………………………(大事な1月) (1)………
元旦。年の始まり。
お正月気分もお酒も抜けていないような中で、初出式を迎える。
年末に一区切り就けるところまで頑張ったので年末年始の特別休暇中は現場の事を頭の
中から一旦消去させたままで、今もまだ再開するには回転不足である。
年中無休の『働き蜂』さんにとってみれば、現場を閉じて数日間も自宅で過ごせたのだ
から、『仕事始めの日』が来れば、
(ゴロ寝の休みも終わってしまったんだ)
と惜別な心で疼くものだ。
お盆と正月ぐらいが建設業(特に建設現場)のまとまった休日として《確実に休める》の
は今も昔も変わりないだろう。
現場の工程が順調であったとしても、たとえ三日間でも所長の権限で現場を止めて完全一斉
休暇を実施する事は考えられないし、想定外の万一の事態が無きにしも非ずの世界である。
今正月休みを頂いて安閑として居られるが、次に連休が出来るのは・・・黄金週間まで無理
だろう。
しかし、黄金週間は暦に休日マークが付いていて《有給休暇消化推進月間》のポスターが
あるものの、現場は交替出勤して、日曜日だけを休みにした事が度々あったのも思い出す。
世間では祝日の前後に有給休暇を加えて、大型連休はレジャーや旅行に出かける企画が満載
なのだが、現場マンにとっては高嶺の花・他人事として聞き流しているのも哀れである。
しかし、私は連休に関係せず、竣工の一区切りが着けば、短期旅行を計画して海外へ逃亡
(日本に居たら呼び出される)していたものだ。
足を着けていない大陸はオーストラリア大陸と南極大陸の二つで、簡単に行けそうな
ハワイもまだ残してあるのだ。
(さてさて今度はどこに狙いを付けて、旅行会社のパンフレットをチェックしようか……)
と今、考え始めているのだが―――
しっかり前を見れば《初出式》のパーティ会場である。
仕事始めに先だって檀上にある『鏡開き用の樽酒』を眼が追えば喉も喜んでいそうだ。
「…昨年と比べて―――今年は景気が…今年の完成工事目標は…安全に・・・」
スピーカーから支店長の声が聞こえて来るが、卓上のオードブルのどれから手をつけよう
かとウロウロ歩いて品定めも楽しいものだ。その間でも、
「あけましておめでとうございます。所長、本年もよろしく」
と協力業者のオーナーさん達から耳元で年賀の挨拶を受けて、小声で交わす。
「こちらこそよろしくね」
遠くの檀上では型通りの挨拶が行われているが、会場内は少しづつざわめき始めている。
おめでたい席なのだが、
「今年の事故は○件以下にして、安全に仕事が出来る環境を……」
と酒樽を目の前にしながらも雰囲気の壊れるスピーチがどうしてもある。
『今年の目標はゼロです』
と流石に言えないが毎年事故がどこかで起きるのも現実である。
神棚に祈るにせよ、お神酒で乾杯するにしても、新年で第一回目だから、頭を下げるのも
時間をかけて、今年一年分を代表するかの如く神妙な面持ちになっている。
周囲を見渡せば、女性社員の晴れ着姿が正月気分を醸し出してくれている。
玄関先には縁起ものの門松が威風堂々と飾ってあり、一礼して通り過ぎるだけで、
「今年もさあやるぞ―――」
とアドレナリンを掻き立て、歩く歩幅も大きくなって行く。
私の駆け出しの頃は―――
――― その2へ続く
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