#photobybozzo

沖縄→東京→竹野と流転する、bozzoの日々。

【森村誠一】人間の証明

2011-08-18 | BOOKS&MOVIES
8月17日(水)、西陽が差し込む中、
ボクは横須賀にいた。

ジョー山中が亡くなってから
森村誠一の「人間の証明」を読了した。

戦争という悪しき出来事に
人間の「良心」が翻弄され、その「領界」を喪う
なんともやりきれない話だった。

その喪われ膿を伴った「良心の領界」に
一条の光を与えるのが、西條八十の詩であった。

 母さん、ボクのあの帽子、どうしたでせうね?
 ええ、夏碓氷から霧積へ行くみちで、
 渓谷へ落としたあの麦稈帽子ですよ

森村誠一氏自身、20代の彷徨える時代、
ひとり霧積の山峡の湯宿でこの詩に出会い、
激しく感動を覚える。

氏曰く「永遠の母」が、この詩には宿っている。
人間本来の「良心の領界」が滾滾と水を湛えている…
そんな澄み渡る心の情景だろうか。

実際、棟居刑事が八杉恭子に自供を迫る場面は、
…心底、顫えた。

特に自らの生命を「邪魔」と悟ったジョニーヘイワードへの述懐…

 「でもジョニーに会うと、何度も固めたはずの決心が鈍りました。それが鈍ったまま
  自分と家庭を守るためにナイフを突き刺したために、ナイフは先端がジョニーの体に
  ほんの少ししか刺さりませんでした。そのときジョニーはすべてを悟ったようです。
  ママはボクが邪魔なんだねとジョニーは言いました。…そのときのジョニーのたとえ
  ようもない哀しげな目つきを私は忘れることができません。…私は…、私は、…我が子
  をこの手で刺してしまったのです。すべてを悟ったジョニーは、私が中途半端に手を
  離してしまったナイフの柄に自らの手を当ててそのままグッと深く突き立てたのです。
  そして私に早く逃げろと言いました。ママが安全圏に逃げ切るまで、ボクは絶対に死なない
  から早く逃げろ…、と自分を殺しかけた母の身を瀕死の体で庇ってくれたのです。」

錯綜する母と子の心情、そして西條八十の詩…「mama,do you remember…」

ジョー山中はこの詩をどのような思いで歌ったのだろう。
「人間の証明」とはいったいどういうことなのだろう。

8月は鎮魂の月。

戦争の体験談を追想するたびに、
「良心の領界」とは、なんと脆く儚く美しいものなのだろう…と思う。

だからこそ、その清澄な領域をしかと守っていかなければ、ならないのだとも。

ジョーの歌唱は、その思いを揺り戻すのに余りあるものだ。
あらためて、彼の冥福を祈りたい。   合掌。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【ジョー山中】人間の証明

2011-08-18 | memories
Joe Yamanaka/Proof of the Man

Mama, Do you remember
the old straw hat you gave to me
I lost the hat long ago,
flew to the foggy canyon
Mama, I wonder
what happened to that old straw hat
Falling down the mountain side,
out of my reach like your heart

Suddenly the wind came up
Stealing my hat from me
Swirling whirling gusts of wind
Blowing it higher away

Mama, that old straw hat
was the only one I really loved
But we lost it, no one could bring it back
like the life you gave me

【西條八十「帽子」より】

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでしょうねえ
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ

母さん、あれは好きな帽子でしたよ
僕はあのときずいぶんくやしかった
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから

母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね
紺の脚絆 に手甲をした
そして拾おうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね
けれど、とうとう駄目だった
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでしょう
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでしょうね、そして
秋には、灰色の霧があの丘をこめ
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは
あの谷間に、静かに雪がつもっているでしょう
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と
その裏に僕が書いたY・S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする