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『嘆きのテレーズ』旅の友・シネマ編 (5)

2018-06-27 22:27:40 | 旅の友・シネマ編



『嘆きのテレーズ』 Therese Raquin (仏)
1952年制作、1954年公開 配給:新外映 モノクロ
監督 マルセル・カルネ
脚本 シャルル・スパーク、マルセル・カルネ
撮影 ロジェ・ユベール
音楽 モーリス・ティリエ
原作 エミール・ゾラ 「テレーズ・ラカン」
主演 テレーズ … シモーヌ・シニョレ
    ローラン … ラフ・ヴァローネ
    ラカン夫人 … シルヴィー
    カミーユ … ジャク・デュビイ
    元水兵 … ローラン・ルザッフル
    ジョルジェット … マリア・ピア・カジリオ



身寄りのないテレーズは生地店のラカン夫人に引き取られ夫人の息子カミイユと愛のない結婚生活を送っていた。ある日、
トラック運転手のローランが深酔いしたカミイユを店に送り届けたことでローランはラカンの生地店に出入りするようになる。
病弱で遊び好きなカミイユに大きな不満を抱いていたテレーズは必然のごとくローランと恋におちる。ローランとテレーズは
カミイユに不倫の真相を告げて離婚を承諾させようとしたが、テレーズを家政婦のように利用していたカミイユはそれを拒み
テレーズを一時的にパリの親類に幽閉しようと企んで、テレーズとともにパリ行きの夜行列車に乗り込む。しかし、不穏な
雰囲気を察知したローランはなんとか列車に追いつきカミイユがまどろんでいる間にテレーズを列車のデッキに誘い出した。
だがその密会現場にカミイユが現れ、小競り合いとなりローランはカミイユをデッキから突落してしまった。
警察は殺人と事故死の両面で捜査したが目撃者もなく事故死として処理されたが、ラカン夫人は息子が死んだショックで
脳卒中を引き起こし口もきけない全身不髄になってしまった。しかし夫人の目はテレーズを疑うように毎日厳しく睨み続ける。
事件も一件落着かと思われたが、その当夜にテレーズたちと列車で同室だった復員水兵が生地店に現れ、当日見たことを
ネタにしてローランとテレーズをゆすり口止め料を要求、二人もこれに応じるしかなかった。取引の日、復員水兵は身の安全の
ために真相を書き記した手紙を宿泊先のホテルの女中に托し、自分が五時までに戻らなかったら手紙を投函するようにと頼む。
取引が成立し金を受け取った復員水兵が店を立ち去ろうとしたとき暴走してきたトラックに轢かれて息を引き取ってしまった。
やがて五時の鐘が鳴り、あどけなさを残した女中はポストへと向かい、郵便夫の集配袋にその手紙を入れる。



戦前・戦後にかけてルネ・クレール、ジュリアン・デュヴィヴィエ、ジャック・フエデー、ジャン・ルノワールと共にフランスの
映画界を支えたマルセル・カルネ監督の代表的傑作です。
マルセル・カルネは運命の皮肉をテーマにしたいわゆる知的ペシミズムに強烈な心理リアリズムを融合させる作風なのですが
この作品においては以前のカルネに見受けられていたペシミズムの中に垣間見えていたロマンチシズムを完全に押し殺し、
冷ややかで突きっぱなしたリアリズムによって感傷のかけらすら見せておらず、人間の煩悩と運命の深渕を簡潔に描きあげ、
全編鋭さで貫かれた運命的心理サスペンスの傑作に仕上げています。
この原作はエミール・ゾラの「テレーズ・ラカン」なのですが、筋書きに大きな変更を加えて、現代風にドラマティックな側面を
持たせるため原作になかった復員水兵を登場させてサスペンスとしての深みを強調し、原作とは全く違った意外なラストに
至るまで強烈な緊張感を持続させています。




*****

1930年当初、トーキーの出現をきっかけに映画に真の芸術を求める動きが鈍り、音を得たことによってハリウッドではさらなる
商業主義が加速する一方、ヨーロッパ映画は芸術と興行の折り合いを求めることになり、芸術の香りのするリアリズム劇映画が
誕生してヨーロッパ映画の主流となっていきました。
この『嘆きのテレーズ』はそういった背景の経緯から作られた最高傑作の一つでもありましょう。