建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

杭打工事 開始前にて

2022-06-13 06:49:21 | 建設現場 安全

  杭打工事 1

    四月  一日(土) 晴れ

 杭打業者の世話役さんと現場で会う約束をしていたので、朝から直接現場へ行った。
ふと空を見上げると公道と敷地の境界ライン上に高圧線(6600ボルト)があり、その下
に電話線と一般電線が走っている。

「あらあら困ったもンだ」と独り言だ。
でもこれは電力会社へ連絡をおこない即、接触予防の
対策としてカバーを取り付けるか、
配線の位置変更を依頼しよう。

今日の予定は杭のメーカー(Nコンクリート)の河合さんと現場で打ち合わせる事がポイント
だったのにいつしか電線、電気工事の方へ目が向いてしまった。

十時になった。杭打工事のオペレーターの清水さんも現場に来た。

「やア所長、久し振り……何時以来かねエ・・・。そう刑務所以来だね、もう二年近くになる
かねエ……。今回もよろしく」
「いえいえ、こちらこそ―――」
と久々の再会を喜び挨拶を交わした。

 えッ?今『刑務所』という言葉が出ましたネ。そうです私は刑務所にいたのです。
入所(
服役)していたのでは有りません。創ったのです。
約300m×250mの敷地の中に大小合わせて50
棟もの建物を16カ月で創った―――
この話はこれからも追々出て来るでしょう。

私達に取っても協力業者の方々にもインパクトの強い(多分私の生涯最大の『傑作物』だと
思う)現場であった。
刑務所か……懐かしいなア・・・。

 挨拶したと思う間もなく親方は場内一周し、ぐるッと上空を見て、
「所長、お茶飲みに行こう」
と近くの喫茶店へ出向く。

喫茶店に入っても親方の話の中で「刑務所」という言葉が時々出て来る。
おまけに私の会社
はレッキとした社名の中に〇〇建設ではなく建設ではなく『組』が付く。
(「一年一組」とは違うよ)

「組は今、忙しいみたいだねエ・・・」とか
組の仕事は儲かるからね」とか言いながらも、
「刑務所」という言葉を他の客が聞いた場合、
冷たい視線が飛び込んで来るのも感じられる。

私共のスタイル、風体、仕事着だと《さもあらん》と思われても仕方無いけれど、又、逆に
このチョイワル雰囲気を楽しんでいる気持ちも少しはあるみたいだ。

あっちの現場の話、こっちの現場での苦労話、ゴルフの話に職人の事情・・・。あっという
間に一時間も過ぎていた。

打ち合わせよりも親方の要望を一方的に聞いてしまうコーヒータイムとなった。
まアその中でも私の意見、段取り方法、工事予定等を打ち合わせして、また雑談となった。


           四月  五日(水) 晴れ

「基礎と杭は確認申請で変更がないので
『試験杭』を行って下さい」
と連絡が入った。

引っ掛かるのは『試験杭』だが、とにかく一本でも工事が出来る様にはなった。

この際試験杭と称して5本(建物コーナーと中央)打ってみようと欲を出す。

今回の工法は直径45㎝の杭穴を地表より8m迄開けて、そこへセメントミルク(セメントを
水で溶かしたもの) を注入し、既製の杭を入れ込み、杭の頭を押さえる様に静かに沈めて、
のセメントミルクで杭先端を固定する。

方法論を書けば実に簡単だが、作業には色々と問題点が有る。

杭孔を開ける(掘る)とその孔の量だけ当然「土」が出てくる。
地下水の層を貫通するから
水混じりの土(というよりヘドロに近いもの)があふれてくる。
長靴を履(はい)ていても膝近くま
でドロが上がって来るのに大した日数は掛からない。
このへドロを公道へ流出させない為にも、先日場内
を鋤取りしておいたのは『正解』だった。

何処が本杭と試験杭が違うのか説明しよう。

実際地下の支持地盤が一定(水平)であるとは限らない。
地盤はボーリング図(地質図)によってある程度の想定は付くものの、想定通りでない場合
が多い。
従って、建物敷地の対角線上に杭を打ち(試験打ち)そして杭の長さを決定するのだ。

支持層の確認は穴を掘った錐(きり)の先端にくっ付いて出て来た土の色、形状によって判断する。

設計事務所には構造担当者がいらっしゃる。
現地へ来て頂いて判断をして、たまに杭の位置を変更される先生もいらっしゃたものだ。

杭打業者は杭を打ってなんぼの世界だ。
杭を打たない日は巨大な機械の損料(使用料)は出
費となる。
だから、例えば試験杭だろうと本杭だろうと数多く打ちたいのは本音だ。

とにかく打ってしまうと見えなくなる杭だから、ミスは許されない。
(きり)をこれから打ち込む位置にセットしてX、Y方向に20m程度は離れた所から両方向共が
垂直になっているかを、オペレーターへ合図する。

手で頭をポンポン叩いて右へ動かせと合図する。
行き過ぎたら左へ腕を動かす。
そして打ち込み位置
と垂直度は決定する。(見た目の垂直ではあるが・・・)
オペレーターの計器盤では杭の垂直度はコンピューターで表れているの
だが、全く信用して
いない態度で仕事らしく振る舞うのだ。

掘削OKの笛を吹く。ギーコギーコと錐は回転しながら沈んでいった。

(そうだ、錐の長さを測っていなかった)
「親方、このオーガー(錐)何m掘ったか分かるのかね?」
「コンピューターで掘削長さが表示されるよ」と返事。

設計図に書いてある深さまで到達したのでオーガーを引き上げた。
杭先の地盤は錐の先にくっついているもの(土の種類・色)を確認して頂きOKだった。

結局、一本一本丁寧に支持地盤を確認しながら5本打設してしまった。
これで設計図通りの杭の長さで良い事が決定し、いよいよ工事が始まる事になった。


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三月 掘削工事時に

2022-05-29 12:08:29 | 建設現場 安全

……(三月 掘削工事に)…………

   三月二十五日(土) 晴れ

 今日も朝から掘っては搬出の作業だけだ。 

8時からの朝礼後、もうユンボ(掘削重機)はフル稼働だ。
ミニブルドーザーも持って来て地盤をフラットにしながらオペ(運転手)は飛び回っている。

「福原君、昨日は何㎥土を出したんだ?」と私。
「えッ?」
「今日は何㎥搬出予定なンだ?」
「・・・・(数量はどうやって計算すればいいのかナ、昨日の掘った所はこの辺りだから
大体200~230㎥かな・・・)」

「福原君、昨日は5台のダンプが何回、残土置き場間を往復したの?」
とやさしく聞いてみた。 
「5~6回だと思います」
「バカモン!延台数ぐらい数えとけ!!」
と言いたいのをグッとこらえて、
「8時20分・11号車、35分・15号車という様に場外へ出て行った時間とダンプ車体番号を
メモしておきなさい。ダンプの往復時間によって明日のダンプの数、重機を増やす判断にも
なるし、一日に何㎥搬出したかもデータとして自分でつかむと以後楽だからネ」

「はい・・・(但し、俺今までそんな事したことないよ)」
とまあ親切と言うのか、おせっかいと言うのか一席ブッてしまった。

この事は私は今迄のどの現場でも、若手係員からケムたがられても、しつこく説いて来た。
中には(メモなどしなくても・・・今日のこと位覚えてるサ!)と強気なヤツもいた。

一週間後とか、掘削が終わってからとか、支払い精算時に
「あの時には確か・・・」
と状況をプレイバックしようとも、記憶が頼りならば何らデータがないので説得力すら出ない。

「あの時は10時~11時半迄はユンボのトラブルで搬出数が半減でした」
そう答えが出て来た職員は現場の第一戦に成長しているが、強気だったお方は………。

これからも福原君にはかなりキビシイ要求を出すが、頑張ってもらいたいと思う。

彼は積算課で3年勉強し、現場業務はここで三件目だがら次の行動を読むのがまだ弱い。

彼もそれを『弱み』と自覚しているので、この現場ではそこを重点補強ポイントとして
私も応援するし、最後まで頑張ってもらいたいと思う。

5時過ぎて日没近くになる迄仕事は終らず残業だ。
さぞかし残業手当てが多いと思える職業であるが、労働基準法の所在すら棚の上に祭ってし
まい無料奉仕、タダ働きと相い成るのだ。

残業時間は月に36時間迄と頭打ちに合い、早く帰れ、土休だ、日曜日全休だと業界筋
『美辞麗句』をそのまま現場内に掲示しているのは、何の為だろうか。

昔は(オイルショック前頃まで)建設業は残業代で生活が成り立っていたのに、今は仕事
量は増えて残業代金のカットだから、何の為に働いているのか、フト悩む時もある。

仕事量と給与のバランスを考えていたら頭がプッツンして来そうになったので、今日は終
わりだ。
チャイムが鳴って作業終了という雰囲気が味あえる職業ではない事は確かだネ。


  三月二十八日(火) 晴れ


今日も掘削で仕事内容は昨日と同じ。だが明日で終了出来そうな見通しは出てきた。
前日からの疑問〔仕事と給与のバランス〕について少し考えてみた。

―――建設業として工期迄に建物を完成させるのは絶対条件の一つである。
  例え途中で大雨が続き、台風が来襲し、大雪で日本中がマヒしようとも
  『工期厳守!』だ。 

  俗に言う『ケツは合わせる』のが当たり前の感覚だ。
  現実に昨今の状況では『職人の絶対数』が不足しているが、何とかやり
  くりし
て凌(しの)がねばならないと、所長は常におびえながらも工期に縛
  られている。

   当然、四六時中仕事に仕事・・・次の手配とその次の手配―――と
   竣工迄は所
長の思考はノンストップで爆発寸前だ。
   予期せぬ事態の発生によるロスタイムが
有っても、取り返せるだけの
   日程を追い込んでおきたい。

    そうなると必然的に毎日、そう毎日休みなく創り出しておかねば
   ならない。
    一歩でも前に進めようとアセる。だから朝の五時だろうと夜の夜中
   だろうと現
場に出ている。

   あくまでも自主的にと解釈しておかないと、誰のタメにとか、残業
   手当ても……とか言い出すと仕事への『ハリ』は出て来ない。

    彼女は土休、週休二日、大型連休なンてトレンディな生活を送って
   いるのに、現場の若手職員は次の日曜日さえ休めるかどうか分からな
   い生活を送っている。

    威勢のいい男たちの集団である建築現場に於いて、
   「明日デートが有るので休ませて下さい」

   とは恰好つかなくて言い出せない。
   だから彼女にフラれてしまうのだ。

   「遊ぶ女なんか相手にする事ないサ、現場がわかる女でないと
    将来苦労するゼ

   なンて事を親方から哲学というか人生観を吹き込まれている独身者
   もいる。

   人生観に『仕事一本』とか『会社の為に』という考えは全くない。

   楽しく生活出来て人並みに休みが有り、お金が何とかついて廻れば
   満足なの
だと思っている。 

   それが良い悪いとは言われないが、建設業界は体質が古い。
   この古さを少しでも前進させようという気構えが欲しい。

   なのに《仕方ないヤ》とか《まアいいサ》なンて言い、少し苦しいと、
   「辞めようかと思っています、いつ迄も続けられる仕事と思って
    ませんし………」
    なンてよく耳にする。

    「バッカヤロウ!なんて根性のない男だ―――」

   と怒る私はもうオジングループにドップリと漬かっているという事
   だろう。
   あーア。イヤだ、イヤだ。

    『建築現場は面白く、楽しい所だ』
  という事を言いたかった私のテーマが、どんどん反対方向へ走ってしまう。
  これではこの物語が続かないではないか・・・。

  休日もない、給料も安い、危険だ、汚い、恰好悪い(以上全て頭にKが付く)
5Kの業界な
のに何処が《面白い》のかを自問自答してみると・・・。

 

 

   

 

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三月 工事着手の前 1

2022-05-08 10:36:16 | 建設現場 安全

(三月 工事着手の前 1

      三月 二十日(月) 晴れ

起工式から二十日経ったけれど現場は静まったままだ。確認申請の許可が下りてこない。
年度替わりの時期でもあり官庁としても相当忙しい時期だと推察されるものの、許可を受けな
い事には建物の着工は出来ない。

 仮囲いに労災保険成立表、建設業許可表、道路使用許可表、それに確認申請許可表を
並べて
表示する。
 そもそも
『確認申請』とは今から建てようとするKビルが、設計事務所から提出された設計図面
の中で《建築基準法》に不適な所がないかのチェックを受けるだけの事なの
に、提出手続き後
四十日はかかるのが現状だ。

  ――「自分の土地に自分の家を自分の金で何を建てようとイイじゃないの、近隣の同意
     書
があれば『建蔽率』だの『高さ制限』だとか私の知った事じゃない、お上が決めた
     法律(建築基準法、消防法、開発行為、宅地造成法、・・・)等を、お上がチェック 
     するのに何を手間取ってるンだ全く―――

 これはオーナーのみならず、創る側から見ても、特に私などはあえて頑固(かたくな)に意地を

かけ一言文句を言いたくもなる問題だ。

自分の(先祖からの)土地だった所を国に道路計画だと言われ協力させられて、今、自分
ビルを建てるのに更に制限を受ける。

昔は建設の予定等が無かったので国に協力する事を『誉れ』だと思っていたのに、今となっ
ては
《騙(だま)された》という感じがする………
というオーナーの声を幾度ともなく聞いたものだ。

 行政上については遵守しなければ民主生活は成り立たないけれど、とにかく申請許可を
早く下ろして頂きたいものだ。

 起工式を行ってそろそろ自分の建物が出来始めてるだろうと思ってるオーナーから、
「あれから大分たちますが、現場はいつから仕事を行いますか?まだ何もやっていないのは
何か問題が有るのですか・・・?」と電話を受けた。

「確認申請許可が出るまで待機してますが、施工計画や近隣対策には充分に打ち合わせをし
ています―――現地に乗り込むのは二十五日頃だと思います。今のところ役所より三箇所の訂
正を受けてますので、図面を差し替える段取り中です」と返事をした。

 私の勝手から言わせて頂けば、もう一週間は施工図を徹底的に書いておきたいので、許可
もそれまで下りなくても・・・と言うのが本音だ。


      三月二十四日(金) 曇り/雨

 今日から実質着工の現地鋤取(すきとり)(場内整地)を始める。

 ユンボ(掘削機械)は昨夜のうちに回送して来た。
 幸いにも大型回送車が場内に直接入れ
たので道路上の交通を止めることなく、また第三者
(一般の人達)にも迷惑がかからなくて
安心した。
 但し、回送車の荷台からキャタピラの動きによって落ちた土はガードマンを含め
ての大掃掃
ではあった。
舗装面にはタイヤからの土の跡が残り、水バケツで掃除するのに約一時間を費やした。

今日からは掘削土を搬出する為に10㌧ダンプ車が数台入っている。
ダンプがタイヤの土
を舗装面に点々と落としながら出ていく度に『道路掃除』を行うという
作業は全くの無駄金
だと思うし、道路掃除中にも大型トラック、乗用車、ライトバン、バイク、
自転車も通り危
険だ。

こんな中をダンプが一台出ていく度に、人夫が後を追って掃除するのは昨夜で懲りている。

 私はダンプに栗石(ぐりいし)(握り拳大)を積んで来る手配をした。
まず仮設通路に栗石を敷きそこにダンプを通す。
だがこの栗石も除去せねばならない。
ムダに見えるがタイヤ跡を掃除にかけまわる人夫達の賃金から換算すればコストダウンは
明らかだ。

この鋤取(すきとり)とその後からの杭打工事や重量機械が入る為にも、通路は最初にビシッと
作っておくつもりだ。
さらに敷鉄板を通路に敷こう。これは軟弱な地盤には効果大である。

  昔―――

   軟弱な地盤で仕事をした時、敷鉄板さえも通路に埋まってしまいさらに砕石を放り
   込んで・・・敷鉄板はどこへ隠れたのと大騒動した事も二度や三度ではない。

 現場に来る重量車両として杭打工事機、杭搬入車両、レッカー車、生コンクリート車、鋼
材搬入トレーラー等で特に生コン車は5㎥車で28㌧はあり、それが生コン打設日には一日
30台近く出入りすると敷地内の通路は相当なくぼみを発する可能性が大だ。

その度に仮設通路を直してたのでは仕事に成らない。
だから仮設通路計画は慎重に行い、
後からは絶対に手を掛けない事が一番だし、悪くても
中間整備は全工期間で二回迄の計画と
している。

 仮設通路をあれこれ考えていると、栗石を積んだダンプが到着して来た。

掘る前に栗石を入れてどうするの?」
とけげんな顔つきで運転手が訊(きい)て来る。

今日から約1.8mの盛土を撤去しようとするのにわざわざ栗石を入れて・・・と思うのも
無理はない。

「タイヤにはさまった土を道路へ一個たりとも落とすなという気持ちなんだ」と説く。

 今この時点でハイウオッシャー高速洗浄器)でタイヤを洗う事なく公道へ出てもいい様
にするにはこの手が一番だ。
 但し、天候が崩れると仮設通路保護の為、作業は中止とする。

 当然残土搬出先も雨が降れば受け入れ態勢がストップなので、現場としては気をもむ事も
なくて済む事だ。
 ダンプ5台分、取り敢えず栗石を敷き並べて場内通路の整備が出来た。

 ダンプの運転手、ユンボのオペ(運転手)、現場担当のF君、私で朝礼を始めた。
足元には栗石がゴロゴロしているが、ラジオ体操を済ませて、
「今日も一日頑張ろう」
と声を出す。

 通行人が仮囲いのフェンス越しにチラリチラリと覗(のぞ)き込んでは通り過ぎて行った。
どうも一挙一動を見られていると言うのは、肩が凝るので明日はフェンスにメッシュシート
を取り付け様と思った。
遂にKビル新築工事がスタートとなった。

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2月 地鎮祭

2022-04-24 10:01:07 | 建設現場 安全

     二月二十四日(金) 晴れ

  呼出しを受けての支店出勤だ。会う人それぞれが、

「所長、次は何処なの?」と訊(き)いて来る。

「一応Kビルへ行くみたいだけれど、何か情報はないの?」
(やはり昨日の通りなんだろうなア……)

簡単にいとも簡単に私の一生(大げさに言うと)次の予定が決められてしまった。
一言の意見も聞いてもらえるワケでなく、事前に情報が流れて来たのでもなく、全くの
一方通行の会社の決まりである。

 正式に辞令によりという重みのある紙(忘れてしまった辞令の用紙)などはしばらくの間、
見た事もないなあ・・・。

次の現場へ着任してしばらくたって事務書類が一段落ついた頃、皆の辞令と一纏になって
人事課より郵送されて来て

「捺印して返送せよ」
と『親展』扱いにもなっていない《重要書類》が届く。

 その頃には現場仕事に忙殺されていて「何だこれは!?」位しか考えられなくなっている。

(人の気持ちを少しは考えろ)
と冷静な時期なら反発もしようが、人事課と書いて
『ヒトゴトカ』
と読むんだと諦めてしまえ、そんな事より明日の段取りに窮しているンだ。

何はともあれ次の現場がもう来た事の事実は変えられない。しかし二十八日が起工式とな
ると式典準備、テント設立、神主、手土産、・・・・準備があわただしいものだ。

式典の場所、工事場所と建物の位置の確認、設計事務所さんはどこ?営業関係は?出席人
数は?テーブル椅子の数、なおらいの準備は・・・。

建物竣工以来、頭がノーンビリと回転(全く止まっていたかも知れない)していたのが
一気に噴火してしまった。

とにかく今日は支店で各課への挨拶が済次第に建設予定地へ視察に出向こう――これしか
ない――見た上で手順を考えよう・・・

そう思いながら支店の中で色々と雑用を片付けていたら、昨日のO建設のYさんから電話が
入った。

「所長、次が決まりましたか?良かったねえ、現場は何処ですか?また一緒に仕事をお願いし
ますね、よろしく・・・・」

「そうだね…」と言いながら

「起工式用の『整地』と『砂敷き』がある筈だから、明日朝一番で重機類の手配を付けておい
てよ、詳しくは今夜電話するので―――」と約束しておいた。

 その他にも、早々と私の《現場決定情報》を耳にした世話役から五~六本電話があった。

結局支店を出たのは三時四十五分だった。頭の中はかなり混乱している。
たそがれ時の迫る危険時間帯に脇見運転こそしなくても、次の現場の事のみを考え、ただ目
を開いて運転しているに過ぎない私は、さらに渋滞を招く運転をしていたに違いありません。

ともあれ、Kビル建設予定地に着いた。

『狭い!』

これが第一印象だった。敷地全体を有効活用しなければ、市内での貸しビルの採算(面積に
対する家賃の収益)は保たれない。

「市街地だから当然だ」
と割り切ろう。

そして起工式用の平坦地を検討するが、前回のマンションの時は釣堀の底であった事から思
えば、乗用車が入り込めるスペースがあるだけでも立派だ。

表面の雑草は刈り取る事にして、起工式当日に雨が降っても来賓の方の革靴が泥んこになる
事の無い様に「砕石(砂利)」も少し敷いておこう。

 ゆっくり動き始めた今朝だったが、夕刻前からはバタバタとプレッシャーの掛かって来た一日
となってしまった。


     二月二十八日(火) 晴れ

起工式となった。『地鎮祭』とも言う。

工事を始める儀式として工事関係者の主催で日柄を選んでオーナー、設計事務所、近隣代表、
地主、オーナーの近親者、財界、政界………と幅を拡げるとたくさん集まって来るが、今回は
個人のビルなのでオーナー関係6名、工事関係者は8名の簡素な式となった。

我々はこの式を幾度となく経験して多少馴れ合いの感じが無きにしも非(あら)ずだが、
オーナーに取ってはかりそめの儀式(稲を刈り取る)は華やかにも強烈にインパクトの有る
シーンだと思う。

一斉にフラッシュはたかれ、第一歩が始まったかという気合が我々にも伝わって来る。
オーナーの上機嫌なのも伝わり、周囲に一瞬「和」と言うホッとしたような空気が盛り上がる。

これが形式的な時とか、盛り上がりが感じられずに何となく終了すると、その現場の和、コミ
ュニケーション、チームワークも盛り上がらず、ただ何となく創(つく)って、ただ何となく
出来たモノとしか残らない様な気がしてならないのは私の「思い過ごし」だろうか。

では式の内容を簡単に記しておこう。

 式次第
   一、修  祓(しゅばつ)  
   一、降  神(こうしん)                                                               
   一、献  饌(けんせん)
   一、祝 詞 奏 上(のりとそうじょう)
   一、清  祓(きよめばらい)
   一、地鎮行事
      ・苅 初の儀 (鎌かま)
      ・穿 初の儀 (鍬くわ)
      ・穿 初の儀 (鋤すき)
   一、玉 串 奏 奠
   一、撒   饌(さんせん)

   一、昇  神

   一、神 酒 拝 戴(おみきはいたい)

となる。
世間で良く起工式に発表される写真はオーナーの行われる時で《苅初(かりそめ)の儀》と
言い、正面左側に小さな砂山を築き、その上にある草を鎌(斎鎌=いみかま)で草を刈り取る
仕草だ。

 次が設計関係者と工事関係者の代表で《穿初(うがちぞめ)の儀》と言い、鍬(斎鍬=いみくわ)
(すき)でその砂山を「ヨイショ!ヨイショ!」と声を出して(土俵入りのシコの掛
声の如く)
小山に手を打ち込む儀式がある。

神主さんの厳粛な威厳に対し《建物を創るんだ》という意気込みが新たに決意となって燃え
て来るモノを感じさせてくれる。

とにかく第一歩が今始まったのだ。サイは投げられたのだ。
私が関与していなかっただけで、随分昔から計画していたのが実質着工の運びとなったのだ
から、関係者としてもホッとし、これからは、
「現場の人達に宜しく頼むよ」
という引継ぎの場にもなって挨拶、名刺交換等により計画から実行段階へとやっと始まった
と言える。

「起工式の直後で恐縮ですが・・・・二~三箇所確認事項をさせて下さい―――」

「(別に今でなくても・・・)担当のN君と打ち合わせてくれればいいよ。建物位置を正確に
決めなければ、隣家の『日照問題』に引っ掛かる所が出て来るので良く打ち合わせをする事」
 とA設計事務所のA所長に言われてしまった。

「ハイッ。Nさんと打ち合わせさせて頂きます・・・」
 起工式早々からA所長とは打ち溶けるのに時間がかかる様な気が、なんとなく感じられてし
まった。

(このペースではダメだ、何とかして私のペースを出さねば後れを取ってしまうではないか)

『飛び込め、相手の懐に!』だ。
明日は設計事務所へ《御機嫌伺い》に出向きましょう。

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二月・着工の前に(1)

2022-04-03 09:25:00 | 建設現場 安全

(着工の前に)1

       二月二十二日(水) 晴れ
 
 十ヵ月以上も使って来た現場事務所(プレハブ組立2F)の解体を見つめながら感傷にフ
ケっている。
1年前所長として初めて来た時は桜が蕾(つぼみ)になり始めていた時だったなア。

「ここにマンションを建てるんだ」と配置図を拡げてみてガク然としたものだった。 

何と半年前までは釣堀施設でそのままの跡地だった。
(水は堀底に多少溜まってるけれど地盤としては悪くない・・・。この堀を除去するにはユン
ボをどこから入れるのか、入れる前に堀を一つ埋めないと機械もダンプも入れない)

 とそんな事を考えていてやがて桜が開花し、そして散り始めた頃この現場事務所を建てた
のに、もう十ヵ月以上も過ぎてしまったのか。

本当にあっという間のこの一年はバタバタと地に足のつかない一年を送ったものだ。
隣を見渡せば一月末日に竣工引渡しを行い、すでに入居も始まっているマンションが建っ
ている。

「私の役目は終わったよ」
と現場事務所は上手に解体されて行く。

出入口のサッシよ、よく手入れしてもらって次回は蹴飛ばされない様に頼むよ・・・。
アレッ?こんな所に穴なんて開けてたかナ?そうか台所の排水の穴を間違えて開けた時の
穴がそのまま出て来たのだ。流し台で隠れてたのだ。
窓ガラス君一枚ロッカーの裏で隠れてたのかね、隠れ名人め!!

何となく全ての物にいつくしむ心が出てくるけれど、屋根も無くなり壁も外れて形を崩し
ているのに、現場の最初の頃の記憶が鮮明に蘇ってくる私は溜め息一つ「あーあ」とついて
後は無言となってしまった。

『建物を引き渡すという事は娘を嫁に出すのと同じだ』
と聞かされているが、手をかけ、
汗水流し、悔し涙をこぼし、よくも頑張った物だという
自己満足度の度合いにより、感慨に
フケル量の違いがあるにせよ
『娘を嫁に出す』
とは上手い表現だと思う。

 十カ月も住み慣れた場所も明日で一先ずお別れだから、淋しくないと言えば嘘になる。

 この気持ちを癒すのは、次の現場を与えられて、又一から創り始める忙しさに振り回され
る頃迄、無理だろう。今の所、次なる現場は未定だ。


  二月二十三日(木) 晴れ  

 現場事務所跡地を駐車場にするのが最後の仕事となった。
八時四十五分頃O建設(舗装工)が乗り込んで来た。親方入れて六名だ。 

                                                                                   

「オハヨウ、所長やっと終わったねエ」
「お蔭さんでねエ、最後の仕事があンた達になったねえ・・・御苦労さん・・・」

「所長今度はどこへいくの?」
「まだ何も聞いてないヨ、多分市内だと思うけどね―――」
「通える所だったらイイね、又俺たち使ってヨ」

「OK、OK、ところでアスファルトは何時にくるの?」
「昼前に1車入り、順次夕方迄には完了させるよ」

水勾配の高さをチェックしたり道路との高さを測ったり、側溝の中を掃除したり、私が
黙っていても仕事は段取り良く進んでいく。

アスファルト舗装も順調に終わろうとする頃、隣のI金物店(緊急時仮連絡先)から、
「会社に電話するように伝言がありましたヨ」
と連絡が入った。

(サーテ来たか)とぐっと気を引き締めた。

この時期になっての会社との話は私の
『次の現場決定に付、帰社命令』が八割だ。

やはり自宅から通えるのが一番イイ。
この業界では単身赴任も大勢いるので贅沢は言えな
いが・・・。
現場毎に引っ越ししていたのでは2~3年間と同一箇所には暮らせない。

子供の学校、教育、家の事情も有るし、まア次が何処なのか会社へ連絡してみるより仕方
がない。

外国はないだろうし他の所管へ転勤もないだろうが、どんな所へも「ハイッ」と言わね
ば現場マンとしてのカッコ良さがダウンする。

 見栄か、意地か、あきらめかとにかく次の仕事がブラ下がっているのは事実だろう。
色々と自分勝手に且つ都合良く想像しつつ会社へ連絡した。 

「I課長お願いします」
「ああ君か、今度は市内のKビルへ行ってくれ、二十八日が『起工式』だから即準備をする
様に、また今度の現場もよろしく頼むヨ・・・明日の朝支店に打ち合わせに来て・・ 
「(何を一方的にと思いつつも)・・・ハイッ」


        二月二十四日(金) 晴れ

 呼出しを受けての支店出勤だ。会う人それぞれが、
「所長、次は何処なの?」と訊(き)いて来る。



 

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プロローグ 3

2022-03-21 19:53:11 | 建設現場 安全

…………(プロローグ 3…………

 つまり、その日その日の出来る所から手を付けて行けば、やがては出来るだろうと思う。

私自身、週間工程表をよく書かされて(実際このとおりに出来る訳ないのに)と思いつつ、
又《書いた通りなら苦労はしないよ。雨だって降って一日延びる事もあるだろうし・・・》
と思うと、真面目にたったの七日間の工程表でさえムダな事をやらされているという感覚に
とっぷりと浸かってしまったものだ。

職人が来れば私の仕事はあるが、来ない時には何をして過ごせばいいのだ?と思っていた。
伝票の片付けも必要だけれども、当時の私にデスクワークは向かない。

すぐに退屈してしまって現場事務所から出て行く。
現場内で掃除、片付けでもするか、下手をすりゃ喫茶店へドロンと逃避するのは簡単だが、
天気が晴れて職人が倍数も入って来たらどうなるかを考慮出来る様に成るには、相当の年月
が必要であった。

仮に雨が二日間降り続き、現場は作業順延を余儀無くされていても、三日目の作業日には、
「俺たちに雨は関係ないよ」
と予定通り入って来る全く別の業種も有る。

ここでこの業種を仕方なく順延すると工程は三日は確実に遅れたことになる。

工期(竣工引き渡し日)は延びない。
どこでこのロスをとりもどすのか?
打ち合わせをしていても満足に職人が入って来ない業種に、
「明日から人数を倍にしろ」
と言って、その通りに段取りが成るだろうか?

工程表では何日までに終わらせろと書き込み、その為には四人しかいないグループなのに
八人(2グループ)入れると自分勝手に作製する。

が、人間の頭数が急に増えるものでもない。
雨が降って予定がズレたのは私の現場だけじゃない。

この地域、地方一帯全て雨なのだから、私の所だけ雨が辛く当たったものでもない。

自分で慰めて気を取り直してボソボソ(ブツブツのほうが真実かな)と工程表を作り直す
のだった。

だが、この時最も頭を痛めているのは『親方』である。

職人達は日給(日払い)ないしは日給月給(一月分まとめて一括支払い)が大部分である。
雨が降ると仕事が可能かどうか判断に迷う。
掘削、建て方の弋(とび)、溶接、圧接等は雨だとかなり仕事はしづらいが、他はシートを覆う
等の工夫をすれば『やる気』になれば仕事は出来る。

しかし、職人はやっぱり一日働いていくらの世界なので、現場へ行って雨が強く降れば
中止して帰らざるを得なくなれば気を遣うのだ。

「親方、昼まで働きましたので半分日給を・・・・」
と、なかなか言えぬものらしい。

そこを親方は気前良く半分出す(当然の事ではある)場合より、ほぼ一日分払う方が多い
様に思われる。

少しぐらいならケチらずに次も仕事をやってもらわねば、人手が足らないこの時期こそ
『人集めの一方法』
だと割り切ってフトコロを緩めざるを得ない。

仮に型枠大工としよう。大工さんの常庸(じょうよう)単価(日当)を二万円として、

   五つ現場をこなしてる親方だと、平均六人グループとしても、
   30人は職人さんが居る。班長さんもいれば手元(助手)もいるが、
   半日しか働かないのに2万

半日完全に働いたのならまだしも、八時半には雨が上がるだろうと空を見上げて仕事は手を
付けていない。

「まあ小降りになるまで待つかあ・・・」
と言って昨日のナイターの話をするか、元気に花札を出して………。そして周囲がゴソゴソ
と何やら仕事をしかかると重い腰を上げる。

「おっ、やる気になったか―――」
と私達が思ってみたのも束の間で、
「合羽(かっぱ)が足らねえンだよ二人分」
とか
「雨で漏電して電動工具が使えネエ」とか
「寒くなるンで酒を買って来て」
とまあ何を今更みたいな事をシャーシャーとおっしゃるのだ。

私達は一歩でも現場が進めばと思い、ある程度の協力はする。だが、すぐに十時の休憩
タイムになる。

九時過ぎ迄雨で待機していて十時前には休憩室へ服を乾かしに入り、十一時頃から十二時
少し前まで働いて、
「今日は雨で仕事にならん、やっぱり帰る、風邪ひいたら元も子もないので・・・」
とまあ当然、残念だが、帰りたくはないが―――という名文句で帰られる。

私達は仕方無いとあきらめられるが、親方はそれでも日当を払うのかと思うと、親方とは
つらい哀しいものだと思い、胸に言いようのない切なさを感じてしまうものだ。

だが、職人の手配で悩み、天候で泣き、仕事の精度で怒られている親方と友好関係を作り
上げ、良いコミュニケーションにて一つの現場を創り上げる事には、

『言語に絶する悦び』
が有るものだ。

この悦びを糧に現場マンは悪条件(本人はあきらめてる)の中を生き延び、次の現場へと
翔び立っていけるものだと思っている。

工事日誌や安全日誌それに日記等と言う継続するものに、性格が向いてない私ではあるが、
一日三行位は現場の事をメモをしていた。
このメモを基に私は約一年かけて創ったKビル(一般的テナントビル)での人間関係
(人間ドラマにも見えるもの)
を書いてみようと思い起った。

専門の建築用語は極力避けて一つの話、現場の喜怒哀楽をこれからの建築現場を希望して
いる若者達、現場は仮囲いの中で何をやっているのか気になっている人達、建築現場のお隣
さんで迷惑だと思っている人達に少しでも
『現場のシナリオ・ドラマ』
を伝えてみたかったのです。

スジの通らない私の一方的な偏見かも知れません。
また、私の考えを正当化しようとは何一つ思ってはいません。

こういう事があるのだよ、苦労話かバカ話か、はたまた私のグチとボヤキにも思えるけれど
《建物を創り上げる》
と言う大前提のもと、延何千人もが出入りしての『人間ドラマ』として読んで頂ければ幸
いである。              

                                                                                 

   (平成元年に施工した現場のノンフィクション・エピソードです)

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プロローグ 2

2022-03-05 12:54:58 | 建設現場 安全

 …………(プロローグ・2…………

親方の周囲には小道具を点検したり、地下足袋(じかたび)をはきかえたり、煙草を吸っ
たり、親方の
ポケットマネーのジュースを飲みながら、この先どうなるやら―――
と成り行きを《そば耳たてて》興味津々(しんしん)と職人達が見ている。

親方としても今朝(大体六時十分頃)出かけて来るマイクロバスの中で
「今日は○○の仕事だからな・・・」
その日の仕事内容をチラリとは伝えてる手前、急に△△の仕事になると、昔風に言う
《メンツが立たない》と言う事に気配りをする。

自分一人ならOKだろうが四~五人の前で、若手職員からの急な作業変更打ち合わせの
指示に、気前よく「ハイッ」と言う親方はまずいない。

親方の以前からの提案方法に戻す場合でさえ、
初めッから俺が言っとった事だぜ・・・・でも今日は――」
と言って口を閉じる。

「俺たちは組(この場合ゼネコン)から頼まれて職人を連れて来たんだ。相手のB社にも組
の方からキツく言って今すぐ来てもらう様にすれば、朝からの仕事を変えなくて済む。第二
工区の△△は明日人数連れて来て(増員して)でもやったるから―――」
と親方は必ず言う。

気の小さい親方でも顔に額に汗を滲(にじ)らせて無言で訴えても来るものだが、気の小さい
若手職員はその空気のまずさ重さに耐えられずに、全く別のことを考えている事が多いのだ。

そこがこの建築業界の恐ろしさ図太さである。

何を考えているのかこの若き職員は・・・・?
 
若き職員と言いながら実は私の若かりし日々、『現場マンに成るんだ』とヤンチャに燃えて
いた頃をフト思い出してしまった。

そうこの時若手職員は十時半からの、言い換えれば休憩時間後に、すぐ何から仕事をするか
(させるか)の一点に絞っているのだ。

《親方の気持ち》なんて考えていたら所長から言われた
(第二工区の△△・・・)の段取りが狂ってしまう。

それに自分も所長の考えがベターだと思い、お互いに今日の出面(日当分の仕事)で損はし
ないと計算したつもりでいる。

だが実は、若手職員の仕事としてまず第一にB社を八時半迄待って(通常現場は八時から
作業開始)からB社に、
「今日うちの現場に職人さん出たの?」
と電話をする。
こんなに穏やかに訊ねている間はまだ現場内コミュニケーションも良い方だ。

これが、 
「社長!以前から約束していて、昨日も確認していたのに何で職人を廻してくれないんだ!」
と怒鳴り散らす人もいる。
相手が誰であっても怒鳴り散らすのである。
まして電話取次のアルバイトの娘とか『社長の奥さん』にさえ一向に言葉を選ばず罵(ののし)
ってしまう。

そうなるとあのX現場事務所からの仕事の話は《社長に任せよう》となる。

社長としてはY現場が忙しくてどうしても仕方がないから、職人の配置を変えたので迷惑をかけ
たなと反省しつつも、算盤(そろばん)をはじいてみれば明日もう一日Y現場へ職人を
送り込んで
一段落付けてX現場へ戻ろうと予定変更を考える。

誰が考えても作業能率を考える。
これが即、協力業者の儲けに成る。
親方の会社としてはゼネコンから安く叩かれて決めら
れた仕事だけれど、手を抜くことは
《職人気質(かたぎ)としても絶対出来ない。

ここでは能率向上アップ、無駄の排除しか考えられないのは当然だ。

今日Y現場に道具を一式持って行って作業し、夕方Z現場でチョット前日の残した仕事を
完成させて帰社する。

こううまく仕事は繋(つな)がらないけれど、午前と午後で2現場をこなすと親方の手持ち工事
物件がどんどん消化され、儲けも伸びる。

だから今日Y現場へ職人を割り当てたのだから、一区切り付けてX現場へ交替させようと
わざるを得ない。
拡げた材料や道具工具類を片付けて持ち帰り、X現場用へ荷物を積み替えて、またその晩に
はY現場用に積み替えて・・・なンていくら気前のイイ親方でも何度もやってはくれない。

そんなところへX現場から怒鳴り込みの電話を受ける。もう悪循環、そして悪循環。

さあーそんな裏話が読める訳もなく若手職員はやんわりと現場へ出たか否かを聞き、今日
は現場を空けられてしまった事に気付くと、即所長へ報告し次の段取りを考える。
指を喰(くわ)えたままではいられない。

「第二工区だ。そっちへA社を廻せ、D社もE社もだ、F社には予定が変わって早くなる連
絡をいれとけ・・・」

この簡単且つ自分勝手な(現場の都合でしようがない?)段取り替えで大勢の心意気が消
沈してしまう事に私自身も気を配らない。

現場の都合だから・・・職人の都合だから―――もとを突き止めればB社が人をよこさない
ので・・・まあ仕方ないか。

とにかく自分の正当性のみを押し通してとにかく第二工区を十時半からやろうと号令を掛
けてしまう。しまったという方が正しい。

だからA社が機嫌を損ねたら全く方向性が無くなってしまう。
A社の親方=世話役も自分が自分の会社からまかされて出て来ている関係上、この現場は
上手に納めたいのは承知の上である。

だけど勝手に予定を変えられたンではこの先この現場はどうなるのかと心配して下さる。
親方と若手職員それに所長の腹のくくりどころ(さぐりあいではない)、肩肘張るか、相手
を通すかで今日の仕事なおかつ『明日からの仕事』に影響を与える。

親方としては渋々ではあるが、
「仕方ねえ・・・」と言ってくれる間に私は、
「アリガトウ、ゴメンネ」
と必ず言う事を若手職員には強く教えている。

この場合、親方と所長の間に入って調整している若手職員は、現場の工程監理について疑問
を必ず抱くと思う。そして不安やイヤ気を感じてしまう。

昨日の打ち合わせでは、明日は○○だと言って気合をいれたのに何でまた―――だったら
工程は職人さん達の出面(出勤)加減で早くなったり遅くもなるものだ。

ゼネコンが総合工程表を書いてみても竣工引渡しの日が変わらない限り、どの様に作ろう
と勝手なのだ。

つまり、その日その日の出来る所から手を付けて行けば、

                     プロローグ3へ続く

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プロローグ・1

2022-02-23 18:50:09 | 建設現場 安全

 …………(プロローグ・1…………

 一端の現場所長にようやく成りかけて来た私がこんな事を書こうと思ったのは、あまりに
も現在のこの建設業界(以下業界)の未来の不安からである。

 一般の人から見ると建設業大手ゼネコンの所長とは、数億円もの建物を任されて創り上げ
ていくトップとして尊敬して見られることが意外と多い。

「一級建築士です」
と言うと確かに優越感を抱くし、信用度合いもぐっとアップして来るのが分かる。

花形産業職業である(あった)筈のこの業界にはウィークポイントが有りすぎる。
これを克服すれば・・・・と言う事は言葉では簡単だが、難問山積みだ。

何十年いや何千年も前から「創り出す」と言う過程、工程に於いて先人達が悩み続けていた
事は、現在でも答えが出ないまま将来へと引き継いで行くのは疑う余地もない。

私は何とかして微力ではあるが、且つ自分勝手ではあるが自分の現場で働いている部下や
協力業者の方(簡単に言うと下請けのオヤジさん)から職人、掃除のオバチャンや宅急便の
配達のおニイチャン達にまでも、
「この現場は楽しいんだよ。建築とは面白いモノだよ」
と言葉や態度で表しているつもりだ。

現場が思惑どうりに進まずに顔が引きつっていようとも、頭に血が上って思慮分別みさか
いなくプッツンしそうに成っていてもスマイルスマイル・・・・。

『腹の大きい所をみせたるワイ』
と肩肘張って(肩、意地を張って、が正解の気がするけれど)ヤセガマンして、グッとこら
えて、夜に酒を飲む。

 夜まで待てないときも時にはあるが、部下や職人さんの手前、所長の私がKO食らったンで
は現場は前へ進まない。やけくそのスマイル演技は一流のスター並みだ。

 こういう時の解決策は面白いことを考えればいいのだ。
思考逆行、発想の転換というより過去に経験した失敗をここでとり戻そう、その為に
この手を事前に打っておこう、仲間からも、
「アイツはなかなかやりおるワイ」
と言わせるアイデアをひらめかせようと、虎視眈々(こしたんたん)なのだ。

例えば―――

殺風景な現場に自作の看板を掲げる。
安全漫画の標識も自分で描く、仮囲いに絵を描く、
休憩所にもクーラーを付ける。
自動販売機はジュースとたばこ(ビールはダメだろう) を置く。
全員での現場内大焼き肉パーティを月に1回とする。
協力業者チームとソフトボールの試合を組む、リーグ戦にしても面白い。
ゴルフのコンペ、麻雀大会、船釣り、スキー―――等々。
とまあ遊びに関してはオールマイティのフィーリングを発揮して、
『仲良し現場で無事故無災害で竣工迄頑張ろう』
と言う芽を育てようと考えている。

しかし、所長としては欲求不満を抑えに抑えてスタッフと交渉する努力が必要なのは、
言うまでもない事だ。現場所長の一声で、

バカヤローッ!テメー等何やってんだバカ、こんな事が分かンないのかボケーッ!

と雷を落とすのは非常に簡単である。簡単な故に何気なくまた、幾度となく使っているか
も知れません。

『知れません』と言う事は本人は全く気がついていないだけの事であって、職人達から見ると、
「ここの所長、チィセエー事にガタガタ言う好かんヤツ・・・」
として蔭では通ってるのかも知れない―――――(反省しますこの場で)

 職人達としては職人としてのプライド、
ウデでは負けたくないという闘争心』
を持っているが、若手職員が仕事の指図をすると一応
「ハイッ、分かりました」
と答えてくれる。

これは気持ちのいい会話であって、建物を(外観上、機能上)良くしようと言う意思の
伝達を確認し『今日も一日頑張ろう』と一声を上げて仕事に取り組んでいける。

だが、だがそのままスーッと事が運ばないのが何故か《建築現場の常》なのだ。

『朝令暮改』この言葉はこの業界には常識として君臨まします『切り札』なのだから恐れ
入る。

ある時は『天の声』ある時は《神のお言葉》として人の気持ち、現場の状況、タイミング
等・・・俗に言うTPOをも踏みにじって飛び出して来られます。

今朝、朝礼の時皆の前でかっこよく、
「今日は○○をしますので―――」
と作業内容を説明したにもかかわらず、十時の休憩時に親方の側に行って小声で、
「Aさん、A社長(困った時にはこう言う敬称を使う)」
「何だ?」
「朝言った○○の件だけど、今日B社の所の者(人)が来れなくなったもンで」
迄言うと途端に顔色が・・・。

「ナニーッ!そんな事俺らの組(会社)に関係ネエ!」
「そんな事言わンと今やっている第一工区をそのままにして、第二工区の△△から手を付け
ようよ―――な?」
「・・・・・・・・・・」(返事もしたくネエ)

「(昨日ドラゴンズが負けたので・・・・・今日は機嫌が悪い日か―――言ってもダメだった
かなあ)・・・・・?」

しばし沈黙―――

        つづく・・・

 

 

 

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メリークリスマス

2021-12-13 20:12:57 | 建設現場 安全


…………  …………(メリークリスマス)…………

暦が最後の一枚となって、師走という気忙(きぜわ)しい心と、今年のケリをつけてから新年
を迎え
ようとする中でクリスマスソングが流れ、更に街中を賑わせている。

最近は電飾により都会の夜景も様変わりしているが、年の瀬はあっと言う間に終るものだ。

 昔、昔の時代には、先ずボーナスを貰って忘年会もあり、二次会三次会とハメを外して、
夜の巷(ちまた〉をハシゴして、深夜タクシーの中で酔いつぶれて、家の前まで寝たままだっ
た事も数知れず……。 
羽振りの良いのは大部分が土建業のオッサン連中だったし、主任にくっついて
行けば
うまい物が食べさせて貰えて、タダ酒をハシゴしていたものだった。

そんな中で、忘れられない年末の大騒動を話してみよう―――

新入社員のガムシャラ時代から卒業しようという頃だった。
自社ビルの上に分譲マンションがある8階建の、当時では高僧ビルとして斬新な工事だ
った。

7月に鉄骨建方が完了して、一気に躯体工事を追い込んだのだが、年末竣工には残り
5か月しかない。
新年から施主は営業開始するとマスコミに既に報道し、マンションの入居者にも、
「新年は新居で迎えられます……」
と建設を計画した時から決まっていたそうだ。

鉄骨建方の頃から私はもう突貫工事になる事は覚悟していたし、それまで月に2度は休
みたいと言うスタイルから、月に一度だけ日曜日に休みがもらえる…かも……となって
しまった。

「もう後、5か月しか残っていない」
つまり今年は休日が5日間しか残っていない中を、泳ぎきらなければならない。
「まだ5か月もあるのに」
と思えば、仕事をする日数もかなり残っていると思い直して、現場に明け暮れていた。

肉体労働の代価であり残業代を含めると結構な額の給与であったが、残業手当は頭打
ちで深夜残業分が無給であろうとも、文句を言うとゲンコツが飛んで来そうなほどの
殺気があった。

最後の1か月がしかも年末・師走で職人不足のピーク時である。
工事が遅れていようとも、冬休みが始まったらすぐ引っ越しを始める入居者もいるのだ
から、クリスマス前後が竣工式になるのも止むを得ない。

外構(駐車場舗装・花壇・境界フェンス)等の工事は年越しとしても、大広間で行われる
クリスマス前後が竣工式になるのも止むを得ない。

竣工式とパーティには来賓の方もあり、真冬であり室内空調の完了だけは最低条件に厳命
された。

空調と簡単に言うけれど、電気が繋がっていなければ作動しないが、天井裏でダクトと
配線は電気室まで伸びていても、肝心の電気室の内装と配電盤へ結線が師走中旬になった。

パーティ会場は2階だが、エレベータの使用は通産省の許可証が年末になり、階段を
使ってもらう事にして階段には絨毯(じゅうたん)を敷いて、その場をしのぐ状態となった。
とにかく、竣工式を目指しての工事であるから何でもありの、ぐっちゃぐちゃの一日が
ジングル
ベルと一緒に鳴り響いて、焦る気分を更にイラ立たせてくれている。

 とにかく、マンションに最初に引っ越して来られる部屋から仕上げる事を《最優先》と
する中で、トイレの配管が浄化槽まで完全に繋げられるのかが最大のネックである。

 バイパス的に1本予備配管の設置を検討したけど、その為に時間が喰われるなら全戸の
配管を繋げた方が最終的には早いだろうと、根拠のないまま排水工事は後回しになっていた。

クリスマスの翌日が竣工式に決まったが、パーティが出来る様になる確率は12月の始めで
五分五分だったのが、10日になっても《まだ間に合わないかも知れない》という空気が多勢
だった。

 残業・深夜残業の連続でボーナス支給日とか忘年会の話題すら禁句となり、寝る時間以外
は動き廻るしかない状況になり、工事用のEVが上昇する僅かの秒数でさえ眠れる技が身に
付いた。

そんな中、もうすぐクリスマスだと言う頃に、
「福さん、放送で呼ばれているよ」
と職人さんから教えられたが、場内放送を無視していた。

「福本さん電話です、至急事務所に戻ってください」
らしき呼び出し声は、日に何度もあり、もう聞きたくない言葉だった。

(今更、何事が発生したんだ…もう)
事務所には誰もいなかったが、外れた受話器が机の上で『取ってくれ』と言いたそう
であった。

 耳に当てて、
「お待たせして済みません。どちら様で?」
「福本さん? おめでとうございます《一級建築士合格》されましたので…」
「ン!?もう一度おっしゃって下さいませんか?」


(夢かもしれんなあ・・・夢なら醒めずにいてよね)
立っていても眠れそうな体に、いきなり合格の連絡を聞かされて、
と一旦眼を閉じて、ゆっくり眼を開けて……とポーズを描いていたら、

「何でボーッと突っ立ってる!」
と一呼吸で、現実の世界に引き戻された。

『俺、一級受かったってよ、主任はどうでした?』
と言いたいけれど、ニタついた顔で聞くのも失礼なので、
「畳54枚、EVが試運転中だから担いで上がって、各戸へ配りましょうか?」

もう眠気は吹っ飛んだから、力仕事でも掃除でも何でもやってやる馬力が復活し、周囲
から、
「福さんついに…狂ったかア………
と、こんな突貫工事の最中に吉報が舞い込んだのだから、狂い咲も許してもらった。

竣工式の前日、クリスマスの夜、
「後はトイレ配管を浄化槽迄5m繋げれば完了だ!」
まで、こじつけたのだが夜の7時を廻っていた。

「今日は大変だけど、今夜だけは早く家に帰りたい……」
と朝礼時に皆で話していたのだが、接続完了し帰宅した時は又、深夜近くになっていた。

「ゴメン、今日だけは早く帰る段取りだったのだけど…ごめん」
と妻に謝った眼の先のテーブルにはクリスマスケーキと料理が並べてあった。
眠たさをこらえてのメリークリスマスに乾杯となった。

もう一つメリークリスマスの頃の想い出がある―――

それは思い出したくも無い出来事だけど、『リストラ宣告』を受けた時である。
この衝撃は《建設現場の玉手箱》に最初に載せた話であるが、
「退職者リストに君が入っているから…」
と重役専用応接室のソファに座って言われて、首が飛ぶ事を拒否出来ない威圧を受けた話
である。

年の瀬のクリスマスの前日にリストラ宣告を聞かされて、その場で印は押さずともクビは
確定で、早期退職金の上乗せを含めると《○千☆百万円》とまで試算し準備されていたの
だった。

私は中途採用の社員だから定年退職まで勤めても、同期より退職金が数百万円は少ない
のを薄々覚悟していたが、今、この早期退職手当金が頂けるならば拒否する理由が一瞬で
飛んだ。

「金に眼が眩む」をこの場で使えるのかは分らないけど、この先55の定年まで5年間分の
生活費を先払いしてもらったと想定すればいいし、別枠の『割増退職手当金』の額に目を
落とすのだった。

リストラを拒否して会社にしがみついていたい人もいる中で、
「君は本を書いたり、安全講演も出来るし、何をやっても食って行けるから―――君の場合は
悲壮感がないし……他の人に宣告する時はつらいけど……」
と誉められているのかナメられてるのか、どっちにしても決まっている事だった。

所長としてのプライドから、
「私の成績で退職リストに入ったのですか?」
「それは無い、当初の予定高齢者が退職拒否されているので、年齢制限を撤廃して…
人事課が…」
(まさに人事課と書いてヒトゴトカと読むべきでしょう)

日頃から協力業者側の立場を考慮して発言していたので、背広族にはうっとうしい存在
だった筈から、今回のリストアップに早々と登場させて頂いたものだと思える。

(会社にしがみつく理由も特に無いし、来年まで居座っていても、又、リストラの話が出れば…)
ならば、先程チラッと見せてもらった早期割増し退職金で潔く退く事に、あっさり心が
決まった。

「奥さんと相談しないでイイの?」
「リストラ拒否の口実の相談』でもしなさいって事ですか?」

年末までに50名の肩をたたき、新年早々にリストラ名簿を本社に提出する役目の人は、
恩も情
けもこの際振り捨てて、自分の首は守れていて、他人事(ひとごと)の世話として
処理をされている。

次に来るリストラの波に、今度は乗る事を知らない筈はなかろうに……

年末年始をどう過ごそうかと家族の話題が一転し、
「来年から、この先どうやって生活して行くのか―――」
クリスマスケーキを前にしても、メリークリスマス気分は消えてしまった。

もう少しタイミングを見計らってクリスマスが過ぎてからリストラ通告をして欲しかった。
年末までに50名ほどリストラさせるノルマを達成すれば、自分の首まで飛ぶ事態には
無らなくて済むのだから、職務に忠実で上司に可愛いがってもらおうと尻尾を振って、
リストに載っている人に、もう眼を合わせようともしてくれない。

(あんた達の身代わりになってあげたのよ…)
と心では毒を吐きながら、私の他に誰が宣告を受けて了解したのかも、気に懸るところだった。

建設会社で現場勤務者をリストラして稼働する工事現場が激減しても、会社の利益は
どこからかで
生み出して、銀行へ負債の返済手段が早まると言う計算式がどうしても作製出来ない。

店内事務職の人がリストアップするのだから、現場技術員の名簿から選出したのも分るが
生コン工場が生コン車を処分したお金で工場を拡張している様に見えて、笑い話になり
そうだ。

「私に出来る仕事は何か有りませんか?」
リストラを逃れて、数年遅れて定年退職を迎えた昔の仲間から、
と頼られる度に、あのクリスマスの宣告時に《憐みの眼》でみられた当時が思い出されて、
不機嫌になるのは、私自身の心にもまだ傷が完治されてないのであろう。

リストラ以後も自分なりに会社を起業して結構楽しんでいるし、やっとクリスマス騒動の
話が言える様になったのだから、自分の人生に感謝、感謝しよう。

        

 

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現場も秋祭り

2021-11-17 20:32:41 | 建設現場 安全

…………………(現場もお祭り)…………

秋には《秋のお祭り》騒ぎよりも『後のまつり』となった事が現場では多い事だと思う。
大抵は竣工式の日取りを決める頃になって、間に合うかどうかとカレンダーを見つめて、
「あの検査がすんなりと通っていたら…」
なんて事を、つぶやきながらも竣工日から逆算した工程表を書き始めて思うものである。

「あの時あれが…、雨があの時期に降ってとか、設計変更が多発して…」
着工から今までの現場の流れを遮った出来事を思い出すと《後の祭り》そのものだ。

このような現場はすべからず―――恒例の『お祭り』が始まるのだ。

《スタートするなら新年から》の思いが多い日本では、年末竣工に集中するのも止むを
得ない。
必然的に建設業界は秋の声と共にお祭り、俗に言う『突貫工事』になるわけで、ケツに
火が点(つ)いて踊り出す覚悟が必用になって来る。

突貫の福さんと呼ばれていたが、工程不足の調整がつかないまま受注し、営業から、
「突貫だけど、今回も頼むわ」
でもノーと言えない現場所長でもあった。

工事途中から突貫に突入して《後の祭り》状態は現場係員時代は常であったから、自分

《後の祭り》の昔を思い出して話をすれば―――

とにかく、所長は何も指示しないし、
「『銭』以外は総て任せるから、お前らで決めてヤレばいい」
が口ぐせであり、一見大物の様に見えるのだが、ゼロから創るものに若手が集まっても
ネズミの相談であり、工事は進まない。

『お前ら』と呼ばれただけで、モチベーションが消滅するのが分らない人なのか……と
失望の念。

社内組織から見れば上位にランクされている所長さんだが、若手が育っていないし、工事
途中で退職願いを出す若者を出しても、利益を上げているので出世街道を歩んでいる人
なのだろう。

協力業者さんはそんな性格の所長を長年見ているからか、見積書も作らず、
「忙しいので、そちらの現場には手が廻りません、済みませんね…」

やんわりと風向きから遠ざかって行く。
(他の所長なら、無理してでも受注したいけど……)

第一希望の協力業者に首を振られて、意に反した業者を呼びつけて、
「お前の所に決めてやった。すぐ施工図を書け、工事は遅れるなよ!」
と権力を振りかざしている時点で、もう予定の工程から3%位は遅れ始めている。

出足で転んでいるのだけど、これが数業者もあるのだから、現場は嵐の中の難破船あり
ながら、船長不在・座礁目前よりも沈没船だった。

案の定、協力業者が急いで書いて来た施工図に、
「これでは納まっていない!何考えているンだ!書き直せ!!」

(やっぱりお前のところに決めるンじゃなかった!)
と所長が眉をつり上げる。

(ここの現場を建築部長から押し付けられたから仕方なく・・・
        やっぱり請(う)けるべきじゃあ無かった……)

と協力業者の顔には反省もやる気も窺(うかが)えないヒトコマを何度も見たものだった。

「殿、これで如何でござる?」
「ン?良きにはからえ、そちにまかすぞヨ」

お城で文句は言わない殿様ならば、家臣は協議を図り国を治めていたものだが、今、指示も
出さないで行き当たりばったりの不満を言われては、爆発の火種を蒔(ま)く様なものである。

専門課程を卒業して来た若者が、理不尽な話に耐えられる時代ではない。

が、やめて行った若者に、
「あいつはやっぱり根性が無かったなあ……」

何て上司に言い出すのだから、現場の楽しさもチームワークもあったものではなかった。

竣工前になって、お決まりの突貫となった。
24時間労働でも追いつかないほど、仕事量が残っている。

「お前ら!何をやってたンだ今迄!!」 
となってはもう《後の祭り》も最高潮に達している。

恥ずかしながら工期延長願いを申請し、1か月ほど竣工日を延ばして頂いた。
もうそこからは所長の顔色は気にしない事にした。

近郊の現場の若手職員に、18時から雑工事を手伝わさせる……という支店通達が下った。

職員にさせる仕事―――

それは室内の残材搬出、床仕上げのため掃き掃除、脚立足場を翌朝から作業する
場所へ搬出し組み立てる、クロス・床の仕上げ材料を資材仮置き場からEVに
載せて、各部屋に配置する、残業用の投光器の配線を組み替える―――等、
とにかく朝一番から職人さんが直ぐに仕事に取り掛かれるように、夜中を徹しての
雑仕事だ―――

自分の現場を早目に切り上げて毎晩応援に来てくれる20人程度の職員に、簡単ではある
が夕飯を食べられるように、近くの大衆食堂に頼み『通い帳』にサインして食事が出来る
話をつけた。

大衆食堂(今の時代にはもう看板も使わないな)だから、小皿に料理が一品ずつ載っていて、
自分の好きなおかずを選んで、味噌汁、トン汁もあったなあ……。

仕事中だから酒を飲む事は出来ないしタダ働きでは申し訳ない気分であり、残業手当が出な
いかも知れず、応援して頂ける感謝の気持ちから《私の独断》で始めたのだった。

毎夜、応援の若手職員が頑張ってくれている中で、職人さん達から、
「余裕はないけど、何とか間に合わせるよ、福さん」

とお昼休みに背中を叩かれて、今迄のシマリのない雰囲気が変わって行った。

突如、
「お前!何考えてンだ?」
の声に振り向いたら、

「メシ代はどこから算段するんだ、予算はないんだぞ!」

(おいおい、喰い物のウラミは怖い事を教えてあげるよ)
とニヤリと頬を動かして、

「夜、腹ペコで他人(ひと)の現場の雑用は出来ませんよ、それより
《深夜残業代》はどうされますか?」

「(ギョッ?思ってもいなかった…)」

「述べ600人で2千500時間、400万円の残業代を踏み倒して、バンメシの36万に問題でも?」

「何で相談せずに勝手に決めたンだ、誰が払うんだ……皆の晩飯代を!
「三か月前からキャバレー・スナックにも行ってないので、それくらいは残ってるでしょ?」
「(・・・・・・)」

若手現場マンの応援を有難いと思った所長は、
(社員だから無償で手伝ってもらえる)
と思ったのは誰の目にも分ったし、ここの現場が突貫になった理由を若手から聞かれる迄
もなく、風評が近郊の現場に尾ひれまで付いて、漏れ伝わって行った。

「あれじゃあ、下の者がかわいそうだよね?」

だが、私にとっては良い経験になったし、突貫工事になる理由と、突貫工事にならない様に
する方法の両方を
『しっかりと肝に焼きつけた』
という教訓になった―――お祭りだった。

時は平成になって―――
竣工前にはどの現場も突貫工事らしき事態の《お祭り騒ぎ》に陥るもので、私が赴任した
現場では、若手配属員と顔合わせの時、缶ビール片手に、 

「前の現場で、最終月はどんな状態だったの?」
と訊(き)いてみると、九割は戦争というかバタバタの連続で終わったと言う。

「で、反省は?原因は何だったの?」
少し現場を思い出して、

K君「下請けがなかなか決まらず、手配がだんだん遅れたシワ寄せが…」
S君「施工図が遅れて,承認印がなかなかもらえず、変更も多かった…」
T君「職人さんの絶対数が少なくて、鉄骨と躯体工事の遅れが尾を引いて…」

等々、誰もがどこの現場でも、似たり寄ったりの苦労をして来たようである。

現場の担当係員として色々な体験をしたのだが反省会もなく、次の現場に赴任させられて
いるから、苦労した経験を活(い)かされる場に巡って来ないのだ。

仕事を楽しくこなし、現場を明るくチームワークの良い現場にしたいのならば、私の書
いた《建設現場の子守唄》を参考にすれば簡単であり、現場監督業務に悩むならばシリーズ
《ーーの風来坊》《ーーの玉手箱》を手本にすれば簡単である。

現場が忙しいと口にする人の多くを見ると、的確な指示を事前に出す能力に欠けている
ものだ。

協力業者任せにしていながら、出来上がったモノに文句を言いたくなるのならば、出来上
がる前に、文句の出ない様に仕事の中身を正確に伝えれば良いだけである。

本人が当日になって現物を見てから《お祭り》の幕が開く……
《後の祭り》の第一幕が―――

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