地球温暖化の影響は想定より深刻、IPCCが警告
1.5℃上昇で状況は大幅に悪化、2030年には1.5℃に達する可能性も
世界の平均気温が産業革命前と比べて1.5℃上昇した場合、その影響と負担はこれまでの想定をはるかに超えるものになるだろうと、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が警告を発した。6000件におよぶ調査研究に基づいたこの「1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書」は、韓国の仁川で開催されたIPCCの総会で10月8日に公表された。
世界の平均気温はすでに産業革命前から1℃上昇している。この10年間には、世界中の国や地域が、記録的な嵐や森林火災、干ばつ、サンゴの白化、熱波、洪水に見舞われてきた。報告書によれば、気温の上昇が1.5℃に達した場合、状況は大幅に悪化するという。2℃に及ぶとすれば、さらに深刻だ。
また、気温が上昇する幅は、早ければ今後11年以内に1.5℃に達する恐れがあり、二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に削減できなければ、20年以内に1.5℃上昇するのはほぼ確実だという。しかも、仮にCO2削減に今すぐに取り組み始めたとしても、1.5℃上昇の時期を遅らせることはできても、防ぐことはできないと予測している。
危険になり続ける地雷原にいるようなもの
室温が0.5℃上昇しても気づく人はあまりいないだろうが、地球規模で平均気温が0.5℃上昇すれば「相当な」結果を招き、その影響は生態系から人間社会や経済にまで幅広くおよぶだろうとIPCCは警告する。
「気温上昇を2℃ではなく1.5℃以内に抑えれば、生態系や人々の健康、福祉を難しくするような影響を軽減できるでしょう」と、プリヤダルシ・シュクラ氏は声明の中で述べている。同氏はインドにあるアーメダバード大学の環境エネルギー・グローバルセンター長で、今回の報告書の共同執筆者だ。ここでいう影響には、従来よりも強烈な嵐や異常気象、危険な熱波、海面上昇、社会インフラや動物の移動パターンへの大規模なダメージなどが含まれる。(参考記事:「より遅く危険になる台風、上陸後の速度は30%減」)
報告書に盛り込まれた科学的な発見は「政策立案者向け要約」として34ページにまとめられ、米国を含む加盟国195カ国の代表によって承認された。
2015年に採択された「パリ協定」では、気温の上昇を2℃以内に抑えることで各国が合意したが、国土の海抜が低い国などは、それより大幅に厳しい目標を求めていた。現行のCO2排出削減目標では、2100年までに気温が少なくとも3℃上昇すると見られている。そうなると、永久凍土が広範囲にわたって融解する気温を超えてしまい、ひいては地球温暖化が制御不能なレベルで進行してしまう恐れがある。米国のトランプ政権は昨年、パリ協定からの離脱を表明している。(参考記事:「洪水で水源消滅、多くの島が数十年で居住不能に?」)
まるで危険になり続ける地雷原にいるようなものです、と気候学者で米ペンシルベニア州立大学地球システム科学センター長のマイケル・マン氏は言う。「進めば進むほど、地雷を踏んで爆発させてしまう可能性は高まります。上昇する気温は、3℃よりも2.5℃、2.5℃より2℃、2℃よりも1.5℃のほうがより安全です」。なお、氏は今回のIPCCの報告書には関与していない。(参考記事:「2100年、酷暑でアジアの一部が居住不能に」)
「とはいえ、温暖化を1.5℃で抑えることは、現時点では不可能とは言わないまでも非常に困難だと思いますが」
前代未聞の努力が求められている
今回IPCCが公表した特別報告書には、温暖化を1.5℃に抑えるさまざまな方策が列挙されている。どの方策においても、化石燃料の使用を15年以内に半減させ、30年以内にはほぼ完全にやめるという、前代未聞の努力が求められている。つまり、家庭や企業や工場でのガス・石油による暖房をやめ、ディーゼル車やガソリン車はなくなり、石炭・天然ガス発電所は閉鎖され、石油化学産業はすべてグリーンケミストリー(有害な物質をなるべく使わず、生み出しもしない化学産業)になり、鉄鋼・アルミ製造業をはじめとした重工業では炭素フリー燃料の使用、あるいはCO2回収・封じ込め技術を採用するといった具合だ。(参考記事:「カナダのCO2回収貯留施設が1周年、普及の鍵は」)
それに加えて、CO2排出削減のスピードにもよるが、2050年までに100~700万平方キロの土地をバイオ燃料の原料となる農産物用に転換し、1000万平方キロ分の森林を増やす必要があるかもしれない。しかも、それですら不十分だと報告書は警告する。過去100年の間に排出されたCO2は、今後数百年にわたって大気中で熱を封じ込めるだろう。そして、2045年ないし2050年ごろまでは、大気中に留まるCO2がそれでも多すぎるため、気温上昇幅を1.5℃に抑えるには、森林など何らかの方法でCO2を回収する必要があるという。
特別報告書の内容は、医師からひどい診断書を突きつけられたようだと、米テキサス工科大学の気候科学者であるキャサリン・ヘイホー氏は表現する。「あらゆる検査を行いましたが、結果は思わしくありません、と医師であるIPCCから言われ、複数の治療計画を提示されています。患者である私たちは、治療方法を決めなければなりません」
気温の上昇を2℃以内に抑えるのは大変だ。化石燃料を使った施設を閉鎖して、非化石燃料に転換し、大気中から大量のCO2を回収する必要がある、と話すのは、ノルウェーの国際気候環境研究センターのグレン・ピーターズ氏だ。「気温の上昇を1.5℃未満に抑えるには、2℃に抑える場合よりも、より速く、より広くやらなければなりません」
だが目下のところ、私たちは誤った方向に進んでいる。CO2の排出は2017年に1.5パーセント増えてしまい、今年も増加が続くとみられている。「技術的にも社会的にも政治的にも、総力を挙げて取り組まない限り、1.5℃はおろか、2℃の上昇に抑えることさえ難しいでしょう」(参考記事:「温暖化対策の主導権が中国へ?トランプ大統領令で」)
1.5℃以内に抑えるには、現状の方針を大きく変えなければならないと、世界資源研究所グローバル気候プログラムの上級参与であるケリー・レビン氏も認める。その上で同氏は、IPCCは比較的安価な解決策を優先して提示しており、CO2排出削減の方法は他にもあると言う。
例えば、世界中の人々が肉食やモノの消費を減らせば、排出は大幅に減らせるだろう。また、新たな技術の開発についての予測は控えめであり、太陽光発電や電気自動車の効果を過小評価しているとレビン氏は言う。テスラ・モデル3の価格は同種の従来型ガソリン車の2倍以上だが(しかも納車に時間がかかる)、米国内での9月の月間販売台数で4位となっている。
もっと森林を
CO2の削減には、森林がもっと大きな役割を果たす可能性もあると、米バージニア大学の森林の専門家であるデボラ・ローレンス氏はインタビューで述べている。「森林は現在、大気中のCO2を約25パーセントも吸収して、温暖化防止に大いに貢献しています」
植林をして、森林の管理を改善すれば、2030年までに必要とされる削減量の18パーセントを森林が担ってくれるとローレンス氏。氏によれば、ブラジル、中国、インド、メキシコ、オーストラリア、米国、ロシア、EU(欧州連合)は、大きな経済的負担なしに、しかも食料生産に悪影響をおよぼすことなく、森林を増やせる。そのおかげで何十億トンものCO2の削減が期待できることを、今後の研究で示す予定だと話す。とりわけ熱帯雨林の保護と拡大はきわめて重要だという。大気を冷やし、食物の生育に必要な降雨をもたらしてくれるからだ。(参考記事:「世界はアマゾンを救えるか、はびこる闇と負の連鎖」)
老齢林を家具や建築資材として使えば、CO2を長い間その中に封じ込めることになる。そうした考えのもと、米オレゴン州のポートランドでは2019年に木造12階建てビルが完成する予定で、オーストリアのウィーンでは木造24階建てビルの建設が進んでいる。
森林科学者らは合同声明を発表し、温暖化を防止するために現存する森林を保護すべきだと警告した。その声明には、現在利用できる石油や天然ガス、石炭よりも、世界の森林のほうがより多くの炭素を含んでいると書かれている。
「地球の未来の気候は、森林の未来と密接につながっているのです」