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『情事』 旅の友・シネマ編 (4) 

2018-06-22 17:31:25 | 旅の友・シネマ編



『情事』 L' Avventura (伊)
1960年制作、1962年公開 配給:イタリフィルム モノクロ
監督 ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本 ミケランジェロ・アントニオーニ、トニーノ・グエッラ、エリオ・バルトリーニ
撮影 アルド・スカヴァルダ
音楽 ジョヴァンニ・フスコ
主演 クラウディア … モニカ・ヴィッティ
    サンドロ … ガブリエレ・フェルゼッティ
    アンナ … レア・マッサリ
主題歌 『トラスト・ミー』 ( Trust me ) 演奏・サウンド・トラック (ジョヴァンニ・フスコ楽団)



若い建築家のサンドロは上流階級の娘アンナと結婚の約束はしているもののすでに二人の愛は倦怠にむしばまれていた。
ある夏、二人は仲間数人とシチリア島の近くにあるエオリエ群島へヨット旅行に出かけたが突然アンナが姿をくらました。
サンドロはこの旅行に同行していたクラウディアとアンナを捜している間に深い仲になる。警察もアンナの捜査を打ち切り、
友人たちがシシリーに戻った頃には誰もアンナの事件を口にしなくなっていた。ある夜、クラウディアはサンドロが見知らぬ
女と抱き合っている現場を目撃する。二人は底知れぬ虚無感に包まれてエトナの夜明けを迎える。



この作品は知的ネオリアリズムの鬼才といわれたアントニオーニ監督による『太陽はひとりぼっち』、『夜』と共に愛の不毛
三部作と称されていてその中でも最高傑作と呼ばれています。
物語の筋はというと、無人島の見物に出かけた一行のひとりの女性が突然姿を消し、一組の男女がその行方を探し回る…
ただ、それだけだで起承はあっても転結がなく、物語性は全くありません。アントニオーニはこの作品によって映画は物語を
見せるものではなく、登場人物の心理を映像表現する映画へと進化させていきました。
感情を映像で表現するという作風は知的リアリズムと称されます。その論理をもってすれば下手なストーリーは不要なのです。
ストーリーがあれば観客はその進展に気を取られすぎて逆効果となって映画の本質を見失ってしまいます。
アントニオーニは説明を一切せずに、心のつながりを失って孤立し漂流する現代人の不安と孤独や癒しきれぬ真実の愛への
渇きを、背後に広がる無人の冷淡な風景を多用しながら、表向きでは繋がっている男女も実際は互いに隔絶し冷たい浮遊の
個にすぎないという愛の不毛を映像で表現、追随を許さない独自の映像芸術を確立しています。
ラストシーンは冷ややかなカメラが二人を傍観するように冷酷に締めくくられていて、まさに映像美学と映像表現の教科書、
映画の本質は映像表現という言葉がぴったりの作品でした。



今や映画はストーリー中心の劇映画が本流で、興業的に成功するためには、起承転結の筋書きドラマという制約が伴います。
劇映画という前提で作品を見ると「何だこの映画は!!」、「失踪した女はどうなったんだ!!」で終わってしまうでしょう。
普通に物語を追って映画を観ている人にとっては物語の転結を説明してもらわないと納得できないでしょうね。
残念なことに巷ではアントニオーニ作品は難解だといわれています。映画を筋書きのあるドラマだと決めつけてこの作品を
見ると難解にしか見えないでしょう。
この映画が難解にしか思えないということは映画に臨む自己勝手な思い込みに起因するのかもしれません。
素直な心で映像に向き合っていただければアントニオーニ作品がなぜ高評価されているのかという理由が
チョットだけでも分かるのではないかと…

  *****

大ヒットにはなりませんでしたが、この主題歌も映画とともにとても印象的でした。

映画『情事』より サウンド・トラック(ジョヴァンニ・フスコ楽団)による『トラスト・ミー』 【YOUTUBE】より


映画『情事』より ファウスト・パペッテイ楽団による『トラスト・ミー』 【YOUTUBE】より


パペッテイ楽団の邦題は『情事のテーマ』でリリースされていました。



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高校一年の終わりごろにこの作品を観たのですが、これまでの映画の概念が破壊されてしまうほどの衝撃でした。