四月 二十日(木) 晴れ
杭打工事が終わって三日経った。今日からは掘削開始だ。
鋤取(すきとり)時があったから重機関係は再開始だが、本格的掘削としてはこれから始まる。
掘削施工図を青焼きし、深さ毎に色分け(平均1.6m)して壁に貼り付けた。
70度位で掘削する。
一応45度迄は掘削しましょうと見積り数量に計上してあるものの、必要以上に掘らなく
てもいいし、今回の様にGL(地盤面)から50㌢も地盤改良して堅くなっていれば、その下
は垂直でも掘れる様であった。(GL=グランドライン)
万一を考え多少多めにカット(法(ノリ)を切る)したが、搬出土量は計画数量を相当下回
ったと思う。(当然埋戻しの量も減の筈だ)
鋤取り時と同じ様にダンプの搬出記録を付けておく様に指示をした。
鋤取り時点で作った取り敢えずの仮設道路の栗石は二割程度は残っていた。
全て杭打工事中にヘドロと混ざって処分してしまうと計画していたし、道路清掃代に殆ど
経費が掛からなかった事を考えると、公害問題の点でも良かったと自負している。
今度は本格的な仮設道路を作る。
これからはダンプ車、生コン車、材料搬入車(主として四㌧ユニック車)をポイントに仮設
計画図に指定した正確な位置に作る必要が有る。
前回の経験から福原君の要領は大分良くなった。
仮設通路になる巾員の要所要所には石灰でマークしてある。
「道路はここなんだ」
と白線内をダンプが行き交って地盤を転圧している。
やがて砕石も敷込み、歩行者は石を蹴飛ばす(慣れてはくる)事がタマには有るけれど、搬
入車両の運転手はタイヤの掃除の手間が省けて大助かりだと言っている。
交通量の多い道路の為、ガードマンを置いた。
ダンプ出入り口表示、黄色回点灯、立て看板は
掲げてあるものの思いがけない事故もありうるも
のだ。皆で『交通事故防止』を考えよう。
「今日は仕事をしたぞ」と言う充実感があった。
四月二十一日(金) 曇り
今日も仕事は掘削だ。
EVピットはGLから2.1m迄掘り下げねばならない。
1.5m掘削したあたりから、水が湧いて出て来た。
水中ポンプを釜場(簡易ピット)へ設置した。
一番低い所をさらに30㌢くらい掘り下げて、ポンプには金網を巻き(ゴミの吸込防止)、
排水ホースが車で踏まれる所には保護管を通し、排水を開始した。
水の量はたいした事なく、砕石が多少濡(ぬ)れている位だ。
ステコンクリートの厚さ分5㌢を打てば水替えは不要になる計算だ。
基礎と地中梁になる部分に石灰で表示を行ない、砕石を敷き込み転圧を行った。
掘りさげた地盤にたたずむと、除去しなかった地山(じやま)がすぐ目の前にあり、視界
も作業能率もさえぎって、真上の空が大きく見えた。
(両端に残した土が崩れて来たら《生き埋め》にはならないけれど、腰までは埋まってしま
いそうだし、万一座って作業していたら首だけ覗いて自力脱出不可能だろうなあ・・・)
と変な所で納得しつつ掘削状況を一周り点検していたら、昔の現場を思い出した。
―――昔の昔―――
現場名K。
深さ1.4m位だったと思うが、なるべく余分に掘削したらダメだと主任に注意
されて、垂直なおかつ必要最小巾で掘りさげて自慢した事が有る。
ステコンを打設して墨出しを行ってもピッタリの位置に入っていて、自己満足
していたのも数日間だった。(墨出し=基準線・原寸など
夜、雨が降って地山だった筈の土が、朝見ると崩れて(ヤマがきたと言う状況)
いたのだ。
その時点ではもう鉄筋が所狭しと組上っていた。
鉄筋に引っ掛かってる土を除去しようにも、人間が横向きに通れる巾しかない。
スコップを動かすには斜め方向からしか使えない。それでも何とか少しずつ土を
放り上げた。
周囲に置こうにも、余掘(よぼり)スペースが無いので1.4m放り上げるしかない。
雨を十分に吸い込んだ土はスコップからなかなか離れないものだ。
もう少し余 裕をもって拡げて掘っていたらこの土はそこへでも置けるのに・・・。
ケチッて掘った(掘削支払い代金削減)が為に崩れる度に俺が手直しをするのかと
思うと、主任の指示は 何を意味していたものか……と若い時に悩んだものだった。
土工さん達は私の指示通りに経済的に掘ったのだから、
「崩れたから直しとけ」
と私は頼めなかった。
段取りに対して不信感を抱きつつ半日もかけて何とか格好を付けたが、型枠
組立中からコンクリート打設、埋戻しに至るまで何度雨にたたられ私の出番が
あった事か・・・。
――― ――― ―――
土工事、ことに掘削中に雨が降ると予期せぬ事が数多く発する。
『土留め』は緩(ゆる)み崩壊の場合もある。
ユンボ、ダンプは地盤をこれ以上悪くしない為にも、作業中止となる。
作業中止しても重機の使用料支払いは平日稼働分と何ら変わらない。
一日も早く基礎とか地下室を作ってGL迄埋戻しを行なって、地上へ出てくる部分からの
建築工事らしい仕事をしたいものだ。
掘削・土工事をしている時は土木屋さんのイメージ、気持ちがチョッピリ感じられるけれど
も、やはり私は建築屋さんであって、
「GL(地盤面)から上ならまかせなさい」
と言う気負いも多分にあるものだ。
日頃の行いによって雨が降らないと言うが、日頃の行いには自信があるのだがなア……。
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