰までは埋まってしま
そうだし、万一座って作業していたら首だけ覗いて自力脱出不可能だろうなあ・・・)
と変な所で納得しつつ掘削状況を一周り点検していたら、昔の現場を思い出した。

―――昔の昔―――

       現場名K。
         深さ1.4m位だったと思うが、なるべく余分に掘削したらダメだと
主任に注意
        されて、垂直なおかつ必要最小巾で掘りさげて自慢した事が有る。


        ステコンを打設して墨出しを行ってもピッタリの位置に入っていて、自己満足
       していたのも数日間だった。(墨出し=基準線・原寸など
      夜、雨が降って地山だった筈の土が、朝見ると崩れて(ヤマがきたと言う状況)
    いたのだ。
     その時点ではもう鉄筋が所狭しと組上っていた。
     鉄筋に引っ掛かってる土を除去しようにも、人間が横向きに通れる巾しかない。
     スコップを動かすには斜め方向からしか使えない。それでも何とか少しずつ土を
     放り上げた。

      周囲に置こうにも、余掘(よぼり)スペースが無いので1.4m放り上げるしかない。
    雨を十分に吸い込んだ土はスコップからなかなか離れないものだ。
 もう少し余
 裕をもって拡げて掘っていたらこの土はそこへでも置けるのに・・・。
    ケチッて掘った(掘削支払い代金削減)が為に崩れる度に俺が手直しをするのかと
    思うと、主任の指示は
何を意味していたものか……と若い時に悩んだものだった。

     土工さん達は私の指示通りに経済的に掘ったのだから、
 「崩れたから直しとけ」
     と私は頼めなかった。
     段取りに対して不信感を抱きつつ半日もかけて何とか格好を付けたが、型枠
    組立中からコンクリート打設、埋戻しに至るまで何度雨にたたられ私の出番が
    あった事か・・・。  
     ―――  ――― ―――
  土工事、ことに掘削中に雨が降ると予期せぬ事が数多く発する。
   『土留め』は緩(ゆる)み崩壊の場合もある。
    ユンボ、ダンプは地盤をこれ以上悪くしない為にも、作業中止となる。
 作業中止しても重機
の使用料支払いは平日稼働分と何ら変わらない。
一日も早く基礎とか地下室を作ってGL迄埋戻しを行なって、地上へ出てくる部分からの
建築
工事らしい仕事をしたいものだ。

掘削・土工事をしている時は土木屋さんのイメージ、気持ちがチョッピリ感じられるけれど
も、やはり私は建築屋さんであって、
「GL(地盤面)から上ならまかせなさい」
と言う気負いも多分にあるものだ。

 日頃の行いによって雨が降らないと言うが、日頃の行いには自信があるのだがなア……。

 


杭打ち工事

2022-07-10 16:55:58 | 建設現場 安全

四月 十一日(火) 雨/晴れ

杭打工事が始まって三日目にして早くも事件が持ち上がった。

              

一昨日から降り出している雨で地盤が緩(ゆる)んでいる。
杭打機(総重量90㌧以上)が移動すると20cm位キャタピラが沈んで行く。あわてて敷鉄板を
並べてみたが、杭を吊り込む作業とか、旋廻(
せんかい)等には不安定この上なくなってしまった。


 もともと鋤取(すきとり)
を行った所だから地山の様に強くはないだろうし、杭打設時に出てくるヘ
ドロ、水もかなり場内に溜まっていたから、雨が降っても地下浸透はして行きにくい。
結局今日と明日の作業は中止とし、材料搬入車両もストップ号令を出した。

さて、この状況打開をどうするかだ。天候回復を待っていたって地盤は弱いままだ。

「ゆっくり、ゆっくり杭打機を倒さない様に注意して作業しろ
と言うのでは手を出さないのと全く同じだ。

 一日2~3本ずつ打って行けばやがては終わるだろうけれど、杭打工事業者としては一日当
たり延べ200m分は作業しないと機械損料見込んでの採算は成り立たない。

私の方だって、僅(わず)か60本の杭に一ヵ月も費(つい)やすのは考えられない。緊急打ち合わせだ。

「所長、何とかしてくださいよ、万一(重機転倒)を考える事態が近いよ」と清水さん。

「それは分かるけど、倒れないかも知れない。だが、倒れたらおしまいだから、とにかく手を
打てる事はするので協力して欲しい」

と言いつつ《地盤改良》する方針しかないと腹はくくってみた。

誰がその仕事を行うのか、すぐに出来るのか、予算は(見積もってはいないので)ゼロだか
ら、その費用分は全額赤字になってしまうが、この際ゼニカネは考えないでおこう。

(今夜にも重機が傾いて近隣に迷惑をかけてしまえば、地盤改良の赤字どころじゃなくなる)
と一方的に自分勝手に判断して地盤改良の手配を行った。

杭打機を安全な(比較的地盤が強い所)へ移動し、敷鉄板を全て回収し、場内に溜まってい
る水は水中ポンプで放流する。

小型ユンボを搬入して地表50cm位まで掘り返す。そう、田んぼを耕すのと全く同じだ。

そのほぐれた土へ化学薬品を掻(か)き混ぜて転圧する。
石灰分の働きによって土も乾いて来る。
中一日も置けば杭打機が載れる程の耐力は出て来る。

私の頭の血はめまぐるしく駆け巡っていて、爆発寸前でもある。

「所長、明日も雨だったら一週間よその現場へ行ってもいいかね?」
「ダメだ。とにかく杭打工程はズラせばきりがないし、次の工程も着手の予定が狂うと悪循環
になって、Kビルはズルズル工程になる。とにかく今日は昼から晴れる(自信はないが)から
様子を見ようヨ」

「見たって始まらないヨなあ」
と職人達がブツブツ言っている。小雨はまだ時々降っている。

10時頃には一次下請、二次下請の担当者から困惑した声で電話が入った。

「地盤が悪いそうだけれど、杭打ちはどうしますか?延期ですか?」
「やるよ!」
「大丈夫ですか?出来ますか?」 
何とかするからッ――― !! 
(だんだんと殺気だって来るのが自分でも分かる)

 もう私の腹は地盤改良をする事に決定している。藤本工事部長にその旨報告して対策決定
OKを待っているのだが、連絡がない。
今日の昼までに地盤改良の手を打たねば明日も作業ストッ
プのままになってしまう。
段取りのタイムリミットが近づく。

「3時頃現場へ行く、現場を見て判断するのでそれまで待つ様に」
と藤本工事部長から連絡が入っ
て来た。
今、現場を見て地盤改良以外に何の方法が取れると言うのだろうか。

判断は今、今即決を要しているのだ。
とにかく部長が何と言おうとも私の腹は固まってしまっていた。

「よし、地盤改良をやる。深さ50cm、面積はこの範囲だ」
と図面に赤線を入れて、杭打業者にて施工する様に指示した。

職人達はすぐに自分の会社へ電話をして明日の作業手配をすべく動き出してくれた。

「後はオッサン(部長)を説得か……」
と独り言を言っていた。

降雨対策を今一歩考慮して、場内の水はけを良くしていれば確かに今日の事態が起こらな
ったかも知れない。
しかし、普通のこの雨程度でこれほど軟弱になる事を見通せなかったのは
『私のミス』
と言われた時はムカッと来たし、盛土を掘削せずに打てば良かったのでは………
言われた時には―――?だ。何の為に掘り下げたのか・・・・。

ヘドロを公道へ流出させない為にわざわざ30㎝位掘り下げて、場内は田んぼの如く成り始め
て杭打工事をしていた状況を想い出しながら、
(私は一体何やってんだ、間違った事はしてない筈だ・・・?)
と青空に向かって思いっきり「タメ息」をついてしまった。


    四月 十七日(月) 晴れ

あれこれとあった杭打工事も今日で終わる。
残り3本。気を引き締めてつまらない事故は起
こさない様に朝礼後にミーティングを行った。
昼から重機回送車が入って来る。

親方も何とか工程通りに終わった事に喜びを表しながら、現場に挨拶に来てくれた。

「地盤改良が予定外の工事だったけれど、お蔭で予定通り次の現場へ機械を持って行けるので
助かった。次の現場はY市なんだ。今日昼から搬出すると夕方には現地へ着ける(届けれる)」
とルンルン気分でビール一ケース置いて行ってくれた。

(親方、地盤改良サービスしてよ)
とこちらからタダを願うのはムシが良すぎるので、
「親方、改良代20万円以下だヨ」
と機嫌のいい所で持ちかけた。一瞬時が止まる。が、
「材料代だけ頂ければ手間はサービスするよ」との返事。

Kビルは予定通りに工事が済んだので、親方は(儲けた)ときっちりインプットされている
事だろう。
お互いに「よろしく―――」と握手しているが
(15万でもよかったか)
と私は思い
(材料代をたくさんもらえばいいか)と親方は思ってるな・・・
と握手をした時にフト思っ
てしまった。

 杭打工事は10時30分には完了した。すぐに杭打機械の解体に入った。
ジワジワと重機のマ
ストが傾いて、所定の大きさに分解した時点で、皆の顔が一様にホッとし、
私も含めて
(終わ
った終わった)
と言葉に出て仕舞いそうな気分になった。

「まだまだ気を抜くなよ。杭の孔に足を突っ込む事もあるよ」
と安全を一言注意喚呼したら、ニヤッとした笑いが返って来た。

昼食前にはすっかり片付いて着替えをした職人達は何処のお兄いちゃんだというイイ男に
身していた。
『現場打ち合わせ会』と称して皆で昼食を取った時、ビールが飲めなかったのが
心残りの
楽しいひとときであった。

杭打機が出て行った後、現場内は誰もいない。こんなに広かったかなと思える位ガラーンと
している。
願わくば、ヘドロが早く乾燥して場外処分出来ればスマートに見えるだろう。

現場事務所の外壁や窓に飛び散ったヘドロ、油類を現場事務補助のN子がきれいに水洗いを
している。よく気の付く奥さんだと感心した。杭も終わったし、皆で食事もしたし、満足した
一日だった。
昼にお預けだったビールを夕方F君、N子と三人で乾杯した。もう一度乾杯!。


杭打ち工事で思うこと

2022-06-26 09:04:22 | 建設現場 安全

  四月 六日(木) 晴れ

明日にならないと確認申請許可が下りないので、杭打機械を見ながら昔の事件話を書こう。

そのⅠ―――
          O現場では杭が打設中に折れた事があった。
   ディーゼルハンマーでガッチンコ、ガチンコ、打っても打っても地上2mに
          飛び出た所(6mは打ち込めて)から沈下して行かない。
         直径
は600ミリ。ドラム缶と同じ太さだ。
         支持層が上がっていたのだろうけれど、
 お構いなしに打っている時に突然
       杭 がボロボロと崩れた。


         この時代はハンマーの衝撃力で直接打ち込むから、機械をフルに動かし、重い
      おもりに変えて高い位置からガチンコ、ガチンコ打ち続けたものだ。
   この一本の杭の為かなりの基礎補強をするハメになった。

  そして、夕方の4時頃になるとワックスとモップを持って近所の駐車場(100m
  以上は離れてた)にある乗用車に油が飛び散っているのを拭きとりに出向く。
       最初からワックスが掛かっている車は簡単にクリーニング出来るが、洗車等を
      した事もない様な車も含めて約50台、二週間もワックス掛けを行った事もある。
   
   それに、「洗濯物に廃油が飛んで来た、壁が汚れた」と言われてはクリーニ
   ング対策に出向く。
           杭打工事のハンマーが上下する事に、汽車の蒸気の如くシュッパ、シュ
ッパと
         煙を吐く。
         地上10m付近での発煙にともなって、廃油も混ざって飛んでい
くものだ。
        遠く離れてる民家の壁に白い紙を貼り付けて、一日でどの位飛んで来
るのか調査
  した事もあった。

 そのⅡ―――

        杭の先端は支持層だが杭の頭の部分はどこで出て来るかと言えば基礎、地中梁
  を掘削して初めて現れて来る。
       つまり、杭を打設した時は杭の頭は地面の中に埋 まっているのである。
        既製の杭は構造上、中は空間だ。チクワの片方を尖らせた
か、つぶしたかに過ぎ
  ない様なものが、地中に埋まっている。
   (削った鉛筆の芯を抜いたイメージで直径500ミリのコンクリートの杭)
         当然、空間部分に泥も水も入るし土も入る。

   新聞にたまに載る事件に、芯穴に幼児が
落ち込んで中間で止まって杭を壊して
   脱出・・・ なんて事も聞きます。

     「この中へ石ころ一ケたりとも入れてはならん!」
  てな事をおっしゃった監理監督官殿もいらっしゃいましたネ。

  「無理ですよ、入れるつもりは無くても、石は入ってしまいます」
     「それを防ぐ方法を考えるのが、アンタ達ゼネコンの仕事でしょ!」
    (勝手な事ヌカスンじゃあないよ、全く……)と思いつつ、
      「じゃあ何とか―――」と答えざるを得なかった。
   (この顛末はいつか話に載せますからね)

そのⅢ―――

   3000本以上も打たねばならない刑務所では、同一敷地内に杭打機が常時6台、
   多い時は8台フル稼働(延べ4か月)したものだった。
         この杭本数全てに打設前、打設中、打設後打ち込み長さの確認、地表へ出た場
        合の切断撤去、溶接杭は溶接毎に二枚、最終沈下量測定等、一段階終了する毎に
      一組の写真を提出する様に言い渡されてしまった。
 
   つまり、一本の杭当たり6~8枚の写真が必要と言う事になった。
     
       (隠れる所は全て写真に・・・)
       という但し書きの一行を《何も考えず》タダ守る為にだった。

   馬鹿な―――無駄なとも言えず、写真撮影カット数が杭だけで20,000の枚数を突
   破してしまった。
         実際竣工した時点で役所に提出したのは100枚にも満たなかった。

       何の為の写真撮影だったのか今もって理解出来ない。

  「何事も図面通りに、隠れる所は写真に・・・」
確かに設計図には記しては有るが、ての杭に当てはまるのだろうか――

*****************  ***************  *****************  
杭打工事の時や基礎工事の時は、設計事務所や監理者とのコミュニケーションが不足の為、
一見無駄な事に思える事でもついつい見逃してしまう場合が多い。
《しっかりした打ち合わせ会議を何度も行って、記録を残す習慣を身に付けよう》

これが私の杭打時(工事着手時)の教訓だ。


杭打工事 開始前にて

2022-06-13 06:49:21 | 建設現場 安全

  杭打工事 1

    四月  一日(土) 晴れ

 杭打業者の世話役さんと現場で会う約束をしていたので、朝から直接現場へ行った。
ふと空を見上げると公道と敷地の境界ライン上に高圧線(6600ボルト)があり、その下
に電話線と一般電線が走っている。

「あらあら困ったもンだ」と独り言だ。
でもこれは電力会社へ連絡をおこない即、接触予防の
対策としてカバーを取り付けるか、
配線の位置変更を依頼しよう。

今日の予定は杭のメーカー(Nコンクリート)の河合さんと現場で打ち合わせる事がポイント
だったのにいつしか電線、電気工事の方へ目が向いてしまった。

十時になった。杭打工事のオペレーターの清水さんも現場に来た。

「やア所長、久し振り……何時以来かねエ・・・。そう刑務所以来だね、もう二年近くになる
かねエ……。今回もよろしく」
「いえいえ、こちらこそ―――」
と久々の再会を喜び挨拶を交わした。

 えッ?今『刑務所』という言葉が出ましたネ。そうです私は刑務所にいたのです。
入所(
服役)していたのでは有りません。創ったのです。
約300m×250mの敷地の中に大小合わせて50
棟もの建物を16カ月で創った―――
この話はこれからも追々出て来るでしょう。

私達に取っても協力業者の方々にもインパクトの強い(多分私の生涯最大の『傑作物』だと
思う)現場であった。
刑務所か……懐かしいなア・・・。

 挨拶したと思う間もなく親方は場内一周し、ぐるッと上空を見て、
「所長、お茶飲みに行こう」
と近くの喫茶店へ出向く。

喫茶店に入っても親方の話の中で「刑務所」という言葉が時々出て来る。
おまけに私の会社
はレッキとした社名の中に〇〇建設ではなく建設ではなく『組』が付く。
(「一年一組」とは違うよ)

「組は今、忙しいみたいだねエ・・・」とか
組の仕事は儲かるからね」とか言いながらも、
「刑務所」という言葉を他の客が聞いた場合、
冷たい視線が飛び込んで来るのも感じられる。

私共のスタイル、風体、仕事着だと《さもあらん》と思われても仕方無いけれど、又、逆に
このチョイワル雰囲気を楽しんでいる気持ちも少しはあるみたいだ。

あっちの現場の話、こっちの現場での苦労話、ゴルフの話に職人の事情・・・。あっという
間に一時間も過ぎていた。

打ち合わせよりも親方の要望を一方的に聞いてしまうコーヒータイムとなった。
まアその中でも私の意見、段取り方法、工事予定等を打ち合わせして、また雑談となった。


           四月  五日(水) 晴れ

「基礎と杭は確認申請で変更がないので
『試験杭』を行って下さい」
と連絡が入った。

引っ掛かるのは『試験杭』だが、とにかく一本でも工事が出来る様にはなった。

この際試験杭と称して5本(建物コーナーと中央)打ってみようと欲を出す。

今回の工法は直径45㎝の杭穴を地表より8m迄開けて、そこへセメントミルク(セメントを
水で溶かしたもの) を注入し、既製の杭を入れ込み、杭の頭を押さえる様に静かに沈めて、
のセメントミルクで杭先端を固定する。

方法論を書けば実に簡単だが、作業には色々と問題点が有る。

杭孔を開ける(掘る)とその孔の量だけ当然「土」が出てくる。
地下水の層を貫通するから
水混じりの土(というよりヘドロに近いもの)があふれてくる。
長靴を履(はい)ていても膝近くま
でドロが上がって来るのに大した日数は掛からない。
このへドロを公道へ流出させない為にも、先日場内
を鋤取りしておいたのは『正解』だった。

何処が本杭と試験杭が違うのか説明しよう。

実際地下の支持地盤が一定(水平)であるとは限らない。
地盤はボーリング図(地質図)によってある程度の想定は付くものの、想定通りでない場合
が多い。
従って、建物敷地の対角線上に杭を打ち(試験打ち)そして杭の長さを決定するのだ。

支持層の確認は穴を掘った錐(きり)の先端にくっ付いて出て来た土の色、形状によって判断する。

設計事務所には構造担当者がいらっしゃる。
現地へ来て頂いて判断をして、たまに杭の位置を変更される先生もいらっしゃたものだ。

杭打業者は杭を打ってなんぼの世界だ。
杭を打たない日は巨大な機械の損料(使用料)は出
費となる。
だから、例えば試験杭だろうと本杭だろうと数多く打ちたいのは本音だ。

とにかく打ってしまうと見えなくなる杭だから、ミスは許されない。
(きり)をこれから打ち込む位置にセットしてX、Y方向に20m程度は離れた所から両方向共が
垂直になっているかを、オペレーターへ合図する。

手で頭をポンポン叩いて右へ動かせと合図する。
行き過ぎたら左へ腕を動かす。
そして打ち込み位置
と垂直度は決定する。(見た目の垂直ではあるが・・・)
オペレーターの計器盤では杭の垂直度はコンピューターで表れているの
だが、全く信用して
いない態度で仕事らしく振る舞うのだ。

掘削OKの笛を吹く。ギーコギーコと錐は回転しながら沈んでいった。

(そうだ、錐の長さを測っていなかった)
「親方、このオーガー(錐)何m掘ったか分かるのかね?」
「コンピューターで掘削長さが表示されるよ」と返事。

設計図に書いてある深さまで到達したのでオーガーを引き上げた。
杭先の地盤は錐の先にくっついているもの(土の種類・色)を確認して頂きOKだった。

結局、一本一本丁寧に支持地盤を確認しながら5本打設してしまった。
これで設計図通りの杭の長さで良い事が決定し、いよいよ工事が始まる事になった。