その人はひょっこり顕れた。
73歳。
とてもそのようなお年を召した方には見えない。
黒のスーツを着こなし、俊敏な身のこなしで、客人を案内している。
おそらく外国からの視察だろう。
自分の創造した建築物を隅々まで案内する気持ちって、どうなんだ?
マチエールに至るまで自分の目が行き届いているのだろうか?
「ここをよーく見てください。素材が違うんです。光の加減で文字が浮き上がる仕掛けです。」
…とか、設計者にしかわからないこだわりが随所に散りばめられているのだろうか?
やがて、その人の周りを都民が囲った。
「選挙、応援してます。」「がんばってください!」
…とかなんとか。有閑マダムが笑顔で、2ショットをお願いしている。
もちろん、嫌な顔ひとつせずケータイフォトに収まるその人。
自分の建築物内である。
敵が存在するわけがない。
その威厳を、この大きな創造物が肩代わりしてくれるのだ。
「見なさい。あなたは今、ワタシが産み出した建築空間の中に居るのですよ。」
空間を産み出してしまう建築家ってなんなんだ。
権威をかざして、おのれ自身を大きく感じてしまうものなのか?
「共生の思想」を傘に、都知事選に出馬する勘違いを起こしてしまうものなのか。
自分の力で空間を産み出す経験から、「共生」の意識が芽生えたのだろうが、
そこに「奢り」を感じずにはいられない。
産み出す力が、「人間至上主義」に行き着くのは、容易に想像できる。
その人は、自らの分身である建築物のエレベーターで、高みへと上り、いなくなった。
黒川紀章 Kisho Kurokawa Architect & Associates
73歳。
とてもそのようなお年を召した方には見えない。
黒のスーツを着こなし、俊敏な身のこなしで、客人を案内している。
おそらく外国からの視察だろう。
自分の創造した建築物を隅々まで案内する気持ちって、どうなんだ?
マチエールに至るまで自分の目が行き届いているのだろうか?
「ここをよーく見てください。素材が違うんです。光の加減で文字が浮き上がる仕掛けです。」
…とか、設計者にしかわからないこだわりが随所に散りばめられているのだろうか?
やがて、その人の周りを都民が囲った。
「選挙、応援してます。」「がんばってください!」
…とかなんとか。有閑マダムが笑顔で、2ショットをお願いしている。
もちろん、嫌な顔ひとつせずケータイフォトに収まるその人。
自分の建築物内である。
敵が存在するわけがない。
その威厳を、この大きな創造物が肩代わりしてくれるのだ。
「見なさい。あなたは今、ワタシが産み出した建築空間の中に居るのですよ。」
空間を産み出してしまう建築家ってなんなんだ。
権威をかざして、おのれ自身を大きく感じてしまうものなのか?
「共生の思想」を傘に、都知事選に出馬する勘違いを起こしてしまうものなのか。
自分の力で空間を産み出す経験から、「共生」の意識が芽生えたのだろうが、
そこに「奢り」を感じずにはいられない。
産み出す力が、「人間至上主義」に行き着くのは、容易に想像できる。
その人は、自らの分身である建築物のエレベーターで、高みへと上り、いなくなった。
黒川紀章 Kisho Kurokawa Architect & Associates