…………………………(挨拶廻り 2)……………
昔から、こんな事をやっている連中は、どうしようもないヤツらだ…と思っているが、この《挨拶廻り》別名《地廻り》とやらもその筋では立派な任務であるのだから、建設業界の裏街道から無くなる事はないだろう、いつかは来るだろうと予想はしていた。
今回はアタッシュケースからおもむろに、真っ白くて帯の入っているT神社の《御守り札》がテーブルの上に置かれ、
(黙って5万以上でどうだ)
と無言の押し売りだ。
最初の一言で、勝負が決まる。
「私は警察署の道場で子供たちの剣道の世話役をしています。だから、領収書を親しい警察官に見せて事情を話ますよ。それでもいいですね?・・・で2万円でいいですか?」
と先制パンチを放つ。
(ウッ・・・)
と聞こえそうな間が起きた。
もう私の膝が揺れていたのは止まり、その時点から客人に動揺が走る。
「所長さんとは以前、お会いしましたよね?」
「多分ね」
「分かりました、手間とらせました」
今までに会った事もないのであるが、隣に座っている相棒に対して、
(以前にも顔を出して挨拶しているから、今回は降りてもいいだろう…)
の合図が出たようだ。
引き上げ時のタイミングとして、私が合わせた返事の意味と呼吸を読み取って、きっちり挨拶をして席を立ったのは流石であり、番付け上位のお兄さんだったのであろう。
以後、その現場が竣工するまで《挨拶廻り》の類いはピタッと来なくなった。
この話は警察官であり剣道の師範の耳に一応伝えたが、どこの誰とかは一切答えなかった。
数日後、K工事部長が追い帰した話を聞いたのであろう。昔話を口にされた。
「俺が若い頃、机にドスを刺して《お札》を売りつけに来たヤツがいた。そのドスを引っこ抜いて首先に当ててやった。俺は剣道やってたからドスで脅された事に腹が立って…」
「武勇伝は色々あったンでしょう?」
「S君は今でも机にドスを隠し持っているよ、何も切れない刃だがね」
今の時代はもう現場事務所に来てまで凶器を振り回す事はなく、懐にドスまで持ち込めば即、警察通報になるから《地廻り》稼業は脅迫スレスレの会話をする勉強をしているようだね。
でもパンチパーマと黒一色の容貌から、優しい現場所長は何とかが縮み上がるってもンだ。
とある現場で、私が副所長の時、
こわもてのお兄さんが来たらどうするか、誰が応対するかと「くじ引き」をした事がある。
(所長が対処出来ないものを、我々に押し付けるなよ)
顔に現して、ムッとして言い返したのは、
「追い帰すのなら私が言うけど、お金を払うのなら所長に任すよ」
一度でもお金を払うと、お兄さん仲間に情報が廻って足元を見透かしたような連中が、何度でも通って来るし《おいしい現場》にされるのを防がねばならないのだ。
しかし、私が現場を廻っている間に彼達が来て交渉したらしく、必要以上に消火器やらトラロープや、いかがわしい絵入りの割引券等が事務所の倉庫に増えているのだった。
現場の職人さんの中にその筋の人と関わりがあっても、不思議ではない世界でもある。
関わっているから、その現場には手を出さない場合もある…とも思える。
逃げ廻る必要もないし、命を取られるのではないし、悠々と構えれば道は開けて来るのだが、
「《の本》を購入して頂きたく…」
と昨今、会本部と名乗り、県外からでも迫って来るのには毅然と対処するべきであり、建設現場の魂を見せるべきである。
建設業界、しかも建設現場に「」を持ち出す根拠すら、スジチガイと言うものだ。
場所長の『肝』を鍛えねばなるまいが…。
《続く》
昔から、こんな事をやっている連中は、どうしようもないヤツらだ…と思っているが、この《挨拶廻り》別名《地廻り》とやらもその筋では立派な任務であるのだから、建設業界の裏街道から無くなる事はないだろう、いつかは来るだろうと予想はしていた。
今回はアタッシュケースからおもむろに、真っ白くて帯の入っているT神社の《御守り札》がテーブルの上に置かれ、
(黙って5万以上でどうだ)
と無言の押し売りだ。
最初の一言で、勝負が決まる。
「私は警察署の道場で子供たちの剣道の世話役をしています。だから、領収書を親しい警察官に見せて事情を話ますよ。それでもいいですね?・・・で2万円でいいですか?」
と先制パンチを放つ。
(ウッ・・・)
と聞こえそうな間が起きた。
もう私の膝が揺れていたのは止まり、その時点から客人に動揺が走る。
「所長さんとは以前、お会いしましたよね?」
「多分ね」
「分かりました、手間とらせました」
今までに会った事もないのであるが、隣に座っている相棒に対して、
(以前にも顔を出して挨拶しているから、今回は降りてもいいだろう…)
の合図が出たようだ。
引き上げ時のタイミングとして、私が合わせた返事の意味と呼吸を読み取って、きっちり挨拶をして席を立ったのは流石であり、番付け上位のお兄さんだったのであろう。
以後、その現場が竣工するまで《挨拶廻り》の類いはピタッと来なくなった。
この話は警察官であり剣道の師範の耳に一応伝えたが、どこの誰とかは一切答えなかった。
数日後、K工事部長が追い帰した話を聞いたのであろう。昔話を口にされた。
「俺が若い頃、机にドスを刺して《お札》を売りつけに来たヤツがいた。そのドスを引っこ抜いて首先に当ててやった。俺は剣道やってたからドスで脅された事に腹が立って…」
「武勇伝は色々あったンでしょう?」
「S君は今でも机にドスを隠し持っているよ、何も切れない刃だがね」
今の時代はもう現場事務所に来てまで凶器を振り回す事はなく、懐にドスまで持ち込めば即、警察通報になるから《地廻り》稼業は脅迫スレスレの会話をする勉強をしているようだね。
でもパンチパーマと黒一色の容貌から、優しい現場所長は何とかが縮み上がるってもンだ。
とある現場で、私が副所長の時、
こわもてのお兄さんが来たらどうするか、誰が応対するかと「くじ引き」をした事がある。
(所長が対処出来ないものを、我々に押し付けるなよ)
顔に現して、ムッとして言い返したのは、
「追い帰すのなら私が言うけど、お金を払うのなら所長に任すよ」
一度でもお金を払うと、お兄さん仲間に情報が廻って足元を見透かしたような連中が、何度でも通って来るし《おいしい現場》にされるのを防がねばならないのだ。
しかし、私が現場を廻っている間に彼達が来て交渉したらしく、必要以上に消火器やらトラロープや、いかがわしい絵入りの割引券等が事務所の倉庫に増えているのだった。
現場の職人さんの中にその筋の人と関わりがあっても、不思議ではない世界でもある。
関わっているから、その現場には手を出さない場合もある…とも思える。
逃げ廻る必要もないし、命を取られるのではないし、悠々と構えれば道は開けて来るのだが、
「《の本》を購入して頂きたく…」
と昨今、会本部と名乗り、県外からでも迫って来るのには毅然と対処するべきであり、建設現場の魂を見せるべきである。
建設業界、しかも建設現場に「」を持ち出す根拠すら、スジチガイと言うものだ。
場所長の『肝』を鍛えねばなるまいが…。
《続く》