特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

Long way

2013-12-08 09:26:59 | 特殊清掃
今年も、残すところ23日余。
昨年までと同様、今年も色んなことがあった。
8月の末には、ひとつの“お別れ”があった。
「愛車」といっても過言ではない業務車両の5年のリース契約が満了となったのだ。
完全なる私の専用車ではなかったけど、先頭をきって現場に走る習性がある私が9割くらいは使ったと思う。

5年間の走行距離は、20万キロ余。
日々のメンテナンスをしっかりしていたからだろうが、故障もなくよく走ってくれた。
ディーラーによると、この後も廃車になることはなく、中古車として再販されるとのこと。
車ってただの機械だけど、長く付き合うものだし、何かと私を助けてくれるものだから、妙な情が湧いてしまう。
私が積んできた荷ほど“奇妙な物”を積まれることはないだろうが、また、誰かのもとで大事に使われてほしい。

そんな私は、依頼があれば場所を選ばない。
ほとんど一都三県内を動いているけど、その外に出ることも少なくない。
茨城・栃木・群馬・山梨・静岡はもちろん、お呼びがかかれば、それより遠いところにも行く。
福島、宮城、岩手、秋田、山形、新潟にも何度か出向いたことがある。
もちろん、すべて車で。
(西日本は他支店の担当エリアなので、東京所属の私が出向くことはない。)

福島、宮城、新潟くらいだと日帰りすることもある。
先月も日帰りで新潟に行ってきた(山々の紅葉がきれいだった)。
さすがに、岩手・秋田・山形まで行くと泊まりになる。
ただ、以前、秋田へ汚腐呂掃除に行ったことがあり、作業が思いのほか早く済んだので、会社がとってくれたホテルをキャンセルして、その日のうちに東京に帰ってきたことがあった。

このときはさすがに疲れたけど、大方の場合、私は、長距離の運転でもほとんど苦にならない。
一人で気楽にドライブ気分を味わう。
レジャー少なく地味な生活をしている私は、見慣れない景色や街に心が踊ってしまうこともあり、あちこちに出掛けることを楽しんだりする。
だから、遠い地方の仕事でも、いそいそと出かけていくのである。

そんな仕事で重宝しているのがカーナビ。
昔は一万分の一地図を使うしかなく、ハンドルに地図をのせ、地図と道を交互に見ながら運転していたもの。
そんな時代に登場したのがカーナビ。
登場初期は高額かつ低精度でなかなか手の届かない存在だったけど、一般に普及する頃には当社の車にもやってきた。
その便利なことといったら・・・・・一度この力を借りてしまうと、もう手放せない。
私はかなりの方向音痴なものだから、もう“カーナビ様!様!”なのである。

カーナビに頼りっぱなしの私だけど、安全運転は常荷心がけている。
基本的に、余計なスピードはださない。
高速道路だって100kmを超すのは追い越しのときくらい。
普段は、ほとんど左車線の80km走行。
少々遅い車がいても、無闇に追い越したりもしない。

それでも、免許証はゴールドではない。
忘れた頃に必ず何かの違反をやらかしてしまうのだ。
直近の免許更新前もそう。
無事故・無違反での免許更新を意識していた私は、それまで順調に過ごしていた。
しかし、更新の三ヶ月くらい前、環八のUターン禁止区域(私はそれを認識しておらず)でUターンしてしまい、たまたま近くにいたパトカーに止められてしまった。
「知らなかった」で警官が許してくれるわけもなく、結局、ゴールド免許は遠のいてしまったのだった。

また、先月のある日の朝、現場に向かっていた私は、明治通りで一般車が走ってはいけない時間帯にバス専用レーンを走ってしまい、検問中の警察に止められてしまった。
警察官の説明を受けるまで、私は違反にまったく気づかず。
「交通安全のチラシでも配ってんのか?」
と思いながら、ニコニコと愛想よく車を止めた。
しかし、実のところは違反車両の取り締まり。
そこでは、私の前にも何台もの違反車両がおり、後にも何台もの違反車両が止められていた。
「もっと優先して取り締まったほうがいいことあるんじゃないの!?」
と不満に思ったものの、ルールはルール。
警察のペナルティーに素直に応じた私の懐には、6000円の臨時出費が連れてきた寒風が吹きこんだのだった。



遺品処理の依頼が入った。
依頼者は、年配の女性。
現場は、古い住宅地に建つ一戸建。
現場に出向くと、依頼者の女性きていた。

家の主は、女性の父親。
このときの二ヶ月余前、天寿をまっとうしてこの世を去った。
この家は、故人が若い頃に建てたもの。
女性が生まれ育った家だった。

故人は、地方の田舎で生まれ、
貧しくて上の学校に行けず、少年期から働き、
あの戦争で遠い戦地に送られ、生きて終戦を迎えたものの長くシベリアに抑留され、
それでも生き延びて帰国し、生活の糧を手に入れるため田舎から離れた東京へ、
ガムシャラに働き、手に職をつけ、
そして、労苦して後、ようやくこの家と家族の幸せを手に入れたのだった。

そのうち子供達は成人し、家を離れていった。
その後も平穏な日々が続いたが、寄る年波には勝てず妻は逝去。
それで一人暮らしとなった故人だったが、
「身体が動くうちは、なんとか一人でやれる」
と、子供との同居を了承せず。
介護保険の支援を受けながら、一人の生活を継続。
“子に迷惑はかけたくない”と思ったみたいだったが、“この家を離れたくない”という思いも強かったよう。
結局、最後に入院するまで、故人はこの家を離れることはなく・・・
長患いすることなく静かに長い道のりを走り終えたのだった。

家財が片付いたら、家は手放す予定とのこと。
家も古ければ土地もそんなに広くはなし。
身内に住みたがる人もおらず、お金に変えたほうが相続もうまくいくよう。
ただ、思い出の整理がつくまでどれくらいの時間がかかるかわからず、それをいつやるか決めかねているようだった。

家には、多くの家財・生活用品が残されていた。
そのほとんどは、もう“現役”を退いていそうなものばかり。
年配者によくある傾向だが、故人も、“使わないけど捨てない”傾向が強かったらしく、モノは溜まる一方。
「とにかく、父も母もモノが捨てられない人でね・・・」
女性は、家にギッシリ詰め込まれた家財に、苦笑いを浮かべた。


後日、片付けの作業は行われた。
「見ていると寂しい思いをするから・・・」
「あとはお任せします・・・終わったら電話して下さい」
と、女性は玄関の鍵だけ開け、どこかへ立ち去っていった。

片付けを進めると、昭和のモノがたくさん出てきた。
時代モノの家具家電、骨董品になるんじゃないかと思われるような食器や陶器、マニアが喜びそうな古い雑誌類、古びた衣類、何人分もの座布団に布団、
生活に使ったであろう、ありとあらゆるモノがあった。

古びたタンスの衣類の下には、古い新聞が敷かれていた。
「昭和○○年ってことは、俺が○歳の頃だな・・・」
「こんな時代もあったんだな・・・」
「懐かしいなぁ・・・」
等と、思わず記事に見入ってしまい、仕事の手が度々止まったりした。

終わってみると、トラックの荷台は当初の目算を超える量の家財で埋まった。
それらは、他人の我々にとってはゴミも同然。
しかし、故人とその家族の歴史の跡でもあり、最後の証でもあるわけで、寂しさが漂う無常の理を表していた。


「子供の頃は広い家だと思ってましたけど、こうしてみると小さな家ですね・・・」
「ここに、私の家族がいたんですね・・・」
片付けが終わった家で、女性は、しみじみつぶやいた。
この小さな家には、溢れんばかりの思い出がつまっているよう。
他人との沈黙の時間は、どことなく気マズイような、落ち着かない雰囲気が漂うものだが、ここでの沈黙の時間は、何とも落ち着く感じのするものだった。
そしてまた、私にとっては縁もゆかりもない他人の家なのに、懐かしいような不思議な感覚をおぼえたのだった。



40代も半ばになり、私は、とっくに人生のUターン地点を過ぎている。
おまけに、自分の寿命は平均寿命には到達しないだろうと思っている。
にもかかわらず、折り返し地点を過ぎた実感がわかない。
うまく言えないけど、「何も解決していない」というか、「成長した感がない」というか、「必要なものが見つからない」というか・・・・・
とにかく、進んでいるのは身体ばかりで、中身はほとんど進んでいないような気がしている。
それでも、人は、進む足をとめることはできない。
どんな道でも進まされるのである。

進まされる道は、まっすぐで平坦なものばかりではない。
上り坂もあれば下り坂もある。
太い道もあれば、細い道もある。
乾いた路面もあれば、ぬかるんだ路面もある。
先が見通せないくらいの曲がり道や、悩む岐路も幾度となくある。

人生の道程、この先どれだけの“距離”が残っているのかわからない。
人にもモノにも、始まりがあれば終わりもある。
・・・ごく自然なこと。
ただ、それらには、喜びや嬉しさだけではなく、悲しみと寂しさがつきまとう。
・・・これもまた、自然なこと。

この道、どこを目指して走ればいいのだろう・・・
この道、終わりには何があるのだろう・・・
よくわからないけど、
「よく走った!」と褒めてもらえるような走り方をしたいもの。
「よく走った!」と感謝されるような走り方をしたいもの。
「よく走った!」と満足できるような走り方をしたいもの。

いずれ着く終点に向かって・・・
「まずは無事故・無違反!」
新しい車と古びた身体を駆る私は、それを肝に銘じているのである。




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