特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

BBQ(前編)

2007-03-30 08:31:23 | Weblog
私は、人付き合いが苦手でネクラな印象を持たれているかもしれないけど、意外にアウトドアレジャーが好きなのである。
まぁ、「アウトドア」と言っても、海や山などのアクティブ・アドベンチャー系ではなく、暖かい季節限定・整備されたキャンプ場や公園のお子様系アウトドアだけど。

その逆に、街の雑踏はあまり好きではない(夜の居酒屋は例外)。
そこに居るだけで疲れる。

そんな私は、気持ちのどこかで人間を嫌っているのか、知らず知らずのうちに人が少なそうな所を選んで出掛ける傾向があるのかもしれない。
そしてまた、私が空を好む理由の一つにも、「人がいない」「視界に人が入らない」ことがあるのかもしれない。

学生の頃は、ボロ車に乏しいキャンプ道具を積んで、近場の山や河に出掛けたりもしていた。

学生時代から20代後半くらいまでは、キャンプにも頻繁に出掛けていた。
テントに寝ながら、何日かかけて北海道を半周したこともある。

しかし、残念ながら、ここ数年はキャンプに出掛ける気力と時間がなくなっている。
今は、せいぜい、夏場にバーベキューをやるくらい。
昼間は仕事で時間がないので夜にやるのだが、盛夏には週一くらいのペースでやる。

炭のコンロで焼く肉や野菜が特別に美味しいわけではないんだげど、ささやかな脱日常と静かな夜、そして、ゆっくり飲む酒が疲れた心身を癒してくれるのだ。

昔、キャンプ場から見上げた夜空はきれいだった。
無数の星を眺めながら、自分の将来を考えていたことを、今でもよく憶えている。
将来に対する夢も希望もなく、そうは言っても絶望もなく失望もせず、熱くもなく冷たくもない、空っぽの心を抱えていた。
「俺には、どんな未来が待っているんだろう」
「頑張って生きるしかないよな」
と、軽い溜め息をついていたもんだった。

学生時分は甘々だった私は(今は弱々)、
「このまま、ずっと学生でいたい」
と、甘えた考えを持っていた。
社会人になって、社会的な責任・世の中や他人に対しての責任を負いたくなかった。
適当に働いて、適当に遊んで、適当に生きていきたかった。

フリーター・ニート・引きこもりetc、そんな人が激増しているみたいだけど、私もその気持ちはよく分かる。
私の本性は、そういう人達と紙一重だから。

「臭いんです」
一本の電話が入った。
「臭い」と聞くと、すぐ人間の腐乱臭を想像する私。

残念ながら・・・もとい・・・幸い、臭いの原因は違っていた。
アパートでバーベキューをやったら、部屋中に異臭がついてしまい困っているとのことだった。

「なんだ、そんなことか・・・」
ちょっと拍子抜けした私だったが、特掃に限らず消臭業務も特殊かつ大事な仕事。
私は、気持ちを入れ換えて電話の向こうの男性の話を聞いた。

どうも、部屋には異臭がこもっているようだった。
それに、市販の消臭剤・芳香剤は全く役に立たない様子。

臭いの原因を探るべく、私は男性に質問を投げた。
そして、臭いの原因について、男性から大胆な答が返ってきた。
その答とは、「室内バーベキュー」。
男性は、部屋の中でバーベキューコンロを焚いたらしかった。

「やる前に、室内でバーベキューをやるリスクを考えてみましたか?」
ちょっとビックリした私は、思わず声のトーンを上げた。
「やっぱ、臭いがついちゃうかとは思ってましたけど・・・」
男性は、火事や一酸化炭素中毒の危険性など微塵も思い浮かばない様子で、笑いながらそう応えた。
私は、何も言う気がなくなり、呆れるしかなかった。

「とにかく、部屋を見せて下さい」
いつも通り、まずは現場に行ってみることにした。

現場で会った男性は、電話での印象通り若く、どうも学生らしかった。
そして、入った部屋は確かに異臭が・・・焦げ臭い煙の臭いが、濃く残留していた。
男性の言う通り、室内でやったバーベキューが原因であることは明らかだった。

「ん゛ー、思ってたより深刻ですねぇ」
煙の微粒子は、主に天井から壁上部に付着する。
私は、腕組みをしながら部屋の上部を見上げ、数ある脱臭法と数ある薬剤、それから、限りある男性の予算の組み合せを思案した。
中途半端な作業を何度も試行するより、本格的な方法で一発脱臭を目指した方が得策と考えて、それを男性に提案した。
長年苦労して?作り上げたノウハウなんで、細かい作業手法は省略するけど、なかなか専門的な作業なのだ。

人が死んだ現場でもないので、男性とは雑談交じりの友達感覚で打ち合わせを進めた。

そして、この部屋がこうなるに至った経緯を聞いて、
「その気持ち分かるよ・・・料金、負けとくから元気だせよ」
と言いたくなる私だった。

つづく





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