かりなのお散歩コースは、車が二台擦れ違える位の道だ。
お散歩の途中、その道の先で、黒い塊が道路の真ん中に転がっていた。
優雅に朝のジョギング中の2人の女性が
「嫌だぁ、あれ、轢かれてるのよねぇ」
と、話しながら私たちを追い越して行った。
女性たちは、その塊を追い越し際、少し走るスピードを落として、またすぐに走り抜けて行った。
最近、新しい家が増えたからか、カーナビの普及のせいか、近道になったその道は、通勤ラッシュ時にはスピードを出して走って行く車が増えた。
どんどん近づくにつれ、黒猫である事がわかった。
時々、この近くで前を横切る黒猫かなぁ?
…最近、黒猫がよく横切るんだよ…と、母に話したばかりだった。
かりなは、いつもの足取りで歩いて行く。
何台もの車がその塊を避けて通って行く。
その度にまた轢かれるかも…とヒヤヒヤする。
近づくと、一匹の銀ブチの猫が、轢かれている黒猫を覗き込んでいる。その猫は、車が通る度路肩に避けて、行きすぎるとまた近寄ってくる。
親か子か兄弟姉妹か?
出来たら生きてて欲しかったが、口から大量の血が流れていた。多分、頭からぶつかったのであろう。近寄るにつれ、段々と怖くなる。
その時、長いしっぽが動いた気がした。
私の足は、今来た道を引き返していた。
黒猫を生きてるかどうか確かめる事も、道の真ん中から路肩へと避けてやる事も出来ないで、私の足は引き返していた。猫以下だ。
…轢いた奴が責任を持つべきだ…
自分の店の前で轢かれた血だらけの野良犬を、泣きながら抱き抱えて動物病院に運んだ知り合いのおばさんや、轢かれた野良猫を見つけたら、路肩に避けてやる友達のお母さんを知っている。
「かりながいたから何も出来ない…仕方がないもん」
気がつくと、そんな独り言を繰り返していた。