特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

死屍糞人・獅子奮迅

2009-05-13 16:54:16 | Weblog
GWも終わり、皆、どんな気分で勤めを再開しているのだろうか。
鬱々としている人、晴れ晴れしている人、そこまで仕事にウェイトを置いてない人etc・・・色んな人がいるだろう。
連休に縁のない私は、気分の浮き沈みがなく過ごせているけど、俗に言われる〝五月病〟は、この時期に顕著に現れる。
特に、それは、新入社員にとっては深刻。

少し古いデータだが、大手企業に入社する新入社員のうち、約10%の人間が一年以内に退職するらしい。
つまり、10人に1人。
これが、二年以内になると約20%、三年以内は約30%になるとのこと。
〝大手企業〟と言われるからには、処遇もステイタス性もそこそこの会社だろう。
また、入社するために、ハードな就活も経験したはず。
なのに、たった三年の間に3人に1人の人間が辞めている・・・
この現実に自分の過去を重ねると、気が病んでいなくても溜息が漏れてしまう。


「このアパートなんですけどぉ・・・」
不動産会社の担当者は、現場アパートの前まで私を案内。
〝ここから先はお一人でどうぞ〟と言いたげな表情に意味深な笑顔を滲ませてそう言った。

「中、見られました?」
ブログでデカい口を叩いていたって、所詮、私も人の子。
心の準備に必要な情報を少しでも得るべく、担当者に尋ねた。

「一応・・・よくは見てませんけど・・・」
私を行かせる手前、〝見てない〟と言いにくかったのか、担当者は曖昧な態度。
気マズそうな顔で、そう応えた。

「ちゃんと見といてもらった方がいいんですけどねぇ・・・」
こういう仕事では、Before.Afterをキチンと確認してもらうのが原則。
汚染レベルが高い現場は特にそうで、私は、担当者に直接確認を促した。

「だ、大丈夫です!お任せします!」
担当者は、中に入ることを拒否。
笑みが混ざるくらいに余裕をみせていた表情は、恐怖に怯える表情に一変した。

「とりあえず、行ってきます」
グズグズしていると、軽く見られるように思えた私。
緊張を腹に隠し、玄関に向かって足を踏み出した。


「グハッ!」
玄関を開けると、いきなり濃厚な腐乱臭が鼻を直撃。
それは、並のパンチ力ではなく、私は、急いでマスクを装着した。

「う゛ぅ・・・」
目の前には、〝凄惨!〟という言葉では物足りないくらいの光景。
鳥肌を立たせるセピア色が、辺り一面を覆っていた。

「なんで?・・・」
腐敗粘土から滲み出た腐敗液は、トイレだけに留まらず。
火山から流れ出た溶岩のように、廊下を広く汚染していた。

「便・・・器?」
かたちは間違いなく便器だが、陶器の面影はなし。
元の色を完全に失い、土を塗りたくった粘土細工のような風体に変わっていた。

「・・・」
糞尿か・・・はたまた姿を変えた元人間か・・・
近づいて見るまでもなく、便器の中にはタップリの何かが溜まっていた。

「詰まってる?」
正体不明の汚物は、便器のキャパを越えて外に漏洩。
排管が詰まっていない訳はなかった。

「スゴ過ぎ・・・」
感心するつもりがなくても感心。
黄土色の粘液表面は、無数のウジが埋め尽くし、一匹一匹が楽しそうに?身体を伸縮させていた。

「〝一ヶ月から二ヶ月〟の間違いじゃないの!?」
〝死後1~2週間〟と聞いていた私だったが、目の前の汚物と時季はそれとリンクせず。
どこからどう見ても、桁が違っているように思われた。

「これを俺にどうしろっつーんだよ・・・」
答えはわかりきっているのに、お約束の愚痴。
次に考えなければならないことを思うと、私の気分は、憂鬱になる以外の選択肢を持てなかった。

「どおすっかなぁ・・・」
考えたくなくても、考えざるを得ず。
私の辞書に〝不可能〟の文字はあるのだが、とにかく、〝可能〟だけを前提に作業の段取りを模索する自分が、頼もしくもあり可笑しくもあった。


「何とかなります?」
担当者の顔には、心の内の好奇心がありあり。
私には、〝仕事〟としてよりも、〝見せ物〟として、〝何とかしてみてほしい〟と彼が考えているように思えた。

「掃除だけ元通りにするのは無理です」
そのトイレは、掃除で処理できるレベルを完全に超越。
再び使えるようにするには、丸ごと壊して新築するしかなかった。

「ですか・・・」
担当者も、そうなることは想像できていた様子。
特に、驚きも異論もないようだった。

「一応、撮ってきたんですけど、写真だけでも見てもらえないですか?」
これも、リスク管理の上で大切なプロセス。
私は、威圧感を漂わせて、担当者が断ってこないように予防線を張った。

「は、はぃ・・・」
担当者は、承諾はしたものの、本音はその逆のよう。
嫌悪感を隠すことなく、諦めたように画像に目を向けた。

「これが便器で、ここが床で、溜まってるのと広がってるのが腐敗物で・・・」
写真を一見しただけでは、何がどうなっているのかわかりにくい。
私は、画面に指先を当てながら、状況を細かく説明した。

「・・・」
頭の中で想像したのだろう・・・
担当者は、顔を蒼くして言葉を無くした。

「写真じゃ、伝えたいことの半分も伝わらないんですけど・・・」
私は、実状の凄まじさが、少しでもリアルに伝わるよう説明。
そして、これを掃除する作業の過酷さを担当者に察してもらった。


作業の日。

「これ、身体のどの部分かなぁ・・・」
〝元〟とは言え、人間に使うにはふさわしくない言葉かもしれないけど、見た目は、まさに〝ウ○コ〟。
床面に広がった腐敗汚物をかき集めると、バケツ一杯半・・・
更に、便器に溜まった腐敗汚物を汲み出すと、バケツ一杯半・・・
結果、私は、計バケツ三杯分もの元人間を始末することになった。

「なんで、俺はこんなことやってるんだろう・・・やらなきゃいけないんだろう・・・」
「生きるため・・・食うため・・・自分のため・・・金のため・・・これが俺の仕事・・・」
私は、作業中、ブツブツと自問自答。
時に自分を励ますように、時に自分を抑えるように・・・
まるで呪文でも唱えるかのように、それを繰り返した。

こんな汚仕事でも、私にとっては大切な仕事。
ポリシーらしいポリシーも、プライドらしいプライドもないけど、食べるためにやっている、生きるためにやっている仕事。
〝やめたい〟と思っても、〝やめよう〟とは思わない仕事。

仕事って、辞めるのは簡単。
ワガママ言わなければ、就くのもそう難しくない。
一番大変なのは、続けること・・・腰を据えてやり続けることではないだろうか。

往々にして、隣の芝は青く見える。
対して、自分がやっていることが枯れて見えるもの。
しかし、ここで勘違いしてはいけないのは、〝やりたいこと〟と〝やれること〟とはまったく別次元の話であるということ。

私だって、他にやってみたい仕事はたくさんある。
カッコいい仕事・イケてる仕事・流行の仕事・儲かる仕事etc・・・
しかし、その中に自分がやれる仕事はない。残念ながら。

自分の〝逃げ根性〟や〝怠け心〟を、〝夢〟や〝野心〟にすり替えてたって、結局、働かなければならないのは自分。
生きるための糧にする限り、ストレスや不平不満を覚えない仕事なんてないと思う。


「働かざる者、食うべからず」
(怠慢によって働かない者は、食うべからず)
色んな悩みを抱えつつも、このシンプルな教えをを肝に銘じて、死屍糞人に獅子奮迅している私である。





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