「早くお風呂に入って、ちゃんと布団に寝てね」
妻に手を引かれて寝室に向かっていた息子が、唐突に引き返してきて、ダイニングキッチンでビールを飲んでいた私に言った。
◇
「抗いがたい」
妻の指示であることは明らかなのだが…。
少し過ぎて、妻もやってきた。タオルを忘れたらしい。
「早く寝てくださいね。体に悪いんだから」
ビールに一瞥。すぐに目線を外して寝室に向かっていった。
「抗いたい」
私の健康を気遣ってくれていることは分かるのだが…。
◇
「あらがいがたい」
「あらがいたい」
「が」が一つ入っただけで意味は逆になる。
◇
言ってる内容は同じでも、なんだか反論したくなる、そんなことはしばしばある。相手の言い方もある。が、相手への好意も実は大きく影響している。
いやいや、妻へももちろん好意はあるが、なぜか、指摘されるのがイヤなのだ。それは、妻だけでなく、親に対しても同じだ。
親の言葉は、だいたい抗いたい。特に思春期には。
しかし、親からの、多くの「抗いたい言葉」は、実は「ありがたい言葉」でもあったと思う。
苦い言葉こそ、本当に役に立った。
◇
親としては子に言われると、言われたことを最大限にきいてあげたい。そんな気分になってしまう。実は、それは子どものために、というより自分のためになのかもしれない。
◇
あの人に言われると、なんだかやってあげたい。
あの人に言われると、できることでもしてあげたくない。
他人との関係でもしばしば発生する感情。
◇
つまりは「相性」だ。相性こそ、実はあらゆる関係の中で相当に大切なのではないか、と思う。
夫婦とは、実は「相性」を悪くさせつつその関係を維持しているのではないだろうか。適度の緊張関係を保つことで、それぞれの生活活動を維持しているのではないかと思う。それは、子の立場から見た親子関係でも。
子は、親に対する適度の緊張感の中で生き抜く力を獲得していく。(ちなみに、親の立場から見た親子関係は、ただただ愛情を注ぐばかり。子をたくましく成長させるものではないのかもしれない)
◇
「相性」の大切さとは、相手が人間の場合だけではなく、器でも、音楽でも、絵でも、本でも通ずる。
いくら人々からの評価の高いものでも、自分との「相性」が良くなければ、無意識の拒絶反応が働いてしまう。
◇
相性のよいものばかりに囲まれて生きていくことはできない。しかし、「相性の悪さ」を「悪意」に発展させてしまうような人間には、なるべく接触せずに生きていきたい。
そして、そんな人間にはなりたくない。ましてや、息子にはなってもらいたくない。
◇
となると、やっぱり会社員にはさせたくないなぁ。特に、この職種は。
◇
こんなことをビールを飲みながら悩んでいる。
実は、いま一番に悩ましいのは、早く寝るかどうかの今夜の判断である。
「息子の言葉には従いたい、例え背後に妻がいるとしても」と思う。が、一方では、「妻の意思に従ずるのか、おれは」という忸怩たる思いもある。
これは悩ましい。実に、迷う。
今後10年くらいの私のイキザマを左右しかねない。
いや、くだらないって言うなよ。
妻に手を引かれて寝室に向かっていた息子が、唐突に引き返してきて、ダイニングキッチンでビールを飲んでいた私に言った。
◇
「抗いがたい」
妻の指示であることは明らかなのだが…。
少し過ぎて、妻もやってきた。タオルを忘れたらしい。
「早く寝てくださいね。体に悪いんだから」
ビールに一瞥。すぐに目線を外して寝室に向かっていった。
「抗いたい」
私の健康を気遣ってくれていることは分かるのだが…。
◇
「あらがいがたい」
「あらがいたい」
「が」が一つ入っただけで意味は逆になる。
◇
言ってる内容は同じでも、なんだか反論したくなる、そんなことはしばしばある。相手の言い方もある。が、相手への好意も実は大きく影響している。
いやいや、妻へももちろん好意はあるが、なぜか、指摘されるのがイヤなのだ。それは、妻だけでなく、親に対しても同じだ。
親の言葉は、だいたい抗いたい。特に思春期には。
しかし、親からの、多くの「抗いたい言葉」は、実は「ありがたい言葉」でもあったと思う。
苦い言葉こそ、本当に役に立った。
◇
親としては子に言われると、言われたことを最大限にきいてあげたい。そんな気分になってしまう。実は、それは子どものために、というより自分のためになのかもしれない。
◇
あの人に言われると、なんだかやってあげたい。
あの人に言われると、できることでもしてあげたくない。
他人との関係でもしばしば発生する感情。
◇
つまりは「相性」だ。相性こそ、実はあらゆる関係の中で相当に大切なのではないか、と思う。
夫婦とは、実は「相性」を悪くさせつつその関係を維持しているのではないだろうか。適度の緊張関係を保つことで、それぞれの生活活動を維持しているのではないかと思う。それは、子の立場から見た親子関係でも。
子は、親に対する適度の緊張感の中で生き抜く力を獲得していく。(ちなみに、親の立場から見た親子関係は、ただただ愛情を注ぐばかり。子をたくましく成長させるものではないのかもしれない)
◇
「相性」の大切さとは、相手が人間の場合だけではなく、器でも、音楽でも、絵でも、本でも通ずる。
いくら人々からの評価の高いものでも、自分との「相性」が良くなければ、無意識の拒絶反応が働いてしまう。
◇
相性のよいものばかりに囲まれて生きていくことはできない。しかし、「相性の悪さ」を「悪意」に発展させてしまうような人間には、なるべく接触せずに生きていきたい。
そして、そんな人間にはなりたくない。ましてや、息子にはなってもらいたくない。
◇
となると、やっぱり会社員にはさせたくないなぁ。特に、この職種は。
◇
こんなことをビールを飲みながら悩んでいる。
実は、いま一番に悩ましいのは、早く寝るかどうかの今夜の判断である。
「息子の言葉には従いたい、例え背後に妻がいるとしても」と思う。が、一方では、「妻の意思に従ずるのか、おれは」という忸怩たる思いもある。
これは悩ましい。実に、迷う。
今後10年くらいの私のイキザマを左右しかねない。
いや、くだらないって言うなよ。
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