重い体をひきずって
病院からの帰り
コーヒーを一杯飲もうと
父と川沿いの喫茶店へ
車を停車させた瞬間に見上げた空
『天使の梯子』
空から天使たちが降りてくるらしい
見た人はお願いごとが叶うと言う人もいる
天使の梯子を見た前の日のこと
私は1人病室でいた
午前1時からお腹が痛いと苦しみ出した母親の付き添いとして
救急車へ飛び乗った
1時間もかけて離れた病院に辿り着いた
言われるまま入れ替わり立ち替わりする先生と看護婦さん達
書類と説明の間に母親の背中をさする
『痛いよ〜、痛いよ〜、殺してくれ〜』
『アンタにあんな気難しい父親を残していくのは申し訳ないけど
もうアカン、頼むから殺してくれ』
あまりの痛みからそう言う母親を
よく戦争映画で見た光景だとか
ニュースで見た経緯なんだなとか
よくもまぁ冷静に見られている自分はどうなのよと
思いながら緊急手術の用意を待っていた
私、1人きり
体の調子の良くない父は家に置き
パニック症候群が襲ってきそうな気配を残しながら、必死で、自分とも戦っていた
朝陽が登るころ、やっと
オペ室へと送り出して
廊下で朝陽の陽を浴びる
祈りの気持ちしかなかった
なんとも複雑な陽を見ながら
両手を胸の前でにぎりしめていた
3時間後
オペ室から戻ってきた母親は
集中治療室に入れられ
ほんの数分だけ顔がみれた
心臓が弱い母だけど、壊死した腸を1メートル切除したわりに
顔色が良かったのは先生の手早い処置のせいだろう
その日、新月だった
気がつけば36時間、私は起きていたことになるが、もうろうとした意識の中で
新月のお願いを数行書き出した
次のあさ、父を連れて病院に車を走らせた。
集中治療室から一般病棟に帰ってきた母
まだ、意識は混濁しているけど
口調はハッキリしていたせいか安心できた
けれど、私達を見た母は
『良い奥さんでなくてごめんなぁ、良い母親でなくてわるかったなぁ。
けれど、孫達には
ありがとうと伝えて欲しい』
『もう、意識が薄れてきた、もうアカンゎ』と
繰り返すので
もはやこれまでかと
手首を掴んでみたら、コックンコックンと
規則正しい脈拍を打っていた
一晩中一睡もせず、痛みに耐え、緊急手術に耐えた体は
弱っていてもまだ、しっかり生きようとしてる
あとは、感染症にならずに
回復をまつだけとなる
その日、まずは一安心した父と病院からの帰りに
喫茶店の前から見た『天使の梯子』は
きっと、私の願いを叶えてくれるに違いない!
そう思い込もうとしていた。
あの手術の日
数時間遅れていれば命を取られていた事実。
あの天使の梯子を見た日から
丁度2年後に
母は天国へと旅立ったことになる
先に逝った父の招きもあったのだろう
父とて
私と一緒にその空を見上げていたから
きっと、その時に
天使達との約束のようなものが
出来ていたのかもしれない
それから2年は
天使達からのプレゼントだったんだと思う
逝ってから一年を経て
今日は、母の命日
温かいコーヒーを
仏壇にお供えたら
ゆらゆら揺れる湯気が
母の息づかいのように
妙な揺れ方をしていた
『ありがとう、私を産んでくれて。
約束どおり、コーヒーをお供えしたからね』
その時の天使の梯子
病院からの帰り
コーヒーを一杯飲もうと
父と川沿いの喫茶店へ
車を停車させた瞬間に見上げた空
『天使の梯子』
空から天使たちが降りてくるらしい
見た人はお願いごとが叶うと言う人もいる
天使の梯子を見た前の日のこと
私は1人病室でいた
午前1時からお腹が痛いと苦しみ出した母親の付き添いとして
救急車へ飛び乗った
1時間もかけて離れた病院に辿り着いた
言われるまま入れ替わり立ち替わりする先生と看護婦さん達
書類と説明の間に母親の背中をさする
『痛いよ〜、痛いよ〜、殺してくれ〜』
『アンタにあんな気難しい父親を残していくのは申し訳ないけど
もうアカン、頼むから殺してくれ』
あまりの痛みからそう言う母親を
よく戦争映画で見た光景だとか
ニュースで見た経緯なんだなとか
よくもまぁ冷静に見られている自分はどうなのよと
思いながら緊急手術の用意を待っていた
私、1人きり
体の調子の良くない父は家に置き
パニック症候群が襲ってきそうな気配を残しながら、必死で、自分とも戦っていた
朝陽が登るころ、やっと
オペ室へと送り出して
廊下で朝陽の陽を浴びる
祈りの気持ちしかなかった
なんとも複雑な陽を見ながら
両手を胸の前でにぎりしめていた
3時間後
オペ室から戻ってきた母親は
集中治療室に入れられ
ほんの数分だけ顔がみれた
心臓が弱い母だけど、壊死した腸を1メートル切除したわりに
顔色が良かったのは先生の手早い処置のせいだろう
その日、新月だった
気がつけば36時間、私は起きていたことになるが、もうろうとした意識の中で
新月のお願いを数行書き出した
次のあさ、父を連れて病院に車を走らせた。
集中治療室から一般病棟に帰ってきた母
まだ、意識は混濁しているけど
口調はハッキリしていたせいか安心できた
けれど、私達を見た母は
『良い奥さんでなくてごめんなぁ、良い母親でなくてわるかったなぁ。
けれど、孫達には
ありがとうと伝えて欲しい』
『もう、意識が薄れてきた、もうアカンゎ』と
繰り返すので
もはやこれまでかと
手首を掴んでみたら、コックンコックンと
規則正しい脈拍を打っていた
一晩中一睡もせず、痛みに耐え、緊急手術に耐えた体は
弱っていてもまだ、しっかり生きようとしてる
あとは、感染症にならずに
回復をまつだけとなる
その日、まずは一安心した父と病院からの帰りに
喫茶店の前から見た『天使の梯子』は
きっと、私の願いを叶えてくれるに違いない!
そう思い込もうとしていた。
あの手術の日
数時間遅れていれば命を取られていた事実。
あの天使の梯子を見た日から
丁度2年後に
母は天国へと旅立ったことになる
先に逝った父の招きもあったのだろう
父とて
私と一緒にその空を見上げていたから
きっと、その時に
天使達との約束のようなものが
出来ていたのかもしれない
それから2年は
天使達からのプレゼントだったんだと思う
逝ってから一年を経て
今日は、母の命日
温かいコーヒーを
仏壇にお供えたら
ゆらゆら揺れる湯気が
母の息づかいのように
妙な揺れ方をしていた
『ありがとう、私を産んでくれて。
約束どおり、コーヒーをお供えしたからね』
その時の天使の梯子